連載「ピラティスの6原則を科学で検証する」全10回の第3回です。

「おへそを背骨に引き込むように」——腹横筋(transversus abdominis、TrA)を狙ったこの指示は、ピラティスに限らず、体幹トレーニングやリハビリテーションの現場で広く使われてきました。腹壁のいちばん深い層にあり、コルセットのように腰を締めるとされる筋です。

この指導言語には、はっきりした出発点があります。1990年代に発表された一連の研究が、腰痛のある人ではこの筋の働き出すタイミングが遅れることを示し、「深層の筋を選択的に鍛え直す」という発想を生みました。その後の30年で、この発想はどこまで支持され、どこから支持されなくなったのか。

結論を先に述べます。腹横筋の先行収縮の遅れは繰り返し観察されている現象である。しかし、その遅れを直すことが痛みの改善につながるという連結は、検証の結果むしろ否定されてきた。現象は本物で、そこから導かれた処方のほうが揺らいでいる、という構図です。

ピラティスの6原則を科学で検証する 第3回 腹横筋の神話選択的収縮は本当に起きるのか|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

出発点——先行収縮の遅れ

最初の一撃は、立位で急速に肩を動かす課題を使った実験でした。腰痛のある患者15名と、条件を揃えた対照15名が、視覚刺激に応じて肩を屈曲・外転・伸展させ、腹部の筋と腰部多裂筋の筋電図が記録されました。

Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain: A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996;21(22):2640-2650.

対照群では、どの方向に動かしても体幹の筋が三角筋より先か直後に収縮しました。なかでも腹横筋は常に最初に活動し、動かす方向に左右されませんでした。ところが腰痛のある患者では、すべての方向で腹横筋の収縮が有意に遅れていたのです。著者らはこれを運動制御の欠損と解釈し、脊柱の安定化が非効率になっていると述べました。

続く研究では、下肢を動かす課題でも同じ現象が確認されています。

Hodges PW, Richardson CA. Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. Journal of Spinal Disorders. 1998;11(1):46-56.

対照群ではすべての体幹筋の筋電図の立ち上がりが、脚を動かす筋より先行していました。腰痛群では腹横筋がどの方向でも遅れ、腹直筋・脊柱起立筋・腹斜筋は特定の方向でのみ遅れました。腹横筋だけが方向によらず遅れる——この「方向非依存性」が、腹横筋を特別扱いする根拠になりました。

遅れは原因か、結果か

ここで避けて通れないのが因果の向きです。腰痛があるから遅れるのか、遅れるから腰痛になるのか。これを実験的に検証したのが、健常者に一時的な痛みを作り出した研究です。

Hodgesらは、腕を動かす課題の最中に、腰の脊柱起立筋(第4腰椎の高さ)へ高張食塩水を注射して痛みを誘発しました。等張食塩水(痛みのない条件)と比較したところ、多くの筋では筋電図の立ち上がりと振幅の変化がばらばらだったのに対し、腹横筋だけは一貫して振幅が下がるか遅れるかしました。

この結果は、痛みそのものが腹横筋の先行活動を変えうることを示しています。つまり臨床で観察される遅れは、腰痛の原因ではなく結果である可能性が残る。この一点で、「遅れを直せば痛みが治る」という推論は保留を迫られます。

さらに、健常者でも先行収縮が見られない人がいます。表面筋電図の妥当性を検討した研究では、健康な若年男性20名のうち4名が先行収縮の基準を満たしませんでした。著者らは、先行活動の欠如が腰痛の原因なのか結果なのかを前向きに調べる必要がある、と明記しています。Marshallらのこの指摘は、2003年の時点ですでに置かれていたものです。

立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

「選択的に収縮させる」は可能か

指導の言葉はしばしば、腹横筋だけを、外側の筋を働かせずに収縮させるよう求めます。これがどこまで可能なのかを、超音波で測った研究があります。

Pulkovski N, Mannion AF, Caporaso F, et al. Ultrasound assessment of transversus abdominis muscle contraction ratio during abdominal hollowing: a useful tool to distinguish between patients with chronic low back pain and healthy controls? European Spine Journal. 2012;21(Suppl 6):S750-S759.

慢性腰痛の患者50名(46.3±12.5歳)と健常対照50名(43.6±12.7歳)が、膝を立てた仰臥位でドローイン(腹部の引き込み)を行い、Mモード超音波で腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋の厚みを安静時と収縮時に測定しました。

指標慢性腰痛群健常対照群判定
安静時・収縮時の筋厚群間差なし—
腹横筋の収縮比1.35±0.141.44±0.24有意だが小さい
個人を弁別する能力(ROC曲線下面積)0.60(95%CI 0.495〜0.695)、p=0.08不十分

群の平均としては差が出るのに、一人ひとりを腰痛群か対照群かに振り分ける能力はほとんどない。これが要点です。患者群では収縮比とRoland-Morris障害尺度の間に低いながら有意な相関(Spearmanのρ=0.328、p=0.02)が認められましたが、著者らは平均値の差が小さく臨床的意義は不確かだと結論しています。

スポーツ科学の側からも、「選択的活性化」という概念そのものへの批判が出ています。Wirthらは、体幹安定化の指針の多くが有効性を検証されないまま流通してきたと指摘し、選択的活性化と不安定面でのトレーニングを批判的に検討すべき概念として名指ししました。

訓練で変わるか、変わったら良くなるか

仮に選択的な収縮が難しいとしても、訓練で腹横筋の働きが改善し、それが症状の改善につながるなら、指導言語としては有効です。ここを直接調べた研究が二つあります。

ひとつは無作為化比較試験です。3か月以上続く非特異的腰痛の患者109名を、低負荷の体幹安定化運動、スリングを使った高負荷の安定化運動、集団での一般的運動の3群に割り付け、8週間の介入の前後で、急速な肩屈曲に対する深部腹筋の収縮開始時刻をMモード超音波で測りました。

結果はほとんど変化なし。ベースライン調整後の群間差は、スリング群が体幹安定化群に対して15ミリ秒(95%CI 1〜28、P=0.03)、一般的運動群に対して19ミリ秒(95%CI 5〜33、P は 0.01 未満)改善しましたが、それも片側だけでした。そして痛みの変化と収縮開始時刻の変化の間に関連はありませんでした(R≦0.02)。Vasseljenらは、深部腹筋の活動パターンには大きな個人差があり、下位集団での違いを探る必要があると述べています。

もうひとつは、臨床成績と腹筋機能の対応を調べた研究です。

Mannion AF, Caporaso F, Pulkovski N, Sprott H. Spine stabilisation exercises in the treatment of chronic low back pain: a good clinical outcome is not associated with improved abdominal muscle function. European Spine Journal. 2012;21(7):1301-1310.

慢性腰痛の患者32名(44.0±12.3歳)が9週間の運動療法を受けました。Roland-Morris障害尺度は8.9±4.7から6.7±4.3へ、平均的な痛みは4.7±1.7から3.5±2.3へと、どちらも有意に改善しています。腹横筋を随意に収縮させる能力も4.5%向上しました(P=0.045)。ところが、腕の急速な運動に伴う先行活動には有意な変化がなく、さらに重要なことに、障害尺度の改善は腹筋機能のベースライン値とも、その変化とも相関しませんでした(随意収縮 r=0.08、P=0.66/先行活動 r=0.16、P=0.40)。

補足すると、この研究は「もともと腹筋機能が悪い人ほどよく良くなる」という予測も検証しています。もし訓練が腹筋の欠陥を直すことで効くのなら、欠陥が大きい人ほど伸びしろがあるはずです。しかし障害尺度の改善は、随意収縮のベースライン値とも(r=0.24、P=0.20)、先行活動のベースライン値とも(r=0.04、P=0.84)相関しませんでした。治す対象とされた機能の初期値が、治療の効き目を予測しない。これは機序の説明としてはかなり厳しい結果です。

重回帰で障害尺度の改善を説明したのは、破局的思考の減少(P=0.0003)と、指先から床までの距離の短縮(P=0.0006)でした。著者らは、治療効果をこれらの体幹筋への特異的な作用に帰することは難しいと述べ、安定化運動には腹筋機能とは無関係な「中枢性の」効果があるのではないかという問いを、今後の課題として残しています。

yogaのレッスン前の様子生徒の足もとにあるヨガマット 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

系統的レビューが出した答え

個々の研究ではなく、この問いを網羅的に整理したレビューもあります。

Wong AY, Parent EC, Funabashi M, Kawchuk GN. Do changes in transversus abdominis and lumbar multifidus during conservative treatment explain changes in clinical outcomes related to nonspecific low back pain? A systematic review. The Journal of Pain. 2014;15(4):377.e1-377.e35.

6つのデータベースから選ばれた15本の論文を評価した結果、収縮時の腹横筋の厚みの変化も、先行活動の変化も、腰痛および腰痛関連の障害の変化とは無関係であるという強いエビデンスが得られました。多裂筋については、形態の変化と臨床改善の関係は不確かなままだと整理されています。

治療法としての評価も同じ方向を指しています。深部体幹筋の活性化から始めて機能的課題へ進む運動制御エクササイズのコクラン・レビューは、29本の試験(計2431名、うち76.6%が低リスク)を統合しました。

Saragiotto BT, Maher CG, Yamato TP, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016;(1):CD012004.

このレビューは規模の面でも参照に値します。低リスクと判定された試験は件数で76.6%、参加者数でみると全体の86%を占めており、結論の大部分が質の高い試験に支えられているという点で、前回までに見たレビュー群とは事情が異なります。それだけに、結果の読み方も重く受け止める必要があります。

最小限の介入と比べれば、長期の痛みで中程度の効果がありました(MD -12.97、95%CI -18.51〜-7.42)。運動と物理療法の組み合わせに対しては大きな差が出ています(短期の痛みでMD -30.18、95%CI -35.32〜-25.05、ただし確実性は非常に低い〜低い)。しかし他の運動と比べると、すべての追跡時期・すべてのアウトカムで臨床的に重要な差はありませんでした。徒手療法との比較でも同等です。レビューの結論は、運動の選択は患者や治療者の好み、訓練、費用、安全性によって決めてよい、というものでした。

この筋を「鍛えない」という意味ではない

誤読を防ぐために整理します。ここまでの証拠が否定しているのは、次の三つの連結です。

  • 腹横筋を選択的に収縮させられるという前提。超音波で測ると、群としての差は小さく、個人の弁別には使えません。
  • その収縮の改善が症状の改善を説明するという前提。訓練で収縮は多少変わりますが、痛みや障害の改善とは相関しません。
  • 深部の筋を狙う運動が他の運動より優れているという前提。コクラン・レビューでは、他の運動との差は臨床的に重要な水準に届きません。

否定されていないのは、運動そのものの価値です。腰痛に対して運動は最小限の介入より良い結果をもたらし、その点は複数のレビューで一致しています。変わったのは理由づけのほうで、「深層の一本を正しく入れたから効いた」という説明が支えを失った、ということです。

反論の側にも限界があることは公平に書いておきます。Pulkovskiらが測ったのは、膝を立てた仰臥位で5秒間ドローインを保つという、日常動作からは遠い課題でした。Vasseljenらの試験も介入は8週間で、それより長く続けたときに何が起きるかは分かりません。Mannionらの参加者は32名と少なく、相関の検出力は高くありません。否定的な結果もまた、条件つきの結果です。ただし、これだけ設計の違う研究が同じ方向を指しているという事実は、それぞれの弱点を超えて重みを持ちます。

指導の現場に引き寄せて言えば、引き込みの指示は「腹横筋の選択的収縮を起こす技術」ではなく、動作の質を変えるための手がかりのひとつとして扱うのが、証拠に整合します。体幹の解剖と腹腔内圧の記事、腰痛に対するピラティスの記事も併せてどうぞ。

次回予告

第4回は「コントロールと運動学習——なぜ『ゆっくり』なのか」を扱います。ゆっくり動くことに何が起きるのか、筋力や肥大の研究と運動学習の研究の両方から読み、練習の組み方が保持と転移に与える影響まで見ます。

この連載の全10回

  1. 第1回|ピラティスとは何だったのか——起源・6原則・定義のずれ
  2. 第2回|センタリングと「パワーハウス」——中心という概念の実像
  3. 第3回|腹横筋の神話——選択的収縮は本当に起きるのか(この記事)
  4. 第4回|コントロールと運動学習——なぜ「ゆっくり」なのか
  5. 第5回|呼吸——側方拡張呼吸と腹腔内圧
  6. 第6回|プリシジョン——フォームの精度は結果を変えるか
  7. 第7回|フローと運動強度——有酸素運動になりうるか
  8. 第8回|コンセントレーション——注意の向け方と筋活動
  9. 第9回|マシンは原則をどう実装するか——ばね負荷の力学
  10. 第10回|総括——6原則のうち検証されたもの、されていないもの

出典

  1. Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain: A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996;21(22):2640-2650.
  2. Hodges PW, Richardson CA. Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. Journal of Spinal Disorders. 1998;11(1):46-56.
  3. Hodges PW, Moseley GL, Gabrielsson A, Gandevia SC. Experimental muscle pain changes feedforward postural responses of the trunk muscles. Experimental Brain Research. 2003;151(2):262-271.
  4. Marshall P, Murphy B. The validity and reliability of surface EMG to assess the neuromuscular response of the abdominal muscles to rapid limb movement. Journal of Electromyography and Kinesiology. 2003;13(5):477-489.
  5. Pulkovski N, Mannion AF, Caporaso F, et al. Ultrasound assessment of transversus abdominis muscle contraction ratio during abdominal hollowing: a useful tool to distinguish between patients with chronic low back pain and healthy controls? European Spine Journal. 2012;21(Suppl 6):S750-S759.
  6. Vasseljen O, Unsgaard-Tondel M, Westad C, Mork PJ. Effect of core stability exercises on feed-forward activation of deep abdominal muscles in chronic low back pain: a randomized controlled trial. Spine. 2012;37(13):1101-1108.
  7. Mannion AF, Caporaso F, Pulkovski N, Sprott H. Spine stabilisation exercises in the treatment of chronic low back pain: a good clinical outcome is not associated with improved abdominal muscle function. European Spine Journal. 2012;21(7):1301-1310.
  8. Wong AY, Parent EC, Funabashi M, Kawchuk GN. Do changes in transversus abdominis and lumbar multifidus during conservative treatment explain changes in clinical outcomes related to nonspecific low back pain? A systematic review. The Journal of Pain. 2014;15(4):377.e1-377.e35.
  9. Saragiotto BT, Maher CG, Yamato TP, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016;(1):CD012004.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。腰の痛みが続く場合、足のしびれや力の入りにくさ、排尿や排便の異常、発熱、原因不明の体重減少を伴う場合は、運動を始める前に整形外科などの医療機関にご相談ください。

💬 ご質問がある場合はこちらからどうぞ

オンザショアのチャットで質問する(24時間受付)

レッスン内容・料金・体験のご予約など、気になることをお気軽にお尋ねください。

ご体験予約