ピラティスは、リハビリや女性向けエクササイズという文脈で語られることが多い一方、競技スポーツの補助トレーニングとしても導入が進んでいます。サッカー、陸上、ゴルフ、ダンス、水泳——競技を問わず取り入れる例が増えています。
では、それを支える研究はどの程度あるのでしょうか。この記事では、システマティックレビューが報告した内容を紹介したうえで、「効果がある」という記述を競技者がどう読むべきかを整理します。結論から言えば、報告されている効果の範囲は広い一方、研究の質と規模には相応の制約があります。
システマティックレビューが報告した範囲
How Pilates exercises affect sports performance? A systematic review. Turkish Journal of Physiotherapy and Rehabilitation. 2023.
このレビューは、PubMed、Web of Science、SCOPUS を対象に、2010年1月から2022年1月までの文献を検索しました。151件が同定され、最終的に12件が採用されています。介入期間は4週間から14週間の範囲でした。
報告された改善項目は次のとおりです。
- 姿勢安定性
- 静的バランス・動的バランス
- 敏捷性(アジリティ)
- 筋力
- 柔軟性
- 体幹筋力
- 筋持久力
- スプリント(全般的な走力)
- 最大酸素摂取量(VO2max)
- 協調性
- 競技の技術的スキル
また、サッカー選手を対象とした無作為化比較試験では、柔軟性、カウンタームーブメントジャンプ、立ち幅跳び、片脚トリプルホップテスト、10m走・20m走、バランス、スピードドリブル、パス精度において有意な改善が報告されています。この研究はマットピラティスとリフォーマーピラティスを比較する設計でした。
この結果をどう読むか
改善項目の一覧は印象的です。しかし、ここで一歩引いて考える必要があります。
12件という規模
151件から12件。スポーツ科学の領域としては、決して多い数ではありません。しかも12件がすべて同じ競技、同じ設計というわけではなく、対象競技も、介入内容も、比較対象もばらばらです。
このような場合、システマティックレビューは数値を統合するメタアナリシスではなく、定性的な要約にとどまることが一般的です。「改善が報告された」という記述は、「複数の研究でそう報告された」という意味であって、効果の大きさが統合的に推定されたわけではありません。
ほぼすべての項目で改善が報告されていることの意味
姿勢安定性からパス精度まで、挙げられた項目はほぼ全方位に及びます。これは直感的には好ましく見えますが、研究の読み手としては注意すべき兆候でもあります。
ある介入があらゆる指標を改善するという結果は、次のような可能性を含みます。
対照群が不適切。「何もしない群」と比べれば、どんな運動でも多くの指標が改善します。ピラティス特有の効果を見るには、同じ時間・同じ頻度で別の運動を行う群と比べる必要があります。
出版バイアス。効果がなかった研究は発表されにくい傾向があります。小規模研究の多い領域ほど、この影響は大きくなります。
多重比較。一つの研究で多数の指標を測れば、偶然に有意差が出る指標が混ざります。事前に主要評価項目を決めていない研究では、この問題が生じやすくなります。
これらは「この研究が不正だ」という話ではなく、分野全体の成熟度の問題です。ピラティスとスポーツパフォーマンスの研究は、まだ発展途上にあります。
「体幹が強くなれば競技力が上がる」という仮説
ピラティスを競技に取り入れる根拠として最もよく挙げられるのが、体幹の安定性です。しかしこの論理にも検討が必要です。
体幹の安定性と競技パフォーマンスの関連については、スポーツ科学の中で長く議論されてきました。体幹トレーニングが競技パフォーマンスを向上させるかについては、研究によって結果が分かれています。
理屈としては筋が通ります。四肢で生み出した力は体幹を経由して伝達されるため、体幹が不安定であれば力が逃げる。だから体幹を鍛えれば力の伝達が改善する——という説明です。
しかし実際には、競技パフォーマンスは技術、筋力、パワー、持久力、戦術判断、心理状態など多数の要素の複合です。体幹の安定性はその一要素にすぎず、ボトルネックになっていない選手において体幹を鍛えても、全体のパフォーマンスは変わらない可能性があります。
トレーニングの特異性
もうひとつ考慮すべきが、特異性の原則です。トレーニングの効果は、訓練した動作・速度・負荷に近い課題ほど大きく現れます。
ピラティスは、低速で、比較的軽い負荷で、制御された動作を行う運動です。一方、多くの競技は高速で、大きな力を、予測困難な状況で発揮することを要求します。この差は小さくありません。
したがって、ピラティスを競技力向上の主要な手段と位置づけるのは、特異性の観点から無理があります。スプリントを速くしたいならスプリントの訓練を、ジャンプ力を高めたいならプライオメトリクスや最大筋力の訓練を——これが原則です。
では競技者にとっての位置づけは
それでも競技現場でピラティスが使われる理由は、別のところにあると考えられます。
可動域の確保。特定の動作を反復する競技では、可動域の偏りが生じます。競技動作に含まれない方向の動きを扱う時間は、この偏りを緩和する意味を持ちえます。
低負荷で行える。試合期や、疲労が蓄積している時期に、高強度の補助トレーニングを追加するのは現実的ではありません。低負荷で動作の質に注意を向ける時間は、この時期に組み込みやすい選択肢です。
左右差への気づき。片側優位の動作が多い競技では、左右差が生じます。ゆっくりした動作は、その差に気づく機会を与えます。
呼吸を止めない練習。力を出すときに息を止める癖は、持久系の競技ではデメリットになりえます。
傷害予防への寄与の可能性。これは慎重に書く必要があります。ピラティスが傷害を減らすことを示した強い証拠はありません。ただし、可動域や動作の質への介入が傷害予防プログラムの一部として機能する余地はあります。
補助であって主軸ではない
まとめると、ピラティスは競技トレーニングの主軸ではなく、補助的な要素と位置づけるのが妥当です。週の大半を占めるべきは競技練習と、競技に特異的な体力トレーニングです。
「ピラティスをやれば速くなる」という主張は、研究の裏づけとしても、トレーニング理論としても、過大です。
VO2maxの改善という報告について
レビューで挙げられた項目の中に最大酸素摂取量(VO2max)があります。これは慎重に扱うべき項目です。
VO2maxは、全身持久力を代表する指標です。これを向上させるには、一般に心拍数を高い水準で維持する持久的な運動が必要とされます。マットピラティスは、通常この条件を満たしません。
報告された改善が何を反映しているのか、いくつかの可能性が考えられます。対象が運動習慣のない集団で、どんな運動でも改善が出る状態だった。測定が推定式によるもので精度が限られていた。介入にピラティス以外の要素が含まれていた。あるいは、実際にピラティスの内容が持久的な負荷を含むものだった。
原典に当たらなければ判断できませんが、「ピラティスで持久力が上がる」という結論を一般化するのは早計だと考えるのが妥当でしょう。
マットとリフォーマー、どちらが有効か
サッカー選手を対象とした研究が、マットピラティスとリフォーマーピラティスを比較する設計だったことに触れました。この違いを整理しておきます。
マットピラティスは、床の上で自重を用いて行います。器具は補助的に使うことがありますが、基本は体重と重力が負荷です。場所を選ばず、費用も抑えられます。
リフォーマーは、バネの張力を用いる専用のマシンを使います。スライドする台に乗り、バネの強さを変えることで負荷を調整できます。バネは可動域の途中で抵抗が変化するため、自重とは異なる負荷特性を持ちます。
競技者にとっての違いは、主に負荷の調整幅と補助の得られやすさにあります。リフォーマーは、動作を補助する方向にも、抵抗する方向にもバネを使えるため、可動域の端で補助しながら動かすといった使い方ができます。
ただし、どちらが競技パフォーマンスの向上に優れているかを結論づけるだけの研究の蓄積はありません。費用と設備の制約を考えれば、継続できる形を選ぶほうが現実的です。
柔軟性の改善をどう評価するか
報告された改善項目のうち、柔軟性は比較的一貫して挙げられる項目です。ここは掘り下げる価値があります。
柔軟性の測定には、座位体前屈のような簡便な方法から、関節可動域を角度で測る方法まであります。ピラティスは動作の中で可動域の端まで動かす種目を含むため、可動域が改善しても不思議ではありません。
ただし競技の観点では、次の点を考える必要があります。
可動域が広ければ良いとは限らない。競技によっては、一定の硬さが力の伝達に寄与します。腱の弾性を利用する動作では、過度な柔軟性がかえって不利に働く可能性が議論されています。
可動域と制御は別。広い可動域を持っていても、その範囲を制御できなければ傷害リスクになりえます。「動かせる範囲」と「安定して力を出せる範囲」の差は、実務上重要な概念です。
この観点では、ピラティスが可動域の端で制御しながら動く練習を含むことに意味があるかもしれません。単に伸ばすストレッチとは性質が異なります。
疲労管理という視点
競技スポーツでは、トレーニング負荷の管理が結果を左右します。追加するトレーニングは、それ自体が疲労を生みます。
この観点から見ると、ピラティスの低〜中強度という性質は、使い方次第で利点にも欠点にもなります。
利点としては、疲労の蓄積が少なく、試合期にも組み込みやすいこと。回復期の「動きながら整える」時間として使えること。
欠点としては、強度が低いぶん、筋力やパワーの向上には寄与しにくいこと。限られた時間を使う以上、機会費用が発生すること。
週に使える補助トレーニングの時間が2時間だとして、そのすべてをピラティスに充てるべきか。競技と選手の状況によりますが、筋力・パワーの不足がボトルネックである選手なら、答えは明らかに「否」でしょう。
何がボトルネックかを見極める
トレーニング計画の基本は、パフォーマンスを制限している要因を特定し、そこに資源を投じることです。
柔軟性が不足していてフォームが崩れているのか。最大筋力が不足しているのか。持久力が続かないのか。技術的な問題なのか。判断を誤れば、努力は結果に結びつきません。
ピラティスが適しているのは、可動域、左右差、動作の制御がボトルネックになっている場合です。それ以外が問題なら、別の手段のほうが効率的です。
ダンスと体操という例外的な領域
競技の中には、ピラティスとの親和性が特に高い領域があります。ダンス、新体操、体操競技のように、動作の質そのものが評価される種目です。
これらの競技では、可動域の広さ、動きの制御、姿勢の維持が直接的に採点や表現に関わります。ピラティスが扱う要素と競技要求が重なるため、特異性の問題が小さくなります。
実際、ピラティスの創始者が身体の再教育という文脈でこの方法を体系化し、ダンサーの間で広まった経緯を考えれば、この親和性は歴史的にも自然です。
逆に言えば、瞬間的な最大出力や持久力が勝敗を決める競技では、寄与は限定的になります。競技特性と手段の相性を考えることが、ここでも重要になります。
研究をどう追いかけるか
この分野は今後も研究が増えると予想されます。新しい情報に触れたとき、確認したい点を挙げておきます。
- 対照群は何か。「何もしない群」との比較か、同じ時間別の運動をした群との比較か
- 人数は何人か。十数名規模の研究の結果は、単独では確定的でない
- 主要評価項目は事前に決められていたか。多数の指標のうち有意だったものだけを報告していないか
- 介入の中身が具体的に書かれているか。「ピラティス」とだけ書かれていても再現できない
- 効果の大きさはどれくらいか。有意差の有無だけでなく、実用上意味のある差か
- 誰が資金を出しているか。利益相反の開示があるか
これらを確認する習慣があれば、見出しに流されずに情報を評価できます。「研究で証明された」という言い回しほど、内容を確認する価値があります。
導入する場合の実際
競技者、あるいは指導者がピラティスを取り入れる場合の実際的な考え方を挙げます。
時期を選ぶ。オフシーズンや移行期は、可動域や動作の質に取り組む余裕があります。試合期には、疲労を追加しない範囲での実施が現実的です。
目的を限定する。「競技力向上」という漠然とした目的ではなく、「股関節の回旋可動域を確保する」「左右差を減らす」「呼吸を止める癖を修正する」といった具体的な目的を設定するほうが、効果を評価しやすくなります。
主要なトレーニングを圧迫しない。限られた時間の中で、何を削って何を入れるかという判断が必要です。筋力トレーニングの時間を削ってピラティスに充てることが妥当かは、選手の状況によります。
競技特性を理解している指導者を選ぶ。一般向けのクラスと、競技者に必要な内容は異なります。
傷害予防について、慎重に
「ピラティスで怪我をしにくい体を作る」という表現は広く使われます。しかしこの主張には、現時点で強い裏づけがありません。
傷害予防の効果を示すには、通常、多数の選手を長期間追跡し、実際の傷害発生数を比較する必要があります。この種の研究は規模と期間の点でコストが高く、ピラティスについては行われていません。
一方、スポーツ傷害予防の分野では、特定のプログラムが傷害発生率を下げることを示した研究が存在します。これらに共通するのは、プライオメトリクス、バランス課題、神経筋制御、そして漸進的な筋力強化を組み合わせた設計です。
ピラティスはこれらの要素の一部(バランス課題、動作制御)を含みますが、高速・高負荷の要素は含みません。したがって、既存の傷害予防プログラムを置き換えるものとは言えません。
「怪我をしにくくなる」と言い切る説明を見たら、根拠を確認する価値があります。
それでも意味がありうる場面
ただし、次のような場面では寄与しうると考えられます。
傷害からの復帰過程で、まだ高負荷をかけられない時期に、動作の制御と可動域に取り組む手段として。あるいは、痛みへの恐れから動きが萎縮している選手が、安全に動く経験を積む場として。
これらは「傷害予防」というより「リハビリテーションの一過程」に近い位置づけです。医療スタッフの管理下で行われるべき領域でもあります。
呼吸と持久系競技
ピラティスの呼吸法が競技に及ぼす影響についても触れておきます。
持久系の競技では、呼吸筋の疲労がパフォーマンスを制限する要因のひとつとして研究されています。呼吸筋トレーニングという専門的な手法も存在します。
ピラティスの呼吸は、腹部の張りを保ちながら胸郭を広げる方法を用います。これは呼吸筋に一定の負荷をかける形になりますが、呼吸筋トレーニングとして設計された手法とは強度も原理も異なります。
呼吸機能への効果を狙うなら、その目的に設計された手法を用いるほうが確実です。ピラティスの呼吸の価値は、呼吸筋の強化そのものより、動作中に呼吸を止めない習慣を作る点にあると考えるほうが実態に近いでしょう。
力を出すときに息を止める癖は、短時間の最大努力では有効な戦略ですが、繰り返し動作が続く競技では換気を妨げます。この癖に気づき、修正する機会として使う——これは現実的な用途です。
年齢と競技キャリア
最後に、競技者の年代による位置づけの違いに触れます。
成長期の選手。骨端線が閉じる前の時期には、高負荷のトレーニングに慎重さが求められます。この時期に動作の質、可動域、身体感覚を養うことには意味があります。ただし成長期特有の可動域の変化(骨の成長に筋の伸長が追いつかない時期)があるため、柔軟性の指導には配慮が必要です。
競技のピーク期。限られた時間を競技特異的な訓練に集中させるべき時期です。ピラティスは補助的な位置づけにとどめるのが合理的でしょう。
ベテラン期・競技引退後。可動域の維持、動作の質、傷害の既往への対処が課題になる時期です。この段階では、ピラティスの相対的な価値が高まる可能性があります。
同じ手段でも、いつ、誰が、何のために使うかによって価値は変わります。「良いか悪いか」ではなく「今の自分に必要か」で判断する——これがトレーニングの選択における基本的な考え方です。
まとめ
報告されていること
- システマティックレビュー(12件採用、介入4〜14週)で、姿勢安定性、バランス、敏捷性、筋力、柔軟性、体幹筋力、筋持久力、スプリント、VO2max、協調性、技術スキルの改善が報告された
- サッカー選手を対象とした無作為化比較試験で、柔軟性、各種ジャンプ、10m・20m走、バランス、ドリブル、パス精度の有意な改善が報告された
解釈上の留保
- 採用研究が12件と少なく、定性的要約にとどまる
- ほぼ全指標で改善という結果は、対照群の設定や出版バイアスの影響を検討すべき
- 特異性の原則から、競技動作そのものの改善には競技特異的な訓練が必要
- 体幹トレーニングと競技パフォーマンスの関連については、研究間で結果が分かれている
- 傷害予防効果を示す強い証拠はない
実務的な結論
ピラティスは競技トレーニングの補助として、可動域の確保、左右差への気づき、低負荷での動作の質への取り組みに使える選択肢です。主軸を置き換えるものではありません。この位置づけを守れば、限られた時間の中で有用な役割を果たしうると考えています。
出典
- How Pilates exercises affect sports performance? A systematic review. Turkish Journal of Physiotherapy and Rehabilitation. 2023.
- Randomised controlled study on the effects of pilates exercises in soccer: Comparing mat and reformer methods on physical and technical performance.
この記事は研究の要約であり、診断や治療、トレーニング処方の助言ではありません。競技者のトレーニング計画は、担当のコーチやメディカルスタッフと相談して決定してください。

