ピラティスと骨盤底筋は、セットで語られることの多い組み合わせです。産後のケア、尿もれ、更年期の不調——こうした文脈でピラティスが勧められる場面は少なくありません。
しかし研究を確認すると、広く信じられている前提とは異なる結果が出ています。健常女性がピラティスを行っても、骨盤底筋の機能が変化するという根拠は示されていません。そして、骨盤底筋を強くしたい場合には、それを目的に設計された運動を別に行う必要がある、というのが現時点で最も確からしい理解です。
この記事は、ピラティスを否定するものではありません。期待する効果と、実際に得られる効果を一致させるための整理です。
メタアナリシスが示したこと
The pilates method in the function of pelvic floor muscles: Systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2018.
このシステマティックレビューは、4,434件の文献を検索し、最終的に2件を採用しました。評価されたのは、ペリネオメーターで測定した骨盤底筋の機能です。
結果は、群間差なし(p = 0.32)。ピラティスを実践している健常女性で骨盤底筋機能が変化するという根拠は示されませんでした。
「2件」という数字について
4,434件から2件しか採用されなかったという事実自体が、重要な情報です。この領域には、厳密な設計で骨盤底筋機能を測定した研究がほとんど存在しないということを意味します。
したがって、この結論は「効果がないと証明された」ではなく、「効果があるという根拠が示されていない」と読むのが正確です。証拠の不在は不在の証拠ではありません。今後質の高い研究が出れば、結論は変わりうる段階にあります。
ただし実務上は、「根拠が示されていないもの」を「効果があるもの」として宣伝すべきではありません。これが本記事の立場です。
他のレビューも同じ方向を示している
骨盤底筋トレーニング(PFMT)と、それ以外の手法を比較した検討でも、一致した傾向が報告されています。
ある解析では、ピラティス、パウラ法、ハイポプレッシブ・エクササイズ(腹圧を下げる呼吸法を用いる手法)は、骨盤底筋トレーニングと併用しない限り、骨盤底筋の筋力を増加させるうえで有効ではなかったと報告されています。
一方で、骨盤底筋トレーニングそのものについては、質の高い無作為化比較試験で一貫した効果が示されています。腹圧性尿失禁のある女性に対して、PFMT単独および補助的療法との併用が有効な治療であり、「治癒」および「治癒・改善」の割合はそれぞれ最大73%、97%に達したという報告があります。
また妊娠中の集団を対象としたPFMTでは、妊娠期および産後の尿失禁の有病率が有意に低下したことが報告されています。
この対比が意味すること
整理すると、次のようになります。
| 介入 | 骨盤底筋機能・尿失禁への効果 |
|---|---|
| 骨盤底筋トレーニング(PFMT) | 一貫した効果が報告されている |
| ピラティス単独 | 効果を示す根拠は示されていない |
| ピラティス+PFMT | PFMTを含むことで効果が期待できる |
つまり効いているのはPFMTの部分であって、ピラティスという枠組みそのものではない可能性が高い、ということです。
なぜ「ピラティスで骨盤底筋が鍛えられる」と言われてきたのか
この主張には、一見もっともらしい理屈があります。
骨盤底筋は、コアと呼ばれる構造の「床」にあたる部分です。横隔膜が「フタ」、腹横筋が「壁」、多裂筋が「後ろの壁」、そして骨盤底筋が「床」。この容器の中の圧(腹腔内圧)が変化するとき、床である骨盤底筋もそれに応じて働く必要があります。
実際、横隔膜が下降して腹腔内圧が上がるとき、腹横筋と骨盤底筋の活動が伴うことが報告されています。呼吸と骨盤底の働きは連動しているのです。
ピラティスは呼吸と腹部の使い方に重点を置く運動です。だから骨盤底筋も一緒に働くはずだ——この推論自体は、機序としては筋が通っています。
しかし機序と効果は別である
ここが本シリーズで繰り返し述べてきた論点です。「連動して働く」ことと「トレーニング効果として筋力が向上する」ことは、別の話です。
筋力を向上させるには、一般に十分な強度の刺激を、十分な回数、十分な期間与える必要があります。日常動作の中で「働いている」だけでは、トレーニング刺激としては不足する可能性があります。
骨盤底筋トレーニングが有効なのは、骨盤底筋そのものに意識的な最大収縮を繰り返し課す設計になっているからだと考えられます。ピラティスの種目の多くは、骨盤底筋を主動筋として扱っていません。
骨盤底筋トレーニングとはどういうものか
一般にPFMTは、骨盤底筋を意識的に収縮させ、一定時間保持し、完全に弛緩させるという動作の反復で構成されます。強度(どれだけ強く)、保持時間、回数、セット数、頻度が処方の要素になります。
重要な点がいくつかあります。
正しく収縮できているかの確認が難しい。骨盤底筋は外から見えず、自分では収縮しているつもりで、実際には腹部や殿部、内転筋を使っているだけということが起こります。研究でも、指導なしでは正しく収縮できない人が相当割合いることが指摘されています。
弛緩も同じくらい重要。骨盤底筋が過緊張している状態では、さらに締める訓練が症状を悪化させることがあります。「締める」一辺倒の指導は適切ではありません。
症状のタイプによって適応が異なる。腹圧性尿失禁(咳やくしゃみで漏れる)と切迫性尿失禁(急に強い尿意が来る)では、対処の考え方が異なります。
これらを踏まえると、骨盤底の問題に取り組む場合は、専門的な評価と指導を受けることが望ましいと言えます。産婦人科、泌尿器科、あるいは骨盤底に専門性を持つ理学療法士が関わる領域です。
産後という時期について
産後は骨盤底の話題が最も多く語られる時期です。ここは慎重に扱う必要があります。
妊娠と出産は骨盤底に大きな負荷をかけます。経腟分娩後の尿失禁予防に関する検討も行われており、PFMTの役割が議論されています。
一方で、産後の体には個人差が非常に大きく、分娩の経過、会陰の損傷の有無、腹直筋離開の程度、授乳の状況などによって、適切な運動の開始時期も内容も変わります。
産後の運動再開については、必ず産婦人科の医師の確認を受けてください。一般に産後健診で経過を確認したうえで判断されます。「◯週間後から大丈夫」という一律の基準を、不特定多数に向けて書くことはできません。
マタニティ・産後のクラスに期待できること
骨盤底筋の筋力向上という点では、前述のとおり期待を限定すべきです。では意味がないのかというと、そうではありません。
産後の時期に、体を動かす習慣を再開すること、姿勢の変化(授乳や抱っこによる前方への負担)に対処すること、同じ時期の人と会うこと——これらには別の価値があります。ただしそれを「骨盤底筋が鍛えられる」と説明するのは正確ではない、ということです。
尿もれについて知っておきたいこと
尿もれは、加齢に伴う自然な変化として受け入れられがちですが、治療の対象になる症状です。
PFMTの効果が「治癒」で最大73%、「治癒・改善」で最大97%と報告されていることは、この症状が十分に改善しうることを示しています。運動療法で改善しない場合にも、別の治療選択肢があります。
「恥ずかしいから」「年齢のせいだから」と受診をためらう方は少なくありません。しかし生活の質への影響は大きく、外出や運動を控える原因にもなります。ピラティスのクラスで様子を見るより、まず専門の医療機関に相談するほうが、結果的に早道です。
骨盤底筋の解剖 — どこにある、何をしている
議論の前提として、この筋群がどういうものかを確認しておきます。
骨盤底筋群は、骨盤の底を塞ぐように広がる筋と結合組織の集まりです。恥骨から尾骨、左右の坐骨へと張られ、ハンモックのような構造を作っています。主要な層として肛門挙筋群があり、その下に尿道や肛門を取り囲む括約筋があります。
担っている役割は複数あります。
支持。膀胱、子宮、直腸といった骨盤内臓器を下から支えます。この支持が弱まると、臓器が下垂する状態(骨盤臓器脱)につながりえます。
排泄の制御。尿道と肛門を締めることで、排尿・排便のタイミングを制御します。
腹腔内圧への対応。咳、くしゃみ、笑う、重い物を持つといった場面で腹腔内圧が急上昇します。このとき骨盤底が下から支えなければ、圧は下方に逃げます。
姿勢制御への関与。コアの「床」として、体幹の安定に関わります。
これらのうち、ピラティスの文脈で期待されるのは主に三番目と四番目です。しかし前述のとおり、機能の測定で群間差は示されていません。
見えない筋であることの難しさ
骨盤底筋の訓練が難しいのは、視覚的なフィードバックがないことに起因します。腕の筋肉なら動きが見えますが、骨盤底は見えません。
そのため、正しく収縮できているかどうかの確認には、専門的な評価(内診による触診、ペリネオメーターによる圧測定、超音波画像、バイオフィードバック機器)が用いられます。研究でペリネオメーターが使われるのは、この客観性を確保するためです。
逆に言えば、「骨盤底を意識してください」という指示だけで正しく働かせられる保証はありません。指示を受けた人が何を収縮させているかは、外からは確認できないのです。
よくある誤解を整理する
誤解1:腹筋を鍛えれば骨盤底も強くなる
腹腔内圧が上がる場面で骨盤底も働くことは事実ですが、それは「支える」働きであって、必ずしもトレーニング刺激になるとは限りません。むしろ、骨盤底の支持が不十分な状態で腹圧を高める運動を繰り返すと、下方への負担が増える可能性が指摘されています。
腹圧を大きく高める種目(重い負荷を持ち上げる、強く息を止めて力むなど)を行う場合は、骨盤底の状態を確認しておくほうが安全です。
誤解2:とにかく締めればよい
骨盤底筋の問題は、弱いこと(低緊張)だけではありません。過度に緊張している状態(高緊張)もあり、この場合は締める訓練が症状を悪化させることがあります。骨盤の痛み、排尿困難、性交痛などの背景に過緊張がある場合、必要なのは弛緩です。
「尿もれ=骨盤底が弱い=締める」という単純な図式は、実態を単純化しすぎています。評価なしに一律の訓練を勧めるべきではない理由がここにあります。
誤解3:一度鍛えればずっと保てる
他の骨格筋と同様、訓練をやめれば効果は失われていきます。PFMTの研究でも、継続の重要性が指摘されています。短期間のプログラムで終わらせず、生活の中に組み込む設計が必要です。
誤解4:男性には関係ない
骨盤底筋は男性にもあります。前立腺の手術後の尿失禁に対してPFMTが用いられることもあります。女性特有の話題として扱われがちですが、構造としては共通です。
呼吸と骨盤底 — 連動の実際
骨盤底とピラティスを結びつける最も強い根拠は、呼吸との連動です。ここは正確に押さえておきます。
息を吸うと横隔膜が収縮して下降します。腹腔の容積は変わらないため、内容物は下方および前方へ押されます。このとき骨盤底はわずかに下がり、息を吐くと戻る——これが安静時の基本的な動きとして説明されます。
研究では、呼吸パターンと姿勢の組み合わせが、腹部筋の活動と腹腔内圧に影響することが報告されています。つまり、どう呼吸し、どんな姿勢でいるかによって、骨盤底にかかる負荷は変わります。
ピラティスの呼吸は、腹部を引き込んだ状態を保ちながら胸郭を広げる方法が用いられることが多く、腹横筋の等尺性収縮を維持しながら横隔膜の下降と釣り合わせる、という考え方です。この釣り合いが取れていれば、圧が下方に逃げにくくなる——という説明が可能です。
ただし繰り返しになりますが、この説明は機序の仮説であり、骨盤底筋機能の改善として測定されたわけではありません。
では、ピラティスは骨盤底に無意味なのか
そうとも言えません。整理すると次のようになります。
期待してよいこと
- 呼吸と腹部の使い方に注意を向ける習慣がつく
- 腹圧を極端に高めずに動く練習ができる
- 姿勢や股関節の使い方が変わることで、骨盤周囲の負荷分布が変わりうる
- PFMTを併用する場の一つとして機能しうる
期待すべきでないこと
- ピラティスを続けるだけで骨盤底筋の筋力が向上すること
- 尿もれや骨盤臓器脱の治療になること
- 専門的な評価の代わりになること
この線引きを、指導する側も受ける側も共有しておくことが重要だと考えています。
何から始めるか
骨盤底に関する悩みがある場合の順序を示します。
第一に、医療機関で評価を受ける。症状の種類(腹圧性か切迫性か混合型か)、骨盤臓器脱の有無、過緊張か低緊張かによって、必要な対応が変わります。自己判断で訓練を始める前に、現在地を知ることが先です。
第二に、正しい収縮を習得する。これは指導を受けるのが確実です。自己流では、腹部や殿部を使っているだけという状態になりやすいことが指摘されています。
第三に、生活に組み込む。研究で効果が示されているPFMTは、一定の回数と頻度を継続する設計です。短期間で終わらせないことが前提になります。
第四に、他の運動と併用する。この段階でピラティスが選択肢になります。全身の動きの中で骨盤底を含む体幹の使い方を整える、という位置づけです。
この分野の情報を読むときの注意
骨盤底は、根拠の弱い情報が流通しやすい領域です。判断の手がかりをいくつか挙げます。
「締める」だけを強調していないか。弛緩の重要性に触れていない情報は、片面的です。
効果を断定していないか。「尿もれが治ります」と言い切る表現には注意が必要です。
医療との線引きが書かれているか。受診すべき状態に言及していない健康情報は、信頼性を割り引いて読むべきでしょう。
出典が示されているか。「研究によると」とだけ書かれ、どの研究かが示されていない場合、確認のしようがありません。
「ハイポプレッシブ」という手法について
先の解析で、ピラティスやパウラ法と並んで名前が挙がったハイポプレッシブ・エクササイズについても触れておきます。
これは、息を吐き切った状態で呼吸を止め、肋骨を引き上げるようにして腹腔内の圧を下げる(陰圧をつくる)手法です。腹圧を高めずに体幹を使うという発想から、産後や骨盤底の文脈で紹介されることがあります。
しかし前述の解析では、この手法もPFMTと併用しない限り骨盤底筋力の増加に有効ではなかったと報告されています。理屈としての新しさと、効果の実証は別だという例がここにもあります。
新しい手法が紹介されるとき、機序の説明が魅力的であるほど注意が必要です。「なぜ効くはずか」の説明の巧みさと、「実際に効いたか」の証拠は、独立した評価軸です。
更年期以降の骨盤底
閉経前後にはエストロゲンの低下により、尿道や腟の粘膜、支持組織に変化が生じることが知られています。頻尿、尿意切迫、尿もれ、乾燥感といった症状がこの時期に現れることがあります。
閉経後女性の尿失禁に対する骨盤底筋運動については、無作為化比較試験のシステマティックレビューが行われており、この年代でもPFMTが検討対象になっていることがわかります。
一方、この時期の症状にはホルモン環境の変化が関与するため、運動だけで完結しない部分があります。婦人科での相談が選択肢に入る領域です。
「年齢のせい」で片づけず、治療の対象になりうる症状だと知っておくことが、まず大切だと考えています。
スタジオができること、できないこと
最後に、運動指導の現場としての立場を明確にしておきます。
ピラティスのスタジオは医療機関ではありません。診断はできませんし、治療も行えません。骨盤底筋の状態を内診で評価することも、ペリネオメーターで測定することもありません。
できるのは、安全に体を動かす環境を用意すること、呼吸と姿勢の使い方を一緒に確認すること、そして医療につなぐべき状態を見分けて、受診を勧めることです。
最後の点は軽視されがちですが、重要だと考えています。運動指導者が「それは運動でどうにかする問題ではない」と言えることは、利用者を守る機能です。逆に、あらゆる不調を自分たちのサービスで解決できるかのように語ることは、必要な受診を遅らせる危険を伴います。
伝えていただきたいこと
レッスンに参加される際、次の情報は指導者に伝えておいていただくと、種目の選択や強度の調整に反映できます。
- 出産の経験と時期、分娩の経過
- 骨盤臓器脱や尿失禁の診断を受けているか
- 骨盤部の手術歴
- 運動中に尿もれや下腹部の違和感が出ることがあるか
- 医師から運動について指示を受けているか
言いにくい内容が含まれます。全部を話す必要はありません。ただ、伝えていただいた分だけ、避けるべき動きを避けられます。
まとめ
研究が示していること
- 健常女性のピラティス実践で骨盤底筋機能が変化するという根拠は示されていない(4,434件から2件採用、p = 0.32)
- ピラティス、パウラ法、ハイポプレッシブは、PFMTと併用しない限り骨盤底筋力の増加に有効ではないと報告されている
- PFMT単独および併用は腹圧性尿失禁に有効で、「治癒」最大73%、「治癒・改善」最大97%
- 妊娠中の集団PFMTは、妊娠期・産後の尿失禁の有病率を有意に低下させた
解釈上の留保
- 採用された研究が2件と少なく、この分野の証拠は限られている
- 「効果がない」ではなく「効果を示す根拠がない」段階
- 今後の研究で結論が変わる可能性がある
実践的な結論
骨盤底筋を目的とするなら、それ専用に設計された運動を、できれば専門家の評価のもとで行うのが確実です。ピラティスはそれを補完しうる運動ですが、代替にはなりません。
この区別を明確にしておくことは、利用者の利益になると考えています。期待と結果が合わないまま時間を使うより、必要な場所に早くたどり着くほうがよいからです。
出典
- The pilates method in the function of pelvic floor muscles: Systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2018.
- Pelvic floor muscle training and adjunctive therapies for the treatment of stress urinary incontinence in women: a systematic review.
- The effectiveness of group-based pelvic floor muscle training in preventing and treating urinary incontinence for antenatal and postnatal women: a systematic review.
- Effectiveness of Pelvic Floor Muscle Training in Preventing Urinary Incontinence After Vaginal Delivery: A Systematic Review.
この記事は研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。尿もれ、骨盤臓器脱、産後の体調については、産婦人科・泌尿器科にご相談ください。産後の運動再開は必ず医師の確認を受けてください。

