連載「ヨガはなぜ効くのか」全10回の第3回です。
前回、心拍変動のゆらぎの多くが呼吸そのものに由来することを見ました。今回はその呼吸を主役に据えます。ヨガの呼吸法(プラーナーヤーマ)の多くは、意図せず、あるいは意図して、呼吸を毎分6回前後まで遅くします。この速度には生理学的な特異点があり、そこで何が起きるかは比較的よく調べられています。
結論を先に置きます。ゆっくりした呼吸が、その最中に圧受容器反射の感受性を高め、血圧を下げ、化学受容器の反応を鈍らせることは、複数の実験で一貫して観察されています。しかしその変化が「呼吸を遅くしたこと」の効果なのか、測定手法の性質によるものなのかについては異論があり、さらに、数週間続けた場合の持続的な降圧効果は、質の高い試験ほど小さく出ます。急性の生理反応は確か、慢性の臨床効果は不確か——これがこの領域の現在地です。

毎分6回という特異点
心血管系には固有の振動があります。血圧は約10秒周期(0.1 Hz)でゆっくり波打っており、これはメイヤー波と呼ばれます。呼吸をこの周期に合わせる、すなわち毎分6回ほどにすると、呼吸による胸腔内圧の変化と、圧受容器反射による心拍の調節とが位相を揃え、心拍のゆらぎが最大になります。共鳴と呼ばれる現象です。
圧受容器反射とは、頸動脈洞と大動脈弓にある圧センサーが血圧の上昇を感知し、迷走神経を介して心拍を遅らせ、血圧を下げる負のフィードバック回路のことです。その感受性(BRS: baroreflex sensitivity)は、血圧が1 mmHg上がったときに拍間隔が何ミリ秒延びるか、で表されます。高いほど血圧の調節が効いている、と解釈されます。
急性効果——高血圧者で実際に何が起きたか
この領域の代表的な実験を見ます。
Joseph CN, Porta C, Casucci G, et al. Slow breathing improves arterial baroreflex sensitivity and decreases blood pressure in essential hypertension. Hypertension. 2005;46(4):714-718.
本態性高血圧の20名(56.4 ± 1.9歳)と対照26名(52.3 ± 1.4歳)に、座位で自発呼吸・毎分6回・毎分15回の3条件を行わせ、非侵襲の連続血圧、RR間隔、呼吸、呼気終末の二酸化炭素を同時記録しています。毎分6回の呼吸で、高血圧群の収縮期血圧は149.7 ± 3.7 mmHg から141.1 ± 4 mmHg へ(P < 0.05)、拡張期血圧は82.7 ± 3 から77.8 ± 3.7 mmHg へ(P < 0.01)低下しました。圧受容器反射の感受性は高血圧群で5.8 ± 0.7 から10.3 ± 2.0 ms/mmHg へ(P < 0.01)、対照群で10.9 ± 1.0 から16.0 ± 1.5 ms/mmHg へ(P < 0.001)上昇しています。しかも、過換気を起こさずにこの変化が生じました。
注目すべきは、毎分15回の統制呼吸では収縮期血圧は下がったものの拡張期血圧は下がらず、圧受容器反射も変化しなかった点です。「ゆっくり」であることに意味があり、「意識して呼吸する」だけでは同じ結果にならないことを示唆します。
同じ効果は心不全患者でも観察されています。ベルナルディらは安定期の慢性心不全81名と対照21名で毎分6回の呼吸を試し、対照群では9.4 ± 0.7 から13.8 ± 1.0 ms/mmHg、心不全群では5.0 ± 0.3 から6.1 ± 0.5 ms/mmHg へと圧受容器反射感受性が上昇したと報告しました(いずれも P < 0.0025)。心不全群では収縮期血圧が117 ± 3 から110 ± 4 mmHg(P = 0.009)、拡張期血圧が62 ± 1 から59 ± 1 mmHg(P = 0.02)へ下がっています。もともと感受性が低い人ほど絶対的な伸びしろは小さい、という当たり前の事実も、この数字から読み取れます。

化学受容器はどうなるか
圧受容器と並ぶもうひとつの回路が化学受容器反射です。血中の酸素が下がる、あるいは二酸化炭素が上がると、換気量を増やして補正する仕組みで、過剰に働くと呼吸が速く浅くなり、交感神経の活動を押し上げます。
Bernardi L, Gabutti A, Porta C, Spicuzza L. Slow breathing reduces chemoreflex response to hypoxia and hypercapnia, and increases baroreflex sensitivity. Journal of Hypertension. 2001;19(12):2221-2229.
健康な15名に、等炭酸性の進行性低酸素と、高酸素性の進行性高炭酸ガスを負荷し、自発呼吸・毎分6回・毎分15回で比較した実験です。毎分6回の呼吸は、低酸素・高炭酸ガスのどちらに対する化学受容器反応も抑制しました(P < 0.01)。自発呼吸時の反応の大きさは、その人のもともとの呼吸数と相関しており(低酸素反応で r = -0.52、高炭酸ガス反応で r = +0.51、いずれも P = 0.05)、圧受容器反射感受性はゆっくり呼吸のあいだ一貫して高いままでした(P < 0.05)。
著者らは、圧受容器反射の感受性が高まることが化学受容器を抑制する一因かもしれないと述べています。2つの回路は独立ではなく、互いに抑え合う関係にあるという見立てです。慢性心不全のように化学受容器が過敏になっている状態で、呼吸を遅くすることに意味があるのではないか、という提案もここから出ています。
測っているのは反射か、それとも周波数か
ここまでは肯定的な話です。しかし、圧受容器反射感受性の測り方そのものに疑問を投げる研究があります。
Tzeng YC, Sin PY, Lucas SJ, Ainslie PN. Respiratory modulation of cardiovagal baroreflex sensitivity. Journal of Applied Physiology. 2009;107(3):718-724.
30名の若年健康者に対し、薬理学的な修正オックスフォード法——血圧を実験的に上げ下げして反射を直接刺激する方法——と、自発的な血圧変動から推定する方法(α指数、シークエンス法)を並べて比較しました。毎分15回(0.25 Hz)と毎分6回(0.10 Hz)を比べると、α指数は 8.1 ± 14 ms/mmHg 上昇し(P < 0.01)、上昇シークエンス由来の感受性も 10 ± 11 ms/mmHg 上昇しました(P < 0.01)。ところが、下降シークエンス由来の値と、修正オックスフォード法で求めた値は、ゆっくり呼吸でまったく変化しませんでした。
著者らはこれを、ゆっくり呼吸が圧受容器反射機能そのものを高めるという考え方への挑戦だと位置づけています。自発変動から推定した感受性が、実験的に刺激して測った感受性を反映していない可能性も示された、というわけです。
ホースマン(Horsman)らは、この疑いをさらに直接的に検証しました。呼吸数(毎分6回または10回)と、下半身陰圧の周期的付加によって駆動する血圧振動の周波数(0.06 Hz と 0.1 Hz)を独立に動かす交差設計を14名で行ったところ、呼吸数と血圧振動周波数のあいだに交互作用はなく(P = 0.59)、呼吸数の主効果も認められませんでした(P = 0.28)。有意だったのは血圧振動の周波数の主効果だけです(P = 0.01)。つまり、スペクトル指標で見た圧受容器反射感受性の上昇は、反射が周波数に依存して振る舞う性質を反映しているのであって、呼吸を遅くしたこと自体の効果ではない可能性がある——そういう結論です。

続けたら血圧は下がるのか
その場の生理反応と、数週間続けた結果は別の問題です。降圧目的で用いられる遅い呼吸について、無作為化比較試験を統合したメタアナリシスがあります。
Chaddha A, Modaff D, Hooper-Lane C, Feldstein DA. Device and non-device-guided slow breathing to reduce blood pressure: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Medicine. 2019;45:179-184.
組み入れ条件は、毎分10回以下の遅い呼吸を1回5分以上、週3日以上、4週間以上続け、4週間以上の追跡と対照群があること。17件を統合した結果、収縮期血圧は -5.62 mmHg(95%信頼区間 -7.86〜-3.38)、拡張期血圧は -2.97 mmHg(-4.28〜-1.66)でした。著者らはこれを「穏やかな低下」と表現し、投薬に踏み切りたくない低リスクの高血圧・前高血圧の人にとって妥当な最初の選択肢かもしれない、と述べています。ただしすべての解析で異質性が高いことも明記されています。
一方、装置を用いる遅い呼吸に絞った別のメタアナリシスは、より厳しい結論に達しています。
De Freitas Gonçalves KS, Daniel ACQG, Lamas JLT, et al. Device and nondevice-guided slow breathing to reduce blood pressure in hypertensive patients: A systematic review and meta-analysis. Health Science Reports. 2022;5(3):e636.
22件・17,214名を対象とした量的解析で、装置誘導の遅い呼吸は通常ケアと比べて収縮期血圧を有意に下げませんでした(平均差 -2.13 mmHg、95%信頼区間 -12.71〜8.44、I2 = 93%)。拡張期血圧も同様です(-0.90、-3.97〜2.11、I2 = 63%)。I2 が90%を超えるというのは、研究どうしの結果が食い違いすぎて、ひとつの平均値で代表させること自体に無理があるという意味です。
個別の試験でも、否定的な結果は出ています。
Altena MR, Kleefstra N, Logtenberg SJ, Groenier KH, Houweling ST, Bilo HJ. Effect of device-guided breathing exercises on blood pressure in patients with hypertension: A randomized controlled trial. Blood Pressure. 2009;18(5):273-279.
糖尿病のない高血圧患者30名を9週間追跡した単盲検試験です。対照群は音楽を聴くだけで、装置は使いません。結果、群間の血圧変化に有意差はなく、-4.2 mmHg(95%信頼区間 -12.4〜3.9)/-2.6 mmHg(-8.4〜3.3)でした。目標呼吸数に達しなかった人や非遵守の人を除いた事後解析でも結論は変わらず、生活の質にも変化はありませんでした。著者らは「現時点でこの装置は高血圧治療に付加価値をもたらさない」と結論しています。血圧への効果全般については別の記事で整理しています。
ここで効いているのは設計です。この試験は対照群に「音楽を聴く」という能動的な課題を与え、単盲検で行われました。ヨガや呼吸法の研究でこの2つが揃うことは多くありません。能動的対照を置き、盲検に近づけた途端に差が消えたという事実は、統合結果に現れた穏やかな降圧幅のうち、どれだけが呼吸を遅くしたこと自体に由来し、どれだけが「毎日決まった時間に静かに座る」という行動そのものに由来するのかを考えさせます。
| 時間の尺度 | 観察されること | 確からしさ |
|---|---|---|
| 呼吸している最中 | 圧受容器反射感受性の上昇、血圧低下、化学受容器反応の抑制 | 再現性は高いが、測定法により結果が割れる |
| 1回の練習の直後 | 血圧の一時的低下 | 複数の試験で一致 |
| 数週間から数か月 | 診察室血圧の低下は報告されるが統合すると不確か | 異質性が高く、質の高い試験ほど効果は小さい |
やり方の細部で結果が変わる
「ゆっくり呼吸」と一括りにしても、吸気と呼気の比率や、喉を狭めて抵抗をかけるかどうかで生理反応は変わります。メイソン(Mason)らは、ヨガ未経験の健康な17名に、毎分6回の呼吸を吸呼比を変えて、また喉を狭めるウジャイ呼吸の有無を組み合わせて行わせました。圧受容器反射感受性は、吸気と呼気を等しくしたゆっくり呼吸で最も大きく上昇し、血圧の低下も最大でした(P < 0.05 以上)。吸気と呼気の両方にウジャイをかけた条件だけは、感受性の上昇が見られませんでした。
ウジャイ呼吸では末梢の酸素飽和度は同じように上がるものの、圧受容器反射の改善はやや小さく、血圧は変化しませんでした。著者らはこれを、胸腔内圧の上昇と、それに伴う努力の大きさによるものと解釈しています。「より高度な技法のほうが効果が大きい」とは限らない——少なくとも圧受容器反射という物差しでは、素朴な等分のゆっくり呼吸が最も素直に効いていました。呼吸法と自律神経の関係をまとめた既存の記事も併せて参照してください。
この回のまとめ
ゆっくりした呼吸の生理学は、ヨガの機序として提案されているもののなかで、最も解像度が高い部分です。回路の名前(圧受容器反射、化学受容器反射)も、共鳴が起きる周波数(約0.1 Hz)も特定されており、薬理学的な介入や実験的な刺激を使った検証も行われています。
それでも、確実に言えることは限られます。急性の変化は堅いが、それを測る標準的な手法が反射の周波数依存性と交絡している。慢性の降圧効果は、統合すると小さく、異質性が高く、盲検化した試験では消えることがある。ここでも第1回の5つの問いが効きます——比較の相手は誰か、変化は群間差か、その変化が症状を動かしたか、大きさに意味があるか、反対側の証拠は書かれているか。
限界を具体的に並べます。急性効果を示した実験は、いずれも単回・実験室内・少人数(20名、15名、30名、14名)で、参加者は測定のあいだずっと呼吸を統制されていました。自宅で自発的に行う呼吸法とは条件が違います。慢性効果の試験は追跡が短く、統合の組み入れ条件でさえ4週間以上にすぎません。24時間血圧や心血管イベントといった、より遠いが本来知りたい転帰まで追った試験はほとんどありません。有害事象については報告している試験自体がまばらで、「害が報告されていない」ことと「安全だと確かめられた」ことは違います。
身体を動かす人にとっての含意はこうです。ゆっくり呼吸は、やっている最中に確かに何かを起こしています。血圧はその場で下がり、圧受容器反射は測り方によっては改善する。ただしその効果が翌日まで、まして数か月後まで積み上がるかどうかは分かっていません。降圧薬の代わりにはならず、薬を減らす判断の材料にもなりません。技法を高度にするより、吸気と呼気を等しくした素直なゆっくり呼吸を、息苦しさを感じない範囲で続けるほうが、少なくとも圧受容器反射という物差しでは理にかなっています。
次回予告
第4回は「内受容感覚と島皮質——『身体に気づく』の神経基盤」を扱います。呼吸に注意を向ける練習は、身体の内側からの信号をどう変えるのか。島皮質という脳領域が鍵とされてきた経緯と、その根拠となってきた測定課題が近年どれほど疑われているかを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「効く」とは何か——機序を問う理由と研究の読み方
- 第2回|自律神経と迷走神経——心拍変動が語ること
- 第3回|ゆっくり呼吸の生理学——圧受容器反射と化学受容器(この記事)
- 第4回|内受容感覚と島皮質——「身体に気づく」の神経基盤
- 第5回|HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は変わるのか
- 第6回|炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか
- 第7回|脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク
- 第8回|柔軟性はなぜ増すのか——伸張耐性説と結合組織
- 第9回|どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法
- 第10回|総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界
出典
- Joseph CN, Porta C, Casucci G, Casiraghi N, Maffeis M, Rossi M, Bernardi L. Slow breathing improves arterial baroreflex sensitivity and decreases blood pressure in essential hypertension. Hypertension. 2005;46(4):714-718.
- Bernardi L, Gabutti A, Porta C, Spicuzza L. Slow breathing reduces chemoreflex response to hypoxia and hypercapnia, and increases baroreflex sensitivity. Journal of Hypertension. 2001;19(12):2221-2229.
- Bernardi L, Porta C, Spicuzza L, et al. Slow breathing increases arterial baroreflex sensitivity in patients with chronic heart failure. Circulation. 2002;105(2):143-145.
- Tzeng YC, Sin PY, Lucas SJ, Ainslie PN. Respiratory modulation of cardiovagal baroreflex sensitivity. Journal of Applied Physiology. 2009;107(3):718-724.
- Horsman HM, Peebles KC, Tzeng YC. Interactions between breathing rate and low-frequency fluctuations in blood pressure and cardiac intervals. Journal of Applied Physiology. 2015;119(7):793-798.
- Chaddha A, Modaff D, Hooper-Lane C, Feldstein DA. Device and non-device-guided slow breathing to reduce blood pressure: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Medicine. 2019;45:179-184.
- De Freitas Gonçalves KS, Daniel ACQG, Lamas JLT, et al. Device and nondevice-guided slow breathing to reduce blood pressure in hypertensive patients: A systematic review and meta-analysis. Health Science Reports. 2022;5(3):e636.
- Altena MR, Kleefstra N, Logtenberg SJ, Groenier KH, Houweling ST, Bilo HJ. Effect of device-guided breathing exercises on blood pressure in patients with hypertension: A randomized controlled trial. Blood Pressure. 2009;18(5):273-279.
- Mason H, Vandoni M, Debarbieri G, Codrons E, Ugargol V, Bernardi L. Cardiovascular and respiratory effect of yogic slow breathing in the yoga beginner: what is the best approach? Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2013;2013:743504.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。高血圧の薬を飲んでいる方が、呼吸法を理由に自己判断で服薬を減らしたり中止したりすることは危険です。呼吸法の途中で強いめまい・息苦しさ・胸の痛みが出た場合は中止してください。心不全・重い呼吸器疾患・妊娠中の方は、呼吸法を始める前に医療機関にご相談ください。






