連載「ヨガはなぜ効くのか」全10回の第6回です。

血液を1本採れば、体の中で何が起きているか分かる——炎症マーカーの研究は、そういう期待とともに広がってきました。IL-6(インターロイキン6)、CRP(C反応性タンパク)、TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)。これらは自覚症状のない「くすぶった炎症」を数値にしてくれる指標とされ、うつ病から心血管疾患、がん、関節リウマチまで、幅広い病態との関連が報告されています。ヨガの研究でも、前回扱ったコルチゾールと並んで、最も頻繁に測られてきた生物学的指標です。

ただし、前回と同じ構図がここでも現れます。結論を先に置きます。ヨガを含む心身運動が炎症マーカーを下げる方向に動かすという報告は数多くあり、統合すると小さいながら統計的に有意な効果が出ます。しかし、最も大きな統合研究では、同じ3つのマーカーをまとめたときに有意差が消えました。さらに厄介なのは、これらのマーカー自体が同じ人の中で日ごと・時刻ごとに大きく揺れることで、測り方の違いが結果を左右しうる水準にあることです。

ヨガと免疫・炎症の関係を、疾患ごとの転帰という角度から整理した記事は別にあります。この回は「なぜ動くとされるのか」「その数字をどこまで信じてよいのか」という機序と測定の話に絞ります。

ヨガはなぜ効くのか 第6回 炎症マーカーIL-6CRPTNF-αは動くのか|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

慢性の低度炎症という考え方

炎症は本来、けがや感染に対する防御反応です。傷口が赤く腫れて熱を持つ、あの反応がその典型で、数日で収まります。問題になるのは、はっきりした原因がないまま、血中の炎症性物質がわずかに高い状態が何年も続く場合です。これを慢性の低度炎症と呼びます。

この状態では、免疫細胞が出すIL-6やTNF-αといった伝達物質が少しずつ多くなり、IL-6の刺激を受けた肝臓がCRPを作ります。つまりCRPは炎症そのものではなく、炎症の下流にある副産物です。加齢、肥満、喫煙、睡眠不足、心理的ストレスがいずれもこの水準を押し上げることが知られており、ここにヨガが入り込む余地があると考えられてきました。

想定されている経路は2つです。ひとつは自律神経を介した経路で、第2回で扱った迷走神経の活動が高まると、免疫細胞の炎症性の反応が抑えられるという仮説です。もうひとつは第5回のHPA軸を介した経路で、ストレス反応系の過活動が収まれば、その下流の炎症も収まるという筋書きです。どちらももっともらしく、動物実験や細胞レベルの研究とも整合します。問題は、人を対象にした介入研究でその筋書きがどこまで確かめられたか、です。

統合結果——方向は同じ、確からしさは別

ヨガとバイオマーカーに絞った系統的レビューとメタアナリシスを見ます。

Mishra B, Agarwal A, George JA, et al. Effectiveness of Yoga in Modulating Markers of Immunity and Inflammation: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2024;16(4):e57541.

関節リウマチ、腫瘍性疾患、喘息などの慢性炎症性疾患の患者と健康な人を対象とした無作為化試験26件が対象です。測定されていたマーカーはIL-6が17件、TNF-αが13件、CRPが10件でした。個々の研究では、26件のうち24件がヨガに有利な結果を報告しています。ここだけを読めば、話は単純に見えます。

しかし著者らは同時に2つのことを書いています。第一に、バイアスのリスクが低いと判定されたのはわずか2件で、残り24件はバイアスのリスクが高いと判定されました。第二に、IL-6・TNF-α・CRPをそれぞれ統合したメタアナリシスでは、ヨガは好ましい方向の効果を示したものの、統計的に有意ではありませんでした。結論部分は率直です——現在の証拠の質は低く、無視できない異質性がある。

対象をヨガに限らず、太極拳や気功を含む心身運動全般に広げ、健康な人だけを集めたメタアナリシスもあります。

Muñoz-Vergara D, Burton W, Bain P, et al. Understanding the dynamics of inflammatory mediators in response to mind-body movement therapies (MBMTs): A systematic review and meta-analysis of studies in healthy subjects. Brain Behavior and Immunity Integrative. 2023;2:100006.

3,122件から絞り込まれた23件が統合されました。長期の介入について、CRPは有意に低下し(Hedgesのg = -0.351、95%信頼区間 -0.580〜-0.123)、TNF-αも同様でした(g = -0.366、-0.669〜-0.064)。IL-6は低下の傾向にとどまり、信頼区間が0をまたいでいます(g = -0.394、-0.819〜0.030)。効果量としては小さい部類で、通常の運動で報告されている変化とおおむね同程度とされています。

著者らが挙げる限界も明快です。実施頻度、介入期間、1回のセッションの長さが研究間で大きく異なり、短期の単回セッションを扱った研究は3件しかありませんでした。「ヨガは炎症を下げる」と一口に言っても、何を何回どれだけやった話なのかが、研究ごとにばらばらなのです。

yogaのレッスン前の様子生徒の足もとにあるヨガマット 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

マーカーごとに結果が割れる

もうひとつ、ヨガ・瞑想・呼吸法を扱った統合研究を見ます。

Shah K, Adhikari C, Sharma S, Saha S, Saxena D. Yoga, Meditation, Breathing Exercises, and Inflammatory Biomarkers with Possible Implications in COVID-19: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2022;2022:3523432.

13か国・4,023名から25のバイオマーカーが報告されていました。個々の研究では25のマーカーが好ましい方向に動いたとされていますが、11件の無作為化試験を統合して有意差が残ったのは3つだけです——IL-6が平均差 -1.44 pg/ml(-2.33〜-0.55、p = 0.002)、コルチゾールが -40.75 pg/ml(-64.13〜-17.38)、TNF-αが -3.40 pg/ml(-4.83〜-1.98、p < 0.0001)。

ただし、この3つはいずれも異質性が高く(研究間のばらつきを表す指標 I2 はそれぞれ82%、87%、79%)、出版バイアスも観察されたと明記されています。著者ら自身の結論が「有意な統合結果が出たのは3つだけで、それも確実性はかなり低い」というものでした。25個のうち3個、という比率そのものが、この領域の実情をよく表しています。

個別の試験を見ると、マーカーの間で結果が割れる様子がさらにはっきりします。抗うつ薬を服用中のうつ病患者を対象に、ハタヨガ群と健康教育の対照群を比べた試験では、参加者84名から3時点で採血が行われました。

Nugent NR, Brick L, Armey MF, Tyrka AR, Ridout KK, Uebelacker LA. Benefits of Yoga on IL-6: Findings from a Randomized Controlled Trial of Yoga for Depression. Behavioral Medicine. 2021;47(1):21-30.

結果は、IL-6だけが対照群に比べて有意に低下し、TNF-αとCRPには有意な交互作用が見られませんでした。採血は午後2時から6時のあいだ、1時間以上の絶食後という条件が揃えられています。これは丁寧な設計ですが、逆に言えば、この条件を揃えていない研究の結果は同じようには読めない、ということでもあります。

ファルケンベルク(Falkenberg)らは、ヨガの無作為化試験だけを集めた系統的レビューで15件を精査し、IL-1β(インターロイキン1ベータ)の低下が比較的一貫しており、IL-6とTNF-αの低下を示唆する所見もあるとまとめています。ただし著者らは、循環血中の炎症マーカーに一貫した効果を出すには、より長い期間の実践が必要ではないかという仮説を添えています。

血中の濃度ではなく、遺伝子の発現を見た研究群では、やや様子が違います。バウアー(Bower)とアーウィンが心身療法の無作為化試験26件を概観した総説によれば、循環マーカーの結果は一貫しない一方、炎症に関わる遺伝子の発現低下と、炎症性の転写因子NF-κBを介したシグナルの減弱については、より一貫した所見が得られています。「血液中の物質の量」より「細胞が何を作ろうとしているか」のほうが、介入の影響を捉えやすい可能性があります。

測定そのものが揺れている

ここからが、この回の本題です。介入の前後で数値が変わったとき、それは本当に介入のせいなのか。まず、同じ人を繰り返し測ったときにどれくらい同じ値が出るのかを調べた研究を見ます。

Gough A, Sitch A, Ferris E, Marshall T. Within-subject variation of C-reactive protein and high-sensitivity C-reactive protein: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2024;19(11):e0304961.

条件を満たした60件(CRPが34件、高感度CRPが26件)を統合した結果、CRPの個人内変動係数の中央値は0.41(範囲0.11〜0.89)、級内相関係数は0.55(95%信頼区間 0.35〜0.74)でした。高感度CRPでも変動係数0.44(0.27〜0.76)、級内相関0.62(0.58〜0.67)です。変動係数0.41とは、同じ人の測定値が平均の4割ほどの幅で揺れるということです。介入で狙う変化がそれより小さければ、ノイズに埋もれます。

時間が空くとさらに不安定になります。健康な成人を対象に、複数回測定した研究50件(合計48,674名)を統合したメタアナリシスが、間隔ごとの安定性を報告しています。

ウォルシュ(Walsh)らによれば、CRP・IL-6・TNF-αのいずれも、6か月未満の間隔では相関が0.80〜0.61と強めから中程度、6か月から3年では0.60〜0.51、3年を超えると0.39〜0.30まで落ちました。著者らの推奨は、6か月から3年の間隔では繰り返し測定が望ましく、3年を超える場合は必須、というものです。

時刻の影響もあります。ニルソン(Nilsonne)らが循環血中のIL-6の日内変動を調べたメタアナリシスは、43件の研究・56のデータセット・合計1,100名を統合し、IL-6が一日のうちで変動し、朝に最も低くなる谷があることを示しました。この論文が興味深いのは、それ以前の研究が「夕方か夜にピーク」と報告していたのに対し、統合すると逆向きの像が浮かんだ点です。著者らは、時刻による交絡を避けるために日内変動を考慮すべきだと結論しています。

揺れの種類具体的な内容読むときの対処
個人内の変動CRPの変動係数の中央値は0.411回だけの採血で比べた研究は割り引く
時間間隔3年を超えると相関が0.30まで落ちる追跡期間と測定回数を確認する
時刻IL-6は朝に谷を持つ採血時刻が揃えられているかを見る
測定法研究ごとに試薬・機器・検出限界が違う研究間の絶対値の比較をしない
立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

統計的有意と臨床的重要性

仮に統合結果が有意だったとして、その大きさは何を意味するのでしょうか。CRPは臨床で心血管リスクの層別化に使われ、1 mg/L未満を低リスク、1〜3 mg/Lを平均、3 mg/L超を高リスクとする区分が広く用いられてきました。この区分が個人の中でどれだけ安定しているかを調べた研究があります。

Bogaty P, Brophy JM, Boyer L, et al. Fluctuating inflammatory markers in patients with stable ischemic heart disease. Archives of Internal Medicine. 2005;165(2):221-226.

安定した虚血性心疾患の患者159名から、臨床的に落ち着いている時期を選んでCRPを繰り返し測定したところ、64名(40.3%)が1回目と2回目のあいだでリスク区分を移動しました。炎症を起こすような出来事が何もなくても、4割の人が「低リスク」と「高リスク」の札を付け替えられてしまうということです。

この事実は、介入研究の読み方を変えます。ヨガ群でCRPの平均値が下がったという結果があったとしても、それが個々の参加者の臨床的な区分を安定して動かしたのかは別の問題です。集団平均の小さな低下が、個人の健康状態の改善を意味するとは限りません。そして現時点で、炎症マーカーの低下が症状や疾患の転帰の改善をどれだけ説明するのかを、媒介の形で検証したヨガ研究はごく少数です。運動全般についての知見は別の記事にまとめてあります。

この領域で示されていないこと

ここまでを踏まえて、示されていないことを並べます。

  • 用量がわからない。どれくらいの頻度・強度・期間で実践すれば、どのマーカーがどれだけ動くのか。統合研究はいずれも「介入の記述が不十分」と指摘しています。
  • 能動的対照との比較が足りない。通常のケアや待機と比べた研究が多く、同じ時間だけ体を動かす群と比べた研究は限られます。第1回で見たとおり、比較の相手が効果量を決めます。
  • 誰に効くのかがわからない。健康な人ではもともとの値が低く、下げ幅を取りにくい。一方、炎症が高い疾患群では治療薬の影響が強く入ります。
  • 機序から転帰への橋が架かっていない。マーカーが動いたことと、疲労感や気分や再発率が改善したことのあいだの因果は、ほとんど検証されていません。
  • 出版バイアスがある。統合研究のひとつは、これを明示的に検出したと報告しています。効果が出なかった試験は、そもそも発表されにくい。

この回のまとめ

炎症マーカーは、測りやすく、病気との関連が広く報告されているために、ヨガ研究で頻繁に選ばれてきました。統合すると、確かに下がる方向の小さな効果が見えます。しかし証拠の質は低く、異質性は大きく、出版バイアスも指摘されており、最も大きなヨガ限定のメタアナリシスでは有意差が消えました。

そして、この領域にはコルチゾールと同じ落とし穴があります。指標そのものが個人の中で大きく揺れており、いつ・何回・どの方法で測ったかによって結果が変わりうる。「ヨガで炎症が下がった」という一文を読んだときは、まず採血の回数と時刻、そして比較の相手を確かめてください。そこが書かれていない研究の数値は、方向の目安以上のものにはなりません。

次回予告

第7回は「脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク」を扱います。長年ヨガや瞑想を続けている人の脳は、そうでない人の脳と違う——この主張はどんな研究から出てきたのか。因果の向きが決まらないという構造的な問題と、小さな標本で脳画像研究を行うことの危うさを見ていきます。

この連載の全10回

  1. 第1回|「効く」とは何か——機序を問う理由と研究の読み方
  2. 第2回|自律神経と迷走神経——心拍変動が語ること
  3. 第3回|ゆっくり呼吸の生理学——圧受容器反射と化学受容器
  4. 第4回|内受容感覚と島皮質——「身体に気づく」の神経基盤
  5. 第5回|HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は変わるのか
  6. 第6回|炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか(この記事)
  7. 第7回|脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク
  8. 第8回|柔軟性はなぜ増すのか——伸張耐性説と結合組織
  9. 第9回|どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法
  10. 第10回|総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界

出典

  1. Mishra B, Agarwal A, George JA, et al. Effectiveness of Yoga in Modulating Markers of Immunity and Inflammation: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2024;16(4):e57541.
  2. Muñoz-Vergara D, Burton W, Bain P, et al. Understanding the dynamics of inflammatory mediators in response to mind-body movement therapies (MBMTs): A systematic review and meta-analysis of studies in healthy subjects. Brain Behavior and Immunity Integrative. 2023;2:100006.
  3. Shah K, Adhikari C, Sharma S, Saha S, Saxena D. Yoga, Meditation, Breathing Exercises, and Inflammatory Biomarkers with Possible Implications in COVID-19: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2022;2022:3523432.
  4. Nugent NR, Brick L, Armey MF, Tyrka AR, Ridout KK, Uebelacker LA. Benefits of Yoga on IL-6: Findings from a Randomized Controlled Trial of Yoga for Depression. Behavioral Medicine. 2021;47(1):21-30.
  5. Falkenberg RI, Eising C, Peters ML. Yoga and immune system functioning: a systematic review of randomized controlled trials. Journal of Behavioral Medicine. 2018;41(4):467-482.
  6. Bower JE, Irwin MR. Mind-body therapies and control of inflammatory biology: A descriptive review. Brain, Behavior, and Immunity. 2016;51:1-11.
  7. Gough A, Sitch A, Ferris E, Marshall T. Within-subject variation of C-reactive protein and high-sensitivity C-reactive protein: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2024;19(11):e0304961.
  8. Walsh CP, Lindsay EK, Grosse P, et al. A systematic review and meta-analysis of the stability of peripheral immune markers in healthy adults. Brain, Behavior, and Immunity. 2023;107:32-46.
  9. Nilsonne G, Lekander M, Åkerstedt T, Axelsson J, Ingre M. Diurnal Variation of Circulating Interleukin-6 in Humans: A Meta-Analysis. PLoS One. 2016;11(11):e0165799.
  10. Bogaty P, Brophy JM, Boyer L, et al. Fluctuating inflammatory markers in patients with stable ischemic heart disease. Archives of Internal Medicine. 2005;165(2):221-226.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。CRPなどの炎症マーカーの数値は、感染・けが・服薬・体調によって大きく変わります。健康診断で高値を指摘された場合や、原因の分からない発熱・関節の腫れ・持続する強い倦怠感がある場合は、運動の有無で自己判断せず医療機関にご相談ください。関節リウマチなどの炎症性疾患で治療を受けている方は、新しい運動を始める前に主治医に確認してください。

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