「ピラティスで体が柔らかくなった」は、続けている人からよく聞く感想です。前屈で床に手が届く、腿の裏(ハムストリング)の突っ張りが減る——こうした変化は長座体前屈などで測ることができ、柔軟性はピラティス研究で最も多く測られてきた項目のひとつです。ただし「柔らかくなる」には、3つの別々の問いが隠れています。何もしない人と比べて伸びるのか。ピラティスの中の何が伸ばしているのか。他の運動と比べて優れているのか。研究はこの3つに、それぞれ違う答えを出しています。

結論を先に述べると、ピラティスで柔軟性が伸びること自体は繰り返し確かめられているが、伸ばしているのは主にプログラム内のストレッチ成分であり、他の運動と比べた統合解析では差が出ていない。やめると数週間で戻り始め、柔らかさそのものが傷害を防ぐという証拠も乏しい——これが公表された研究から言える、最も正確な要約です。

柔軟性はどう測るか——長座体前屈という物差しの限界

ピラティスの柔軟性研究で最も多く使われるのは長座体前屈(sit-and-reach)です。両脚を伸ばして座り、指先がどこまで届くかを cm で読む方法で、器具が安く、集団で測れ、再現性も高い。後述の試験では、測り直したときの一致度(ICC)が 0.94、測定誤差は 0.5 cm でした。

一方で、この検査が「何を測っているか」はあいまいです。Mayorga-Vega らが 34 研究を統合した検証では、長座体前屈がハムストリングの伸びやすさを反映する度合いは中程度(相関 0.46〜0.67)にとどまり、腰椎の可動性との相関は低い(0.16〜0.35)と報告されています。到達距離には腕の長さや骨盤の傾きが混ざるためです。以下の「柔軟性の改善」は、厳密には「前屈の到達距離の改善」として読んでください。

何もしない人と比べれば、伸びる

健常者を対象にしたピラティスの無作為化比較試験(RCT)を集めた 2011年のシステマティック・レビューは、16 件の試験を評価し、柔軟性と動的バランスについては「強い証拠」、筋持久力については「中程度の証拠」があると判定しました。

Cruz-Ferreira A, Fernandes J, Laranjo L, Bernardo LM, Silva A. A systematic review of the effects of pilates method of exercise in healthy people. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2011;92(12):2071-2081.

ただし含まれた試験の質は PEDro スケール(方法の質を 10 点満点で採点する指標)で 3〜7 点、平均 4.1 点。著者自身が「科学的厳密さは低い」と書く水準で、追跡調査を組み込んだ試験は無く、「強い証拠」には「少なくとも訓練終了時点までは」という条件が付きます。

健常成人 40 名を 20 名ずつに分け、1回45分・週2回・8週間のピラティスを行った試験では、長座体前屈の平均が次のように推移しました。

時点ピラティス群(20名)対照群(20名)
開始時27.69 cm22.74 cm
4週31.77 cm22.51 cm
8週34.89 cm22.91 cm

Phrompaet S, Paungmali A, Pirunsan U, Sitilertpisan P. Effects of pilates training on lumbo-pelvic stability and flexibility. Asian Journal of Sports Medicine. 2011;2(1):16-22.

8週間で約 7 cm の改善は、測定誤差 0.5 cm をはるかに超える、本人にも分かる変化です。ただし開始時点でピラティス群がすでに約 5 cm 柔らかかったこと、参加者が 40 名と少ないことは、そのまま一般化できない理由です。

伸ばしているのは、ピラティスのどの部分か

典型的なピラティスのセッションは、ストレッチ系の種目から始まり、筋力系の種目に移ります。どちらの成分が「柔らかくする」のか。2024年の試験がこの問いに正面から答えました。座位中心の生活を送る若年女性 32 名を、ストレッチと筋力種目の両方を行う「伝統的ピラティス」群と、筋力種目だけを行う群に 16 名ずつ分け、週3回・8週間続けています。

Dos Reis AL, de Oliveira LC, de Oliveira RG. Effects of stretching in a pilates program on musculoskeletal fitness: a randomized clinical trial. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2024;16(1):11.

長座体前屈ストレッチ+筋力(16名)筋力のみ(16名)
開始時23.13 cm26.69 cm
8週後27.31 cm27.50 cm
変化量4.19 cm0.81 cm
群内の効果量 d0.88(p=0.003)0.29(有意差なし)

群間の効果量は d=0.87(p=0.035)。d は 0.2 を小、0.5 を中、0.8 を大と読む慣用があり、「大きい差」です。ストレッチを抜いた筋力種目だけのピラティスでは、前屈はほぼ伸びませんでした。一方で筋力や垂直跳びには両群で差がなく、ストレッチが筋力の伸びを妨げてもいません。

つまり「ピラティスは柔軟性に効く」は、「ピラティスの中のストレッチが柔軟性に効く」と言い換えるのが正確です。ストレッチ種目の比率が低いレッスンでは、前屈の伸びは期待しにくいということです。

他の運動と比べると、差は出ていない

では、ピラティスは他の運動より柔軟性を伸ばすのか。ピラティスと他の運動様式を直接比べた RCT を統合した 2022年のレビューが、数値で答えています。

Pinto JR, Santos CS, Souza Soares WJ, et al. Is pilates better than other exercises at increasing muscle strength? A systematic review. Heliyon. 2022;8(11):e11564.

長座体前屈を測った 3 研究、169 名(ピラティス 63 名・他の運動 106 名)を統合した結果、標準化平均差は SMD=−0.00(95%信頼区間 −0.33〜0.33)。差はゼロで、信頼区間もほぼ左右対称です。異質性 I2 は 0% で、研究間で結果が割れてもいません。ただし証拠の確実性は GRADE で「非常に低い」(バイアスのリスクと不精確さで 3 段階の格下げ)で、「差がないと確定した」ではなく「差があるという証拠がない」が正確な読み方です。

意外な結果ではありません。Rosenfeldt らが可動域いっぱいの筋力トレーニングを静的ストレッチと比べた小規模試験(1 群 6 名)でも、長座体前屈の改善は両者で同じ大きさ(効果量 g=2.53 と 2.44)でした。関節を大きく動かす運動なら、名前が何であれ可動域は広がる、というのが現在の理解です。

子どもでは、対照群のほうが伸びた

子ども・思春期を対象にしたピラティス研究 15 件(1,235 名)を集めたレビューでは、統合できた項目は柔軟性だけでした。結果は、対照群のほうがピラティス群より伸びるという、一般の印象と逆向きのものです(SMD 0.54、95%信頼区間 0.18〜0.91、p=0.003、4 研究)。

Cibinello FU, Caroliny de Jesus Neves J, Janeiro Valenciano P, et al. Effects of Pilates in children and adolescents – A systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2023;35:400-412.

著者らは、方法の記述や対照の設定が不十分で、含めた研究の質を判定できなかったとしています。成長期は身長の伸びで到達距離が変わり、対照群が体育の授業で運動を続けていれば差が逆転することもありえます。「子どもにピラティスをさせれば柔らかくなる」と言える根拠は、現時点ではありません。

やめるとどうなるか——数週間で戻り始める

柔軟性は「使わなければ戻る」性質が強いとされます。ストレッチ訓練の中断(脱訓練)を扱った 13 研究・556 名のメタ分析は、5〜15週間の訓練後に 2〜6週間中断した場合の可動域を追っています。

Konrad A, Warneke K, Donti O, et al. Detraining Effects Following Chronic Stretching Training on Range of Motion: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine – Open. 2025;11(1):141.

比較効果量 ES(95%信頼区間)読み方
訓練前 → 訓練後0.93(0.54〜1.31)大きく伸びる
訓練前 → 中断後0.55(0.33〜0.77)開始前よりはまだ柔らかい
訓練後 → 中断後−0.41(−0.73〜−0.09)ピークからは小さく低下

2〜6週間の中断で全部は消えないが、確実に減り始めます。維持の証拠の確実性は「低い」で、開始前に戻る時点は特定できていません。中断中も何らかの運動を続けた人だけが可動域を維持できた、という点は実用上の示唆です。

個別の研究も同じ方向です。Biduski らの観察では、高齢女性 10 名が12週間のマットピラティスの後に6週間中断すると、椅子座位体前屈は有意に低下し、立ち上がり歩行や階段昇降は維持されていました。柔軟性が機能より先に落ちる順序です。Merino-Marban らが 5〜6 歳児 45 名で行った試験では、体育授業内の 1 分間ストレッチを週2回・8週間続けて伸びた長座体前屈が、5週間の中断で開始時の水準に戻っています。訓練量が少なければ消えるのも早い、ということです。

柔らかさは何を買い、何を買わないか

柔軟性を高める動機に「ケガの予防」を挙げる人は多いはずですが、ここは期待と証拠の差が最も大きい領域です。スポーツ傷害の予防を目的にした運動介入の RCT 25 本、26,610 名、傷害 3,464 件を統合したメタ分析では、ストレッチ単独の相対リスクは 0.963(95%信頼区間 0.846〜1.095)で、予防効果は認められませんでした。対照的に、筋力トレーニングは 0.315(0.207〜0.480)で傷害を 3 分の 1 未満に減らし、固有受容感覚(バランス)訓練も有効でした。

Lauersen JB, Bertelsen DM, Andersen LB. The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine. 2014;48(11):871-877.

ピラティスに当てはめると、ねじれが生まれます。ピラティスで柔軟性を伸ばしている成分(ストレッチ)は傷害予防に効かず、柔軟性を伸ばしていない成分(筋力・バランス)のほうが傷害予防に効いているのです。「柔らかくなったからケガをしにくい」という因果は、少なくとも運動傷害の領域では支持されていません。

柔軟性の目的は、靴下を履く・床の物を拾うといった日常動作の可動域、競技で必要な姿勢、本人の快適さです。いずれも正当ですが、「体が硬いと危ない」と不安をあおる根拠にはなりません。

有害事象と、研究の限界

先の 2024年の試験は有害事象を毎回記録しています。8週間で報告された有害事象は合計 55 件(ストレッチあり群 21 件、筋力のみ群 34 件)で、大半は初期の遅発性筋肉痛でした(ストレッチあり 56.2%、筋力のみ 81.2%)。ストレッチを抜いた群の有害事象のオッズ比は 4.20 でしたが、信頼区間は 0.69〜25.26 と広く、確かめられた差ではありません。重い傷害の報告はなく、この年代・強度で安全性の大きな懸念は出ていません。

研究の限界は次の通りです。

  • 規模が小さく、質が低い。比較レビューの試験の平均標本は 43±27 名、健常者レビューの PEDro 平均は 4.1 点。参加者の盲検化ができず、前屈検査では期待が結果を押し上げる可能性があります
  • 追跡がなく、物差しが混在する。数か月後を見た研究は例外的で、長座体前屈・指床間距離・角度計が研究ごとに異なります
  • 「ピラティス」の中身が違う。ストレッチ種目の比率や器具の有無が統一されておらず、その違いが結果を左右することを 2024年の試験が示しました

まとめ——わかっていることと、わかっていないこと

わかっていること

  • 何もしない対照と比べれば、8週間で前屈は数 cm 伸びる(16 試験のレビュー、40 名の RCT)
  • 伸ばすのは主にストレッチ成分。筋力種目だけでは前屈はほぼ変わらない(群間 d=0.87)
  • 他の運動と比べた統合解析では差がない(SMD −0.00、169 名、確実性は非常に低い)
  • 2〜6週間の中断で可動域は減り始め、訓練量が少なければ 5 週間で開始時に戻る例もある
  • ストレッチは運動傷害を減らさない。減らすのは筋力とバランスの訓練

わかっていないこと

  • 子どもでピラティスが柔軟性を伸ばすか(統合解析では対照群が上回った)
  • 成人で、伸びた可動域が何週間で開始前に戻るか
  • 長座体前屈の改善が、ハムストリング自体の変化をどの程度反映しているか

「ピラティスで柔らかくなる」は本当です。ただし、ストレッチを含む運動を続けている間、他の運動と同じ程度に、という条件付きです。柔軟性が目的なら、レッスンにストレッチ種目がどれだけ入っているかを見ること、柔らかさに傷害予防を期待しないことが、研究から導ける姿勢です。

出典

  1. Cruz-Ferreira A, Fernandes J, Laranjo L, Bernardo LM, Silva A. A systematic review of the effects of pilates method of exercise in healthy people. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2011;92(12):2071-2081.
  2. Phrompaet S, Paungmali A, Pirunsan U, Sitilertpisan P. Effects of pilates training on lumbo-pelvic stability and flexibility. Asian Journal of Sports Medicine. 2011;2(1):16-22.
  3. Dos Reis AL, de Oliveira LC, de Oliveira RG. Effects of stretching in a pilates program on musculoskeletal fitness: a randomized clinical trial. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2024;16(1):11.
  4. Rosenfeldt M, Stien N, Behm DG, Saeterbakken AH, Andersen V. Comparison of resistance training vs static stretching on flexibility and maximal strength in healthy physically active adults, a randomized controlled trial. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2024;16(1):142.
  5. Pinto JR, Santos CS, Souza Soares WJ, Silveira Ramos AP, Scoz RD, et al. Is pilates better than other exercises at increasing muscle strength? A systematic review. Heliyon. 2022;8(11):e11564.
  6. Cibinello FU, Caroliny de Jesus Neves J, Janeiro Valenciano P, et al. Effects of Pilates in children and adolescents – A systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2023;35:400-412.
  7. Konrad A, Warneke K, Donti O, et al. Detraining Effects Following Chronic Stretching Training on Range of Motion: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine – Open. 2025;11(1):141.
  8. Biduski GM, Bertoli J, Sousa MV, Diefenthaeler F, Freitas CR. Effects of 6-weeks of detraining on functional capacity and rapid torque production in older women. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2022;29:167-173.
  9. Merino-Marban R, Mayorga-Vega D, Fernandez-Rodriguez E, Vera Estrada F, Viciana J. Effect of a physical education-based stretching programme on sit-and-reach score and its posterior reduction in elementary schoolchildren. European Physical Education Review. 2015;21(1):83-92.
  10. Mayorga-Vega D, Merino-Marban R, Viciana J. Criterion-Related Validity of Sit-and-Reach Tests for Estimating Hamstring and Lumbar Extensibility: a Meta-Analysis. Journal of Sports Science and Medicine. 2014;13(1):1-14.
  11. Lauersen JB, Bertelsen DM, Andersen LB. The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine. 2014;48(11):871-877.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。前屈やストレッチで腿の裏や腰に鋭い痛みが走る、脚のしびれや力の入りにくさを伴う、関節が過度に柔らかく脱臼や亜脱臼を繰り返す場合は、柔軟性の訓練を始める前に整形外科などの医療機関にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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