同じ茶葉でも、水を替えるとお茶の成分は同じにならない。緑茶のカテキンを測った研究から、水の硬さとアルカリ性、いれる温度、保温中の変化を読み分ける。色や表面の膜で分かることにも触れながら、抽出量をそのまま食欲への効果と考えず、普段のお茶を比べる視点を紹介する。
同じ袋の茶葉なのに、水を替えたら緑茶が茶色く見える。湯のみの中の変化は、茶葉の量だけでは説明しきれない。茶葉の違いを疑う前に、水の条件を考える余地がある。人工的に硬さを変えた水の実験では、硬さが増すにつれて、飲み物の中で測られるカテキンの総量が減っていた。[8]
「食欲を抑えるお茶」を探しているなら、ここで答えを分けたい。水によってカテキンの量や構成が変わることは、抽出の実験で示されている。一方、ここで扱う根拠は抽出や成分の反応を調べた実験であり、カテキンが人の食欲を直接抑えるという臨床的な裏づけは限られている。18〜39歳の女性の空腹感への効果も、この実験からは判断できない。この記事では水質による抽出量と成分の変化、味や色を比べる際の視点に範囲を絞る。[2][7][8]
水分保持を軸にした飲み物選びは、既存記事「ホットヨガの飲み物はお茶でもよい?麦茶を選ぶ前に知りたい水分保持の違い」に譲る。ここでは、台所で使う水が湯のみの成分をどう変えるかを追う。健康効果を期待して濃くする前に、「濃い」の中身をほどいてみたい。

水を替えると、茶葉から出る量も残る量も変わる
緑茶のカテキンを調べるとき、茶葉の重さだけをそろえても条件はそろわない。水の硬さを変えた研究では、人工の淡水を硬さの異なる5段階に調製し、さらに重炭酸ナトリウムの溶液、ミネラル塩の溶液、脱イオン水でも抽出していた。脱イオン水は、水に溶けたイオンを除いた実験用の水である。普段使う水との差を確かめるため、比較の相手が置かれている。[8]
測定には、混ざり合った成分を分けて量を調べる高速液体クロマトグラフィーが使われた。その結果、水の硬さが上がるとカテキン総量が低下した。ただし、この結果を「硬い水では葉から成分が出にくい」だけで説明すると、途中の変化を落としてしまう。研究では、主にカテキンの一部が自動酸化することが量の低下に関わっていた。自動酸化とは、成分が酸化によって変化していく反応を指す。[8]
つまり、測定時点の量は、葉から水へ移った分だけを映す数字ではない。抽出の間に起こる化学変化も含んだ結果である。同じ量の茶葉を使ったのに分析値が違うとき、「茶葉の質が落ちた」と決めつける必要はない。水という周囲の条件を変えるだけで、測定される成分の姿が変わりうる。[8]
この区別は家でお茶を比べる際にも使える。茶葉の袋を替えた日と、水を替えた日が重なれば、どちらが違いを生んだのか判断しにくい。研究の結果を日常に置き直すなら、まず同じ茶葉と同じ手順で、水だけを替えてみるという発想になる。味の好みを比べることと、分析装置で成分量を確かめることは分けて記録したい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
硬さの印象だけでは、アルカリ性を見落とす
水の条件を読む鍵は、ミネラルの量とアルカリ性をひとまとめにしないことである。硬さを変えた実験では、アルカリ性の条件がカテキンの自動酸化を促し、緑茶が褐色になることにつながった。硬い水に含まれることがある高濃度の重炭酸ナトリウムにも着目している。「ミネラルが多い」という言葉だけでは、反応を左右した条件まで表せない。[8]
カテキンも単独の成分名ではない。この実験では、エピガロカテキンを表すEGCと、エピガロカテキンガレートを表すEGCGの自動酸化が、総量の低下に大きく関わった。一方、エピカテキンを表すEC、エピカテキンガレートを表すECG、そしてカフェインは、これらより化学的に安定だった。水の影響は、茶に含まれる成分によって異なる。[8]
そのため「カテキンが少なくなった分、カフェインも少ないだろう」という読み替えはできない。総量が変わる場合には、各成分の割合も考える必要がある。別の緑茶の抽出実験でも、水のミネラル化が進むとカテキンの抽出量が減り、EGCGの相対的な割合も下がっていた。同じ名前の飲み物でも、成分の配分は水によって変わる。[2][8]
買い置きの水といつもの水で色が違ったときには、色を成分表の代わりにしないことが大切だ。褐色化はこの実験では酸化と結びついたが、目で見た色だけでEGCGの量を算出できるわけではない。濃い色だから成分が多い、と短絡するより、どの水で、どのようにいれたかを思い出す方が研究の条件に近づける。[8]
温度の正解は、何をそろえて比べるかで違う
水を替える前に、温度と時間の研究も並べておきたい。熱水を使った抽出条件の実験では、温度、時間、茶葉の粒の大きさ、酸性・アルカリ性の程度を表すpH、水と茶葉の比などを検討した。調べた条件の中では、80℃で30分という組み合わせがカテキン抽出に最もよく、粒の大きさは1mm、抽出液のpHは6未満が適していた。[13]
これは家庭でお茶を飲むたびに長く待つべきだという指示ではない。実験の目的は、カテキンの収量や水の使用効率を評価することだった。おいしく飲みたい人が選ぶ条件と、成分を効率よく取り出したい実験が選ぶ条件は、同じ問いへの答えではない。研究の「最適」は、何を最大にしたかとセットで読む必要がある。[13]
家庭の急須と実験条件を比べる際には、湯を注いだときの温度と、抽出している間の温度を分けて考えたい。実験の80℃・30分という条件に対し、家庭で最初に80℃の湯を使っただけでは、抽出中の温度までそろえたことにはならない。茶葉の粒の大きさや水と茶葉の比も、研究が比較した条件である。[13] また、急須を揺するか静かに置くかといった茶葉の動きも、家庭で比較するならそろえる項目になる。これは研究の振とう手順を再現する指示ではなく、水以外の条件も変えてしまうのを避けるための工夫だ。
別の研究では、市販の緑茶と紅茶を沸騰した湯、または製造者の推奨条件で抽出した。沸騰した湯ではカテキンの抽出が増え、とくにガレート型と呼ばれる群の割合が増す方向だった。先の80℃という結果と並べても、「どちらかの論文が誤り」とはならない。比較した茶や条件、評価の置き方が違うため、数字だけを取り出して万能な温度を決めない方がよい。[2][13]
室温の水を使う抽出にも、比較の注意点がある。緑茶抽出物12種類を調べた研究では、室温の水で24時間置く条件と、熱水で90秒抽出する条件などを比べた。総カテキンとガレート型カテキンの抽出は、室温の水の方が熱水の条件より多かった。しかし温度だけでなく時間も大きく異なる。これを「低温ならいつでもよく出る」と読むと、長く置いたという条件が消えてしまう。[7]
家での比較に必要なのは、研究で勝った数字を寄せ集めることではない。水だけを知りたい日は時間をそろえ、時間を知りたい日は水をそろえる。熱湯、長時間、別の水を同時に試せば、違いは感じられても理由は絞れない。お茶をいれる手つきはいつも通りでよいが、比べる対象だけははっきりさせたい。
水の量にも、目的によって異なる評価があった。熱水抽出を検討した研究では、茶葉に対する水の使用量について、カテキンの収量と水の使用効率を分けて調べていた。水を効率よく使う単回抽出では、茶葉に対して20mL/gの条件が適し、50mL/gと比べて、茶葉の重さ当たりに使う水は2.5分の1だった。茶葉から多く回収することと、少ない水で回収することには、別々の評価軸がある。[13]
同じ研究で20mL/gという比を使った場合には、同じ茶葉を2回抽出すると、茶葉の重さ当たりのカテキン収量が最も高かった。一方、水を最も効率よく使う条件としては、最初を12mL/g、次を8mL/gに分ける抽出が示された。水を単に増やすか減らすかだけでなく、どのように配分するかも検討の対象だったのである。[13]
この結果を湯のみで考えると、「茶葉から取り出した総量」と「飲み物の一定量に含まれる濃さ」を同じ意味で使わないことが大事になる。研究が茶葉の重さ当たりの収量を比べているなら、その数字をそのまま一口当たりの濃さとは読めない。お茶の話で登場する「たくさん」は、茶葉から多く回収したのか、少ない水に濃く集めたのかを確かめたい。[13]
水の硬さが違うお茶を家庭で比べる場合も、注ぐ水の量まで変えない方が整理しやすい。水の種類を替えたつもりでも、湯のみの大きさや茶葉の量が違えば、比べているものが増える。実験の条件を細部までまねるためではなく、感じた違いを何に結びつけるかを見失わないために、使った茶葉と水の量をそろえるのである。[8][13]
数字で読むお茶と水の条件
水の硬さを5段階に変えた実験では、硬さの上昇につれてカテキン総量が低下した。[8]
80℃・30分は、熱水抽出の条件を検討した実験でカテキン収量に適した温度と時間の組み合わせだった。[13]
室温の水で24時間と熱水で90秒を比較した研究は、温度だけをそろえて調べた実験ではない。[7]
80℃で1時間保温した緑茶のEGCG残存率は、蒸留水で38.4%、ミネラル水で1.4%だった。[2]
人工水道水で作った紅茶の表面膜は、調べた硬さのいずれでも厚さが20nmだった。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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