自転車のHIITで脚の筋肉は大きくなるのか。筋断面積が増えた研究と、増えなかった研究を比べ、筋量・筋力・持久力の違いを読む。筋トレと組み合わせた場合の研究も取り上げ、対象者や運動期間、測定した部位を確かめながら、自分の目的に合う運動の選び方と結果の受け止め方を考える。
自転車をこいだ帰り、立川駅の階段で脚の存在を妙にはっきり感じる。「これだけ脚を使ったら、筋肉も大きくなるのか」。息が上がる運動と、筋肉を育てる運動の境目は、体感だけではつかみにくい。
答えは、起こる場合はある。ただし、どんなHIITでも同じように筋肥大するわけではない。健康な男性を対象にした自転車の研究では太もも前面の筋断面積が増えた一方、別の男女の短時間スプリント研究では筋肥大は認められなかった。[11][10]
さらに、筋肉が大きくなること、強い力を出せること、長く動けることは、別々に確かめたい変化である。筋トレとHIITを組み合わせた試験でも、筋肉の成長と筋力、持久力の結果は一様ではない。[14] 既存記事「HIIT(3)筋トレ効果」に運動全般の話を譲り、ここでは自転車で測った脚の大きさを起点に、何を期待できるかを絞って読む。

自転車で脚の筋肉が大きくなった研究はある
HIITは、強度の高い運動と回復の区間を繰り返す運動として、研究ごとに異なる組み方で用いられている。自転車を使う場合も、運動時間や休み方は共通ではない。[11][10] 名前が同じだから中身も同じ、と考えると研究の比較でつまずく。
直接の手がかりになるのは、健康な男性12人を対象にした予備的研究である。脚の自転車だけを使う群は7人、脚の自転車と腕でこぐ機器を組み合わせる群は5人だった。週2回、16週間続け、磁気共鳴画像で体幹や太ももの筋断面積を測った。[11]
運動は、最高酸素摂取量の90%を超える強度で60秒間動き、60秒間の軽い運動を挟む内容を8〜12セット行うものだった。[11] ここで示すのは試験の条件であり、運動を始める人への一律の処方ではない。研究の数字をそのまま自宅のタイマーに入力する前に、どんな人に、どの機器で行った研究かを押さえたい。
結果は、脚だけの群で大腿四頭筋の筋断面積が11±4%増え、脚と腕の群でも5±5%増えた。大腿四頭筋は太もも前面の筋肉であり、この研究はその部位の変化を画像で捉えている。[11] ただ息が楽になったという感想ではなく、筋肉の大きさに関する測定結果がある点が重要だ。
一方、脚だけの群の数字が大きいからといって、腕を動かすと脚の成長が半分になる、と計算してはいけない。ここで示されたのは各群の開始時からの変化である。小規模な予備的研究の結果を、運動方法の優劣や自分の脚の将来の増加率に置き換えることはできない。[11]
また、筋断面積という言葉にも範囲がある。画像で捉えた筋肉の断面の大きさと、服の上から見た脚全体の印象は、同じ測定項目ではない。この試験から受け取れるのは、大腿四頭筋が大きくなりうるという答えであり、体型全体の変化の予報ではない。[11]
自転車と腕の運動を組み合わせた群では、脚に加えて大腰筋と腹部の筋肉にも断面積の増加が見られた。脚だけの群とは、変化が捉えられた場所も異なる。[11] 「HIITで筋肉が増えた」という短い説明には、こうした部位の情報が抜けやすい。太ももの研究を読んで腕にも同じ変化を期待したり、体幹の結果を脚だけの運動へ移したりしないことが大切だ。
また、11±4%という表記は、全員が一律に11%増えたという意味ではない。研究は平均とばらつきを示している。[11] 同じ内容で運動する人がいても、個人の結果まで同じ数字になると約束したものではない。研究結果を読むときは、中心の数字だけを切り取らず、隣にあるばらつきと参加人数も一緒に見ておきたい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
増えなかった研究も、筋肉が無反応だったわけではない
筋肥大しない結果もある。以前に運動習慣のなかった男女が、ごく少量の高強度スプリントを6週間行った研究と、日常的に活動する男女が持続運動または短時間スプリントを6週間行った研究では、いずれも測定した筋断面積に肥大は認められなかった。[10]
この研究は、筋肉の組織を採取し、サテライト細胞と呼ばれる筋肉の細胞にも注目している。細胞の総数は増えなかった一方、活動している細胞や分化の過程にある細胞は増えていた。筋肉が大きくならなくても、細胞の反応は起きていたのである。[10]
ここには読み方の落とし穴がある。「細胞が活動した」という結果を見て、「だから筋肥大した」と飛躍してはいけない。この研究では、細胞の活動と、実際に測った大きさの変化が分かれていた。[10] 体の中の働きに関するニュースは魅力的だが、その働きが目的とする結果まで届いたかは別に確かめる必要がある。
自転車の予備的研究と並べると、片方は16週間、片方は6週間であり、運動の組み方も参加者も異なる。[11][10] この差から「長く続ければ必ず増える」とは言えない。期間だけを変えて比べた試験ではないためだ。増えた研究と増えなかった研究を並べる意義は、必勝条件を作ることより、HIITという名前だけで答えを決めないことにある。
たとえば仕事帰りに短い運動を選ぶ人は、「短いから筋肉には意味がない」と決めつける必要はない。ただし、細胞の反応を筋肉の大きさの保証にしない。筋肥大が目的なら大きさを測った結果を、運動の継続が目的なら実際の記録を、それぞれ見たい。[10][11]
筋肥大しなかった研究の対象も、ひとまとまりではない。以前に運動習慣がなかった研究では男女各7人、別の研究では日常的に活動する男性16人と女性3人が参加していた。[10] 「初心者だから増える」「活動している人には効かない」といった説明を、この結果だけで作ることはできない。運動歴は、答えを決める札ではなく、対象者を理解する手がかりとして読む。
短い運動の結果を知りたいときも、筋肉の大きさを問うのか、細胞の活動を問うのかを先に決めると整理しやすい。この研究は、その両方を確かめたことで、変わったものと変わらなかったものを同時に示した。[10] 筋肉の中で何かが起こったという説明と、脚のサイズが変わるという説明の間を、言葉だけで埋めないようにしたい。
筋量、筋力、持久力は同じ成績表ではない
自転車の予備的研究では、最大の出力も測っている。脚だけの群で23±38%、脚と腕の群で11±9%増えたが、筋断面積の増加率とは一致していない。[11] 出力の伸びをそのまま筋肉の増加率として読めないことが、数字からも分かる。
さらに、以前に運動習慣のなかった若い男性19人を、筋トレだけの群と、筋トレに長い運動区間のHIITを加える群に無作為に分けた16週間の試験がある。両群で速筋に当たるタイプII筋線維の断面積が増えた一方、筋力の伸びは筋トレだけの群が大きく、有酸素能力は併用群だけが改善した。[14]
ここでの有酸素能力は、酸素を使って運動する能力を評価したものだ。筋線維の断面積、筋力、有酸素能力を別々に測ったからこそ、「筋肉の成長は起きたが、筋力の伸びは同じではなかった」という結果を捉えられる。[14] 成績を合計して運動に点数を付けるより、どの欄が変わったかを見る方が実用的である。
階段で息が続くようになりたい人と、より重い負荷を持ち上げたい人では、知りたい欄が違う。鏡に変化が見えない日でも、目的に対応する記録まで変わっていないとは限らない。反対に、こげる出力が伸びたから脚が同じ割合で大きくなった、と判断するのも早い。[11][14]
体型が変わることを望む人も、変化を心配する人もいる。そのどちらにも、息切れの強さだけで脚の大きさを予測する必要はないと伝えたい。筋肉のサイズを扱った研究と、力や持久力を扱った研究を区別することが、期待も不安も必要以上に膨らませない手がかりになる。[11][14]
数字で読む自転車HIITと筋肥大
12人:脚のみと脚・腕のHIITを比べた、健康な男性の予備的研究の人数である。[11]
16週間:同研究は週2回の運動を、この期間にわたって追っている。[11]
11±4%:脚のみの群で測定された、大腿四頭筋の筋断面積の増加である。[11]
6週間:短時間スプリントなどの研究では、この期間の介入で筋肥大は認められなかった。[10]
−0.248:HIITと筋トレの併用を筋トレ単独と比べたメタ分析で、下半身筋力の伸びに示された効果量である。筋量の減少率ではない。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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