ハグの効果は医学的にどこまで?血圧と風邪の研究、傷の治りまで測った実験を読む

ハグの効果は医学的にどこまで確かめられたのか。閉経前の女性59人の血圧とオキシトシン、404人を風邪ウイルスにさらした研究、159人の割り付け試験、80組の傷の治りの試験を読み、相関で分かったことと試験で分かったことを分けて確かめる。よく聞く言い切りとの差も示す。

ハグの医学的な効果は、ネットの言い切りより狭い範囲でしか確かめられていない。「ハグで血圧が下がる」「ハグで免疫が上がる」と書かれた文章は多いが、論文の数字はもっと地味で、もっと面白い。

言えるのは次の3つだ。パートナーとのハグが多い閉経前の女性は、血圧が低くオキシトシン(人との結びつきに関わるホルモン[11])が高かった[1]。人ともめる日が増えても、ハグの多い人は風邪にかかるリスクが上がりにくい傾向があった[5]。ストレス課題でハグを受ける群に割り付けられた人は、課題のあとのコルチゾール(ストレスに関わるホルモン)が低かった[6]。

ただし前の2つはハグを割り付けた試験ではないので、原因とは書けない。3つ目は割り付け試験だが、本人のストレスの実感には差が出なかった[6]。玄関で抱きついて肩の力が抜けた気がする、あの感じと測定値は、別々に動いているらしい。

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血圧の研究は、59人の女性の相関だった

出発点は動物である。腹を5日以上なで続けるとオキシトシンの働きが高まり血圧が下がる、という報告が動物にはあったが、人での研究は少なかった[1]。

2005年の研究は、閉経前の女性59人に、パートナーとのハグの頻度を自己申告で尋ね、夫やパートナーとの温かい接触(最後はハグで終わる)の前後で、血液中のオキシトシンと血圧を測った[1]。

接触の前のオキシトシンが高い人ほど、血圧と心拍数が低かった。ハグが多いと答えた女性は安静時の血圧が低く、オキシトシンはその関係の一部を媒介する基準を満たした[1]。月経周期の時期は、オキシトシンのどの測定にも影響しなかった[1]。著者らの結論は、配偶者やパートナーとのハグが頻繁であることが、閉経前の女性の血圧の低さとオキシトシンの高さに関連する、というものだ[1]。

読み違えやすい点が2つある。1つ目。これはハグの多い人の安静時の話で、ハグの直後に血圧が下がったという結果ではない。2つ目。接触のあとのストレスの場面で測ったオキシトシンは、ハグの頻度とも血圧とも関係がなかった[1]。

順番も決められない。関係が穏やかで血圧の低い人がハグも多い、という逆の筋書きもこの研究では消せない。これは私の読みで、著者らは仕組みを今後の研究の課題として挙げている[1]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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風邪ウイルスにさらされた404人

2015年の研究は、手順を読むだけで面白い。健康な成人404人に、14晩続けて電話をかけ、その日に人ともめたか、ハグを受けたかを尋ねる[5]。そのあとで風邪の原因になるウイルスにさらし、隔離して、感染と症状の徴候を観察する[5]。ハグの研究に隔離が出てくる。

結果はこうだ。周りに支えがあると感じている人ほど、もめごとの頻度が増えても感染リスクの上昇が抑えられた。同じようなストレスの緩衝がハグにも見られ、支えの効果のうち32%をハグが説明した[5]。感染した人の中では、支えを強く感じる人もハグが多い人も、症状の徴候が軽かった[5]。著者らは、ハグが社会的な支えを効果的に伝えているのかもしれないと述べる[5]。

32%は読み違えられやすい。感染が32%減ったという数字ではなく、支えの効果のうちハグで説明がつく分である[5]。

もう1つ。ハグは割り付けられておらず、参加者の暮らしの中で起きた回数を聞いたものだ[5]。結果として示されたのは感染と症状の徴候で、免疫の数値ではない。ここから「ハグで免疫が上がる」と書くと、論文より先へ行ってしまう。

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ハグを割り付けた試験では、体の数字と実感が食い違った

割り付けまで踏み込んだのが2021年の試験である。18〜35歳の健康な159人(女性96人、男性62人、ノンバイナリーの人1人)に標準化された心理社会的ストレス課題を受けてもらい、ハグを受ける条件、自分をなだめるように自分に触れる条件、触れない対照に分けて、唾液のコルチゾール、心拍、自己申告の状態を調べた[6]。

コルチゾールは、課題のあとで2つの接触の条件が対照より低かった[6]。心拍数と自己申告のストレスには差がなかった[6]。測定器の上では違うのに、本人の答えは変わらなかったわけだ。個人としての自分と集団の一員としての自分のどちらを意識させるかを変えても、接触の効果は変わらなかった[6]。

著者らは、身体の接触は生理的なストレス反応を守る方向に働くが、自己申告のストレスには必ずしも表れないとする過去の研究に沿った結果だと述べ、自分に触れることとハグを受けることを、単純で、もしかすると強力なストレスの緩衝の手段だと評価する[6]。

自分の手でも対照との差が出たのは意外だ。もっとも、自分の手とハグが同じ働きだと言える結果ではない。一人でできるかという問いは、同じサイトの「自律神経を整えるハグは一人でもできる?触れる相手とストレス反応を研究で読む」に、相手を選ぶかという問いは「ストレス発散のハグは誰からでも同じ?望む接触と運動仲間の支えを分けて考える」に譲る。

抱きしめる相手が枕だった試験

人でなくてもよいのか、という方向の研究もある。自閉スペクトラム症の24人に、知らない相手と携帯電話で話してもらった試験だ。電話だけで話す場合と、人の形をした枕を抱いて話す場合を比べ、質問紙で電話の自信を尋ね、唾液のコルチゾールを1日4回測った[13]。枕を抱いて話したほうが、自信が強くストレスが低かった[13]。著者らは、この種の枕を補助の道具として勧めている[13]。

対象は自閉スペクトラム症の人で、場面は知らない相手との電話である。夜中に一人で抱き枕を抱く話に広げてよい結果ではない。

それでも、接触の研究の幅は思ったより広い。2024年の総説は、ハグや肌の接触のほかに、犬などの動物、ロボットや重い毛布のように人の接触をまねる物についても、良い眠りとの関係を示す予備的な証拠があると整理している[8]。

傷の治りまで測った80組

いちばん手間のかかった試験は2026年に載った[7]。健康な異性カップル80組160人(平均27.6歳)の前腕に、吸引で小さな水ぶくれの傷を4つ作る。その後の7日間、1日2回、オキシトシンかプラセボ(偽薬)を鼻から自分で投与してもらい、さらに相手への感謝を伝える決まったやりとりを合計3回まで行う群と行わない群に分けた。傷の治りは24時間後と7日後に調べ、唾液のコルチゾールとストレスと相手とのやりとりを1日6回記録した[7]。データを集めたのは2011〜2013年で、最終解析は2023〜2025年である[7]。

結果は単純ではない。感謝のやりとりとオキシトシンを組み合わせた群では傷の治りが良かったが(b=−0.125、P=.048)、条件を変えた感度分析では安定しなかった(b=−0.090、P=.10)[7]。

目を引くのはそのあとだ。オキシトシンと日々の愛情のある接触の組み合わせは、傷の重さの減少と関連した(b=−0.038、P=.04)。感度分析でもおおむね同じだった(P=.04)[7]。性行為との組み合わせも傷の重さの減少と関連したが(P=.04)、感度分析ではP=.06だった[7]。性行為が多いほど、日々のコルチゾールは低かった(b=−0.083、P=.005)[7]。

著者らは、親密な身体の接触がコルチゾールの反応を減らし、オキシトシンの投与とともに傷の治りを促すと結論している[7]。

私が注意して読むのは割り付けの中身である。割り付けられたのはオキシトシンと感謝のやりとりで、日々の接触は記録された側にある。ハグだけを取り出した試験でもない。目を引く研究だが、「ハグで傷が早く治る」と書ける試験ではない。

数字で読むハグの研究

  • 59人: 閉経前の女性。ハグの多さと血圧の低さの関連は、この人数の相関である[1]。
  • 14晩: 404人にハグともめごとを電話で尋ねた晩の数。そのあと風邪ウイルスにさらした[5]。
  • 32%: 支えの効果のうちハグで説明できた分。感染の減少率ではない[5]。
  • 159人: ハグと自己接触を割り付けた試験の人数。差が出たのはコルチゾールで、心拍と自己申告には出なかった[6]。
  • 24人: 人の形の枕を抱いて電話をした試験の人数。対象は自閉スペクトラム症の人[13]。
  • 5760点: 80組のカップルが1週間で残した測定の点数[7]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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