孤独が健康に与える影響は数字でどこまで言えるのか。死亡のオッズ比1.26の読み方、一人暮らしの1.32、平均65歳未満の研究で強く出た関連、子どもと若者の研究、孤独を減らす試みの280研究を読み、孤独と一人でいる時間を分けて考える材料にする。
夜11時、スマホを置いて、今日は誰ともちゃんと話していないと気づく。それは体に悪いのだろうか。
答えの芯を先に書く。孤独と死亡の関連は、実際に数字で報告されている。2015年のメタ分析(複数の研究を統合する分析)は、ほかの要因を統計的に調整した研究で、死亡の起こりやすさが社会的孤立で29%、孤独で26%、一人暮らしで32%高いとまとめ、確立された死亡の危険因子に匹敵すると書いた[1]。ただ、この分野の系統的レビュー40本を束ねた総覧によれば、土台は主に観察研究である[4]。孤独が死因だと示した数字ではない。
意外なのはその先だ。死亡との関連は、平均年齢が65歳未満の研究でより強く出た[1]。「孤独は高齢者の問題」という思い込みは、この数字と合わない。一人でいることの扱いはもう少し込み入っている。一人暮らしは死亡の数字で1.32と高く出る[1]。一方で、心の健康の側では、自分から楽しむ一人の時間は不安や抑うつと有意に関連しなかった[17]。

26%増という数字は、何を言っているのか
出発点は、3,000回を超えて引用されている2015年のメタ分析である。1980年1月から2014年2月までの文献を探し、孤独、社会的孤立、一人暮らしと死亡の関係を数字で示した研究を統合した[1]。
いくつかの交絡(結果をゆがめる別の要因)を統計的に調整した研究で見ると、加重平均のオッズ比(起こりやすさの比)は、社会的孤立が1.29、孤独が1.26、一人暮らしが1.32だった。死亡の起こりやすさが平均で29%、26%、32%高いことにあたる[1]。著者らの結びは、客観的な孤立も主観的な孤立も、死亡リスクへの影響は確立された危険因子に匹敵する、というものだ[1]。
足して読みたいことが3つある。「匹敵する」は著者らの評価の言葉で、危険が同じ大きさだと測った数字そのものではない。次に、オッズ比は比であって、実際に何人増えるかではない。もとの死亡の確率が分からなければ、26%増の重さは決まらない。最後は因果の向きだ。心臓の病気の危険因子を扱った2026年の総説は、孤独と危険因子の関係の多くは双方向で、社会的な断絶と心血管代謝のリスクが互いを強めると書く[16]。体の不調が人付き合いを減らす道も、同時に開いている。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
孤独と、一人でいることは同じではない
孤独研究の総説の一文が短くてよい。孤独は、単に一人でいることではない[2]。人でいっぱいの中央線の車内で孤独な人もいるし、誰もいない部屋で機嫌のいい人もいる。
その総説によれば、社会的に孤立していると感じると、脅威への警戒が強まり、傷つきやすさの感覚が高まる。同時に、人とつながり直したいという気持ちも高まる[2]。社会的な脅威への無意識の過剰な警戒が心理の働きを変え、それが生理機能に影響し、眠りの質を下げ、病気と死亡を増やす、というのが総説の描く流れである[2]。著者らは、孤独を減らす介入は注意や記憶や確証の偏りまで考える必要があるかもしれないと書く[2]。人を求めながら人を警戒する。孤独の厄介さはここにあると私は読む。
だから、数字の並びを読み違えないようにしたい。一人暮らしの1.32は孤独の1.26より大きく見えるが、「一人暮らしのほうが危ない」とは言えない。著者らは、客観的な孤立と主観的な孤立の測定の間に差を見つけていない[1]。
話し声がそばにある夜の話は、同じサイトの「ストレス発散にラジオを聴くと孤独感も変わる?話し声がそばにある夜を読む」に譲る。

関連が強く出たのは、65歳未満の研究だった
2015年のメタ分析の結果は、性別、追跡の長さ、世界の地域を超えて一貫していた。初めの健康状態は結果に影響し、参加者の年齢でも違いが出た。社会的なつながりの欠けは、平均年齢が65歳未満の研究で、より強く死亡を予測した[1]。
孤独といえばお年寄りの話だと思っていた人には、ここがいちばんのずれだろう。断っておくと、これは研究の平均年齢で分けた結果で、20代だけを調べた数字ではない。立川駅北口の夕方を歩く22歳のリスクを直接示すものでもない。それでも「若いうちは関係ない」とは、この結果からは言えない。
働き盛りの年代の数字もある。40〜65歳を対象にした2026年のメタ分析は17研究を統合し、孤独は心の健康に関わる生活の質の低さと相関0.42で、身体の健康に関わる生活の質の低さと相関0.19で関連していた[14]。心のほうが強い。研究間のばらつきは大きく、平均的な関連として読むべきだと著者らは断っている[14]。
29%と32%は、別の論文にも同じ顔で出てくる
紛らわしい数字がある。冠動脈の病気と脳卒中を調べた2016年のメタ分析でも、29%と32%が出てくる[5]。
こちらは高所得国の縦断研究だけを対象にしている。35,925件の記録から23本の論文が条件を満たし、16の追跡データで、3〜21年の追跡中に冠動脈の病気4,628件と脳卒中3,002件が記録された[5]。統合できたのは冠動脈の病気で11研究、脳卒中で8研究である。人とのつながりが乏しいと、冠動脈の病気の発症の相対リスクは1.29(95%信頼区間1.04〜1.59)、脳卒中は1.32(同1.04〜1.68)で、性別の差は見つからなかった[5]。
2015年の死亡の数字と、たまたま同じ桁が並ぶ。別の病気の、別の人々の、別の統合である。ここを混ぜて「孤独で心臓病が32%」と書く文章を見たら、1度疑ってよい。信頼区間の下限が1.04という点も見ておきたい[5]。関連はあるが、かなり1に近い値まで幅がある。
子どもと若者の研究では、強さより長さが症状と結びついた
もう1つ意外な数字は、新型コロナの隔離の時期にまとめられた2020年の迅速レビューにある。83本の論文(80研究)のうち63研究が、もともと健康な子どもと若者の孤立と孤独を調べていて、合計51,576人、平均15.3歳だった[3]。
孤立と孤独はうつのリスクの上昇と結びつき、不安もおそらく同様で、それは測定の時点だけでなく0.25〜9年後にも見られた[3]。そして、孤独の期間のほうが、孤独の強さよりも精神症状と強く相関した[3]。
研究のバイアスのリスクは高く、61研究が観察研究で、介入を評価したのは2研究だけである[3]。著者らは、隔離の間も終わったあとも子どもと若者にうつや不安が多くなるおそれがあるとして、予防的な支援と早期の介入の準備を求めている[3]。大人にも同じことが言えるかは、この研究からは分からない。ただ「今夜さびしい」と「この半年ずっとさびしい」を分けて考える手がかりにはなると思う。
数字で読む孤独と健康
- 1.26: 孤独と死亡のオッズ比(調整後)。26%高い計算になる[1]。
- 1.32: 一人暮らしと死亡のオッズ比。ただし客観的な孤立と主観的な孤立の測定に差は見られなかった[1]。
- 65歳: 社会的なつながりの欠けがより強く死亡を予測した研究の、平均年齢の境目[1]。
- 1.29と1.32: 別の研究の、冠動脈の病気と脳卒中の相対リスク。信頼区間の下限はどちらも1.04[5]。
- 51,576人: もともと健康な子どもと若者を調べた63研究の合計。平均15.3歳[3]。
- 40本: 2017年の総覧が束ねた系統的レビュー。主に観察研究である[4]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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