インナーマッスルを肩のチューブ運動で鍛えるとき、肘を体につけるか離すかで何が変わるのか。外旋と腕を上げる角度を分け、筋電図の研究から棘下筋と周囲の筋肉の働きを読む。筋活動が高いことと長期的な効果の違い、壁を使う運動や痛みがある場合の考え方も整理する。
洗面所の鏡の前でチューブを持ち、肘を脇につけて手を外へ開く。動画を見直すと、別の人は肘を肩の高さまで上げている。同じ「肩のインナーマッスル」の運動なのに、どちらをまねればよいのか。チューブの色を選ぶより先に、肘の居場所で迷ってしまう。
肘を高くすると、棘下筋だけでなく周囲の筋肉の働きも変わる。健康な男子大学生を対象にした実験では、腕を低く保つ姿勢より肩の高さに上げた姿勢で、棘下筋を含む測定した筋肉すべての活動が高かった。肘の高さは、肩全体に求める仕事を変える条件である。男性で得た結果を18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、女性を対象にした検証が必要だ。[18]
一方、棘下筋の働きを他の筋肉から区別して調べる筋力検査では、腕を上げない位置が適していたという報告がある。[19] この違いを読むには、「活動を大きくする」「特定の筋肉を調べる」「続けて強くする」を分ける必要がある。鏡に映る肘の高さだけでは、運動の目的まで映らない。

肘の高さと外旋の角度は、別々の条件だ
肩の外旋は、上腕を外へ回す動きである。肘を曲げて脇の近くに置いた場面なら、前腕を外側に開く姿を思い浮かべるとよい。これとは別に、上腕を横へ上げる動きが外転である。研究では、上腕の回旋と腕を上げる位置を組み合わせ、筋肉の活動を比較している。[19] 「外へ開く」という日常語だけで説明すると、この別々の条件が重なってしまう。
肘を体から離すという言葉にも幅がある。脇のそばから少し離すことと、上腕を肩の高さまで持ち上げることでは、比べる姿勢が異なる。肩の運動を扱った実験では、低い位置の姿勢と、腕を肩の高さに上げた姿勢を分け、さらに座位と立位、抵抗の大きさも変えている。[18] したがって「肘を離したほうが効いた」と聞いたら、どの高さで、どの姿勢で行った話かを確かめたい。
インナーマッスルという検索語でひとまとめにされやすいが、肩の腱板は棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋からなる筋群であり、肩の安定、運動、力の発揮に関わる。腱板の各筋には、構造や働きが異なる領域もある。[3] ここで扱う中心は、外旋に関わる棘下筋と、肘の位置を変えたときに一緒に働く周囲の筋肉である。
深い場所の筋肉をすべて同じ方法で狙う、という発想では、この違いが抜け落ちる。投球などの競技動作や肩の損傷を背景に、腱板の領域別の働きを整理したレビューは、棘下筋の上部領域が外旋に寄与することなどを紹介している。[3] 18〜39歳の女性の日常の運動で各領域がどう働くかは、競技場面の説明と分けて考える必要がある。ただし、領域に機能差があるという知識と、自宅で特定の領域だけを動かせるという実用上の主張は別である。検索窓の「インナー」は便利でも、肩の中の仕事の分担表としては大づかみだ。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
肘を上げると、棘下筋以外も忙しくなる
肘の高さを考える材料になるのが、健康な男子大学生15人を対象にした実験室研究である。参加者の平均年齢は20.5歳で、肘を曲げて外へ開く運動を、座位と立位、肩の外転20度の姿勢と90度の姿勢で行った。抵抗も体重の0%、3%、7%に変えている。[18] 18〜39歳の女性に同じ筋活動の変化が生じるかは、この男子学生の比較だけでは判断できない。単に同じチューブを引いて肘だけを移した比較ではない点も押さえておきたい。
測定したのは、僧帽筋上部、僧帽筋下部、前鋸筋、三角筋前部、棘下筋の筋活動である。僧帽筋や前鋸筋は肩甲骨の動きに関わり、三角筋は肩の運動に関わる筋肉として、この研究では棘下筋と一緒に調べられた。[18] 肩の後ろだけでなく、肩甲骨の動きに関わる筋肉も測っている。
結果は、外転90度の姿勢では20度の姿勢より、測定した5筋すべての筋活動が有意に高かったというものだ。[18] ここで「高い位置ほど棘下筋に効く」とだけ紹介すると、結果の半分を落としてしまう。棘下筋の活動が増える一方で、ほかの筋肉の活動も増えていた。肩全体の参加者が増えた場面である。
さらに、体重の7%の抵抗では、座位のほうが立位より前鋸筋、三角筋前部、棘下筋の活動が高かった。[18] 座るか立つかは背景ではなく、結果に関わる条件だった。立川駅北口で電車を降り、帰宅して椅子に腰を下ろしてから行う日と、立ったまま行う日を比べるなら、その違いもメモに残す価値がある。
この研究から自宅用のチューブの強さを指定することはできない。体重に対する抵抗の割合を変えた実験結果は、その条件での比較として読むべきで、手元のチューブの表示と同じ尺度ではない。[18] 実践へ持ち帰るなら、肘を高くする変更と負荷を強くする変更を、同じ「少し難しくした」で済ませないことだ。まず何を変えたかを言葉にできるようにする。
腕を下げた位置が役立つのは、何を調べるときか
古くから引用されている筋電図研究では、11人の非利き肩を対象に、腱板と肩周囲の8筋を測定している。29種類の等尺性収縮、つまり関節を動かさず力を出す条件を比較した研究だ。[19] この11人で得た検査条件を18〜39歳の女性の反復練習にそのまま用いるには、対象と課題を合わせた検証が必要だ。チューブを繰り返し引く練習とは、動作の性質から違っている。
この研究では、上腕の回旋位置を内旋45度、中間位、外旋45度に、肩甲面で腕を上げる位置を0度、45度、90度に変えた。棘下筋を他の筋肉から区別して調べるのに最も適した条件は、腕を上げる位置が0度で、上腕を内旋45度に置いて外旋方向へ力を出す検査だった。[19] 腕を低く置く条件にも、明確な役割がある。
ただし「内旋位から外旋方向へ力を出す」と「外旋した位置で止める」は同じではない。研究が比較したのは力を出す前の位置と力の方向を組み合わせた検査である。[19] 角度の数字だけを抜き出して、手をどこまで開くかの目標に置き換えると、別の動きを勧めることになる。検査の角度は、そのまま反復練習の到達点にはならない。
研究者は、狙う筋肉の最大活動だけでなく、補助する筋肉の関与を小さくすること、痛みを誘発しにくいこと、繰り返し検査したときの再現性も判断基準にした。[19] 大きな活動を出す姿勢と、検査に適した姿勢が一致しなくても不思議ではない。高く上げる実験との違いは、片方が正しく片方が間違いなのではなく、問いが違うためだ。
運動動画で「この位置が最もよい」と紹介されていたら、続きに何が来るかを聞きたい。棘下筋を調べるのに適するのか、周囲も含めて活動を高めるのか。それとも一定期間続けた後の筋力を比べたのか。等尺性の筋力検査から導いた位置の優劣は、検査という目的を添えて受け取る必要がある。[19]
同じ筋力検査の研究でも、棘上筋を調べるために最も適していたのは、肩甲面で腕を90度上げ、上腕を外旋45度に置く条件だった。[19] 棘下筋に適した条件と、棘上筋に適した条件は異なる。腱板という同じ筋群に属していても、測定したい筋肉が変われば検査の設定も変わるのである。「肩のインナー用」という運動名だけでは、その違いを指定できない。
この違いは、練習の説明を聞く場面でも役に立つ。指導者が棘下筋の働きを見たいと話しているのか、腕を上げた位置で肩周囲の協調を見たいと話しているのかを確かめる。前者の検査の位置を、後者の課題の採点基準にしない。研究が設定した目的と姿勢を一緒に読むと、見た目が違う運動を無理に同じ順位表へ並べずに済む。[18][19]
また、腕の高さを比較した実験では、運動の順序を無作為にして、各条件で5回の反復を行っていた。[18] この5回は測定のための実施方法である。毎日の練習として全員に適する回数が決まった、という結果ではない。研究の方法に出てくる数字と、運動を続けた後の成果の数字を分けることも、姿勢を読み違えないための準備になる。
試す姿勢の見た目だけを切り取ると、「肘は高いほどよい」「脇から離してはいけない」という短い合言葉になりやすい。しかし、筋力検査は狙う筋肉と補助筋の関係まで評価し、腕の高さの実験は複数の筋肉の反応を比較している。[18][19] 自分が知りたいのが検査の方法なのか、運動中の仕事の分担なのかを決めてから読むと、同じ外旋という言葉でも説明の受け取り方が変わる。
数字で読む肩の位置と筋活動
15人:腕の高さ、姿勢、抵抗を比較した健康な男子大学生の人数である。[18]
20度と90度:比較した肩の外転位置で、高い位置では測定した5筋すべての活動が大きかった。[18]
11人・29条件:腱板の筋力検査を比較した研究の対象人数と等尺性収縮の条件数である。[19]
32%・46%・34%:通常、肘にバンド、手首にバンドという壁を使った運動での前鋸筋活動。各筋の最大随意等尺性収縮を基準にした値である。[8]
8.9%減少:全身の連動を取り入れた外旋運動で報告された棘下筋の最大活動の変化であり、筋力低下率ではない。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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