背筋のインナーマッスルは疲れると酸素が減る?近赤外線で読む測定の条件

背筋のインナーマッスルを鍛えるとき、疲れた感覚を酸素不足の証拠にしてよいのか。近赤外線で測った研究から、収縮の強さと時間、皮下組織の厚さ、腰痛の対象によって結果が変わる理由を読む。筋肉の酸素化と筋電図、痛みを分け、研究の数字を日々の運動記録に置き換える視点を示す。

背中を起こした姿勢を保つと、腰の奥がじわじわ重くなる。「インナーマッスルの酸素がなくなっているのだろうか」と思うかもしれない。だが、背筋の酸素の指標は収縮で低下する場合がある一方、同じ力を出し続けても低下が進まない場合がある。疲れたという感覚だけでは、その経過は決められない。[7]

答えの芯は、酸素の値と疲れを別々に読むことだ。中年男性を対象にした動的な背筋運動の比較では、慢性腰痛のある群が健康な群より酸素消費や筋疲労で悪いとは認められなかった。さらに皮下組織の厚さが測定に強く影響した。腰がつらいほど酸素が少ない、という一直線の説明はこの結果に合わない。男性を対象にした比較なので、18〜39歳の女性の日常の運動に同じ結果が出るかは別に確かめる必要がある。[1]

既存記事「背筋の筋トレは力を出し切れたと分かる?磁気刺激で測る全力と重さの違い」には全力の評価を譲る。ここで見るのは、近赤外線で測った背筋の酸素の数字が何を表し、どんな条件を添えて初めて比較できるかである。鍛え方を探すときにも、グラフの下降をそのまま練習の成功判定にしないための読み物だ。[1][7]

立位で姿勢を変える工夫は「インナーマッスルは立ち続けると疲れる?腰のつらさと姿勢を変える意味を読む」、月経周期との比較は「生理中の運動は筋肉の酸素で決める?血液の濃さと近赤外線の値を分ける視点」に譲る。「プロテインの量は光でも測れる?近赤外線の推定精度と袋越し測定の条件を読む」は食品分析の話であり、ここでは背筋の収縮中の測定条件に絞る。

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酸素を測る光と、筋肉の電気は別の情報である

近赤外線分光法は、近赤外線を使って局所の酸素化などを調べる測定法で、研究ではNIRSと略される。背筋の研究では、腰の筋肉の相対的な酸素化や酸素消費を調べるために使われている。いっぽう筋電図は筋肉の電気的な活動を記録する方法だ。同時に測っても、酸素の状態と電気的な活動は別々の指標である。[1][7]

健康な男性の体幹伸展を調べた実験では、酸素化は光で、筋内の圧力はカテーテルで、筋活動は表面筋電図で記録された。多裂筋は、この実験で筋内圧を測った腰部の筋肉である。力を大きくすると筋電図の振幅と筋内圧は曲線的に増えたが、酸素化の時間経過には別の特徴があった。背筋の働きを見るには、力、電気、圧力、酸素を区別する必要がある。健康な男性での実験なので、18〜39歳の女性に同じ反応が出るかはこの比較から判断できない。[7]

インナーマッスルという検索語で読んでいても、研究が腰のどこで何を測ったかは省けない。筋内圧を多裂筋で測った研究と、腰部の脊柱の両側にある筋群の酸素消費を調べた研究では、対象となる部位と指標が違う。背中という大きな地名だけで、測定の住所まで同じにしないことだ。[1][7]

また、酸素化の低下と酸素消費の変化率は区別したい。前者を調べた静止した収縮の実験と、後者を調べた動的運動の実験では、数字の意味も運動課題も異なる。「酸素が減った」という短い説明にそろえると、比較に必要な情報が消える。図を見るときは縦軸の名称を読むところから始めるのがよい。[1][7]

たとえば、背中を反らしたまま止まる場面と、起こして戻す動きを繰り返す場面を思い浮かべる。見た目は同じ背筋運動でも、研究では静止した収縮と動的な運動として別々に扱われている。ある課題で見つかった酸素の反応を、もう一方の課題の回数や限界に移すには慎重さが要る。測定法だけをそろえても、運動の内容までそろったことにはならない。[1][7]

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強い収縮での低下と、その後の酸素化の維持を分ける

健康な男性9人を対象にした実験では、直立位で体幹を伸ばす等尺性収縮、つまり姿勢を保ちながら力を出す課題が行われた。短い課題は30秒で、最大随意収縮の5%、20%、40%、60%、80%という強さが比較された。最大随意収縮とは本人が随意的に出す最大の収縮を指す。重りの重さそのものではなく、本人の最大に対する割合である。18〜39歳の女性にも同じ強さで同じ酸素化の変化が起きるかは、この男性の実験だけでは決められない。[7]

腰部の筋の酸素化に有意な低下が認められたのは、この実験では最大随意収縮の20%からだった。そのときの筋内圧は30〜40 mm Hgに相当した。ここでわかるのは、健康な男性の特定の収縮条件で、筋内圧と酸素化がどう応答したかである。日常の腰の重さから、この圧力や力の割合を逆算するための基準ではない。[7]

続いて最大随意収縮の20%で3分間保つ課題も調べられた。しかし、短い収縮の終わりと比べて酸素化がさらに低下することはなかった。研究者は、時間とともに起こる平均血圧や心拍数の調整が、背筋の酸素の水準を維持するのに十分だったと解釈している。収縮が続けば酸素が際限なく減る、という形ではなかった。[7]

この点は運動動画の受け取り方にも関わる。「長く止まれたから、より深い筋肉を酸欠にできた」と考えると、持続時間と酸素化の経過を同じ物差しにしてしまう。実際には、収縮開始時の低下と、その後の維持が同じ実験の中で共存した。始めた直後と、保ち続けた途中を分けるだけで、グラフの読み方が変わる。[7]

ただし、酸素化が保たれたことを、いくらでも続けてよいという許可に変えてはいけない。この実験は設定された強さと時間での生理反応を調べたものである。長く頑張れたという練習の記録と、局所の酸素化という研究の記録には、それぞれの役割がある。片方が安定しているからといって、もう片方の負担まで消えたとは扱わない。[7]

慢性腰痛の男性では酸素消費の障害は認められなかった

中年の健康な男性12人と慢性腰痛の男性17人を比べた研究では、90秒の動的な背筋持久力テストを使った。腰部で近赤外線による酸素消費の測定と、筋電図による筋疲労の評価を同時に行い、測定場所の皮下組織の厚さも調べている。痛みの有無だけを聞いて比べた調査ではなく、同じ運動課題の中で指標を並べた比較である。18〜39歳の女性への適用には、性別と対象年齢の違いを検討する必要がある。[1]

皮下組織の厚さを統計的に考慮したところ、慢性腰痛群で筋疲労が有意に大きいとは認められず、酸素消費についても健康な群より障害されているとは認められなかった。右側の筋電図の疲労を表す変化率は、慢性腰痛群で毎分−12.2±10.7%、健康な群で毎分−11.9±7.6%だった。平均だけでなく、ばらつきもある結果だ。[1]

この数字は痛みが気のせいだという意味ではない。比較したのは、動的な背筋運動における酸素消費と筋電図上の疲労である。腰痛のある群のすべての機能を健康な群と同じだと認定した研究ではない。測っている範囲を限定すると、「腰痛なら酸素の利用も必ず悪い」という仮説が、この対象では支持されなかったと読める。[1]

もう一つ大切なのが、皮下組織の厚さの影響である。著者らは、近赤外線と筋電図の振幅の測定はその厚さの影響を強く受け、考慮しなければ結果を誤って解釈し得ると結論している。ここでの厚さは、測定を読むための条件だ。体型の良し悪しや、鍛錬の価値を順位づけする数字ではない。[1]

友人と同じ運動をして、表示される値が違ったとする。その違いをただちに「自分の深い筋肉が弱い」に変える前に、比較条件を確かめたい。少なくともこの研究は、運動中の局所の信号を人同士で比べるとき、筋肉以外の組織も解釈に入れる必要を示している。数字が出たという事実と、その数字で何を言えるかは別の問題である。[1]

この比較で筋疲労の評価に使われたのは、筋電図の周波数に関する変化率である。動き始めの筋活動の振幅や周波数も調べられ、群同士で比較可能な状態であることを確かめている。「何回できたか」という回数だけの比較とは違う。日常語の疲れを読むときも、論文が疲労をどの測定値として扱ったのかを確認すると、感覚との距離を見失いにくい。[1]

さらに、皮下組織の厚さを考慮するという操作は、都合の悪い数字を消す作業ではない。研究で知りたい筋の応答と、測定に影響する別の条件を区別するための手続きである。運動の前後を比べた話なのか、異なる人を比べた話なのかも読む必要がある。この研究の中心は群間の比較であり、誰かが練習を続けて改善したという時間的な変化の報告ではない。[1]

たとえば運動の説明を聞いて「腰痛がある人は酸素が不足しやすい」と記憶すると、次に腰が重くなったときにも同じ説明を当てたくなる。しかし、この研究ではその単純な説明を裏づける差は見つからなかった。痛みへの説明を選ぶときは、わかりやすさだけでなく、同じ課題で測って差がなかった結果も残しておきたい。[1]

数字で読む背筋の酸素測定

9人:静止した体幹伸展と酸素化を調べた健康な男性の人数である。[7]

20%:短い収縮課題で酸素化の有意な低下が認められ始めた、最大随意収縮に対する割合である。[7]

3分:持続収縮を調べた時間であり、誰にでも勧める保持時間ではない。[7]

90秒:健康な男性と慢性腰痛の男性を比較した動的な背筋持久力テストの長さである。[1]

234人:腰部脊柱管狭窄症で、痛みの出る場面と筋の指標を比較した研究の対象数である。[6]

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宮川涼 Founder

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