ダイエット中のパンは、こんがり焼くほど栄養が減るのか。利用可能リジン、たんぱく質の消化、焼き色とアクリルアミドの関係を、製パン実験と人の試験から読み分ける。発酵や原料による違いも確かめ、研究の数値を家庭のトーストの焼き時間や食べる量へそのまま置き換えない考え方を示す。
トースターから出したパンの端が、思ったより濃い茶色になっていた。香りはよい。でも、ダイエット中の朝食としては焼きすぎたのか。炭水化物を気にして買ったパンなのに、今度は焼き色まで採点したくなる。
答えの芯は、焼き色だけでは栄養の良し悪しも、利用できるリジンの量も決められない、である。パンの製造過程を調べた実験では、発酵後に利用可能リジンが増えた一方、焼成後には成分ごとに増減の向きが分かれた。濃い色を見て「栄養が全部失われた」と判断する読み方は、この結果に合わない。[1]
また、同じ程度の色でも原料の違いによってアクリルアミドの生成量が異なる製パン実験がある。焼き色は目に入る変化だが、食品の中で起きた反応のすべてを表示する成績表ではない。[17] ここでは、パンを焼く操作と成分の変化を追う。食後の腹持ちと周期の話は、既存記事「生理中のダイエットは同じ食事でも腹持ちが違う?周期と胃の排出を読み解く」に譲る。

パンの茶色を、リジンの残量計にしない
パンの加熱で登場するメイラード反応とは、糖とアミノ化合物の反応で生じる複雑な変化を指す。小麦製品を扱うレビューでは、その過程がアクリルアミドなどの加工中に生じる物質の生成にも関わると整理されている。焼き色の話は、単に「表面が乾いた」という話だけでは終わらない。[5]
ただし、反応の名前を知ることと、朝食のパンに何がどれだけ残ったかを知ることは別である。アクリルアミドについては、主な出発物質が遊離アスパラギンと還元糖である。遊離とは、たんぱく質の一部として組み込まれていない状態のことだ。ここで出てくるアスパラギンと、この記事の問いにあるリジンを、同じ名前の成分として扱ってはいけない。[5]
「焼いた色が濃い」「アクリルアミドが多い」「リジンが少ない」を一直線につなぐと、この成分の違いが消えてしまう。色とアクリルアミドの関係さえ原料によって変わった実験がある以上、そこからさらにリジンの量を逆算するのは飛躍になる。見た目に基づく推測と、対象成分を測った結果を分ける必要がある。[17]
その点で手がかりになるのが、小麦粉・ライ麦粉と焙煎したソバ殻を用いた製パン実験である。研究者は粉を混ぜた段階、生地、発酵後、焼き上がったパンを比べた。調べたのは色だけではなく、利用可能リジンや複数の成分、抗酸化能、メイラード反応生成物に関わる指標である。[1]
利用可能リジンは、この実験で測られたリジンの利用性に関する指標として読む。たんぱく質全体の量や、人が食べた後に得る効果と同じ数値ではない。研究では発酵後にこの指標と抗酸化能が上がっており、加工の途中で起こる変化をすべて「減少」と呼ぶことはできない。[1]
焼成によって、フェノール酸とフラボノイドはさらに増え、トコフェロールとグルタチオンは減った。焼き上がったパンでは、蛍光を示す中間生成物や最終的な褐変の指標が、比較した製造段階の中で最も高かった。同じ工程でも、成分によって動きが異なるのである。[1]
ここまでの結果は、小麦粉・ライ麦粉に焙煎ソバ殻を4%配合したパンの製造工程に限られる。したがって、結果を普通の食パンの追加トーストによるリジンの増減率に置き換えることはできない。実験から持ち帰れるのは「パンの加工には段階があり、色とは別に対象成分を測る必要がある」という見方だ。家庭のパンの栄養を知りたいときほど、研究で使われたパンの材料まで戻って確認したい。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
ひよこ豆パンで分けて測った、量と消化性
次に分けたいのは、たんぱく質がどれだけ含まれるかと、そのたんぱく質がどれだけ消化されるかである。ひよこ豆を発芽、焙煎、加熱調理して粉にし、グルテンを含まないパンへの利用を調べた実験は、この違いを具体的に示す。対象は豆を原料にしたグルテンを含まないパンで、製パンの前に豆へ施す処理を比べた研究である。小麦食パンの焼き加減の根拠には使わず、含有量と消化性の測定を区別する例として読む。[2]
加熱調理したひよこ豆粉を使うと、炭水化物、灰分、たんぱく質の含有量は低下した一方、たんぱく質の消化性は上がった。灰分とは食品中の無機成分をみる指標だ。含有量が下がったから消化性も下がる、という組み合わせにはならなかった。[2]
ここに、加熱を読むときの大切な分岐がある。「成分が残る」という問いは量の問いで、「消化される」という問いは性質の問いだ。同じ食品を対象にしていても、測っているものが違う。研究の文章で両方が登場したとき、片方だけを取り出して「加熱はよい」「加熱は悪い」と判定すると、実際に観察された変化を取りこぼす。[2]
パンとしての仕上がりも一方向ではなかった。加熱調理したひよこ豆粉のパンは最も柔らかく、体積を重さで割った比容積は最も低かった。一方、焙煎したひよこ豆粉では比容積が最も高かったが、中身の硬さは増した。大きく膨らむことと柔らかいことさえ、同じ評価軸ではなかったのである。[2]
この比較で示されたのは、原料処理によって栄養面と食感の両方が変わることだ。ひよこ豆の加熱調理で消化性が上がったという結果を、小麦のトーストを長く焼く勧めに変えてはいけない。豆の処理、粉の性質、パンの構造という手順を飛ばすと、別の食品への助言になってしまう。[2]
朝食の場面では、「サクサクなら消化によい気がする」という感想も出てくるだろう。それは食感の感想として置いておける。しかし、研究で評価されたたんぱく質の消化性とは分けておきたい。ひよこ豆粉の実験でも硬さと消化性はそれぞれ測られており、口で感じる硬さをそのまま栄養の利用性の目盛りにはしていない。[2]
焼き色と生成物の関係を変えるのは原料でもある
焼く前に何が入っているかが、焼いた後の違いを生む。小麦製品のレビューは、アクリルアミドの生成に原料中の前駆物質の濃度が強く関わると整理している。前駆物質とは、ある物質ができる前の材料になる成分だ。トースターのつまみだけを見ても、材料側の違いは見えない。[5]
この点を確かめたのが、遊離アスパラギンを少なくした小麦の圃場試験と製パン実験である。遺伝子編集系統と変異系統をそれぞれの対照品種と比べ、穀粒の成分、その粉で作ったパンやトーストなどに生じるアクリルアミドを測った。人の健康を追跡した研究ではなく、作物と加工品の試験である。[17]
2年間を合わせた試験で、遺伝子編集した各系統の遊離アスパラギンは対照より59%または93%少なかった。変異系統では別の対照品種より50%少なかった。この数字は同じ小麦を短く焼いた結果ではない。焼く前の穀粒の性質を変えた結果である。[17]
そのうちの遺伝子編集系統から作ったパンでは、アクリルアミドが検出限界未満のものと、対照の14%だったものがあった。さらに4分トーストした後でも、それぞれ対応する対照の8%と23%にとどまった。同じ加熱時間でも、出発点となる原料の違いが生成量に関わっていた。[17]
読み落としたくないのは、同程度の色でも、編集・変異系統では対照よりアクリルアミドが少なくなった点だ。別の原料のパンを並べて茶色の濃さだけを比べても、同じ物差しで量を見ているとは限らない。パン売り場で見かけた色を、化学分析の代わりにしてはいけない理由になる。[17]
遺伝子編集系統では収量に影響がなかった一方、変異系統では収量が減った。成分を変える技術の評価には、加工後の数値だけでなく、作物として得られる量も含まれている。同じ「低アスパラギン小麦」という括りの中にも違いがあった。[17]
これは特殊な小麦を家庭で探すよう勧める話ではない。研究の比較条件を理解するための例である。「こんな色なら必ずこの量」という断定を避け、原料と加工の組み合わせで考える。その姿勢は、利用可能リジンの問いでも変わらない。発酵後の変化を測った研究と、追加トースト後の生成物を測った研究は、答えている場所が違う。[1][17]
なお、対照の8%という値は、焼く前から92%減ったという意味ではない。比較の相手は対応する対照原料のトーストである。自分自身の加熱前後を比べた変化率と、異なる原料どうしの比率を区別しないと、同じ数字から反対の印象を受けてしまう。[17]
数字で読むパンの加工
4%:利用可能リジンなどを工程別に調べたパンの焙煎ソバ殻配合率である。[1]
59%・93%:小麦の遺伝子編集系統で対照と比べた遊離アスパラギンの減少率に当たる。[17]
4分:低アスパラギン小麦のパンで、追加トースト後のアクリルアミドも測った加熱時間である。[17]
8%・23%:その追加トースト後、各遺伝子編集系統のアクリルアミドが対応する対照に対して示した割合を表す。[17]
12人:白パンとラスク状の製品などを比べた、健康な成人の試験の参加者数である。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






