通勤時間と幸福度の相関、遅れの10分は流れる10分と同じだろうか

立川へ向かう朝は、時計の上では同じ通勤時間なのに、遅れの日だけ体が重い。11都市の調査は幸福度の点数ではなく抑うつのスクリーニングを見ており、交通の遅れ10分ごとに陽性の確率が0.8%高かった。流れる時間、大学1年生の眠気、歩く通勤は別の研究として分ける。

始業までに着くはずが、交差点を抜けられない。職場への連絡を考えながら、腕時計を見直す。同じ10分でも、予定に織り込んだ移動と、途中で増えた待ち時間は同じ負担なのか。「通勤時間 幸福度」という検索には、長さだけでなく、この違いへの問いもある。

11のラテンアメリカ都市で2016年に集めた調査は、通勤時間を自由に流れる時間と交通の遅れの時間に分けた。抑うつ症状のスクリーニングが陽性になる確率と関連したのは、遅れの方である。交通の遅れが10分増えるごとに、その確率は0.8%高かった。有意確率は0.037。合計の通勤時間が10分増えるごとの高まりは0.5%で、有意確率は0.011だった。[18]

幸福度が公共交通と車でどんな曲線になるかは、既存記事「通勤時間と幸福度の関係を読み直す、公共交通と車で曲線が違う2万人の健康とストレスのデータ」の問いである。ここではその曲線を引き直さない。時計の合計が似ていても、流れている分と遅れの分では、スクリーニングの確率との結びつきが違った、という層を読む。

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通勤の総時間と、混雑で増えた時間を分けて調べた

自由に流れる時間とは、混雑で余分に止まらずに移動する分である。交通の遅れは、その流れに上乗せされる分である。調査は、この二つを足した通勤時間と、分けたあとの各部分を、どちらも抑うつのスクリーニングと比べている。[18]

比べ方は、都市の中に人がいる構造を踏まえた多階層の非線形モデルである。社会人口統計学的な特性と、近隣の特性を調整したうえでの関連である。一人の朝を二日撮って気分を引き算した試験ではない。2016年にラテンアメリカ開発銀行が行った調査を、11都市で読んだ結果である。[18]

合計の分数が同じなら負担も同じ、とはこの論文の言い方ではない。論文が置いた単位は10分である。合計が10分伸びる関連と、遅れが10分伸びる関連を、別の列で出している。読者の中央線の止まりが、そのままこの調査の「交通の遅れ」だと対応づけることもできない。調査の遅れは、11都市の通勤を自由流と遅延に分解した時間である。[18]

この調査で比べた通勤パターンには、時間だけでなく、移動手段と自宅から公共交通へのアクセスも含まれる。長くかかったか、何を使ったか、停留所へ歩いて行けるか。都市の交通環境を、それぞれ異なる条件として捉えている。通勤時間だけのグラフでは、こうした違いは読み取れない。[18]

ここで使われた多階層モデルは、個人の属性に加えて近隣の特性も調整している。都市をまたいだ調査を、単なる「遠くに住む人ほど落ち込む」という話に縮めず、住む環境も含めて比較しようとした分析である。一方、対象はラテンアメリカの都市住民であり、18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、生活環境と対象集団の違いを考える必要がある。[18]

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測っていたのは幸福度の点数ではない

尺度は、疫学研究センターの抑うつ尺度を10項目にしたスクリーニングである。陽性は、その項目の結果が区切りを超えたことを指す。幸福度のグラフの一点でも、医師の診断名でもない。旅行の気分を尋ねた調査でもない。[18]

通勤時間がさらに10分長くなるごとに、陽性になる確率は0.5%高かった。括弧の中の有意確率は0.011である。0.5%は、幸福の目盛りが半分削れたという意味には読めない。論文の文言は、スクリーニングが陽性になる確率が0.5%高い、である。示されているのは確率との関連であり、診断名の件数ではない。[18]

結論の言い方も、予備的である。大量輸送へのアクセスが良く、混雑が少ないことと、都市住民の精神的健康の良さとが結びつきうる、という予備的な証拠だ、と著者らはまとめている。予備的、という語を外して「通勤を短くすれば幸福になる」と読むと、結論より強くなる。[18]

調整しているのは、人の属性と近隣である。それでも、遅れそのものを実験者が足したり除いたりした試験ではない。観察された通勤パターンと、スクリーニング結果の関連である。混雑の多い街に、別の負担が同時に多い、という残り方を、このモデルが全部吸い取ったとは言えない。著者らが付けたのは予備的という留保である。[18]

夕方、立川の北口で「今日は運が悪かった」とだけ片づける前に、分けるならこの二つである。一つは、自分が感じた重さ。もう一つは、11都市で確率と並んでいた遅れの分数である。感じた重さを、0.8%の説明で上書きしない。0.8%は、集団の中の確率の差である。[18]

流れる10分は、遅れの10分と同じ列に乗らなかった

分解したあとに残った結果は、はっきり分かれる。関連したのは交通の遅れであり、自由に流れる時間ではなかった。遅れがさらに10分増えるごとの確率の高まりは0.8%、有意確率は0.037である。[18]

ここが、題名の問いへの答えの芯である。合計の通勤時間に見えた関連は、分解すると遅れの側に寄っていた。流れる10分を、遅れの10分と同じ重さとして扱う読みは、この結果と合わない。同じ重さではなかった、と言い切るときも、重さの中身は幸福度の点数ではなく、陽性の確率である。[18]

ただし、自由流時間と遅延時間の区別は、移動中に動いた時間と停止した時間をそのまま分ける方法とは異なる。車がゆっくり動いていても、混雑によって所要時間が増える場面はある。読者が日記に残す遅れは日常の記録として扱い、調査の変数と同一視しない。[18]

さらに、遅延の長さと「いつ着くか分からない」という予測不能さは、問いを分けておく必要がある。この研究の結果として示せるのは、交通の遅延時間と抑うつスクリーニングの関連である。そこから予測不能さに固有の負担や、自律神経の反応の仕組みまで説明することはできない。[18]

有意確率0.037は、0.011より大きい。どちらの結果も、著者らは関連として報告している。数字の小さい方だけを「本当」と呼び、0.8%を脇へ置く読みは、論文の出し方と逆になる。合計の10分も、遅れの10分も、両方書いてある。[18]

数字で読む通勤の遅れ

0.5%:通勤時間がさらに10分長くなるごとに、抑うつのスクリーニングが陽性になる確率が高まる幅。有意確率は0.011。11のラテンアメリカ都市の調査である。[18]

0.8%:交通の遅れがさらに10分増えるごとの、同じ確率の高まり。有意確率は0.037。自由に流れる時間は、この関連を示さなかった。[18]

4.8%:地下鉄やバス高速輸送の利用者は、車を運転する人よりスクリーニング陽性になりにくい、とされた幅。有意確率は0.040。[18]

57%:日本の大学1年生1470人のうち、日中の過度な眠気があった人の割合。男性53%、女性61%。年齢の平均は19.0歳、ばらつきは1.0歳。[14]

1.80:ケンブリッジで、新しいバス専用路に近いことと、徒歩や自転車を含む通勤の割合が大きく増える側との調整済み相対リスク比。95%信頼区間は1.27から2.55。[4]

少なくとも20%:交通計画のシミュレーションが、比較した方法より時刻どおり着く車両の割合を高めた幅。住民の幸福度を測った数字ではない。[11]

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宮川涼 Founder

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