通勤時間と幸福度の関係を読み直す、公共交通と車で曲線が違う2万人の健康とストレスのデータ

通勤時間と幸福度の関係を、心の健康とストレスのデータで読み直す。スウェーデンの2万1,088人では公共交通は長いほど不調の比が上がり、車は30〜60分まで上がって60分超で下がるか、平らだった。英国の1万7,985人では歩く時間が長いほど心理的健康の点が上がった。在宅勤務の落とし穴まで読む。

片道1時間の公共交通と、片道1時間の車。どちらがつらいか。中央線の朝を知っている人なら、答えは聞くまでもないと思うだろう。ところがスウェーデンの2万人のデータでは、話がそこで終わらない。

答えの芯を書く。通勤時間と心の健康の関係は、長いほど悪いという1本の線ではなかった。公共交通は長いほど不調の比が上がり、片道60分を超えるとオッズ比で1.2〜1.6になる。車は項目によって平らか、30〜60分まで上がって60分を超えると比がむしろ下がる[6]。英国で同じ人を追ったデータでは、通勤で歩く時間が10分増えるごとに心理的健康の点が上がり、運転の時間が10分増えるごとに下がった[5]。

先に断っておく。ここで測られているのは「幸福」そのものではない。睡眠の質、ふだんのストレス、活力、心の健康、36点の心理的健康の尺度である[5][6]。そして中央線を調べた研究でもない。それでも、通勤の何が効いているのかを考える材料としては、なかなかよくできている。

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公共交通の60分と車の60分は、曲線が違う

スウェーデン南部のスコーネ地方で2004年と2008年に行われた2つの横断調査のデータである(回答率56%)。出発点には、通勤の健康への影響は、感じるストレスと徒歩や自転車の益を別にすると驚くほど調べられていない、という著者らの問題意識があった。18〜65歳で週に30時間を超えて働く21,088人に、片道の通勤時間と手段を聞いた。調べたのは、睡眠の質の悪さ、ふだんのストレス、活力の低さ、心の健康、自己評価の健康、過去12か月の病欠である。社会経済的な状況、家族の状況、残業、仕事の負担、都市か農村かは統計で調整した。比べる基準は、徒歩か自転車で30分未満の人だ[6]。

公共交通では、通勤が長くなるほど不調の比が一方向に上がっていった。片道60分を超える群のオッズ比は、項目によって1.2〜1.6である[6]。

車では形が変わる。30〜60分までは自覚的な不調が増え(オッズ比1.2〜1.4)、60分を超える群ではそれより比が下がる。上に凸の曲線か、平らである。病欠については、手段によらず同じ上に凸の形が見られた[6]。

なぜ60分を超えると車の数字は下がるのか。この調査は2回の横断調査で、理由までは分からない。私の読みでは、毎日1時間以上車を運転できる人は、それに耐えられる健康と働き方の人に偏っている可能性がある。つらい人はとうに辞めるか引っ越している。ただの推測である。

著者らは、先行研究と同じく通勤と健康の不調の関連が見られたとし、働き手の移動を増やす政策を論じるときは通勤の負の副作用を考えるべきだと書いた[6]。

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36点の尺度で、0.2点の差

もう1本は、同じ人の変化を追ったデータである。

2014年の研究は、英国の世帯パネル調査18回分(1991/2〜2008/9年)から、通勤している大人17,985人を取り出した。固定効果モデルという方法で、個人ごとの変わらない性質の影響を除きながら、36点の心理的健康の尺度との関連を見ている[5]。

結果はこうだ。車と比べて、徒歩や自転車の通勤は0.185点、公共交通の通勤は0.195点、心理的健康の点が高かった。公共交通のほうが、車より良い。時間を見ると、歩く時間が10分増えるごとに0.083点上がり、運転の時間が10分増えるごとに0.033点下がった。そして車から徒歩や自転車に切り替えた人は0.479点上がった。徒歩や自転車の通勤は、車と比べて2つの心理的な症状が出るオッズの低下とも関連した[5]。

36点の尺度で、0.2点である。私には大きな差には見えない。ただ、運転が長いほど下がり、歩くのが長いほど上がるという向きは、逆向きに出ている。単純に掛け算をすると、運転の1時間分は0.198点で、車と公共交通の差の0.195点とほぼ同じになる。直線で伸ばしてよいかは分からないので、これは数字の遊びとして読んでほしい。著者らは、この効果を徒歩や自転車の通勤を勧める政策の費用対効果の検討に入れるべきだと結論した[5]。

公共交通をめぐる2本の違いにも注意したい。スウェーデンの調査の基準は「徒歩か自転車で30分未満」で、公共交通が長いと悪い。英国の研究の基準は車で、公共交通のほうが良い。矛盾というより、比べる相手が違う。公共交通に乗っている時間そのものの効果と、車の代わりに公共交通を選ぶことの効果は、別の問いである。

車の中の話を1つ足す。米国アトランタで、喘息のある人とない人を含む通勤者45人を調べた研究がある。測定した27種類の大気汚染物質の多くは高速道路の通勤で高く、通勤の前後で血液の代謝物に炎症や酸化ストレスに関わる変化が見られた[3]。車は静かな個室に見えるが、空気は外とつながっている。

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列車の通勤者では、唾液の数字にも出た

「満員電車のストレス」にいちばん近い統合は、2020年の系統的レビューだ。公共交通の通勤は1日のかなりの部分を占めうるのに、健康への影響の理解には大きな穴がある、と書き出している。集めたのは1972年以降の、列車、バス、地下鉄、路面電車の通勤と健康を調べた英語の定量研究47本である。うち23本は500人を超える規模である[13]。

複数の手段を比べた研究では、病欠の割合、自己評価の健康の不調、感じるストレス、睡眠の減少に影響が見られた。列車の通勤者に絞ると、唾液のコルチゾール(ストレスに関わるホルモン)の上昇、感じるストレス、混雑への感情的な反応が報告されていた[13]。感じるストレスだけでなく、体の側の数字も報告されたことになる。

ただし著者らは、自己報告の測定に偏っているとも指摘し、より客観的な測定で理論を試すべきだと論じ、柔軟な働き方を勧めている[13]。

中央線の車内にいちばん近いのはこの列車の通勤者の数字だが、中央線そのものを測ったものではない。

通勤の中に隠れている、歩く時間

車か公共交通か徒歩か、という分け方はきれいすぎる。

英国ケンブリッジでの2016年の研究が、その点を突いている。新しい専用バス路線と、それに沿った歩行者と自転車の道が2011年に開通した。近くに住むほど通勤の中の徒歩や自転車が増えるかを、30km圏内に住みケンブリッジで働く大人1,143人を2009年に集めて追った。実際の通勤は複雑で、徒歩や自転車は、車や公共交通が中心の長い通勤の一部に組み込まれていることが多かった。路線が近い人ほど、徒歩や自転車を含む通勤の割合が大きく増える可能性が1.80倍だった[19]。

効果は、それまで徒歩や自転車の通勤がなかった人で最も強いことを示す証拠があった。同時に、人によって支えになるかどうかは分かれた。観察の範囲では、徒歩や自転車の通勤と、全体の活動量の多さ、幸福感の良さ、体重の状態の良さとの関係も示唆された[19]。

体の数字も追いかけておく。米国の2,364人の横断研究では、徒歩や自転車の通勤をしていたのは16.7%で、体力はその人たちのほうが男女とも高かった。ランニングマシンの検査の持続時間は男性で50.0秒、女性で28.77秒長い。肥満、中性脂肪、血圧、インスリンとの逆の関連が見られたのは男性だけだった[2]。

数字で読む通勤と心の健康

  • 1.2〜1.6:片道60分を超える公共交通の通勤の不調のオッズ比。21,088人の横断調査[6]
  • 1.2〜1.4:車の通勤で30〜60分までの不調のオッズ比。60分を超えると下がる[6]
  • 0.083点:通勤で歩く時間が10分増えるごとの心理的健康の変化。36点の尺度[5]
  • 0.033点:運転の時間が10分増えるごとの低下。同じ尺度[5]
  • 0.479点:車から徒歩や自転車に切り替えたときの上昇。同じ尺度[5]
  • 47本:公共交通の通勤と健康を調べた研究の系統的レビューの本数[13]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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