夜勤前の仮眠は何時間がよいのか。夜勤前の長さを比べた試験は見当たらず、多くは夜勤中の仮眠の試験だった。30分と2時間、30分と50分、90分と30分の組み合わせを比べた結果、寝起きのぼんやりが続く時間、救急の医師と看護師の40分の仮眠を読む。
夕方、夜勤の入りまであと数時間ある。ここで横になるなら30分か、1時間か、いっそ2時間か。目覚ましの時刻を決めかねて、スマホを持ったまま天井を見ている。
この記事で読んだ研究の中に、夜勤の「前」の仮眠の長さを比べた試験はない。夜勤の前の夕方に仮眠の機会をつくった試験は1本あり、仮眠は夜の注意と覚醒を良くしたが、長さを比べたものではなかった[6]。長さの比較は、ほとんどが夜勤の「最中」にとる仮眠の試験である。そこでは、30分と2時間[12]、30分と50分[5]、90分と30分の組み合わせ[11]が比べられている。夜勤中の仮眠の長さについての系統的レビューは、短い、中くらい、長い仮眠を比べた結果はまちまちで、証拠の質は低く、仮眠の長さは「仮眠の後のいつの時点の、何を良くしたいか」で決めるべきだとまとめた[17]。
もう一つの芯は、寝起きである。模擬の夜勤中に30分と2時間の仮眠を比べた試験では、どちらの長さでも起きた直後に注意の成績が落ちたが、10分後から30分後には落ち込みが見られなくなった[12]。30分か50分の仮眠を比べた実験室の試験では、寝起きのぼんやりはおよそ10〜15分続いた[5]。何分眠るかと同じくらい、起きてから何分後に何をするかが大事になる。
夜勤前の眠る時間を勤務表にどう組み込むかは、同じサイトの「夜勤前の睡眠時間は運動の予定より先に確保、勤務表に書く寝床と眠りの記録」に、サウナと仮眠の関係は「夜勤前のサウナは仮眠にも役立つ?眠気と勤務中の注意を同じ効果にしない読み方」に譲る。ここでは、仮眠の長さそのものを追う。

夜勤の「前」の仮眠を試した研究は、読んだ中で1本だった
2006年の研究は、実験室と現場の二つの試験からなる[6]。実験室では、健康な68人を四つの条件に無作為に分けた。4夜続く模擬の夜勤のうち、最初の2夜の前の夕方に仮眠の機会をつくる条件、毎晩カフェインをとる条件、その二つを合わせた条件、そして偽の薬だけの条件である[6]。現場の試験では、夜勤か交代勤務で働く53人が、4夜続く夜勤の最初の2夜に夕方の仮眠をとり毎晩カフェインをとる条件と、仮眠なしで偽の薬をとる条件の両方を経験した[6]。
実験室では、仮眠、カフェイン、その組み合わせのどれもが、起きていられる力を測る検査と、合図への反応の速さを測る検査で、覚醒と成績を良くした[6]。覚醒を良くする点では、仮眠とカフェインの組み合わせがいちばんよかった[6]。現場では、仮眠とカフェインの組み合わせが反応の成績を良くし、本人の感じる眠気を減らした[6]。著者らは、仮眠とカフェインの組み合わせは夜勤で働く人の成績と覚醒を良くするのに役立つと結論している[6]。
この試験からは、夜勤の前の夕方の仮眠に意味がありそうだ、とは読める。ただ、仮眠の長さを比べたものではない。現場の試験は仮眠とカフェインを組み合わせているので、仮眠だけの働きを取り出すこともできない。カフェインの量やとる時刻を勧めることは、この記事ではしない。
だから「夜勤前の仮眠は何時間がよいか」という問いに、この記事で読んだ試験は直接答えていない。ここから読むのは、夜勤の最中にとる仮眠の試験である。夜勤の前の仮眠に、そのまま当てはまるとは限らない。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
夜勤中の仮眠は、全体として認知の成績を良くした
まず、研究を束ねた数字を見る。2020年の系統的レビューとメタ分析は、夜勤中の仮眠と認知の成績を調べた18本の論文を含めた[19]。6本は実際の職場、12本は実験室の研究で、参加者は合わせて494人だった[19]。仮眠の長さは平均41.6分(標準偏差28.3分)、時刻は夜の0時から4時10分の間で、平均は2時12分だった[19]。
仮眠をとらない条件に比べて、仮眠の後の成績は全体として良くなり、効果の大きさは0.25(95%信頼区間0.10〜0.41)だった[19]。夜の早い時間の仮眠と、仮眠の後に作業をしていることは、成績を良くする傾向があった[19]。良くなったのは主に起きてから30分後で、起きた直後には記憶だけが落ち、認知の成績の全体は変わらなかった[19]。著者らは、夜勤中の仮眠は認知の成績を良くするようだとしつつ、実際の職場のデータが足りないので、仮眠を予防の手段として勧める前にさらに研究が要ると結論している[19]。
2014年の系統的レビューは、夜勤中にとる計画的な仮眠の13本の研究を集め、多くは少人数で設計もまちまちだったと書く[2]。多くの研究者は、仮眠の直後に短い寝起きのぼんやりがあるものの、夜勤中の仮眠は眠気を減らし、眠気に関わる成績を良くしたと報告していた[2]。一方、職場の安全への影響を調べた研究は一つもなかった[2]。
交代勤務の医療者を扱った2026年の系統的レビューは、59本の研究、17,660人を含めた[7]。その中で、予定に組み込んだ30分の仮眠は眠気を減らし(効果の大きさ0.43)、認知を良くした(0.23〜0.33)という[7]。
効果の大きさ0.25という数字を、私は「成績の落ち込みを消す」より「少し押し戻す」の側に読む。仮眠は夜勤の眠気を消す魔法として扱われているわけではない。

30分と2時間を、同じ夜に比べると
長さを正面から比べた試験を読む。救急の現場で働く人を対象にした研究班が、模擬の12時間の夜勤で、仮眠なし、30分の仮眠の機会、2時間の仮眠の機会を、同じ人に順番に試してもらった[12]。2023年の報告では、参加者は28人(女性15人)で、多くは救急救命の資格を持つ人たちだった[12]。仮眠は夜中の2時にとった[12]。
勤務の終わりの朝7時には、三つの条件のどれでも、注意がそれる回数が勤務の始めより悪くなっていた[12]。反応の速さ、反応時間、合図の前に押してしまう誤りは、仮眠なしと30分の条件では勤務の終わりに悪くなったが、2時間の条件では有意な悪化が見られなかった[12]。
同じ研究班の2024年の報告は、勤務の後まで追った[9]。参加者は28人、平均24.4歳、女性が53.6%、85.7%が救急の現場の人だった[9]。合図の前に押してしまう誤りは、勤務の終わりの7時と、実験室での回復の始まりの8時に、2時間の仮眠の後のほうが他の条件より少なかった[9]。回復の時間の多くの測定で、2時間の仮眠の後は眠気、疲れ、いくつかの気分の項目が他の条件より低かった[9]。一方、勤務の後の回復の眠りは、仮眠の長さで違わなかった[9]。著者らは、2時間の仮眠の機会は、30分や仮眠なしに比べて、夜勤の後の成績、覚醒、気分に役立つと結論している[9]。
「長いほうが朝に強い」とだけ読むと、次の節の話を落とす。2時間の仮眠にも、起きた直後の重さがあった。
寝起きのぼんやりは、どれくらい続くか
眠りから覚めた直後のぼんやりを、研究では睡眠慣性と呼ぶ。2023年の報告では、仮眠の前に比べて、起きた直後の0分の時点で、注意がそれる回数と反応の速さが、30分でも2時間でも悪くなった[12]。けれども、10分後、20分後、30分後には、その落ち込みは見られなかった[12]。2時間の仮眠から起きた直後は、本人の評価でも眠気、集中のしにくさ、覚醒が仮眠の前より悪く、30分の仮眠でも起きた直後の覚醒の評価は悪かった[12]。著者らは、寝起きのぼんやりは短い仮眠の後にも長い仮眠の後にも起きた直後には見られるが、成績と本人の評価の落ち込みはすぐに消え、10〜30分後には検出されなかったと結論している[12]。
1998年の実験室の試験は、経験のある男性の交代勤務者14人に、連続する夜勤の1夜目を想定した夜に、50分か30分の仮眠を、夜中の1時か4時にとってもらった[5]。仮眠は、夜勤の後半の、目で見た合図に反応する力を良くした[5]。早い時刻の仮眠は、起きて50分後に測った体の眠気を和らげたが、勤務の終わりには和らげていなかった[5]。本人の感じる眠気は、仮眠によっていくらか減った[5]。寝起きのぼんやりは約10〜15分続き、50分の仮眠は、勤務の後の昼の眠りをいくらか損なった[5]。著者らは、1時間より短い仮眠は、夜勤の1夜目の覚醒をある程度良くできると結論している[5]。
研究を束ねたメタ分析でも、良くなったのは主に起きてから30分後で、起きた直後には記憶が落ちていた[19]。仮眠から起きて、そのまま大事な作業や運転に入るのがいちばん危うい、というのが、ここまでの数字から私が読むことである。
数字で読む夜勤の仮眠
- 41.6分: 夜勤中の仮眠の論文18本で、仮眠の長さの平均。時刻の平均は2時12分[19]。
- 0.25: 同じメタ分析で、仮眠の後の認知の成績の改善の効果の大きさ[19]。
- 10〜15分: 30分か50分の仮眠の後に、寝起きのぼんやりが続いた時間[5]。
- 10分: 30分と2時間の仮眠のどちらでも、起きた直後の注意の落ち込みが見られなくなった時点[12]。
- 24.8分: 救急の医師と看護師に40分の仮眠の機会を与えたとき、眠れた人の平均の睡眠時間[3]。
- 140人: 夜勤中の仮眠の長さを比べた7本の実験研究の、参加者の合計[17]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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