夢を覚えている人と覚えていない人の違い、夜中の約2分の目覚めが夢を残すという説

夢を覚えている人と覚えていない人の違いは、夢を作る力だけでなく、作った夢を朝まで持ち越せるかにもあるらしい。よく覚える人は音のあとの長い目覚めが多く、約2分の目覚めが記憶の条件という提案もある。起きている間の脳の血流の差、麻酔の夢の数字のずれまで研究で読み直す。

朝ごはんの席で、隣の人が夢の話を始める。立川駅のホームが海に沈んでいて、高校の担任が切符を売っていたそうだ。こちらは昨夜、何も見ていない。見ていないはずである。

違いの手がかりは、作った夢を朝まで持ち越せるかどうかにある。夢を作る力に差がないとまでは言えないが、持ち越しの側に数字が多い。夜中に目が覚めることで、そのとき見ていた夢が長期の記憶に入り、朝に思い出せるようになるという説がある[6]。夢をよく覚える18人とあまり覚えない18人が実験室で一晩じゅう音を聞かされた研究では、よく覚える人のほうが音で目覚めや覚醒が起きることが多く、長い目覚めも多かった。短い覚醒の回数と長さは変わらない。著者らは、夢を記憶に入れるのに要る目覚めはおよそ2分だと提案している[22]。夢をよく覚えている人は、夜の途中で少し長く起きている人でもあるらしい。

薬の研究も同じ向きを指す。向精神薬と夢を調べた2020年のレビューは、薬による夢の想起の増減を最もよく説明するのは、夢と結びつけて語られやすいレム睡眠(眼球が素早く動く眠りの段階)の変化ではなく、夜中の目覚めの減り方だとまとめた[6]。眠りのつながりをよくする薬は、夢の記憶も減らす。ぐっすり眠れた朝に何も残っていないのは、この説の予測どおりの光景である。

夢に何が出てくるかは、ここでは扱わない。覚えた動きなら「睡眠と運動、覚えた動きは夢にも出る?夢の内容と翌日の上達を分けて研究で読む」、食べ物なら「睡眠前の空腹は翌朝の夢に出る?食べ物の夢と不足した栄養を分ける読み方」が、同じサイトで先に書いている。こちらが追うのは、夢が朝まで残るか消えるかだけである。

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夜中の約2分が夢を朝まで運ぶ、という提案

2017年の研究をもう少し丁寧に読む。夢をよく覚える人は、起きているときも眠っているときも音への脳の反応が大きく、眠りの途中で起きている時間も長いことが分かっていた[22]。そこで18人ずつに一晩じゅう音を聞かせ、眠りを記録した。

短い覚醒、眼球の動き、筋肉のぴくつき、眠りの紡錘波といった眠りの細かい構造に、二つの群の差はなかった[22]。違いは目覚めに絞られた。よく覚える人では音が目覚めや覚醒を引き起こす割合が高く、長い目覚めが多い。眠りのどの段階でも同じである。短い覚醒が多いわけでも、長いわけでもなかった[22]。第2段階の眠りでは、目覚めにつながった音に、つながらなかった音より大きな脳の反応が出ていた[22]。

著者らの読みはこうだ。眠っている間の音への反応の大きさが次の目覚めを決め、夢の想起に効くのは短い覚醒ではなく目覚めの長さである。夢を長期の記憶に入れるのに必要な目覚めは、短くてもおよそ2分である[22]。

2分は、時計を見て、布団を直して、もう一度寝つこうとするくらいの長さだ。寝返りのついでに一瞬気がつく程度では足りないのかもしれない。ただしこの数字は36人の比較から著者らが提案したもので、目覚めの長さを割り振って試した結果ではない。

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「何も見ていない」には三つの穴がある

夢の報告ができあがるまでを、2023年のレビューは三段階に分けた。眠っている間に意識的な体験が生まれる「生成」、その跡を記憶にしまう「符号化」、目覚めたときにその跡へたどり着く「想起」である[5]。朝の「何も見ていない」は、どの段階で途切れても同じ顔をしている。口座が空なのか、通帳をなくしたのか、暗証番号を忘れたのか、窓口の前では区別がつかない。

別のレビューは、夢の活動が夜の長い時間を占めているのに、大半は忘却へ消えていくと書く[3]。だから「私は夢を見ない人だ」という自己紹介は、正確には「夢の報告を持っていない人だ」になる。見ていないと言い切る材料は、本人の朝の記憶の中にはない。

測り方にも癖がある。「普段どれくらい夢を見ますか」と後からまとめて聞く質問紙は、想起の段階のばらつきを抑えられず、生成と符号化の差を覆い隠してしまう。朝ごとに書く記録や、実験室で起こして聞く報告のほうが、この二段階に近づける、というのが先の三段階のレビューの主張である[5]。夢の個人差を語る数字の多くが、じつは「思い出し方の個人差」を混ぜて測っている可能性がある。

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薬で眠りがつながると、夢の想起は減る

鎮静作用のある薬では、睡眠の質の改善と、夢を思い出す頻度の低下が結びついていた。抗うつ薬も、大半は頻度を下げる[6]。もっとも、このレビュー自身が過去60年の実験はごくわずかだと認めている。夢の頻度には夢への関心、起こされ方、性格も絡み、結果のばらつきの大きな部分はそれらで説明できるかもしれないとも書く[6]。薬の研究を、そのまま「覚えていない人はよく眠っている人」と読むのは行きすぎだ。

生活の側にも、同じ向きの話がある。妊娠中の夢を扱った17研究の系統的レビューでは、妊娠中の女性は夢も悪夢も多く、夢をよく思い出すことと睡眠の質の低さが結びつくという結果も一部にあった[4]。夢の中身には妊娠に関わるものが多く、起きている間の心配事を映しているらしい[4]。出産後の変化に備える心の準備を促しているのかもしれない、とレビューは慎重に添える[4]。

感染症の流行期には、多くの人が夢を前より覚えるようになった。主題には病気と閉じ込められることが目立ち、英語圏では虫まで目立つようになった[9]。おかしいのは説明のほうである。長く眠るようになってレム睡眠の時間が増えた人がいて、これは夢の想起を増やす。ストレスで睡眠の質が落ちた人もいて、これも夢の想起を増やす[9]。よく眠っても増え、悪く眠っても増える。私はここを読んで少し笑った。一本の物差しでは測れない現象だという、正直な報告でもある。

眠りが途切れる病気では、説と逆の報告もある

夜中の目覚めが夢を残すなら、眠りを繰り返し分断される人は、夢の記憶であふれるはずだ。閉塞性睡眠時無呼吸(眠っている間に気道がふさがり、呼吸が止まったり浅くなったりする状態)は、その条件にあたる[20]。

ところが2019年のレビューによれば、重症度が高いほど夢の想起が少ないという逆の関係が、複数の研究で示されている[20]。夢が少ないという報告と、攻撃的な感情を帯びた夢が多いという報告が併存し、全体の結果は食い違ったままだ[20]。息苦しい夢をさぞ見るだろうと思うが、呼吸に関わる夢は珍しいとする研究が大半だった[20]。

先の2分の提案を重ねると、ここは読み直せるかもしれない。夢を残すのが短い覚醒ではなく長い目覚めなら、眠りの分断が増えても夢が増えるとは限らないからである[22]。ただし無呼吸の人の目覚めの長さを調べて確かめた話ではなく、これは私のつなぎ方である。

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起きた直後の段取りが夢と席を取り合う、という提案

2023年の理論的なレビューは、別の場所に夢の消える理由を探した。眠りの中の精神活動は、とくに夜の後半、制約の少ない、自分に関わる、未来を向いた思考として広がる。目覚めると、今度は目的に縛られた先読みが始まる。この二つが同じ神経の資源を取り合うことで、夢の忘却が進むという提案である[3]。コルチゾールというホルモンが関わる可能性も挙げているが、推定の段階にとどまる[3]。この見方が面白いのは、忘れることを記憶の故障と扱わない点だ。夢を忘れること自体を、眠りが体を整え次に備える働きの一部に数えている[3]。消えるのは事故ではなく、仕様かもしれない。

アラームを止めて「8時12分の中央線に乗るには」と考えた瞬間、さっきまであった海のホームが薄くなる。あの感覚に、ようやく説明の候補がついた。ただし、これは体験と理論がよく合うという話で、取り合いを直接測った結果ではない。

夢を覚える人の脳は、起きているときにも違った

目覚めやすさの差は、どこから来るのか。2014年の研究は、夢の想起が週に平均5.2回の人と0.5回の人を比べ、陽電子放射断層撮影で脳の血流を測った。約10倍の開きである[21]。よく覚える人では、側頭頭頂接合部という領域の血流が、レム睡眠、深い眠り、そして起きて休んでいる間にも高かった。内側前頭前野はレム睡眠と起きている間に高かった[21]。夢を見ていない時間の脳にも差があったのである。

側頭頭頂接合部や内側前頭前野の白質は、損傷すると夢の報告そのものがなくなることが示されてきた場所でもある[21]。著者らは、この二つの領域の活動が夢の心像や記憶への取り込みを促す可能性を挙げ、なかでも側頭頭頂接合部は外の刺激へ注意を向けやすくし、眠りの途中の覚醒を促して、夢を記憶に入れやすくするのではないかと考える[21]。音で長く目覚めやすいという2017年の結果と、ここでつながる。夢の違いに見えていたものは、夜の間の耳の開き方の違いかもしれない。

では、それはその人の体質なのか、その夜の状態なのか。目覚める直前の前頭部のシータ波(5〜8Hzのゆっくりした脳波)も、起きたあとに夢を思い出せるかを予測する。起きている間に出来事を思い出すときにも、シータ波とのあいだに同じ関係が見られる[19]。2015年のレビューは、同じ人の中での変動として読む観察もあるとしつつ、どちらかに決着させるには証拠が足りないと書く[19]。血流の差も結びつきであって、原因の向きまでは決めない。隣の人は「夢を覚える人」なのか、昨夜たまたま夢を持ち帰っただけなのか。そこはまだ決着していない。

数字で読む夢の記憶

  • 約2分: 夢を長期の記憶に入れるのに要ると提案された、目覚めの短さの下限。18人と18人の比較から[22]
  • 週5.2回と週0.5回: 脳の血流を比べた二つの群の、夢の想起の平均[21]
  • 60年: 向精神薬と夢の関係が調べられてきた期間。それでも実験はごくわずかである[6]
  • 3〜8%と40〜80%: 麻酔中の夢を思い出した人の割合。前者が大規模な臨床試験、後者が実験的な場面[1]
  • 35.1%と28.7%: 鎮静前に楽しい夢の筋書きを聞いた人と聞かなかった人の夢の想起。差は有意でなかった[2]

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宮川涼 Founder

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