黒板を爪で引っかく音に鳥肌が立つのはなぜ?聞く脳と触れる脳をつなぐ配線と、嫌な音の研究

黒板を爪で引っかく音に鳥肌が立つのはなぜか。聞く脳と体の感覚の脳は同じ側で広くつながり、そのやりとりが、黒板の音や蚊の羽音で触られた感じが起きる理由かもしれないと考えられている。扁桃体が音の特徴と不快さを受け取る仕組み、嫌な音で寄る眉、ミソフォニアとの違いも読む。

高校の教室で、先生のチョークが黒板の上で一瞬きしんだ。触られてもいないのに、首の後ろから腕へ、何かが走る。思わず二の腕をさすった。音を聞いただけなのに、なぜ体が触られたように反応するのだろう。

答えの芯を先に書く。2013年の研究は、脳の白質の配線を画像で調べ、一次聴覚野と、体の感覚を受け取る領域とが、脳の同じ側で広くつながっていることを示した[3]。聞くことも触れることも、物理的な出来事を周波数にもとづく神経の符号に変えることに頼っている[3]。著者らは、この領域どうしのやりとりが、黒板を爪で引っかく音や蚊の羽音のような音が、触られた感じを起こす理由を説明するかもしれないと書いた[3]。

嫌な音を「嫌だ」と決める側の仕組みも見えてきた。2012年の脳画像の研究では、扁桃体という部分が、音の物理的な特徴と、どれだけ不快に感じるかの両方を表していた[1]。聴覚野と扁桃体は、一方通行ではなく行き来しながら働いていた[1]。体の側では、不快な音を聞くと、心地よい音のときより、驚いたときの反射が大きくなり、眉をしかめる筋肉が強く働き、心拍の下がり方が大きかった[2]。鳥肌という言葉で私たちがまとめている「ぞわっ」の中には、こうした別々の反応が混ざっているのかもしれない、と私は読む。

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聞くことと触れることは、同じ周波数の言葉を使う

2013年の研究の出発点は、耳と皮膚の共通点だった[3]。聞くことも触れることも、外の物理的な出来事を、周波数にもとづく神経の符号に変えることに頼っている[3]。音は空気の振動で、皮膚が感じる震えもまた振動だ、と私は言い換えて読む。著者らは、この共通の符号から、聞く仕組みと触れる仕組みは脳の中で深く結びついているかもしれないと考えた[3]。

調べたのは、脳の白質の配線である。拡散テンソル画像という方法と、決定論的と確率論的の2通りの追跡の手法で、神経の線維のつながりを描いた[3]。その結果、人の大脳皮質で、一次聴覚野と、一次と二次の体性感覚の領域(体の感覚を受け取る場所)のあいだに、脳の同じ側どうしの広いつながりがあった[3]。

著者らは、これが聞くことと触れることが互いに影響し合う仕組みの、解剖学的な土台になると書く[3]。黒板の音で腕がぞわっとするのは、音の信号が、体の感覚の領域にまで漏れ聞こえているようなものかもしれない。ただしこれは配線の地図で、黒板の音を聞かせて脳の動きを測った実験ではない。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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音だけで体に感覚が起きる人の脳

同じ研究は、1人の患者の脳も調べた[3]。SRと呼ばれるこの患者は、後から聴覚と触覚の共感覚になった人で、音を聞くだけで体に感覚が起きる[3]。

この患者の脳では、損傷のある側の半球で、聴覚野と二次体性感覚野のあいだのつながりが、ふつうより強く表れていた[3]。著者らは、黒板を爪で引っかく音や蚊の羽音のような音が触られた感じを起こしうる理由を、この領域どうしのやりとりで説明できるかもしれないと述べ、とくに患者SRでは、損傷と反対側の体の表面でそれが起きると書いている[3]。

1人の患者の観察と、配線の地図の組み合わせである。黒板の音を誰もが同じように感じる理由が、これで決まったわけではない。それでも、教室の黒板の話が、神経科学の論文の結論の中に名指しで出てくるのは、少し愉快だ。蚊の羽音と黒板が並べられているのも、多くの人がうなずく取り合わせだろう。

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扁桃体は、音の特徴と不快さの両方を受け取っていた

では、嫌な音はどこで「嫌だ」と決まるのか。2012年の研究は、不快に感じられる嫌な音を、脳がどう表しているかを調べた[1]。機能的MRI(脳の血流の変化から働きを測る方法)で見ると、嫌な音に対して、扁桃体と聴覚野が反応した[1]。

鍵は、扁桃体が2つのものを同時に表していたことだ。1つは音の物理的な特徴、もう1つは、その音をどれだけ不快に感じるかである[1]。研究は、さらに動的因果モデリングという方法で、領域どうしの影響の向きを推定した[1]。音への反応は、聴覚野を経由して扁桃体へ伝わっていた[1]。

面白いのは、影響の向きによって、効いているものが違ったことである。聴覚野から扁桃体への結びつきの強さは、音の物理的な特徴によって変わった[1]。扁桃体から聴覚野への結びつきの強さは、不快さによって変わった[1]。

著者らは、聴覚野での音のまとまりの分析が扁桃体での気持ちの値付けにつながり、その値付けが今度は聴覚野での目立つ情報の表し方に影響する、という行き来のある関係を支持すると結論している[1]。嫌な音は、聞こえたあとで嫌になるだけではない。嫌だと感じたことが、聴覚野での音の表し方に戻っていく。黒板の音が一度気になると、次のきしみを待ち構えるように耳が向くのは、この行き来と無関係ではないのかもしれない。

嫌な音で、眉は寄り、心拍は下がる

体の反応を細かく測ったのが、2000年の研究である[2]。悲鳴、官能的な音、爆弾の音など、自然に起きる音への気持ちの反応を、2つの実験で調べた[2]。

1つ目の実験では、参加者が60の音を聞き、それぞれの心地よさと高ぶりを評価したあと、予告なしにどの音を思い出せるかを試された[2]。音ごとの評価の平均でつくった気持ちの地図の形は、以前に写真で得られた地図と似ていた[2]。写真の記憶と同じように、自由に思い出せた割合は、気持ちを高ぶらせる音でいちばん高かった[2]。

2つ目の実験では、別の参加者が同じ音を聞く間、自律神経と顔の筋肉の電気の活動を記録し、目で見る合図を使って驚きの反射を測った[2]。不快な音を聞いているときは、心地よい音のときと比べて、驚きの反射が大きく、眉をしかめる筋肉の活動が多く、心拍の下がり方が大きかった[2]。皮膚の電気の反応は、気持ちを高ぶらせる音のほうが、中立の音より大きかった[2]。

著者らは、音の手がかりが、写真と似た形で、気持ちの表れの土台にある「近づく」動機の回路と「身を守る」動機の回路を働かせると示唆している[2]。嫌な音を聞くと、体は身を守る側に傾くようだ。眉が寄り、驚きやすくなる。皮膚がざわつく感じも、こうした身を守る反応の並びの中で起きているのかもしれない。快い音楽でぞくっとする側の話は、同じサイトの「音楽で鳥肌が立つ人と立たない人の違い」に譲る。

30人の脳で、心地よい音と嫌な音は別の場所を使った

2025年の研究は、国際的な感情の音の素材集(IADS-2)から、心地よい音、嫌な音、中立の音を選び、健康な30人に機能的MRIの中で聞いてもらった[4]。撮影のあとに、それぞれの音の心地よさと高ぶりを評価してもらうと、平均の評価は素材集の基準値と違わなかった[4]。

心地よい音は、中立の音と比べて、報酬と良い気分に関わる領域、つまり内側前頭前野、前帯状皮質の腹側、下前頭回を有意に働かせた[4]。一方、嫌な音は、より強く、より広い範囲を働かせた[4]。とくに扁桃体、側坐核、島皮質、小脳で、どれも嫌な気分や、嫌なことを学ぶ働きと結びつく領域である[4]。

著者らは、嫌な刺激を見分けるうえで扁桃体が、心地よい音の評価で内側前頭前野が、中心的な役割を担っていると結論した[4]。そして、ミソフォニアや不安のような、聞こえと気持ちの障害に対して、音を使った手立てをつくる土台になるとも書いている[4]。2012年の研究と、場所の名前は一致している。嫌な音の話には、何度も扁桃体が出てくる[1][4]。

嫌な音のほうが広く強く脳を働かせる、という結果は、日常の感覚とも合う。心地よいカフェの音楽は気づかないうちに流れていくのに、隣の席の椅子が床をこする音は、一度で耳に刺さる。

数字で読む嫌な音

  • 60: 2000年の研究で、心地よさと高ぶりを評価してもらった自然の音の数。悲鳴や爆弾の音を含む[2]。
  • 2つ: 扁桃体が同時に表していたもの。音の物理的な特徴と、感じる不快さ[1]。
  • 30人: 心地よい音、嫌な音、中立の音を聞きながら脳を撮った健康な参加者[4]。
  • 120: 動物、人、楽器、道具、合図、液体などの環境の音を集めたデータベースの音の数[5]。
  • 90人: その120の音を評価した、聞こえに問題のない中年から高齢の参加者。平均年齢54歳[5]。
  • 42人: 2013年の研究で、特定の音への強い嫌悪を訴えて病院のウェブサイトから集まった患者[6]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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