保育園や幼稚園で食事と遊びの環境を変えると、子どもの体重は変わるのか。看護師が保育施設を回った3州の試験、欧州6か国の幼稚園の試験、日本の保育所の調査などから、園で変わったものと変わらなかったものを分け、家庭でできることまでを、親を責めずに確かめる。
「保育園は毎日外で走り回るし、給食は栄養士が献立を立てている。だから家で過ごす子より太りにくい」。お迎えの列で、こういう言い方を耳にすることがある。預けている側には安心に、預けていない側には小さな引け目に聞こえる、使い勝手のよすぎる一言だ。
ところが論文を集めてみると、研究者の問いの立て方はまるで違っていた。確かめられていたのは「通う子と通わない子のどちらが太りにくいか」ではなく、「園の中の食事や遊びや決まりを変えたら、子どもの体重は変わるか」である。答えも一つにそろわない。カリフォルニアなど3州の17の保育施設で看護師が助言を重ねた7か月の試験は、子どもの標準化したBMIに変化を報告した[17]。欧州6か国の幼稚園で3.5〜5.5歳の6,268人を対象にした試験では、BMIの位置に試験の効果は見られなかった[5]。
園が子どもの体を整えてくれるのか、園だけでは届かないものがあるのか。どちらに転んでも、預けるかどうかという家庭の選択に点数を付ける話にはならない。研究が見ていたのは、子どもが毎日、園と家のあいだを行き来しているという、ありふれた事実の方だった。

「通う子と通わない子」を並べた研究は見当たらなかった
集めた論文の中に、保育施設に通う子と家庭で過ごす子の体重を、そのまま並べて比べた研究は無かった。代わりに多いのは、園を研究の「場所」として使う研究である。園に通う子を集めれば、同じ年齢の子の身長と体重を一度に測れる。園は、子どもの体を数える窓口にもなっている。
日本の保育所の全国調査を使ったYokomichiらの研究は、その窓口から2011年の東日本大震災を見た[15]。地震のときに3〜4歳だった子を、被災した福島・宮城・岩手の3県と、被災していない東北の県とで比べた後ろ向きのコホート研究である。対象は、被災3県が男児2,033人と女児1,909人、比べる側の県が男児1,707人と女児1,658人だった[15]。
地震の直後、被災した県の子は体重が増えていた[15]。19か月後には、福島の男児と女児でBMIが被災していない県の同性の子より順に0.137、0.200高く、反対に宮城の男児と女児では順に0.218、0.082低かった(単位はkg/m²)[15]。同じ被災県でも、向きが逆になったのである。研究者は、県ごとに長期の影響がばらついた理由として、復興の速さの違いの可能性を挙げている[15]。
一つひとつの数字は小さい。それでも、幼い子の体重が、本人の意思とは関係のない周りの出来事と結びついて変わりうることは読み取れる。園で続けている身体測定は、その変化を拾う物差しにもなる。ただしこの研究が調べたのは震災の影響であり、保育所に通うこと自体の影響を調べたものとは別の問いだ。
この空白を、子どもを預ける親への評価で埋めないようにしたい。研究が無いところに「やはり通う方がよい」「家で見る方が安心だ」を書き足すと、どちらの家庭にも根拠の無い重さが乗る。祖父母の手を借りる家庭については「祖父母に預けられる子は太りやすいのか 世話をする大人と子どもの体重」の記事が、小学校での取り組みは「学校の授業と給食で子どもの肥満は減らせるか 学校ぐるみの試験が残した小さな差」の記事が扱っている。ここでは、就学前の子が通う保育施設と幼稚園に絞る。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
看護師が保育施設を回った7か月、BMIに出た変化
NAP SACCと呼ばれる取り組みを試した無作為化比較試験は、カリフォルニア、コネチカット、ノースカロライナの3州で行われた[17]。対象は、主に低所得の家庭が利用する認可保育施設17か所で、3〜5歳の子がいる552家族が加わった。子どもの人種や民族の背景はさまざまだった[17]。
中身は、大きく2つある。保育者と親に向けた栄養と身体活動の講習会と、訓練を受けた看護師による施設への訪問相談だ。看護師は「保育施設の健康相談員」という立場で施設を訪ね、相談に応じた[17]。
評価する側にも工夫がある。どちらの群かを知らされていない研究補助員が、各施設の健康と安全に関する書面の方針を読み、食事と身体活動の様子を観察し、無作為に選んだ子どもの摂取量、身体活動、身長と体重を、取り組みの前と後に測った[17]。
結果として、保育者と親の栄養と身体活動の知識は有意に増え、施設の方針も改善した。子どもの側では、年齢と性別で標準化したBMI(zBMI)に変化が出ている。zBMIは、背が伸び続ける子どもの体格を、同じ年齢・同じ性別の子の分布の中で比べるための値である[17]。研究者は結論で、この取り組みが保育者の知識を増やし、施設の方針を改善し、保育施設の子どものBMIを下げると書いた[17]。
ただし、前後の両方で体格を測れた子は、介入と対照の施設を合わせて209人だった[17]。552家族のすべてが測られたわけではない。zBMIがどれだけ下がったかの幅も、論文の要約には書かれていない。期間は7か月で、その後に差が保たれたかどうかは、この試験からは分からない。
献立は変わり、遊びの環境は少ししか変わらなかった
マイアミ・デイド郡で行われたHC2という試験は、低所得で民族的に多様な家庭が利用する保育施設24か所を、介入と対照に12か所ずつ分けた[10]。介入の施設には3つが届けられた。先生・親・子どもそれぞれに向けた教材、おやつ・飲み物・身体活動・画面を見る時間についての決まり、そして献立の変更である[10]。
この試験が主に測ったのは、子どもの体重ではなかった。園の栄養と身体活動の環境を観察して点数にする道具を使い、2015年秋、2016年春、2017年春の3回、2年間の変化を追っている[10]。
2年間の栄養の環境の点数の変化は、介入の施設で対照の施設のおよそ2倍だった[10]。一方、身体活動の環境の点数は、介入の施設でわずかに良くなっただけだった。両方を合わせた点数では、介入の施設が対照より高く、β=0.09、P=0.05と、統計的に意味があるかどうかの境目にあった[10]。研究者は、身体活動の環境を良くして決まりを保つには、施設に継続した支えが要るかもしれないと書いている[10]。
献立は紙の上で書き換えられる。園庭の過ごし方は、そうはいかないらしい。
同じ試験の介入の施設で、先生と職員の「変わる準備」を調べた報告もある[3]。変化への準備の段階を問う調査に、2015年8月と2016年8月に答えた職員を対象にしたもので、どちらの時点でも、多くの職員がすでに準備の進んだ段階にいた。1年のあいだに準備の段階が1つ上がるごとに、園の栄養の環境の点数は0.28(95%信頼区間0.04〜0.53)、身体活動の点数は0.52(同0.09〜0.95)高かった[3]。
これは介入群の職員の中での関連であり、準備の段階を上げれば点数が上がると試験で確かめたものとは違う。研究者は、まだ変わる準備ができていない職員にも継続して支えを届けることを、今後の取り組みに含めるよう勧めている[3]。ここからは私の推測になるが、園の環境を左右しているのは、決まりの紙だけでなく、そこで働く大人でもあるのかもしれない。
数字で読む園の試験
0.28と0.52:HC2の介入群の施設で、職員の変わる準備の段階が1年で1つ上がるごとに、園の環境の点数が高かった幅。順に栄養の点数、身体活動の点数で、95%信頼区間は順に0.04〜0.53、0.09〜0.95[3]。
1.38倍(95%信頼区間1.13〜1.67):3〜5歳の541人を1年追った研究で、ファストフードを食べる平均の週の回数が1回増えるごとの、体重の区分が一段上がるリスク。社会的な条件や親の体重などを調整した値[11]。
−99.4kcal(95%信頼区間−160.7〜−38.0):ナッシュビルの試験で、36か月後の介入群の子の1日の摂取エネルギーの、対照群に対する調整した差。BMIの軌跡には差が無かった[9]。
0.165と0.124:震災の1か月後、岩手の男児と女児のBMIが、被災していない県の同性の子より高かった幅。順に男児、女児で、単位はkg/m²[15]。
0.087:同じく震災の1か月後、福島の女児のBMIが被災していない県の女児より高かった幅(kg/m²)[15]。
1.56倍(95%信頼区間1.02〜2.38):Head Startの施設16か所の試験で、2年間の家での子どもの身体活動の相対的な変化の、比較群に対する介入群の値。養育者の答えによる[19]。
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