学歴が高い人ほど太りにくいのか。91か国の研究をまとめたレビューでは、関係の向きが国の豊かさで逆になった。ドイツの12年の追跡、思春期から老年期までの体重の軌跡、遺伝の手がかりで教育の効果を推し量った欧州の研究から、相関と因果のあいだに何が挟まるのかを確かめる。
学校に通った年数は、いまの体重と関係があると思うだろうか。同窓会の集合写真を見返して、勉強のよくできた同級生ほど細かった気がする人もいれば、まったく逆の顔ぶれを思い出す人もいるはずだ。子どもの進路を考える年ごろになると、この問いは自分のことから家族のことへ、少しずつ形を変えて戻ってくる。
答えは、どの国で調べるかによって向きが変わる。教育と肥満の関係を扱った289本の論文、91か国・410の集団をまとめた系統的レビューでは、所得の高い国では教育の長い人ほど肥満が少ないという逆向きの関連が多く、所得の低い国では教育の長い人ほど肥満が多いという関連が多かった。系統的レビューとは、決まった手順で論文を集め、漏れなく並べて読む研究の型である。[1]
では、豊かな国で見える「学歴が高いほど細い」は、学校で過ごした年数そのものが体重を下げた結果なのか。それとも、学歴と一緒に動く収入や仕事、育った家の事情が体重を動かしているのか。この問いは、学歴の低い人を責めるための問いとは違う。体重の差がどこから来るのかを分けて見られれば、自分の暮らしで動かせる部分と、もう動かせない部分の境目が見えてくる。

豊かな国と貧しい国で、関係の向きが逆になる
先のレビューは、公衆衛生や医学だけでなく、教育学、心理学、経済学などのデータベースまで探し、英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語の論文を拾っている。国の豊かさに加えて、性別も関係の強さを変えていた。教育による肥満の差は、男性より女性で強く現れていた。そのうえで著者らは、所得の低い国の研究、交絡因子(結果をゆがめる別の要因)を幅広く調整した研究、因果を確かめる準実験的な設計を使った研究が、どれも少ないと書いている。教育が肥満を防ぐ政策の道具になるかは、まだ確かめる途中だというのが、このレビューの立ち位置だ。[1]
2024年のミニレビューは、収入、教育、職業の社会的な評価、資源への手の届きやすさをまとめて社会経済的地位と呼び、その地位と肥満の関係を扱った総説とメタ分析を集めた。1980年代から現在まで、横断研究では、先進国では地位が高いほど肥満が少なく、途上国では地位が高いほど肥満が多いという勾配が続いてきたという。体重と身長から求める指標だけでなく、二重エネルギーX線吸収法や生体電気インピーダンス法で脂肪と除脂肪を直接測っても、この勾配は崩れなかった。体格の測り方の粗さが生んだ見かけの差とは言いにくい。[14]
ここで気をつけたいのは、日本の位置である。日本は所得の高い国に入るが、今回集めた論文に日本の数字は入っていない。豊かな国の傾向を、そのまま立川の暮らしに当てはめるのは早い。言えるのは、学歴と体重の関係は「どこの国でも同じ向き」と決めつけられるほど単純ではない、という一点までだ。ブラジルで男女の向きが逆になった研究は、「収入・学歴と体重の結びつき ブラジルの男女で逆を向いた生涯の社会経済状況」の記事に譲る。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
親の学歴まで、生涯の体重の線に影を落としていた
思春期から老年期までの体重の線を一本につなごうとした研究がある。著者らは、NIH(国立衛生研究所)の4つの全国的な追跡研究のデータを合わせて解析した。一つの研究だけで、同じ人の一生を追い切ることはできないからだ。20世紀に生まれた世代を比べると、後に生まれた世代ほど平均のBMIが高く、年齢とともに上がる幅も大きかった。BMIは体重を身長の2乗で割った体格の指標である。[17]
そのうえで、親の教育と本人の大人になってからの教育は、どちらも、あらゆる年齢でBMIが低いことと関連していた。大学を出た親を持つ女性では、世代が新しくなるにつれてBMIが上がる幅も小さかった。人種による差と教育による差は、どちらも男性より女性で大きく、先のレビューで女性の差が強かったことと重なる。本人が選べない親の学歴まで、体重の線の高さと結びついていたことになる。[17]
子どもの側から見た研究もある。2000年に米国の大都市で生まれた子どもを追う研究で、5歳、9歳、15歳の時点の成績、BMI、家庭や地域の条件を調べた。恵まれた環境で育った子どもでは、成績が良いほどBMIが低いという関連があった。ところが不利な環境で育った子どもでは、成績とBMIのあいだに関連が見られなかった。この違いは、人種や民族を問わず現れていた。勉強をがんばったことが体の健康の側に現れるかどうかは、子ども自身の努力だけでは決まっていなかった。[18]

同じ人を12年追うと、体重と一緒に動いたもの
ドイツの全国教育パネル調査の成人を使った研究は、2011〜2012年に28〜55歳だった8,209人を約12年追った。始めの時点で比べると、大学などの高等教育を受けたこと(係数−0.41)、世帯の収入が高いこと(−0.16)、育った家の社会的な位置が高いこと(−0.26)が、BMIの低さと関連していた。性格の項目も入っており、誠実性の高さ(−0.64)がいちばん強くBMIの低さと結びついていた。スポーツをする頻度の高さ(−0.38)も同じ向きで、女性は男性よりBMIが低かった(−1.42)。[7]
次に、同じ人の中での変化を比べる固定効果モデルで追うと、BMIは全体で1年に0.08ずつ上がり、最初の3年の上がり方がいちばん急だった。同じ人の中の変化で見ると、パートナーとの同居に移った時期(+0.29)と世帯の収入が増えた時期(+0.10)はBMIの高さと、スポーツの頻度が増えた時期(−0.13)はBMIの低さと関連していた。高等教育を受けた人では、BMIの上がり方がゆるやかだった(−0.02)。たばこを吸っている時期もBMIの低い側にあったが(−0.52)、著者らは、禁煙した人の体重増加を少なくとも一部は映していると読んでいる。喫煙する人の割合は30%から20%へ下がっていた。そのうえで著者らは、探索的な研究なので因果として解釈すべきでないと念を押している。[7]
40代になってから、大学を出たかどうかを変えることはできない。一方で、スポーツを週に何日するかは、来週から変えられる。動かせないものと動かせるものが同じ表に並び、どちらもBMIの低い側と結びついていたことは、自分の暮らしを考えるときの手がかりになる。ただしこの表は相関の一覧であり、どの数字も「これをすれば何ポイント下がる」という約束ではない。
遺伝の手がかりで教育の年数を推し量ると
観察研究では、教育の長い人ほど2型糖尿病になりにくいことが示されてきた。それが因果かを確かめるために、欧州の研究者らはメンデルランダム化と呼ばれる方法を使った。教育の年数と結びつく遺伝の違いを、教育そのものの代わりの目印にする考え方だ。親から受け継ぐ遺伝の組み合わせは、本人が進学を選ぶより前に決まっている。舞台は、欧州の大規模な追跡研究の中に組み込まれた2型糖尿病の研究で、対象は2万人を超える。教育は、教育の年数と、集団の中での教育の相対的な位置を表す指標の2通りで測られた。遺伝的に教育が長くなりやすい傾向を持つ人ほど、2型糖尿病のリスクが低いかが調べられ、教育が1年長くなるごとにリスクは約15%低かった。観察のモデルでのハザード比も0.96(95%信頼区間0.95〜0.96)で、同じく教育の長い側でリスクが低い向きだった。[2]
この研究が体重の話にもつながるのは、教育から2型糖尿病への道筋の途中にある要因まで調べたからだ。遺伝の手がかりを使った解析で、教育はBMI、飲酒の量、地中海食への近さ、喫煙のそれぞれに有意な影響を持っていた。著者らは、教育が不健康な行動を含むほかの危険因子より前に立つ要因かもしれないと述べ、相関と因果のすき間を埋める結果だとしている。ただし、この研究の主な結果は2型糖尿病であり、BMIへの影響の大きさを示す数字は論文の要約に載っていない。対象は欧州の人々で、一つの研究でもある。「学歴が肥満の原因だと遺伝子で証明された」と言い切るには、まだ距離がある。[2]
数字で読む学歴と体重
7.2〜72.4%:外出制限の時期に体重が増えた人の割合。41本・合わせて469,362人の研究を集めた系統的レビューで、研究ごとにこれだけの幅があった。[19]
−0.41:ドイツの28〜55歳8,209人で、高等教育を受けたことと開始時のBMIとの関連を示す係数。ほかの要因と一緒に入れた回帰の値である。[7]
0.08:同じドイツの集団全体で、BMIが1年あたり上がった幅である。同じ人の中の変化を追った解析で求めた値。[7]
1.4(95%信頼区間0.9〜2.2):英国南西部で生まれた子どもで、16歳までにつらい経験が4つ以上あった人の、一つもない人に対する17歳の肥満のオッズ比。家庭と社会経済の要因を調整した値で、信頼区間は1をまたぐ。[6]
約15%:遺伝の手がかりで推し量った教育が1年長くなるごとの、2型糖尿病のリスクの低下の大きさ。欧州の2万人以上のデータによる。[2]
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
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