刑務所の中の体重と食事 ブラジルの刑務所で6割超が運動の目安に届かず

刑務所に入ると体重はどう動くのか。ブラジルの最大警備の刑務所の調査、女性の受刑者を扱った総説、パプアニューギニアの配給の分析、栄養の介入を集めた系統的レビューから、運動の機会、食事の中身、出所後の食の不安定まで、論文が実際に測った範囲を確かめる。

仕事帰りのスーパーで、総菜の棚の前に立つ。から揚げのパックを手に取り、少し迷って焼き魚に替える。改札から家までの道も、遠回りして歩く日と、バスに乗る日がある。一日のうちに、食べる物と体を動かす時間をめぐる小さな選択が、本人も数えきれないほど積み重なっていく。

その選択の多くを、自分ではなく施設が決める暮らしがある。州と連邦の法律を調べた研究は、刑務所や拘置所にいる妊娠する可能性のある人について、自分の食事を左右できる幅が小さく、栄養の必要を刑務所や拘置所に頼るしかないと書いている。献立を選ぶ手は、そこでは本人の手の中にない。[2]

体重の話はふだん、意志の強さの物語として語られやすい。ところが刑務所を扱った論文を開くと、足りない身体活動と健康的でない食事が、施設の暮らしの条件と一緒に並んで出てくる。体重を左右する手綱の何本かは、はじめから本人の外側に結ばれている。[9]

旧アルカトラズ刑務所の運動場とその隣に建つ食堂の建物を写した風景 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

刑務所の食事は、研究そのものがまだ少ない

イタリアの刑務所医学の学会が進める事業を紹介した総説によると、世界の刑務所に収容されている人は2000年以降に24%増え、2021年には1,000万人を超えていた。イタリアだけでも57,000人を超える人が収容されている。総説は、受刑者が心血管の病気などの非感染性疾患(心臓の病気のように、人から人へうつらない慢性の病気)にかかる危険が高く、その背景に偏った食事と運動の不足があるとみる。身体活動については受刑者の心身の状態に良い影響を示した研究がある一方で、栄養の状態や栄養の介入を調べた研究は限られている、というのが著者たちの見立てだ。[3]

医療の質を受刑者にも保障することは国際的な政策の決まりごとになっているが、その水準は国によってまちまちで、足りないことが多い。非感染性疾患の経済的な負担は刑務所の中でいっそう重くなり、出所した人が社会に戻ることを難しくしている、と総説は続ける。体重と慢性の病気の問題は、収容されている期間だけで閉じる話になっていない。[3]

バルカン半島の刑務所の食事を扱った論文も、受刑者の食事についての研究は乏しく、その多くが米国、英国、スカンジナビアの刑務所に集まっていると述べている。研究の地図には、まだ白い部分が広い。[14]

今回集めた19本の中には、日本の刑務所を調べた論文も、入所の前と後で同じ人の体重を追った論文もなかった。だから、この記事で答えられるのは「入れば何kg増える」という問いではない。どんな条件が体重の周りに並んでいるか、という問いのほうである。

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最大警備の刑務所で、6割超が運動の目安に届かなかった

ブラジルの研究者たちは2019年の6月から11月にかけて、最も警備の厳しい区分の刑務所で、成人の受刑者の身体活動と健康の状態を調べた。ある一時点の状態を写し取る横断研究で、対象者は声をかけやすい人から集める便宜的な方法で選ばれ、解析に入ったのは220人である。年齢の内訳は18〜29歳が115人(53.2%)、30〜44歳が79人(36.6%)、45〜59歳が22人(10.2%)で、半分を超える人が20代までの若い層だった。この記事を読む30〜50代の大人とは、集団の重心が違う。そのうえで結果を見ると、全体の64.3%が、WHO(世界保健機関)の身体活動の推奨を満たしていなかった。推奨の物差しは、中強度の有酸素の活動なら週に150〜300分以上、高強度なら週に75分以上である。食事についても、116人(53.7%)が健康的でない食べ物をとっていると答えた。[1]

体格はBMI(体重を身長の2乗で割った指標)で分類され、50.2%が標準の体格、38.1%が過体重、11.6%が肥満に入った。半分は標準の範囲にいたが、残りのおよそ半分は標準を上回っている。論文は、年齢の高さと座っている時間の長さが、推奨どおりに体を動かす人の少なさと関連していたとまとめ、調整オッズ比(ほかの条件をそろえた上での起こりやすさの比)を年齢で0.95(95%信頼区間0.92〜0.99)、座っている時間で0.74(0.65〜0.85)と示している。ただし、この比が何の起こりやすさに対する値なのかも、年齢や座る時間がどれだけ増えたときの値なのかも要約には書かれておらず、比が1を下回っている点と「届きにくさ」の向きの関係も、ここからは読み解けない。一時点の調査なので、座る時間が長いから体を動かさなくなったのか、動く機会のない日課だから座る時間が長くなったのかも分けられない。それでも著者たちは、刑務所の中で身体活動を実践することの大切さと、定期的な身体活動を促す施設のプログラムが要ることを結論に掲げた。結論の重心は、個人の努力より施設の仕組みのほうに置かれている。[1]

女性の受刑者の総説は、体重の増加を心臓の危険と結びつけた

女性の受刑者の心血管の病気の危険を論じた総説は、収容されることが体重の増加と、過体重や肥満の割合の上昇に関連していると書く。足りない身体活動と健康的でない栄養が、とるエネルギーが使うエネルギーを上回る状態をさらに後押しする、というのが著者たちの整理である。この総説は、効果の大きさを数字で示す型の論文ではなく、これまでの知見を並べて論じたものだ。同じ人の体重を入所の前後で何kg追ったのかは、ここからは読み取れない。総説はさらに、体重以外の危険も数多く挙げている。高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、喫煙といった古典的な危険因子がよく見られ、うつや不安も増え、それに対処する手段として薬物の乱用が選ばれることも多い。[9]

刑務所という環境に特有のこととしては、ハンガーストライキ、いじめ、虐待、独房への隔離が、心臓と心の不調を引き起こす要因として並ぶ。心理的なストレスが重なって老化が速まる過程や、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)を中心とする感染症と日和見感染症、日光を浴びる機会の不足も、心血管の調節を乱す要因として挙げられた。女性に特有の医療の必要が必ずしも満たされないことも、不満と心身の不調を深める。総説の結びは、これらの要因が互いに独立に、そして積み重なって働き、女性の受刑者の心血管の危険を高めるというものだ。体重の増加は、その積み重なりの中の一本の線として描かれている。体重だけを取り出して本人の食べ方を責める読み方は、この総説の描く図とは合わない。[9]

眠りの問題も同じ図の中にある。イタリアの総説は、受刑者に睡眠の障害、とくに不眠が多いことを、健康の格差をさらに広げる要因として挙げている。偏った食事と運動の不足に、眠れない夜が重なる形だ。[3]

数字で読む刑務所の体重と食事

64.3%:ブラジルの最大警備の刑務所で調べた受刑者220人のうち、WHOの身体活動の推奨を満たしていなかった人の割合。[1]

38.1%と11.6%:同じ220人のBMIの分類で、順に過体重、肥満とされた人の割合。標準の体格とされた人は50.2%だった。[1]

24%:2000年以降に、世界の刑務所に収容されている人が増えた割合。2021年には1,000万人を超える人が収容されていた。[3]

5.7 mg:パプアニューギニアの刑務所で食事を調べた男性の受刑者の、ビタミンCの摂取量の中央値。推定平均必要量を下回っていた。[16]

1.34:米国南東部の40〜79歳の成人30,854人で、子どものころに家族が刑務所にいた経験がある人が、その経験のない人に比べて、食事の質の点数が悪い側に入るオッズ比(95%信頼区間1.25〜1.42)。[18]

600人:オーストラリアの男性受刑者で、オメガ3系の脂肪酸とマルチビタミンの補給が攻撃的な行動に効くかを確かめるのに要ると試算された人数。予備の試験に同意したのは136人だった。[10]

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宮川涼 Founder

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