ダイエットの間食の納豆は混ぜるほど栄養が増える?糸の粘りと成分量を読む

間食の納豆をよく混ぜて糸が伸びると、栄養まで増えたように感じる。発酵中に菌が作る粘質物の研究と、成分を取り出して調べた実験を読み、見た目の粘り、成分の量、体内での働きを分けて考える。混ぜる回数を栄養の目標にしないために、培養条件や動物実験の数字を食卓でどう受け止めるかを示す。

夕方、冷蔵庫から納豆を出して箸を回す。糸が増え、表面が白っぽくなると、「もう少し混ぜれば、もっと栄養が増えるのでは」と手が止まらなくなる。食べ始める前に、小さな作業目標ができてしまう。

ダイエットの間食として納豆を選ぶときも、糸の見た目を栄養の増加量として数えることはできない。納豆の粘質物には、菌が作るポリγグルタミン酸などの成分があるが、成分を作る発酵の研究と、食卓で混ぜた後の見た目の評価は別の問いである。[4][11]

既存記事「ダイエットの納豆と枝豆は同じ栄養?発酵とビタミンKから食卓の違いを読む」には食品間の栄養比較を譲る。ここで確かめるのは、同じ納豆を前にしたとき、糸の粘りを何の指標として扱ってよいかである。箸は、成分分析の装置にはならない。

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納豆の糸は、単独の栄養素の目盛りではない

ポリγグルタミン酸は、グルタミン酸という小さな構成単位がつながった高分子である。高分子とは、構成単位が多数つながった大きな分子を指す。微生物による生産を扱ったレビューは、この物質が納豆の粘質物によく見られることと、その合成に関わる酵素の仕組みを整理している。[4]

ここでは長い名称を、粘りに関わる成分の名前として受け止めればよい。「糸があるから何かが存在する」という話と、「糸が長いから特定の成分が多い」という話の間には、量を測る手順が必要になる。物質の存在を説明したレビューから、箸で持ち上げた糸の長さを成分量に換算する式は導けない。[4]

粘質物の中身にも目を向けたい。細菌が作る粘質物を比べた実験では、比較対象の納豆菌由来の粘質物は、たんぱく質に分類される部分が61%、多糖類が39%だった。多糖類とは、糖の単位が多数つながった物質である。納豆の粘質物にはフルクタンが含まれると説明されている。[6]

この61%と39%は、粘質物を調べた分析値である。パックの納豆全体について「たんぱく質が61%ある」と読むと、分母が入れ替わる。豆そのもの、粘質物、そこから精製した物質は、同じ納豆に関係していても異なる試料である。研究の数字を食卓に持ち帰る前に、何を取り出して測った値なのかを確かめる必要がある。[6]

同じ実験では、別の細菌株が、納豆菌のポリγグルタミン酸よりも粘度の高い粘質物を作った。そちらの組成はたんぱく質63%、多糖類37%であり、多糖類として見つかったのはグルカンだった。[6] 粘度とは、流れにくさを表す物性である。この比較では、どちらも粘る物質でありながら、材料の内訳は異なっていた。[6]

ただし、これは別の菌が作った物質を比べる研究だ。市販の納豆を粘る順に並べた試験ではない。したがって、この結果を使って店頭の商品に栄養の順位をつけるのも行き過ぎになる。比較の対象を守って読むと、得られる教訓は、粘りを見ただけで成分の内訳を決めないことにとどまる。[6]

夕食までのつなぎに納豆を食べる場面なら、混ぜた後の食べやすさを、自分の好みとして扱う余地がある。「好きな口当たりになった」と「栄養が増えた」は、同じ感想にまとめなくてよい。前者を大事にするために、後者まで証明する必要はない。

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成分を作る発酵と、食べる直前の混ぜ方を分ける

実際に菌が成分を作る研究では、菌の周りに何を用意するかが比較されている。納豆の製造に使われる納豆菌の株を培養した実験では、ショ糖5%とグルタミン酸1.5%を含む培地で、ポリγグルタミン酸とレバンが同時に作られた。報告された構成割合はそれぞれ58%と42%だった。[11]

培地とは、菌が育つための材料を含む環境である。ここでのショ糖やグルタミン酸の数字は、その培地の条件を示す。食べる納豆に砂糖を加える手順でも、混ぜる前後の栄養の増加率でもない。研究が操作したものを見失うと、菌を育てる実験が、家庭の調理法のように読めてしまう。[11]

同じ研究では、グルタミン酸を含まずショ糖20%の培地では、21時間後に培地1mL当たり40〜50mgのレバンが作られた。一方、ショ糖を含まずグルタミン酸を含む培地では、主にポリγグルタミン酸が作られた。[11] レバンは粘質物に含まれる多糖類の一種であり、菌が作る物質の内訳は、培養に用いた材料の条件と結び付いていた。[11][13]

この比較の面白さは、「納豆菌がいれば同じものが同じ割合でできる」とは扱っていないところにある。菌の名前だけでなく、材料と時間を指定して初めて、何ができたかを論じている。発酵という言葉を、ただの健康的な響きにせず、具体的な生産過程として読む入口になる。[11]

別の培養実験では、納豆菌などを酸性度の管理された発酵装置で育て、培地によるポリγグルタミン酸の生産の違いを調べた。納豆菌を使った条件では、比較した培地のうち、ある培地で約26〜28g/Lと最も高い生産量が得られ、その分子量は627,000だった。[12]

分子量は分子の大きさに関わる数値であり、g/Lは液体の体積当たりの量である。同じ研究報告に並んでいても、測っているものは異なる。大きな分子であることと、多量に存在することを、同じ意味の「多い」にしないほうが理解しやすい。[12]

家庭で納豆を混ぜる場面に戻ると、今見ているのは箸で持ち上げた糸や、器の中のまとまり方である。培養液の中で何がどれだけ作られたかという測定とは、観察の対象が違う。混ぜる行為を、発酵装置での生産条件の変更と同じものとして読む根拠にはならない。[11][12]

「混ぜると栄養が増える」を確かめるなら、同じ食品を用意し、混ぜ方以外の条件をそろえ、目的の成分を混ぜる前後で測る必要がある。さらに、量を比べるのか、成分の構造を比べるのかも先に決めなければならない。この問いの立て方なら、目で見た変化と分析した変化を混同せずに済む。

粘りの量と体内での働きも、別々に測られる

粘質物の働きは、見た目とは別に実験で調べられている。市販の納豆から粘質物を用意し、カルシウムの溶けやすさを調べた実験がある。試験管内では、粘質物を増やすと、カルシウムとリン酸が溶けにくい複合体を作るのが抑えられ、カルシウムの溶解性が高まった。[14]

ラットを使った実験では、大豆たんぱく質、納豆、粘質物を除いた納豆、納豆の粘質物を含む食餌を比較した。食べた後の小腸内容物を調べると、粘質物の食餌を与えた群では、小腸の下半分で、溶けているカルシウムの量と割合が他の群より有意に高かった。研究は、この作用にポリγグルタミン酸が関わる可能性を示した。ラットの小腸を調べた結果を、18〜39歳の女性のカルシウム吸収にそのまま当てはめることはできない。[14]

ここで確かめられたのは、試験管内とラットの小腸内での溶解性である。「人がよく混ぜた納豆を食べると、その分だけカルシウムを多く吸収する」という結論に替えると、対象も、操作も、結果の指標も変わってしまう。溶けている状態を調べることは重要だが、それをそのまま人の栄養状態の改善と呼ぶことはできない。[14]

食べる前に糸を眺めていると、量が多そうなことと、体によさそうなことが一続きに感じられる。しかし、このカルシウムの実験では、粘質物を含む食餌と、それを除いた納豆などを比べ、腸の中身を採って測っている。見た目の印象から作用を推定した実験ではない。[14] どの条件を比べ、何を採取したのかを読むと、研究結果の輪郭がはっきりする。

また、同じカルシウムでも、溶けている量と、溶けている割合は異なる指標だ。研究が両方を調べたことには意味がある。割合だけを見ると、全体の量との関係を見落とすおそれがあるためだ。ラットの小腸内容物で両方が高かったという結果は、その測定場所と対象を添えて伝えてこそ、実験の結論に沿った説明になる。[14]

食卓で必要なのは、こうした実験を否定することでも、すぐに利用法を決めることでもない。粘質物が研究される理由を知りながら、混ぜる回数の目標をそこから作らずにおく姿勢である。成分に役割がある可能性と、家庭での操作の効果を分ければ、研究への関心も、食べ方の自由も残せる。[14]

数字で読む納豆の粘質物

61%と39%:細菌の粘質物を比較した実験での、納豆菌由来粘質物のたんぱく質部分と多糖類の構成比。納豆全体の栄養表示ではない。[6]

58%と42%:特定の培養条件で同時生産された、ポリγグルタミン酸とレバンの報告割合。家庭で混ぜた際の増加率ではない。[11]

21時間:ショ糖を含む特定の培地で、レバンの生産量が示された時点。混ぜる時間の目安ではない。[11]

約26〜28g/L:発酵装置を使った実験で、特定の培地の納豆菌が示したポリγグルタミン酸の生産量。納豆の摂取推奨量ではない。[12]

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宮川涼 Founder

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