脂肪組織は炎症の物質を出す臓器でもある。1年の生活習慣の介入でCRPの中央値が43.6%下がった試験、76件の研究のまとめ、食事と運動で同じだけ痩せた比較、10%痩せても炎症の物質が動かなかった小さな試験から、減量と炎症の目印の関係を確かめる。
前回の健診の結果票で、CRPという行の数字を覚えているか。CRPは血液の中を流れるたんぱく質で、炎症を伝える物質(サイトカイン)とともに、体の中で炎症が続いている度合いを映す目印になる[8]。肥満は、弱い炎症が全身で続く状態だとされてきた[10]。では、体重が減れば、この数字も下がるのか。
2型糖尿病のある肥満や過体重の人1,759人を1年追った試験では、運動と食事を変える集中的な生活習慣の介入を受けた群で、高感度CRP(hs-CRP)の中央値が43.6%下がった[4]。通常の支援の群は16.7%だった[4]。数字だけを見れば、答えは「下がる」である。
ところが、10%痩せても炎症の物質の値に差が出なかった小さな試験もある[19]。脂肪組織の中では、減量の最中に免疫に関わる遺伝子の働きがむしろ強まった、という報告まである[11]。炎症の目印は、何を、どれだけ、どうやって減らしたときに動くのか。試験を1本ずつ読み、いまの時点で言えることを確かめる。脂肪細胞そのものの数と大きさは「痩せると脂肪細胞は減るのか縮むのか 数は変わらず、お腹の細胞は運動を足すと縮んだ」に、炎症と鉄の吸収の関係は「鉄不足は太っていても起こる 炎症が吸収を絞る仕組みと、減量で上向く鉄の指標」に譲る。
健診でCRPが高いと言われた人は、その理由をまず医師に確かめる。この記事が扱うのは、体重と結びついた弱い炎症の話である。

脂肪組織は、炎症の物質を出す臓器でもある
脂肪組織は、長いあいだ余ったエネルギーをしまう倉庫と考えられてきた。見方が変わったのは1990年代の初めで、炎症の物質であるTNF-αと、食欲に関わるホルモンのレプチンが、脂肪細胞から出ていることが分かった[10]。その後、炎症に関わる多くの物質が脂肪の量と結びつけられ、肥満は弱い全身の炎症の状態、英語で「メタフラメーション」とも呼ばれる状態として描かれるようになった[10]。2008年の総説は、この弱い炎症が、肥満と、肥満に伴う病気をつなぐのかもしれないと書いている[10]。2025年の総説も、免疫の細胞が入り込み、脂肪細胞の働きが乱れた弱い慢性の炎症が、全身のインスリンの効きにくさや代謝の病気に関わるとみている[6]。
炎症の物質を出しているのは、脂肪細胞だけではない。2018年の系統的レビューは、脂肪細胞と、脂肪組織に入り込んだ炎症の細胞の両方を、こうした物質の大きな出どころとみている[8]。食べ過ぎで脂肪組織が広がることが、炎症が強まる原因になる、という整理である[8]。
脂肪組織の中を遺伝子の働きで見た研究もある。肥満の人29人の皮下脂肪を、ごく低いカロリーの食事の前後に調べ、肥満でない17人と比べた研究では、炎症に関わる遺伝子の多くが、脂肪細胞ではなく、その間を埋める間質の細胞の側で働いていた[16]。その部分には、免疫の細胞であるマクロファージが数多く含まれていた[16]。脂肪組織の炎症は、脂肪細胞と、そのまわりに集まった免疫の細胞の、両方の仕事なのである。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1年の生活習慣の介入で、CRPの中央値は4割あまり下がった
いちばん規模の大きい答えは、冒頭のLook AHEADという試験から来ている。肥満か過体重で2型糖尿病のある人を、集中的な生活習慣の介入と、糖尿病の支援と教育を中心にした通常の対応に無作為に分け、心臓や血管の病気と死亡への影響を調べる多施設の試験である[4]。そのうち、最初と1年後にhs-CRPと体力のデータがそろった1,759人が分析された[4]。
集中的な介入は、中くらいの強さの運動を週175分まで増やし、カロリーと飽和脂肪の量を減らし、血糖を整えるように栄養の組み立てを変えるよう、何度も相談を重ねる内容だった[4]。1年後、hs-CRPの中央値は、介入群で43.6%、通常の対応の群で16.7%下がった[4]。通常の対応の群でも下がっている点は見落とせない。介入の効き目として読むべきは、2つの群の差のほうである。介入群では、体重が8.8%、血糖の指標であるHbA1cが0.7%下がり、中性脂肪は17%減り、体力は19%、善玉のHDLコレステロールは7.5%上がった[4]。
どの変化がCRPを下げたのか。年齢や性別など、喫煙、心臓や血管の病歴、薬の使用、体力と脂質の変化で調整しても、体の脂肪の減り方と血糖の整い方は、それぞれ独立にCRPの変化を予測した[4]。著者らは、血糖の改善と脂肪の減少が、CRPの変化に同じくらいの大きさで効いていたと結論している[4]。コレステロールを下げるスタチンやインスリンを使っているかどうかは、介入とCRPの関係を変えなかった[4]。
ただし、この試験の対象は2型糖尿病のある人で、介入は運動と食事と相談を束ねたものである。どの要素が効いたかを切り分けた試験ではない。血糖の高い人では、脂肪の減り方と並んで、血糖の整い方がCRPの変化と結びついていた点も読み落とせない[4]。
どれだけ痩せれば、炎症の目印は動くのか
量の目安について、2つの総説が手がかりをくれる。2008年の総説は、太ってはいるがほかに病気のない人の減量研究を、食事、運動、食事と運動の組み合わせ、手術の4つに分けて整理した[10]。全体として、減量はCRP、TNF-α、IL-6、レプチンといった炎症の側の目印も、アディポネクチンという炎症を抑える側の目印も、好ましい方向に動かしていた[10]。その中で改善がいちばん大きかったのは、体重を少なくとも10%減らした研究だった[10]。ただし総説は、対象の性別や年齢、人数、研究の期間、体組成の測り方がそろっていないことを、この分野の研究の弱点に挙げている[10]。
2018年の系統的レビューは、食事による減量と手術による減量の臨床試験を探し、967件から76件を選び、6,742人を束ねた[8]。参加者の平均年齢は44.0歳、BMIの平均は33で、観察の期間は3週間から2年、体重の減り方は平均で1か月に1.1kgだった[8]。運動やサプリメント、薬を組み合わせたプログラムは、炎症の目印への影響が混じらないよう、あらかじめ除かれている[8]。多くの研究で、減量は炎症の物質の血中濃度をはっきり下げていたが、3件の研究では効果が見られなかった[8]。著者らは、カロリーを抑えた食事には、食事の中身と関係なく炎症を抑える働きがあるとまとめている[8]。
では、10%痩せれば十分なのか。卵巣の働きに関わる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある肥満の女性15人(平均28.5歳)の試験は、別の答えを出した[19]。1日1,000〜1,200kcalの食事と、30分の運動を週3回行うよう勧められ、体重を10%減らした[19]。それでも、TNF-α、その受容体の仲間、IL-6の血中濃度は、前後で差がなかった[19]。著者らは、炎症の物質を下げるには、ほどほどの減量より大きな減量が必要なのかもしれないと書いている[19]。一方、ごく低いカロリーの食事で体重を平均10.1%減らした閉経前の肥満の女性10人では、血中のTNF-αが下がっていた[14]。どちらも15人以下の小さな試験だが、10%前後の減量でも、対象と減らし方によって同じ目印の結果が分かれている。「10%」が誰にとっても入り口になるとは限らない。
短い期間の減量も、思ったほどは動かさない。地域の場で行われた8週間(24回)の試験では、変形性関節症のある、太り気味から肥満の高齢のアフリカ系アメリカ人(平均67歳、88%が女性)を、運動だけの群と、運動に減量を足した群に分けた[3]。減量を足した群は全身の脂肪を4.0%、内臓脂肪を4.1%減らし、運動だけの群は全身の脂肪が0.6%、内臓脂肪が3.7%増えた[3]。脂肪の差ははっきり出たのに、炎症の目印(hs-CRP、TNF-α、IL-6)の変化は2つの群で同じ程度だった[3]。減量を足した群でだけ下がったのは、血中のインスリンと、インスリンの効きにくさの指標だった[3]。8週間では、脂肪の差がまだ炎症の差にまで届かなかったとも読める。
数字で読む炎症の目印
- 43.6%と16.7%:1年の集中的な生活習慣の介入と通常の対応で、hs-CRPの中央値が下がった割合[4]。
- 10%:2008年の総説で、炎症の目印の改善がいちばん大きかった研究の、体重の減り方の下限[10]。
- 76件、6,742人:減量と炎症の物質の関係を束ねた系統的レビューの規模。効果が見られなかったのは3件[8]。
- 15人:10%痩せても、TNF-αとIL-6が動かなかったPCOSの女性の試験の人数[19]。
- 8週間:脂肪は減ったのに、炎症の目印の変化が運動だけの群と同じだった試験の長さ[3]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







