道路や飛行機、線路の音が大きい場所に住む人は太りやすいのか。50万人規模の調査、39,720人を5年追った研究、2本のメタ分析から、体重より腹囲に出やすい関連の大きさ、女性や肥満の人で強まる結果、関連が見えなかった集団、ストレスと睡眠の仮説までを確かめる。
デンマークで中年の男女39,720人を平均5.3年追った研究がある。住まいの道路の騒音が10デシベル大きいごとに、1年あたりの体重の増え方は15.4g大きかった。[7]
1年で15.4g。毎日量っても、誤差に紛れて見えない重さだ。ところが同じ研究は、追跡のあいだに体重が5kgを超えて増える危険が、10デシベルごとに10%高いことも報告している。平均の小さな差と、大きく増える人の割合の差。騒音の研究は、この2つを行き来しながら読むことになる。[7]
しかも、音との関係が出やすいのは体重より腹囲だった。複数の研究をまとめた分析は、BMIには関係が見られず、腹囲には見られたと報告している。[4] 大通りや線路に面した部屋で暮らす人にとって、おなか回りの数字は、住まいの音とどこまで結びついているのか。

騒音は耳ではなく、住所で測られる
まず、研究が「騒音」と呼ぶものの中身を確かめておく。大規模な研究の多くは、一人ひとりの耳に届いた音を測ってはいない。住所ごとに、道路や鉄道、飛行機の音の大きさを計算で割り当てている。[2][7][9]
道路の騒音は、住所ごとの24時間の値としてLdenという指標で表されることが多い。英国、オランダ、ノルウェーの3つの大きな集団をまとめた研究では、欧州で標準化された騒音の評価の枠組みを使い、住所ごとの道路の騒音を推定した。[2] デンマークの研究は、北欧の予測方法で、参加者の今の住所と過去の住所の両方について道路と鉄道の音を計算している。[7] 米国の看護師の研究では、90の空港の周りで44デシベルを超える範囲に1デシベル刻みの等高線を引き、住所の昼夜の平均の音を推定した。[9]
この測り方には、弱点が一つある。家の外の推定値が、寝室の中で聞こえた音と一致するとは限らない。そのため、推定がより正確に当たっていそうな人で関係を見直す工夫がされている。ノルウェーの研究では、寝室が道路に面した男性で関連が強まった。[5] ストックホルムの研究では、追跡中に引っ越さなかった人で、飛行機の音と腹囲の関連が特にはっきりした。[8]
ストックホルムの研究の著者らは、引っ越さなかった人で関連が強かったのは、音の割り当ての誤りが少ないためかもしれないと考えている。一方、ノルウェーの寝室の結果は推定の幅が1をまたいでいて、確かな差とまでは言えない。そして観察研究である以上、音そのものが原因だとまでは言えない。住む場所は、収入や大気の汚れ、緑の多さとも一緒に動くからだ。
そこで研究者は、音と一緒に動きそうな条件を同時に推定し、計算から差し引こうとしている。3つの集団の研究は、住所ごとの二酸化窒素とPM2.5の濃度も欧州全体の推定モデルで割り当て、主な分析で大気汚染を調整した。[2] 米国の看護師の研究は、近所の社会経済の状態、緑の多さ、人口の密度、ほかの環境の騒音で調整している。[9] それでも調整しきれない条件は残る。空気の汚れと体重の関係は「大気汚染と肥満の関係 空気の汚れを体重増加の原因と決める前に知りたい科学」が扱っている。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
50万人の調査でも、答えは国ごとに割れた
これまで、道路の騒音と肥満の指標の関係を調べた疫学の証拠は比較的少なく、限られた地域に偏っていた。そこで行われたのが、3つの集団の約50万人を調べた研究である。分析に入ったのは英国の412,934人、オランダの61,032人、ノルウェーの30,305人で、平均年齢は43〜56歳、住所の道路の騒音は42〜89デシベルの幅にあった。体重と腹囲は、集団に加わった時点で測られている。つまり、ある一時点の音と体型を並べた横断研究で、音が先か体型が先かは区別できない。[2]
英国の集団では、道路の騒音が10デシベル大きいごとに、BMIは0.14高く、腹囲は0.27cm大きかった。肥満である見込みは1.06倍、腹部肥満である見込みは1.05倍だった。これらの関連は、ほかの多くの感度の分析でも保たれた。関連は女性、身体活動が少ない人、世帯の収入が高い人、聞こえに問題のある人でより強かった。[2]
けれども、この関連は、細かい粒子状の大気汚染物質であるPM2.5や、住む地域の社会経済の状態でさらに調整すると弱まった。ノルウェーの集団では、55デシベルを超える音にさらされた人で肥満との関連が見られた。オランダの集団では、関連がないか、逆向きの関連さえ見られた。著者らは結果を「混ざった」と表現し、同じ人を長く追う研究で確かめる必要があると結んでいる。[2]
ノルウェーの首都オスロで15,085人を調べた研究でも、全体では道路の騒音と肥満の指標に有意な関連はなかった。この研究は、BMIが30以上、腹囲が男性102cm以上・女性88cm以上、腹囲を尻回りで割った比が男性0.90以上・女性0.85以上を、それぞれ肥満の目印として使っている。ただ、音に非常に敏感な女性1,106人に限ると、10デシベルごとにBMIとの関連が見られ、腹囲を尻回りで割った比が0.85以上になる見込みは1.24倍だった。寝室が道路に面した男性では、BMIが30以上になる見込みが1.25倍と推定されたが、その幅は1をまたいでいた。[5]
体重より、おなか回りに出る
個々の研究のばらつきをならすため、研究をまとめる分析も行われている。2018年のメタ分析は11本の研究を集め、そのうち7本が慢性的な騒音と体脂肪の指標の正の関連を報告していた。[4]
55〜60デシベルを超える騒音に長くさらされた大人は、より静かな場所の人に比べ、腹囲が1年あたり7.5mm大きく増えていた。研究間のばらつきはほとんど見られない。騒音が10デシベル増えるごとに腹囲が1年あたり7.0mm大きいという推定も出たが、こちらは研究間のばらつきが大きく、計算の方法を変えると有意にならなかった。BMIについては、関連が認められていない。著者らは、腹囲との正の関連はうかがえるが、証拠はまだ限られていると述べ、別の地域や集団、騒音の種類ごとの検討と、体と心の両面で音が体脂肪につながる道筋の解明を求めている。[4]
2022年のメタ分析は、見つかった30本のうち13本を分析に入れ、研究ごとの偏りの危険と証拠全体の質も評価した。騒音が最も大きい群と最も小さい群を比べると、腹囲は0.326〜0.705cm大きく、腹部肥満である見込みは1.055〜1.167倍だった。10デシベルごとの連続した見方でも、似た結果になった。著者らは、より多くの人数で、騒音の種類ごとの違いと社会経済の状態を十分に考えた研究が急いで必要だとしている。[1]
飛行機の音でも、似た形が出た。ストックホルムの住民で、開始時のブドウ糖負荷試験が正常だった5,156人を最長10年追った研究がある。追跡中にBMIは平均1.09、腹囲は平均4.39cm増え、糖尿病の手前の状態になった人は8%、2型糖尿病になった人は3%だった。飛行機の音が5デシベル大きいと、腹囲の増え方は1.51cm大きかった。一方、BMIと2型糖尿病には、はっきりした関連が見られなかった。[8]
体重は変わらないのに腹囲が動く、という組み合わせは、体重計の数字だけを見ていると見落とされやすい。腹囲を測る意味そのものは、隣の記事「腹囲はBMIが見落とす危険を拾う 標準体重でお腹が大きい人の20年と、メジャーの限界」が詳しく扱っている。
数字で読む騒音と体型
412,934人:英国の集団で道路の騒音とBMI、腹囲を比べた人数。10デシベルごとに腹囲は0.27cm大きかった。[2]
1年に7.5mm:55〜60デシベルを超える騒音に長くさらされた大人の、腹囲の増え方の差。BMIとは関連しなかった。[4]
5デシベルで1.51cm:ストックホルムで、飛行機の音の差と追跡中の腹囲の増え方の差。[8]
1年に15.4g:デンマークで、道路の騒音10デシベルあたりの体重の増え方の差。[7]
1.24倍:音に非常に敏感な女性で、腹囲を尻回りで割った比が0.85以上になる見込み。[5]
1.055〜1.167倍:13本をまとめた分析で、騒音が最も大きい群が腹部肥満である見込み。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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