エアロバイクで体脂肪を落とすために、靴を固定して引き足を使う必要はあるのか。力の伝わり方が改善しても、エネルギー効率まで上がるとは限らない。競技者と未経験者の比較、長時間運動の疲労、筋肉の働きを調べた研究から、固定することと強く引き上げることを分けて考える。
ペダルが上がってくる瞬間、足を引くべきだろうか。エアロバイクで足を留めると、踏むだけではもったいない気がしてくる。上がってくる側の脚もぐっと引けば、同じ時間でも体脂肪に届く運動になるのだろうか。
結論の芯は、靴を固定することと、積極的に引き上げることは別だ、という点にある。競技者と自転車の非競技者を比べた実験では、ペダルの種類を替えただけで効率に有意な差はなかった。一方、意識して引き足を使うと、上向きの局面で力を有効に伝える指標は改善し、エネルギー面の効率は低下した。[4]
だから「引き足で効率がよくなるので体脂肪が落ちる」という説明には飛躍がある。ここで扱うのは、運動中の力とエネルギーの使い方であり、長期の体脂肪の変化とは区別する必要がある。[4][6] 最速で回すコツを探す前に、その「効率」が何を数えているのかを確かめたい。

靴を留めることと、引き足を使うことは違う
この問いを直接分けて調べた比較実験がある。対象はエリート自転車競技者8人と、非競技者7人である。18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、競技経験や運動条件の違いを考える必要がある。最大有酸素パワーの60%という負荷で、毎分90回転の条件をそろえた。最大有酸素パワーは、その人の有酸素運動能力に対応する出力の基準として使われている。[4]
実験には、通常のペダル、靴とペダルを連結するクリップレスペダル、連結したうえで力の情報を見ながら引き上げを意識する条件があった。クリップレスという名は、足が自由という意味ではない。この研究では靴とペダルの接続方式として、通常のペダルと比較されている。[4]
通常のペダルとクリップレスペダルの間では、ペダリングの有効性、正味機械効率、筋活動に有意な差はなかった。ところが、同じ連結方式でも、引き上げを指示して力のフィードバックを加えると結果が変わった。足元の道具と、脚をどう働かせるかを同じ話にしないことが大切だ。[4]
引き上げ条件では、上昇局面のペダリング有効性が競技者で86%、非競技者で57%増加した。一方、正味機械効率は競技者で9%、非競技者で3.3%低下した。これらは別々の指標の変化であり、同じものの表と裏を表す数字ではない。増加率の大きさを、そのまま運動の総合評価に置き換えることはできない。[4]
ここでの実験は、最大能力より低い強度で一定にこぐ場面を扱っている。既存記事「HIITの自転車はペダルに足を固定する?引く力と全力の出力を研究で読む」には全力運動の問いを譲り、この記事では一定負荷でこぎ続けるときの効率を読む。[4]
なお、靴と連結するペダルの比較結果を、室内バイクに付くあらゆるベルトへそのまま当てはめることも避けたい。接続方式は器具ごとに確認したい。器具を使う場面では施設の案内に従い、「固定できるから毎回強く引く」という目標を追加しない考え方になる。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
力の向きの効率と、体の燃費を読み分ける
ペダリングの有効性とは、加えた力のうち回転に役立つ成分を評価する考え方である。研究では、有効なペダル力と総ペダル力の比を指標として使ってきた。ただし、その値をもって技術の質を評価する方法には議論があり、力の指標が上がることと総効率が上がることは一致しない。[6]
たとえば、ペダルに加わる力の方向を整えれば、回転に役立つ力の割合は大きくできる。その力を作るための体内の負担は、エネルギーの測定で別に評価する。引き上げの比較実験では、太ももの裏にある大腿二頭筋と、すねの前側にある前脛骨筋の活動が増えていた。役立つ方向へ力を出すために、別の筋活動を追加しているわけだ。[4]
機械効率は、体が使ったエネルギーに対して、外へ取り出せる仕事をどう評価するかという側の指標である。研究には正味機械効率と総効率が登場するが、同じ名前の数字として混ぜないほうがよい。引き足の実験で低下したのは正味機械効率で、長時間の別実験では総効率を評価している。[4][5]
さらに、ペダルで測る力には、筋肉の努力以外の成分も含まれる。力を筋肉に由来する成分と、重力や慣性に由来する成分へ分ける理論的研究では、回転数が増すほど筋肉以外の成分が大きくなった。例として解析した人では、毎分70回転の条件でもその成分は無視できなかった。[8]
これは「力のグラフがきれいなら、筋肉も経済的に動いている」と決めない理由になる。脚そのものが動くことや重力の影響を含む測定値を、意識の上手下手だけで説明すると話が単純になりすぎる。波形には、本人の頑張り以外も映る。[8]
この力の分解は、脚の各部分の動きと、関節を介して働くモーメントから成分を求める解析である。例として異なる回転数を比較したとき、筋肉由来の成分は回転周期の大部分で比較的一定だったのに対し、筋肉以外の成分は回転が速くなるほど増えた。単にペダルで大きな力を測っただけでは、その増加が筋肉の出力増加だったと決められない。[8]
たとえば、画面を見ながら上向きの力を増やそうとする場面でも、数値には何が含まれるかを考える余地がある。測定された力、回転を助ける方向の力、筋肉が作る力は、重なる部分があっても同じ概念ではない。どの力を改善したいかを定めず、表示を高くすることだけが目標になると、運動の目的とのつながりが見えにくくなる。[6][8]
体脂肪が気になる読者にとっても、この区別は重要だ。「燃費がよい」を「脂肪を多く使う」と読み替えると、研究が答えた問いから外れる。ここでは力の向きや機械効率の変化を読むにとどめ、どちらのペダルなら体脂肪がより減るかという順位は付けない。[4][6]
引き上げると、筋肉の担当も切り替わる
引き足は、筋肉の働く時期も変える。エリート競技者9人が320ワットでこいだ無作為化比較試験では、普段のこぎ方と引き上げを意識するこぎ方を比較した。18〜39歳の女性の日常的な運動へ、そのまま適用するには競技水準と出力の違いが大きい。引き上げにより、ペダルが上がる局面と、最下点付近での力の有効性が改善した。[1]
このとき大腿二頭筋の活動は48%増加した。また、前脛骨筋の活動開始が早まり、ふくらはぎ外側の腓腹筋の活動終了が遅くなった。研究は、足首を固めて上向きの局面でペダルへ力を加えるために、筋肉同士が同時に活動する時間帯が増えたと説明している。[1]
つまり、引く動作の指示は、ある筋肉を単純に休ませる操作ではない。関節をまたぐ複数の筋肉の働く時期を組み替える操作でもある。研究者は、こうした協調の変化が力の有効性を改善する一方、酸素消費の面には不利に働く可能性を述べている。酸素消費の悪化を測定済みの確定結果として書くのは行きすぎだ。[1]
この試験から日常の運動を考える際に参考になるのは「引けば仕事が追加され、筋肉の協調も変わる」という仕組みであり、同じ割合だけ誰の筋肉も活動するという予報ではない。[1]
ペダリング技術を整理した総説も、引き上げで力の有効性が上がることと、総効率や競技成績が上がることを区別している。引き足によって反対側の膝を伸ばす筋肉の活動が減る場合があっても、総効率やパフォーマンスの有意な改善には結び付いていなかった。[6]
練習による変化も、目的別に見る必要がある。総説では、力のフィードバックや左右のクランクが連動しない方式を使った2〜4週間の練習により、経験者でも引き足の有効性を高められると整理している。しかし、通常のクランクへ戻った際の変化や、経験者のこぎ方の安定性が関わり、総効率や成績の改善は有意でなかった。[6]
したがって、「慣れれば必ず燃費まで改善する」という約束もできない。力の有効性という技能が変わったことは、その指標についての成果である。そこから先のエネルギー効率や運動成績には、それぞれの評価が要る。技術の練習をする価値と、体脂肪を落とす方法として勧められるかは、別々に判断する問いになる。[6]
数字で読む引き足と効率
競技者8人・非競技者7人:ペダルの種類と引き上げの意識を分けた比較実験の対象。[4]
毎分90回転・最大有酸素パワーの60%:同実験でそろえた運動条件。[4]
86%・57%増加:引き上げ条件での上昇局面の有効性の変化。体脂肪の減少率ではない。[4]
9%・3.3%低下:同条件での正味機械効率の変化。有効性とは方向が違った。[4]
45分:別の比較実験で、こぎ方と疲労の関係を調べた運動時間。推奨時間を表す数字ではない。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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