筋力トレーニングと気分の関係を数字で議論できるようになったのは、2017年から2018年にかけてです。無作為化比較試験(参加者をくじ引きのように割り付けて比べる試験)だけを集めて数値を統合したメタアナリシスが、不安とうつ症状のそれぞれについて初めて公表されました。以後この2本を土台に、偽のトレーニングを対照に置いた試験や、心理療法・抗うつ薬と同じ土俵で比べる解析まで積み上がっています。
ここではその数字を、都合の良い部分だけを抜き出さずに読みます。結論を先に述べると、筋力トレーニングはうつ症状に対して中程度、不安に対して小から中程度の効果を示すが、割り付けや評価を盲検化した試験では効果が小さくなり、低強度の偽トレーニングと比べた試験では差が確認されていない——これが現時点での最も正確な要約です。効果の何割かは「鍛えている」という期待に由来する可能性があり、それを差し引いて残る分がどれほどかは、まだ確定していません。
うつ症状——33試験を統合した効果量
出発点は、アイルランドのリムリック大学のグループが2018年に JAMA Psychiatry に発表したメタアナリシスです。筋力トレーニング群と、運動をしない対照群とを比べた無作為化比較試験だけを集めています。
Gordon BR, McDowell CP, Hallgren M, Meyer JD, Lyons M, Herring MP. Association of Efficacy of Resistance Exercise Training With Depressive Symptoms: Meta-analysis and Meta-regression Analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Psychiatry. 2018;75(6):566–576.
33試験・1,877名(筋力トレーニング群947名、非活動対照群930名)から54個の効果が得られ、統合した効果量はΔ=0.66(95%CI 0.48〜0.83)でした。Δ は Hedges の d と呼ばれる標準化された差で、0.2 が小、0.5 が中、0.8 が大というのが慣用的な目安です。0.66 は中程度にあたります。治療必要数(NNT:1人に改善をもたらすために何人が取り組む必要があるか)は4でした。
注目すべきは、著者らがあらかじめ設定した4つの調整因子の結果です。処方されたトレーニングの総量、参加者が健康か疾患を持つか、筋力が有意に向上したかどうか——このいずれも効果の大きさと関連しませんでした。「重いものを挙げて強くなったから気分が良くなった」という筋書きは、データからは支持されていません。
関連したのは4つ目の因子だけでした。割り付けか評価のいずれかを盲検化した試験では、うつ症状の減少が小さかったのです。異質性(試験ごとの結果のばらつき)も I²=76.0% と大きい値でした。
不安——効果は小さく、疾患があると半分以下
同じグループは前年、不安について同じ手法の解析を Sports Medicine に発表しています。
Gordon BR, McDowell CP, Lyons M, Herring MP. The Effects of Resistance Exercise Training on Anxiety: A Meta-Analysis and Meta-Regression Analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Medicine. 2017;47(12):2521–2532.
16報・922名で、効果量はΔ=0.31(95%CI 0.17〜0.44)。うつ症状の半分以下の大きさです。異質性は I²=28.3% と小さく、ばらつきの77.7%は標本誤差で説明できました。不安への効果は「小さいが安定している」と言えます。
ただし内訳を見ると、健康な参加者ではΔ=0.50(95%CI 0.22〜0.78)、身体的または精神的な疾患を持つ参加者ではΔ=0.19(95%CI 0.06〜0.31)でした。不安を最も減らしたい人ほど、効果は小さかったことになります。性別、年齢、期間、頻度、強度、筋力の向上のいずれも効果と関連しませんでした。
| 症状 | 試験数・人数 | 効果量(95%CI) | 異質性 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| うつ症状(Gordon 2018) | 33試験・1,877名 | Δ=0.66(0.48〜0.83) | I²=76.0% | NNT 4。盲検化した試験で小さい |
| 不安(Gordon 2017) | 16報・922名 | Δ=0.31(0.17〜0.44) | I²=28.3% | 健康な人 0.50、疾患のある人 0.19 |
診断のあるうつ病では数字が大きくなる——その理由
臨床的にうつ病と診断された成人に限るとどうか。Chang らの2025年のメタアナリシスは29試験・2,036名を統合し、SMD(標準化平均差)=−0.94(95%CI −1.16〜−0.72)という大きな効果を報告しました。うつ病が主診断の集団で −1.12、他の疾患に併存するうつで −0.66 と集団によって差があり、異質性は I²≒80% でした。
Chang Y, Wang H, Zhang X, Shan S, Liu H. Resistance training for depression: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Frontiers in Psychology. 2025;16:1655855.
一方、Noetel らが2024年に BMJ に発表したネットワークメタアナリシス(複数の治療を同じ網のなかで比べる手法)は、大うつ病の基準を満たす参加者の218試験・14,170名を解析し、筋力トレーニングの効果を g=−0.49(95%信用区間 −0.69〜−0.29、643名・22試験)と見積もっています。
−0.94 と −0.49。同じ「うつ病患者の筋力トレーニング」でこれだけ違うのは、比較の相手が違うからです。前者は運動をしない対照との比較、後者は通常治療やプラセボ錠剤などの「能動的対照」との比較です。対照群が何かをしてもらえるほど、差は縮みます。
偽のトレーニングを相手にすると差が消える
この問題を正面から扱ったのが、2018年のメタアナリシスと同じグループによる偽トレーニング対照試験です。
O’Sullivan D, Rice JM, Lyons M, Gordon BR, Herring MP. Resistance exercise training compared to a low-intensity sham for depressive symptoms in young women with analogue generalized anxiety disorder: A randomized controlled trial. Journal of Affective Disorders. 2026;413:122228.
全般性不安症に相当する症状を持つ18〜40歳の女性55名を、8週間の中〜高強度(1RM=1回だけ挙げられる最大重量の70〜80%)の筋力トレーニング群と、同じ8種目を 20% 1RM で行う低強度の偽トレーニング群に割り付けました。うつ症状(QIDS)の群間差は d=0.17(95%CI −0.36〜0.70)。両群とも大きく改善し(群内の SMD は 1.53 と 1.04)、1か月後も維持されていました。
同じグループが2023年に発表した、待機リストを対照とした試験では、週2回・8週間の筋力トレーニングで d=1.01(95%CI 0.44〜1.57)という大きな群間差が出ています。同じ研究室、同じ8週間、同じ設計思想で、相手が「何もしない群」なら d=1.01、「軽い重さで同じことをする群」なら d=0.17。
著者らは高強度群の群内改善が大きい点に「より大きな利益の可能性」を残していますが、群間差は確認されていません。読み方は2通りあります。低強度でも十分に効くのか、それとも「トレーニングに通っている」という期待と注目そのものが効いているのか。偽トレーニングは注目と期待を揃えるための設計であり、後者の可能性は消えていません。Noetel らの解析も、参加者と実施者を盲検化した試験がほとんどなく、Cochrane の基準で低リスクと判定されたのは1試験だけで、筋力トレーニングを含む大半の種目の確実性を「非常に低い」と評価しています。
心理療法・抗うつ薬と並べるとどうか
それでも筋力トレーニングを治療の選択肢に数える理由は、比較対象にあります。Noetel らは同じ網のなかで心理療法と SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)も見積もっており、能動的対照に対して心理療法は g=−0.55(712名・20試験)、SSRI は g=−0.26(432名・16試験)でした。筋力トレーニングの −0.49 はその間に位置します。著者らはこの解析が心理療法や薬の試験を網羅する設計ではないと断っており、優劣の判定には使えませんが、桁が違うわけではありません。
| 比較(Noetel 2024、能動的対照に対して) | 人数・試験数 | Hedges の g(95%信用区間) |
|---|---|---|
| 筋力トレーニング | 643名・22試験 | −0.49(−0.69〜−0.29) |
| 心理療法のみ | 712名・20試験 | −0.55(−0.75〜−0.37) |
| SSRI | 432名・16試験 | −0.26(−0.50〜−0.01) |
| 臨床的に意味のある最小差の目安 | — | −0.20 |
ガイドラインの位置づけも同じ論理です。カナダの気分・不安障害治療ネットワーク(CANMAT)の2016年版ガイドラインは、補完・代替療法の章で運動を扱っています。
Ravindran AV, Balneaves LG, Faulkner G, et al. Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2016 Clinical Guidelines for the Management of Adults with Major Depressive Disorder: Section 5. Complementary and Alternative Medicine Treatments. Canadian Journal of Psychiatry. 2016;61(9):576–587.
軽症から中等症の大うつ病では運動を第一または第二選択に、中等症から重症では既存の治療への追加として第二選択に置いています。ただし研究の方法論的限界と、長期成績のデータ不足を明記した上での推奨です。ここで言う運動は運動全般であり、筋力トレーニングに限った推奨ではありません。
続けられるか——脱落率と有害事象
うつ病の人を対象とした運動試験40本(1,720名)を統合した解析では、出版バイアスを補正した脱落率は18.1%(95%CI 15.0〜21.8%)でした。
Stubbs B, Vancampfort D, Rosenbaum S, et al. Dropout from exercise randomized controlled trials among people with depression: A meta-analysis and meta regression. Journal of Affective Disorders. 2016;190:457–466.
29試験の比較では運動群の脱落は対照群より少なく(OR=0.642、95%CI 0.43〜0.95)、ベースラインの症状が重いほど脱落が多く、理学療法士や運動生理学者が監督した介入では脱落が少ないという関連が見られました。Vancampfort らによる不安症・ストレス関連障害の14試験(369名)の解析では脱落率は22.4%(95%CI 15.0〜32.0%)で、対照群と同程度(OR=0.84)でした。Noetel らの解析でも、筋力トレーニングは能動的対照より脱落の確率が低く(OR 0.55、95%信用区間 0.31〜0.99)、ヨガと並んで最も受け入れられやすい種目とされています。
有害事象は一貫して軽微です。Chang らの解析では、有害事象を記録した14試験の内容は一過性の筋肉痛や疲労で、重篤な運動関連の事象の報告はなく、9試験は有害事象ゼロと明記していました。診断のあるうつ病患者の無作為化比較試験7本を検討した Augustin らのドイツの総説も、重篤な有害事象はなかったと報告しています。ただし同じ総説は、26か月後まで効果が持続した試験の継続率が33%だったことも記しています。長く続けられるかどうかは、効果とは別の問題です。
この証拠から何が言えるか
- 筋力トレーニングのうつ症状への効果は中程度(Δ=0.66、NNT 4)、不安への効果は小から中程度(Δ=0.31)で、疾患のある人では不安への効果は 0.19 まで下がる。
- トレーニングの量、強度、筋力が伸びたかどうかは、いずれの解析でも効果の大きさと関連しない。「強くなるほど効く」とは言えない。
- 盲検化した試験では効果が小さく、偽トレーニングと比べた試験では群間差が確認されていない。効果の一部は期待と注目に由来する可能性が高い。
- それでも能動的対照に対する効果量は心理療法と SSRI の間にあり、有害事象は軽微、脱落は対照群より少ない。ガイドラインが軽症から中等症で選択肢に含める根拠はここにある。
- 確実性の評価は「低い」から「非常に低い」で、追跡期間は多くが介入直後まで。長期に何が起きるかは分かっていない。
逆に言えば、気分の落ち込みや不安を抱えている人にとって筋力トレーニングは「試す価値のある選択肢の一つ」であり、「他の治療の代わりになる方法」ではありません。低強度の偽トレーニングでも同程度に改善したという結果は、重さを追う必要はないとも読めます。続けられる形で身体を動かすことのほうが、負荷の設定より先に来る——研究が示しているのは、そういう地味な結論です。
医療機関に相談すべき場合
ここまでの試験の多くは、症状が軽度から中等度の人、あるいは診断基準を満たさない「症状のある人」を対象にしています。気分の落ち込みや興味の喪失が2週間以上ほぼ毎日続く、眠れない・食べられない状態が続く、仕事や家事に支障が出ている、死にたい気持ちがある——こうした場合は、運動の前に精神科・心療内科での評価が必要です。すでに治療中の人が運動を加えるときは、主治医と相談するのがガイドラインの想定する形です。
出典
- Gordon BR, McDowell CP, Hallgren M, Meyer JD, Lyons M, Herring MP. Association of Efficacy of Resistance Exercise Training With Depressive Symptoms: Meta-analysis and Meta-regression Analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Psychiatry. 2018;75(6):566–576.
- Gordon BR, McDowell CP, Lyons M, Herring MP. The Effects of Resistance Exercise Training on Anxiety: A Meta-Analysis and Meta-Regression Analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Medicine. 2017;47(12):2521–2532.
- O’Sullivan D, Rice JM, Lyons M, Gordon BR, Herring MP. Resistance exercise training compared to a low-intensity sham for depressive symptoms in young women with analogue generalized anxiety disorder: A randomized controlled trial. Journal of Affective Disorders. 2026;413:122228.
- O’Sullivan D, Gordon BR, Lyons M, Meyer JD, Herring MP. Effects of resistance exercise training on depressive symptoms among young adults: A randomized controlled trial. Psychiatry Research. 2023;326:115322.
- Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847.
- Chang Y, Wang H, Zhang X, Shan S, Liu H. Resistance training for depression: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Frontiers in Psychology. 2025;16:1655855.
- Augustin N, Bendau A, Heuer S, Kaminski J, Ströhle A. Resistance Training in Depression. Deutsches Ärzteblatt International. 2023;120(45):757–762.
- Stubbs B, Vancampfort D, Rosenbaum S, et al. Dropout from exercise randomized controlled trials among people with depression: A meta-analysis and meta regression. Journal of Affective Disorders. 2016;190:457–466.
- Vancampfort D, Sánchez CPR, Hallgren M, et al. Dropout from exercise randomized controlled trials among people with anxiety and stress-related disorders: A meta-analysis and meta-regression. Journal of Affective Disorders. 2021;282:996–1004.
- Ravindran AV, Balneaves LG, Faulkner G, et al. Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2016 Clinical Guidelines for the Management of Adults with Major Depressive Disorder: Section 5. Complementary and Alternative Medicine Treatments. Canadian Journal of Psychiatry. 2016;61(9):576–587.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。気分の落ち込みや不安が2週間以上続く方、眠れない・食べられない状態が続く方、死にたい気持ちがある方は、運動を始める前に精神科・心療内科などの医療機関にご相談ください。すでに治療中の方は主治医とご相談ください。

