年齢とともに筋肉は減ります。筋肉量は40代から年に1%前後ずつ減り、筋力の低下はそれより速いと言われます。この状態が進んで日常生活に支障が出るとサルコペニアと呼ばれ、転倒、骨折、要介護の入口になります。「筋肉を落とさないために運動を」という助言は正しく、その運動としてピラティスが勧められることも多い。

では、ピラティスで高齢者の筋力は本当に上がるのか。この問いには、2021年から2024年の間に4本のメタアナリシスが答えていて、しかもその答えが割れています。 2021年の解析は「筋力に中程度の効果、確実性は中」と結論し、2024年の解析は「対照との有意差なし、推奨する根拠は不十分」と結論しました。この記事では、なぜ同じ問いに逆の答えが出るのかを読み解き、その上で一貫している結論——他の運動と比べて優れても劣ってもいない——を確認します。

要点(結論から)

  • 「ピラティスで筋力が上がる」と単純には言えない。 対照との比較は解析によって結論が割れ、最新の解析は推奨を保留している。
  • 他の運動より優れているという根拠はなく、劣っているという根拠もない。 これは4本すべてで一貫している。
  • 筋肉量と最大筋力が目的なら、漸進的レジスタンストレーニングとたんぱく質摂取が第一選択。 ピラティスはその代わりにならない。

「筋力」は一つの指標ではない

数字を読む前に、筋力の測り方を整理しておく必要があります。メタアナリシスの結果が割れる原因の多くは、ここにあるからです。

  • 最大筋力:1回だけ持ち上げられる最大重量(1RM)や、動かさずに発揮できる最大の力(等尺性筋力)。筋肉の断面積と神経の動員能力を反映する。
  • 筋持久力:30秒間に何回椅子から立ち座りできるか、腕を何回曲げ伸ばしできるか。最大筋力より、繰り返しに耐える能力を反映する。
  • 筋パワー:力と速度の積。階段を上る、転びかけて踏みとどまる、といった素早い動作に関わる。高齢者の生活機能と最もよく相関するとされる。

「ピラティスで筋力が上がった」という研究の多くは、実際には30秒椅子立ち上がりのような筋持久力の指標を使っています。これを「筋力」と呼んで統合するか、「持久力」として分けて統合するかで、メタアナリシスの結論は変わります。

2021年——「筋力に中程度の効果」

Fernández-Rodríguez R, Álvarez-Bueno C, Ferri-Morales A, Torres-Costoso A, Pozuelo-Carrascosa DP, Martínez-Vizcaíno V. Pilates improves physical performance and decreases risk of falls in older adults: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy. 2021;112:163–177.

60歳以上を対象にした39件の無作為化比較試験を統合した、この分野で最も規模の大きい解析です。結果は次のとおりでした。

評価項目効果量(95%信頼区間)確実性
筋力0.63(0.44〜0.81)
転倒リスク0.90(0.41〜1.38)
機能0.51(0.32〜0.72)
柔軟性0.41(0.16〜0.67)
バランス0.36(0.21〜0.50)

筋力の効果量 0.63 は「中程度」に分類され、信頼区間は0から離れています。確実性も「中」で、この表の中では転倒リスクと並んで最も信頼できる項目です。著者らは、ピラティスが高齢者の日常生活の自立を支えうると結論しています。

2024年——「対照との有意差なし」

Oliveira LS, de Oliveira RG, da Silva TQ, Gonzaga S, de Oliveira LC. Effects of pilates exercises on strength, endurance and muscle power in older adults: Systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2024;39:615–634.

3年後、別の研究グループが24件の無作為化比較試験、1,190名を対象に、筋力・筋持久力・筋パワーを分けて統合しました。

評価項目比較効果量(95%信頼区間)
筋力vs 対照SMD 1.18(−0.71〜3.08)93%
筋力vs 他の運動SMD 0.01(−0.46〜0.48)0%
筋持久力(上肢)vs 対照MD 4.87(2.38〜7.36)88%非常に低い
筋持久力(下肢)vs 他の運動MD 2.68(0.26〜5.10)87%非常に低い

対照と比べた筋力の点推定値は 1.18 と大きいのに、信頼区間は −0.71 から 3.08 まで広がり、ゼロをまたいでいます。I² は 93%。つまり研究ごとに結果がまるで違い、平均値には意味がないという状態です。著者らの結論は明快で、「筋力・持久力・パワーを改善する手段としてピラティスを推奨することは、現時点では妥当でない」。

なぜ結論が逆になるのか

同じ集団、重なる研究群、3年の差。それでも結論が逆になる理由は、少なくとも3つ考えられます。

1. 「筋力」に何を含めたか

2021年の解析は「筋力」という広い枠で統合し、そこには椅子立ち上がりのような持久力の指標も入っていた可能性が高い。2024年の解析は筋力と持久力を分けました。分けると、筋力単独では研究数が減り、しかも結果がばらつく。効果量 0.63 と「有意差なし」は、測っているものが違う可能性があります。

2. ばらつきをどう扱ったか

2024年の I² = 93% は、統合された研究の中に、極端に大きな効果を報告した研究と、効果のなかった研究が混在していることを示します。この状態で点推定値を信じるべきではない、というのが2024年の著者らの立場です。一方、同じ研究群を統合しても、統合の方法や外れ値の扱いが違えば、信頼区間の幅は変わります。

3. 「質」の判定

2021年は筋力の確実性を「中」と評価し、2024年は「低」としました。研究の質の判定基準は解析ごとに異なり、これが確実性の評価を左右します。同じ研究を読んでも、盲検化の不備をどこまで減点するかで結論は変わります。

どちらが正しいかを、この2本だけから決めることはできません。しかし、より新しく、指標を細かく分け、ばらつきを厳しく扱った2024年の解析が「推奨できない」と述べている事実は、2021年の「中程度の効果」を割り引いて読む理由になります。

一貫している結論——他の運動と同等

結論が割れているのは「対照との比較」です。「他の運動との比較」については、どの解析も同じことを言っています。

Pinto JR, Santos CS, Soares WJS, Ramos APS, Scoz RD, de Júdice AFT, Ferreira LMA, Mendes JJB, Amorim CF. Is pilates better than other exercises at increasing muscle strength? A systematic review. Heliyon. 2022;8(11):e11564.

この解析は、題名どおり「ピラティスは他の運動より筋力を増やすか」という一点に絞っています。11研究、689名(ピラティス354名、他の運動335名)、平均年齢 60±19歳。比較相手は筋力トレーニング、ストレッチ、ヨガ、水中運動、バランス訓練、振動板、チューブ、マッケンジー法など多岐にわたります。

筋力の種類SMD(95%信頼区間)判定
動的筋力−0.29(−0.69〜0.10)差なし
等尺性筋力0.20(−0.06〜0.47)差なし
抵抗性筋力−0.19(−0.46〜0.07)差なし

3種類の筋力すべてで、信頼区間がゼロをまたいでいます。バランスと柔軟性も同様に差なし。著者らの結論は「ピラティスと他の運動様式の間に差がないという、非常に低い〜低いエビデンスがある」です。

2024年の解析でも、他の運動との筋力の比較は SMD 0.01(−0.46〜0.48)、I² = 0%、質は「中」でした。ゼロに限りなく近く、研究間のばらつきもなく、確実性は中。 この4本の中で最も安定した数字が、「他の運動と同じ」という結果である点は皮肉ですが、重要です。

では、高齢者の筋力低下にどう向き合うか

サルコペニアの予防と治療で最も根拠が厚いのは、漸進的レジスタンストレーニング——重量や回数を段階的に増やしていく筋力トレーニング——と、十分なたんぱく質の摂取です。この2つの組み合わせが、筋肉量と筋力の両方を動かすことは繰り返し示されています。

ピラティスの動作は、自重を使い、ゆっくりと制御された動きで行われます。筋肉の制御と持久力には優れた刺激ですが、最大筋力を伸ばすには負荷が足りない可能性があります。2024年の解析で、筋持久力には対照との差が出て、筋力には出なかったという分かれ方は、この性質と整合します。

したがって整理はこうなります。筋肉量と最大筋力を守りたいなら、負荷を段階的に上げられるレジスタンストレーニングが第一選択で、ピラティスはその代わりにはならない。一方、転倒リスク、バランス、機能、続けやすさを含めて考えるなら、ピラティスは高齢者の運動として十分に選択肢に入る。2021年の解析で最も大きな効果量が出たのは転倒リスク(0.90)であり、これはシリーズの高齢者向け記事で見た結果とも一致します。

もう一つの視点——TUG の0.92秒

Metz VR, Scapini KB, Dias Gomes AL, Andrade RM, Brech GC, Alonso AC. Effects of pilates on physical-functional performance, quality of life and mood in older adults: Systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;28:502–512.

もう一本、2021年の解析(24試験、897名)は、Timed Up and Go テストで 0.92秒 の短縮(95%信頼区間 −1.67〜−0.17、6試験)を報告しています。椅子から立って3m歩いて戻るまでの時間が約1秒縮まる。小さく見えますが、この検査は転倒リスクの予測に使われる指標で、秒単位の変化が意味を持ちます。ただし I² は 62% で、ここでも研究間のばらつきは小さくありません。

この結果の使い方

  1. 「ピラティスで筋力が上がる」と単純には言えない。 対照との比較は解析によって結論が割れ、最新の解析は推奨を保留している。
  2. 他の運動より優れているという根拠はなく、劣っているという根拠もない。 これは4本すべてで一貫している。
  3. 筋肉量と最大筋力が目的なら、漸進的レジスタンストレーニングとたんぱく質摂取が第一選択。 ピラティスはその代わりにならない。
  4. 転倒リスク・バランス・機能を含めた総合的な目的なら、選択肢に入る。 最も一貫した効果はそこにある。
  5. 「筋力」「持久力」「パワー」を区別して読む。 研究の多くが測っているのは持久力である。
  6. すでにサルコペニアや虚弱の診断がある人は、医師と理学療法士の関与のもとで運動を選ぶ。 研究の対象は主に健康な高齢者である。

出典

  1. Fernández-Rodríguez R, Álvarez-Bueno C, Ferri-Morales A, Torres-Costoso A, Pozuelo-Carrascosa DP, Martínez-Vizcaíno V. Pilates improves physical performance and decreases risk of falls in older adults: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy. 2021;112:163–177.
  2. Oliveira LS, de Oliveira RG, da Silva TQ, Gonzaga S, de Oliveira LC. Effects of pilates exercises on strength, endurance and muscle power in older adults: Systematic review and meta-analysis. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2024;39:615–634.
  3. Pinto JR, Santos CS, Soares WJS, Ramos APS, Scoz RD, de Júdice AFT, Ferreira LMA, Mendes JJB, Amorim CF. Is pilates better than other exercises at increasing muscle strength? A systematic review. Heliyon. 2022;8(11):e11564.
  4. Metz VR, Scapini KB, Dias Gomes AL, Andrade RM, Brech GC, Alonso AC. Effects of pilates on physical-functional performance, quality of life and mood in older adults: Systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2021;28:502–512.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。サルコペニアや虚弱の診断を受けている方、転倒の既往がある方は、運動を始める前に主治医や理学療法士にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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