肩こりや首の痛みは、デスクワークの多い人にとって最も身近な不調のひとつです。ピラティスは体幹と姿勢に働きかける運動なので、首にも良いはずだ——そう考えるのは自然です。

この期待に対して、2025年に公表されたメタアナリシスが出した答えは、素直ではありませんでした。ピラティスは「何もしない」より良いが、「他の運動」と比べると、痛みについてはむしろ他の運動のほうが良かったのです。この記事では、その数字を正確に読み、なぜそうなるのかを運動処方の原則から考えます。

「慢性頸部痛」とは何を指すか

研究を読む前に、対象が何なのかを押さえておく必要があります。首の痛みは原因が多岐にわたり、それによって適切な対応がまったく変わるからです。

研究で扱われるのは、多くの場合非特異的慢性頸部痛です。「非特異的」とは、画像や検査で痛みの原因を特定できる明確な病変(骨折、腫瘍、感染、神経根の明らかな圧迫、重大な炎症性疾患など)が見つからない、という意味です。つまり「原因不明」ではなく、「重篤な原因が除外されている」という積極的な分類です。

頸部痛は世界的にも有病率が高く、生涯のどこかで経験する人が多数を占めます。腰痛と同様、多くは数週間で軽快しますが、一部は慢性化します。慢性化した場合、画像所見と症状の強さが対応しないことがよく知られており、これが「姿勢を直せば治る」という単純な図式が支持されにくい理由のひとつです。

一方で、次のような症状を伴う場合は非特異的頸部痛とは扱われません。手や腕のしびれ・脱力、歩行の不安定さ、細かい手作業がしにくくなる、排尿の異常、発熱や体重減少、外傷後の痛み、これまでに経験したことのない激しい頭痛。これらは神経根症や脊髄症、あるいは他の疾患を示唆する所見で、運動療法を検討する前に医学的な評価が必要な領域です。研究に組み入れられるのは、こうした所見が除外された人たちです。

何をどう測っているのか

数字を読むには、その数字が何の尺度なのかを知る必要があります。

痛みの尺度

多くの研究は 0〜10 の数値評価スケール(NPRS)か、100mmの線上に印をつける視覚アナログスケール(VAS)を使います。0が「痛みなし」、最大値が「想像できる最悪の痛み」です。本稿の表にある「−1.49」は、この0〜10前後の尺度における群間差だと理解してください。

ただし痛みの自己申告には固有の性質があります。同じ組織の状態でも、睡眠、気分、その日の活動量、痛みへの不安の強さによって報告値は動きます。運動療法の試験では参加者を盲検化できないため、「自分は治療を受けている」という認識そのものが報告値に影響します。この影響を完全に取り除く方法は、現時点では存在しません。

障害の尺度

障害の評価には、頸部障害指数(NDI)のような質問票が使われます。痛みの強さだけでなく、読書、運転、睡眠、仕事、集中、頭痛といった項目ごとに支障の度合いを答え、合計点を算出します。

痛みと障害を分けて測る理由は明確です。痛みが同じでも、生活への影響は人によって大きく違うからです。慢性痛の管理では、痛みをゼロにすることより、痛みがあっても生活が回るようにすることが現実的な目標になる場面が多く、障害の指標はその達成度を捉えます。本稿の結果で、痛みより障害のほうが一貫した改善を示していることは、この観点から見ると重要です。

何が調べられたのか

Lazoura E, Savva C, Ploutarchou G, Papacharalambous C, Christofi I, Rentzias P, Karagiannis C. Effectiveness of the pilates method in patients with chronic neck pain: a systematic review with meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2025;26:629.

対象は慢性頸部痛——3か月以上続く首の痛みです。8件の無作為化比較試験、合計439名が統合されました。内訳は、ピラティスと他の運動を比べた研究が125名分、ピラティスと対照(無介入や通常ケア)を比べた研究が314名分です。

評価されたのは主に2つ。痛み障害(disability)です。障害とは「首の痛みのせいで日常生活のどれだけができなくなっているか」を測るもので、頸部障害指数(NDI)のような質問票が使われます。痛みが同じでも、生活への影響は人によって違うため、両方を測るのが標準です。

対照との比較——ここは期待どおり

まず、運動をしない対照群との比較から見ます。

評価項目時点効果量(95%信頼区間)確実性
痛み介入直後−1.49(−1.78〜−1.20)90%非常に低い
痛み追跡時−2.54(−3.28〜−1.80)53%
障害介入直後−3.73(−4.80〜−2.66)58%
障害追跡時−5.64(−7.87〜−3.41)0%

いずれもピラティス側に有利で、信頼区間も0をまたいでいません。しかも追跡時点のほうが差が大きくなっている——介入直後の痛みが −1.49 なのに対し、追跡時は −2.54。障害も −3.73 から −5.64 へ広がっています。

これは運動療法としては良い兆候です。多くの介入は終了後に効果が薄れますが、ここでは逆に開いている。追跡時点のデータが2研究だけなので過大評価には注意が必要ですが、確実性は「中」と比較的高く評価されています。

I² = 90% が意味すること

ただし介入直後の痛みには I² = 90% という数字がついています。I²(アイ二乗)は研究間のばらつきの度合いを示す指標で、0%に近いほど研究どうしの結果が揃っていることを意味します。一般に50%を超えると異質性が大きいとされ、90%は「研究ごとに結果がまるで違う」水準です。

結果が揃っていない複数の研究を平均しても、その平均値が何を指すのかは曖昧になります。だからこの項目の確実性は「非常に低い」と評価されました。効果量が −1.49 と大きく見えても、そのまま受け取れないのはこのためです。

逆に、追跡時点の障害は I² = 0% で研究間のばらつきがなく、確実性も「中」。この数字のほうが、実は信頼できる材料です。

8研究439名という規模

統合された規模にも触れておきます。439名は、運動療法のメタアナリシスとしては小さくありません。しかし内訳を見ると、他の運動との比較に使えたのは125名分です。8件の研究がそれぞれ数十名規模で、対照の種類も評価時点もばらついています。

この規模では、サブグループごとの検討——年齢、痛みの持続期間、仕事の内容、併存する肩や腰の症状——はほとんどできません。つまり「どういう人にピラティスが向いているか」は、このデータからは分からないということです。平均値は平均値以上の情報を持ちません。

「ピラティス」の中身が研究ごとに違う

もうひとつ、統合の前提に関わる問題があります。8件の研究が「ピラティス」と呼んでいる介入の中身は、同一ではありません。

マットのみで行うものと、リフォーマーなどの器具を使うもの。頻度の低いものと高いもの。期間の短いものと長いもの。理学療法士が臨床的に調整した「クリニカル・ピラティス」と、一般のスタジオ形式のクラス。これらがひとつの「ピラティス」として平均されています。

この異質性は、介入直後の痛みで I² = 90% という数字に表れている可能性があります。もし研究ごとに中身が違うことが原因なら、平均値を改善しようとするより、「どの形式が、どの条件で効いたのか」を分けて調べるほうが、次に進む道としては筋が通っています。 現状はその手前の段階です。

他の運動との比較——結果が反転する

問題はここからです。比較の相手を「他の運動」に変えると、結論が変わります。

評価項目時点効果量(95%信頼区間)解釈
痛み介入直後+0.50(0.18〜0.83)他の運動のほうが良い
痛み追跡時−0.40(−1.40〜0.60)差なし(1研究のみ)
障害介入直後−1.31(−0.47〜2.16)差なし
障害追跡時−1.30(−4.45〜1.85)差なし(1研究のみ)

介入直後の痛みは +0.50——符号がプラスです。つまりピラティス群のほうが痛みが強く残ったことを意味します。信頼区間は 0.18〜0.83 で0をまたいでおらず、統計的には有意です。I² も 29% と低く、研究間のばらつきは小さい。

レビューの著者らは「他の運動を支持する、緩やかな痛みの低減(modest reduction in pain favoring other exercises)」と表現しています。確実性は「低」なので断定はできませんが、少なくとも「ピラティスのほうが優れている」という主張は、このデータからは出てきません。

障害については、いずれの時点でも信頼区間が0をまたいでおり、差はありません。

なぜ他の運動のほうが良かったのか

この結果は、運動生理学の基本原則から見ると、実はそれほど意外ではありません。

特異性の原則

トレーニングには特異性の原則(principle of specificity)があります。鍛えたい能力に対応した刺激を与えなければ、その能力は変わらない、という原則です。首の痛みを減らしたいなら、首とその周囲に直接働きかける運動のほうが、体幹全体に働きかける運動より効率が良い——それだけのことかもしれません。

慢性頸部痛に対しては、深層頸屈筋のトレーニング頸部・肩甲帯の持久力トレーニングが古くから研究され、比較対照として使われてきました。これらは首という部位に的を絞った処方です。一方、ピラティスの標準的なクラスは骨盤・腰椎・股関節を中心に構成され、頸部は「良い位置に保つ」対象であって、主たる負荷の対象ではありません。

「良い姿勢にすれば首が楽になる」という前提

ピラティスが首に効くはずだという期待の根拠は、多くの場合「姿勢が良くなれば首への負担が減る」という推論です。しかしこの前提自体が、近年の疼痛研究では以前ほど自明とは見なされなくなっています。

頭部前方位(いわゆるストレートネックや猫背の姿勢)と頸部痛の関連を調べた研究は多数ありますが、関連の強さは一貫せず、姿勢を矯正すれば痛みが減ることを示した質の高い介入研究は限られています。姿勢は痛みを説明する要因のひとつではあっても、唯一の要因でも最大の要因でもない——というのが現在の理解に近い立場です。

それでも対照より良いという事実

一方で、対照との比較ではピラティスが明確に上回っています。これは「首に特化していなくても、身体を動かすこと自体に価値がある」ことを示しています。

慢性痛の管理では、どの運動をするかより、運動を続けられるかのほうが結果を左右するという見方が広く共有されています。首の運動だけを毎日続けるのは退屈で、脱落しやすい。全身を使うクラス形式のほうが通い続けられる人もいる。そうした「続けやすさ」は効果量には表れませんが、実際の結果には表れます。

デスクワークとの関係をどう考えるか

この記事を読む人の多くは、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用と首の不調を結びつけて考えているはずです。この点についても、研究が示していることと示していないことを分けておきます。

作業姿勢と頸部症状の関連を調べた職域の研究は多く、長時間の同一姿勢が症状の訴えと関連することは繰り返し報告されています。ただし、関連が観察されることと、姿勢を変えれば症状が消えることは別です。職場での人間工学的介入(椅子や画面の高さの調整など)を検証した研究では、効果は一貫せず、限定的なものが多いという評価が一般的です。

むしろ一貫して示されているのは、同じ姿勢を続ける時間そのものが負担になるという方向です。どんな姿勢であれ長時間動かなければ、組織にかかる負荷は蓄積します。この観点からすると、「正しい姿勢を保つ」ことより「定期的に姿勢を変え、身体を動かす」ことのほうが理にかなっています。

ピラティスが役に立ちうるとすれば、この文脈です。週に1〜2回の運動そのものが直接デスクワークの負荷を打ち消すわけではありませんが、可動域を広く保ち、身体を動かす習慣を維持する手段としての意味はあります。ただしそれは「首に効くから」ではなく、「動く機会を作るから」という理由であり、この2つは区別しておく必要があります。

この結果の使い方

整理すると、慢性頸部痛に対するピラティスの位置づけは次のようになります。

  1. 何もしないよりは良い。 痛みも障害も改善し、追跡時点ではむしろ差が広がる。
  2. 他の運動より優れているという根拠はない。 痛みについては、むしろ他の運動のほうが良かった(MD +0.50、確実性 低)。
  3. 介入直後の痛みのデータは研究間のばらつきが極端に大きい(I² = 90%)。数字をそのまま信じてはいけない。
  4. 障害については、追跡時点のデータが最も信頼できる(I² = 0%、確実性 中)。

したがって、首の痛みを主訴として運動を選ぶなら、首に的を絞った運動指導を受けることが第一候補になります。ピラティスはその代わりではなく、全身を動かす習慣として併せて行うものと位置づけるのが、現在のエビデンスに整合的です。

報告されていないこと

最後に、このレビューが報告していない項目にも触れておきます。有害事象についての記載がありません。

これは「安全だった」という意味ではなく、「調べられていない、あるいは報告されていない」という意味です。運動療法の試験では有害事象の収集方法があらかじめ定められていないことが珍しくなく、頸部という部位の性質上、めまいや上肢のしびれといった症状の有無は本来記録されるべき情報です。

首の痛みに手足のしびれ・脱力・強い頭痛・めまいを伴う場合は、運動の前に医療機関での評価が必要です。それは効果量の議論以前の問題です。

出典

  1. Lazoura E, Savva C, Ploutarchou G, Papacharalambous C, Christofi I, Rentzias P, Karagiannis C. Effectiveness of the pilates method in patients with chronic neck pain: a systematic review with meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2025;26:629.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。首の痛みに手足のしびれ・脱力・強い頭痛・めまいを伴う場合は、速やかに医療機関にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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