激しい運動で生理が遅れるのはなぜか。総説は運動にともなう乱れを黄体期の不全や無排卵から無月経までの幅で示し、主な道筋を運動に見合うだけ食べていないことに置く。ノルウェーの代表選手の全国調査、男性ホルモンの高い選手の一群、骨とけがの研究も読む。
大会まで3週間。走る日を増やし、帰りの電車でスマホの記録を見返す日が続く。カレンダーの生理の予定日は先週だった。まだ来ない。体を動かしすぎたせいなのか、それとも別の理由なのか。
運動にともなう生理の乱れには、無月経(生理が来ない)、希発月経(生理の間隔が長くあく)、無排卵、黄体期の不全(排卵の後の期間の働きが足りない状態)、初経の遅れという幅があり、活動的な女性に多いと総説はまとめている[16]。無月経はその最も極端な形で、ほかの形でもエストロゲンが下がり、骨と妊娠する力に響きうる[16]。運動する女性の生理の乱れの主な道筋とされるのは、運動に使ったエネルギーの分を食事で埋め合わせられず、それが生殖の働きを抑えることで、エネルギーの不足が無月経を引き起こす原因の役割を持つという証拠は増えている[17]。
ただし、「激しさ」の一語では片づかない。ノルウェーの代表選手と同年代の対照を比べた全国の調査では、今の生理の乱れを報告した割合は選手16.5%、対照15.2%でほぼ同じだったが、細さや決まった体重が重視される競技の選手では24.8%と多かった[3]。論文の題は、練習の量ではなく、そうした競技への参加が乱れと結びついていたことを示している[3]。さらに、乱れのある選手の中には、エネルギーの不足とは別に、男性ホルモンの高さが背景にあるとみられる一群もいた[5][17]。原因が一つではないからこそ、生理が遅れる、止まる状態が続くときは、自分で判断せずに医師に相談したい。

遅れも、止まるのも、同じ乱れの幅の中にある
2002年の総説は、運動にともなう生理の乱れを、無月経、希発月経、無排卵、黄体期の不全、初経の遅れとして並べ、活動的な女性に多く、健康と競技の成績に大きく響きうると書く[16]。運動による無月経は乱れの最も極端な形だが、ほかの形でもエストロゲンが抑えられ、骨の健康と妊娠する力に影響しうる[16]。
ここに、「遅れる」という検索の言葉の位置が見える。予定日を過ぎても来ない、間隔が長くあく、という状態は、来なくなる無月経の手前にある、同じ幅の中の乱れとして扱われている。目に見える生理が来ていても、排卵がない周期や、排卵の後の期間が十分に働かない周期がありうる、という点も総説は並べている[16]。
2000年の総説の書き出しは、さらに短い。食べる量でエネルギーが十分にまかなわれない激しい練習は、疲れ、成績の低下、幅広い月経の周期の乱れにつながりうる[19]。この総説は、急に利用できるエネルギーが減った場合と、長くエネルギーが足りない場合の両方について、黄体形成ホルモン(排卵を起こす脳からのホルモン)の分泌への影響と、回復の方法を扱っている[19]。
「生理が早まる」という問いにも触れておく。この記事で読んだ研究の中に、激しい運動で生理が早く来ることを調べたものはない。乱れの幅の一つとして黄体期の不全が挙げられていることまでが、ここで書けることである[16]。
体脂肪率の数字で線が引けるかという話は、同じサイトの「体脂肪率が何%で生理は止まる?1つの線は引けず、食事の不足を鍵とみる研究を読む」に譲る。こちらは、運動の量と食べる量の不足、そして遅れの幅の側から読む。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
主な道筋は、運動に見合うだけ食べていないこと
なぜ運動で生理が遅れるのか。2009年の系統的レビューは、これまでの研究で運動する女性の生理の乱れの主な仕組みとして支持されてきたのは、エネルギーの不足にかかわる原因だと書く[17]。運動のエネルギーの分を食事で埋め合わせられないと、生殖の働きが抑えられる、という仕組みである[17]。
レビューによれば、エネルギーの不足が運動する女性の無月経を引き起こす原因の役割を持つという証拠は増えている[17]。それに合う所見として、甲状腺のホルモン(T3)の低さ、インスリンの分泌の減少、コルチゾール、成長ホルモン、グレリンの高さといった、糖の調節にかかわる変化が挙げられている[17]。
2002年の総説は、仕組みの仮説を二つ挙げる[16]。エネルギーの消耗の仮説と、運動の強さの仮説である[16]。そのうえで、生理の乱れに関わりうる要素として、エネルギーのつり合い、運動の強さと練習のやり方、体重と体の組成、食行動の乱れ、体と心のストレスの度合いを並べている[16]。生殖の軸が運動と食事のストレスにどれだけ敏感かには、個人の差が大きいようだとも書く[16]。
同じ総説は、活動的な女性にいちばん多い栄養の問題は、エネルギーの摂取の少なさと食べ物の選び方の偏りで、たんぱく質、炭水化物、必須脂肪酸が足りなくなりうるとする[16]。エネルギーの消耗が主な要因なら、エネルギーのつり合いを良くすると全体の栄養の状態が良くなり、生理の乱れが元に戻る可能性があるという[16]。練習しながら食べる量を極端に減らそうとすることの健康への影響も、この総説の論点の一つである[16]。
練習の距離を伸ばした月に、食べる量は同じだった。あるいは、体を絞りたくて少し減らしていた。こうした月の生理の遅れは、研究の言葉で言えば、使った分と食べた分の差の問題として読める。利用可能エネルギーという考え方と、食べずに運動を重ねたときの実験は、同じサイトの「食べずに運動を重ねると体に何が起きるのか 利用可能エネルギーの不足と、月経・骨の実験」に譲る。

ノルウェーの代表選手:今の乱れは選手と対照でほぼ同じ、細さが求められる競技で多かった
運動の「量」がそのまま効くのか。2005年の研究は、ノルウェーの代表として出場する13〜39歳の女性の選手全員(938人)と、同じ年代で全国を代表するように選んだ対照(900人)に、練習や身体活動、生理、食事と体重の経過、ピルの使用、摂食障害の質問票の一部を含む詳しい質問紙を送った[3]。除外の後、十分に答えたのは選手669人(88.3%)と対照607人(70.2%)だった[3]。
初経の年齢は、選手で13.4歳と、対照の13.0歳より有意に遅く、競技の種類でも違った[3]。原発性無月経(初経が来るはずの年齢を過ぎても来ない状態)の経過を報告したのは、選手の7.3%、対照の2.0%だった[3]。
一方で、今の生理の乱れを報告した割合は、選手16.5%、対照15.2%と同じくらいだった[3]。差が出たのは競技の種類で、細さを重んじる競技の選手は24.8%と、そうでない競技の選手の13.1%や対照より多かった[3]。論文の題は、練習の量ではなく細さを重んじる競技への参加が乱れと結びついていたことを示している[3]。著者らは、細さや決まった体重を重く見る競技の選手ほど今の乱れを報告していたとし、以前の研究との比較から、乱れの割合は1993年より2003年のほうが低かったとも書いている[3]。
アメリカの大学の選手112人を7つの競技で調べた2006年の研究でも、似た向きが出ている[4]。質問紙で食行動の乱れの基準を満たしたのは28人、生理の乱れは29人、DXAで測った背骨の骨密度が低かったのは2人だった[4]。生理の乱れだけが、細い体格の競技でそうでない競技より多かった(P=0.053。著者らはこれを有意な差とした)[4]。著者らは、三つが重なる割合は小さいが、一つ一つの乱れを抱える選手は少なくないとまとめている[4]。
どちらも質問紙による一時点の調査で、競技に参加したことが乱れを起こしたとまでは言えない。それでも、練習の量より、体の細さや体重の数字が気にされる環境のほうに、乱れが多かったという点は覚えておきたい。
思春期の選手で重なりやすいこと
10代の選手については、2024年の叙述的な総説がある[7]。運動は心と体の健康によいが、行き過ぎた練習の負荷は長い目で見ると健康の問題につながり、その中に幅広い生理の乱れがあると書き出す[7]。
総説は、若い選手の生理の乱れを考えるときには、脳と卵巣をつなぐホルモンの軸が成熟の途中にあることに関わる、いくつかの要素を考えるべきだとする[7]。一つは競技の種類で、練習の負荷が高く、競技の道に早く入る種目では乱れが多いようだという[7]。次に、エネルギーの摂取の少なさとBMI(体格の指標)の低さは、すでにある乱れを悪くするようだとする[7]。そして、食行動の乱れと心のストレスも乱れに関わりうる[7]。
総説は、早く気づいて対処すること、競技の団体と医療の専門家が協力すること、十分な栄養を確かめ、練習と回復のつり合いを取ることが大事だとまとめている[7]。この話題を開かれた形で話し続けることが、気づき、早い診断と治療、けがの危険の低下、成績の向上につながるかもしれないとも書く[7]。部活の更衣室で「最近来ない」と言える空気は、この総説の言葉で言えば、早く気づくための仕組みの一部である。
数字で読む運動と生理の遅れ
- 16.5%と15.2%: ノルウェーの代表選手669人と対照607人で、今の生理の乱れを報告した割合。ほぼ同じだった[3]。
- 24.8%と13.1%: 同じ調査で、細さを重んじる競技の選手と、そうでない競技の選手で乱れを報告した割合[3]。
- 7.3%と2.0%: 同じ調査で、原発性無月経の経過を報告した選手と対照の割合[3]。
- 29人: アメリカの大学の選手112人のうち、生理の乱れの基準を満たした人数[4]。
- 8人: 生理の乱れのある持久系の選手25人のうち、男性ホルモンが高かった人数[5]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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