体脂肪率と骨格筋率の平均を一つの数字で知りたい人へ。大人の骨格筋の基準値は割合でなく量や身長あたりの指数で作られ、64本を見比べたレビューは同じ方法と機械と集団の値としか比べられないと結論した。イギリス・中国・アジア12か国の基準値と、痩せた子のほうが割合が高く出た研究を読む。
朝、洗面所の体組成計に乗る。体重の下に、体脂肪率と骨格筋率が小数点つきで並ぶ。この骨格筋率は、同じ年代の女性の平均と比べて多いのか、少ないのか。検索窓に「体脂肪率 骨格筋率 平均」と打ちたくなるのは、たぶんこの瞬間だ。
この記事で読んだ基準値の研究の中に、大人の骨格筋率、つまり体の中の骨格筋の割合の平均を示したものはない。大人の基準値は、骨格筋の量か、その量を身長の2乗で割った指数(kg/m²)で作られていた[2][5][14]。64本の研究の基準値を見比べたレビューは、骨格筋の結果は、同じ方法、同じ体組成の機械、ふさわしい基準の集団の値とでなければ比べられないと結論している[1]。
そのうえで、研究どうしで繰り返し出た形はある。骨格筋の指数は、どの年代でも男性のほうが女性より高かった[2][5]。年齢とともに下がる向きはあるが、下がり始める年齢は集団と性別で違った[2][5][9]。そして、割合の数字には落とし穴がある。骨格筋が少ないと判定された子どもを比べた研究では、痩せた子のほうが骨格筋の割合は高かったのに、骨格筋の量そのものには差がなかった[18]。なお、この記事に出てくる基準値の数字は、イギリス、スウェーデン、中国、ギリシャなどの集団のもので、日本の基準ではない。

研究の基準値は「率」ではなく、量と身長あたりの指数で書かれていた
イギリスの39万人の研究は、手足の筋肉の推定値を足し合わせて骨格筋の量とし、それを身長の2乗で割った骨格筋量指数と、体脂肪の量を身長の2乗で割った脂肪量指数の百分位の曲線を作った[2]。百分位とは、100人を小さい順に並べたときに何番目にあたるかを示す目盛りである。中国の西部の農村の研究も、同じ骨格筋量指数と脂肪量指数に、脂肪と筋肉の比を加えた3つで基準値を作っている[5]。ギリシャの研究が示した切れ目も、身長の2乗あたりの指数だった[14]。
64本の研究を見比べたレビューは、骨格筋を体の大きさや脂肪の量でどう補正するかには、異なる考え方があると整理している[1]。そして、肥満が筋肉の質と働きに与える悪い影響のために、肥満の人では骨格筋が少ない状態が低く見積もられうるので、脂肪の量で補正することにも理由がありうると書く[1]。
割合の数字の性質は、算数で確かめられる。体重の中には脂肪も入っている。脂肪が増えれば、骨格筋の量が同じでも割合は下がり、脂肪が減れば割合は上がる。骨格筋率は、筋肉の動きと脂肪の動きを一つの数字に混ぜて見せている。
体脂肪率の平均そのものの読み方は、同じサイトの「女性の体脂肪率の平均は誰の数字か、健康調査に参加しなかった人まで考える」に、割合の分母の話は「体脂肪率と女性の筋肉量は逆に動く?割合の分母と増減した重さを分けて読む」に譲る。こちらは骨格筋の側を読む。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
64本の基準値を見比べたレビュー:同じ方法、同じ機械、ふさわしい集団でしか比べられない
2020年のレビューは、臨床と研究で使われてきた骨格筋の切れ目(これを下回ると少ないとみなす値)を集めて整理し、研究どうしの結果を比べやすくすることを目的にした[1]。64本の研究から、それぞれ違う指標の基準値が見つかった[1]。
前提として、レビューは、骨格筋が少ないことの評価は加齢や病気にともなうサルコペニア(筋肉が減り、力が落ちる状態)の診断に大事だが、方法と用語がばらばらなせいで、研究ごとに、さらには専門家の合意の定義ごとにも診断の基準が違っていると書く[1]。
測り方については、CTやMRIの1枚の画像と、DXA(二重エネルギーX線吸収法)や生体電気インピーダンス法(体に弱い電流を流して体の中身を推定する方法)で測る手足の除脂肪の軟らかい組織は、全身の画像の結果と、一時点でも時間を追っても高く相関するので、全身の骨格筋の代わりとして妥当とされている[1]。
ただし、これらの方法の偶然の誤差は、一人ひとりの判定に使える範囲を限り、決まった向きの誤差と合わさって、骨格筋の変化を正確に捉えることも限ると続く[1]。
結論は短い。骨格筋の結果は、同じ方法、同じ生体電気インピーダンス法やDXAの機械、ふさわしい基準の集団を使った基準値とでなければ比べられない[1]。家の体組成計の骨格筋率を、別の機械で作られた別の国の平均と並べても、比べたことにはならない、ということになる。

39万人のイギリスの中高年:女性の骨格筋の指数は年齢で大きく動かなかった
いちばん大きな研究から見る。2020年の研究は、イギリスの大規模な健康調査(UKバイオバンク)に参加した40〜69歳の390,565人について、部位ごとに測る生体電気インピーダンス法のデータを使い、白人の大人の年齢別・性別の基準値を作った[2]。905人では、DXAのデータで生体電気インピーダンス法の測定を確かめている[2]。
女性の結果は、少し意外だ。男性の骨格筋量指数は40歳から下がっていったのに対し、女性の骨格筋量指数はより安定していて、高い百分位の女性でわずかに下がるだけだった[2]。脂肪量指数は男女とも年齢とともに上がった[2]。すべての年齢の群で、女性は男性より脂肪量指数が高く、骨格筋量指数が低かった[2]。
同じ人を後で測り直した一部の参加者では、男女とも平均へ戻る動きが見られ、骨格筋量指数の低下の兆しは男性だけに見られた[2]。
この基準値の弱点も、研究自身が示している。白人の値を元にした基準値を黒人とアジア系の群に当てはめると、その妥当性は低かった[2]。著者らは、この基準値は、イギリスの中高年の健康な白人の集団から作られたもので、栄養の見守りや、骨格筋量指数が低い人、脂肪量指数が高い人を見つける簡単な道具として使えるとまとめている[2]。立川駅の改札を抜ける20代、30代の日本の女性に、この曲線をそのまま当てるのは、二重に外れている。年齢も、集団も違う。
中国の西部の農村と全国調査:農村の女性は45歳を過ぎて急に下がり、全国ではゆるやかだった
中国の二つの研究は、イギリスと違う形を出している。
2021年の研究は、中国の西部、寧夏の農村の健康な35〜74歳の13,790人を横断的に調べ、生体電気インピーダンス法で骨格筋量指数、脂肪量指数、脂肪と筋肉の比の年齢別・性別の基準値を作った[5]。すべての年齢で、男性は女性より骨格筋量指数が高く、脂肪量指数と、脂肪と筋肉の比が低かった[5]。骨格筋量指数は、男性では55歳を過ぎてから、女性では45歳を過ぎてから、年齢とともに急に下がった[5]。男性の脂肪量指数は70歳まで安定していたが、女性の脂肪量指数は50歳を過ぎて急に上がった[5]。脂肪と筋肉の比は、男女とも35歳を過ぎて一貫して上がった[5]。この研究は、平均±標準偏差の範囲を正常の基準の範囲としている[5]。
2026年の研究は、中国の全国の健康調査から20〜80歳の13,794人で基準値を作り、別の3,733人で確かめた[9]。男性の全身の筋肉量の指数は、若い大人の時期に上がり、中年で頂点に達し、60歳を過ぎて大きく下がった[9]。女性は頂点が遅く、下がり方もゆるやかだった[9]。腕と胴の筋肉量の指数は中年の間は比較的安定していたが、脚の筋肉量は男女とも年齢とともに着実に下がっていた[9]。
同じ国の中でも、農村の35〜74歳の研究では女性の骨格筋の指数は45歳を過ぎて急に下がり[5]、全国の20〜80歳の研究では女性の頂点は遅く、ゆるやかに下がった[9]。指標も対象の年齢の幅も違うので、どちらかが誤りという話ではない。基準値の形は、誰をどう測ったかで変わる。そして脚の筋肉は、腕や胴が横ばいの年代にも、静かに減り続けているのかもしれない。
10〜25歳の1,451人:思春期に伸びる筋肉と、女性で上がってから下がる体脂肪
若い側の基準値もある。2026年の研究は、ある国の全国調査のデータから、生体電気インピーダンス法を受けた10〜25歳の1,451人を横断的に分析した[7]。
除脂肪量、除脂肪量指数、手足の骨格筋量、骨格筋量指数といった筋肉の指標は、男女とも思春期に増え、男性のほうが増え方がはっきりしていて、その後は横ばいか、ゆるやかな増加に移った[7]。脂肪の指標は男女で動きが違った。男性では体脂肪の量、脂肪量指数、体脂肪率が14歳まで下がってから上がったのに対し、女性では思春期まで上がり、大人になり始めた頃から下がった[7]。
この研究で目を引くのは、何で判定するかによって、筋肉が少ないとされる人の割合が大きく変わったことだ[7]。骨格筋量指数で判定すると女性の1.04%だったが、除脂肪量と脂肪の比で判定すると6.38%、手足の骨格筋量と脂肪の比で判定すると5.79%だった[7]。男性も、骨格筋量指数では2.05%、除脂肪量と脂肪の比では5.21%、手足の骨格筋量と脂肪の比では5.06%だった[7]。
同じ人たちを測っても、身長あたりの指数で見るか、脂肪との比で見るかで、女性では6倍あまり違う割合が出る。脂肪との比は、骨格筋率と同じく、脂肪の量で数字が動く。骨格筋率の平均を一つの数字で知りたい、という願いが難しいのは、この差があるからだ。
数字で読む骨格筋の基準値
- 64本: 骨格筋の基準値を集めて見比べたレビューの研究の数。同じ方法、同じ機械、ふさわしい集団でしか比べられないと結論した[1]。
- 390,565人: イギリスの40〜69歳で、白人の基準値を作った研究の参加者の人数。女性の骨格筋量指数は年齢で大きく動かなかった[2]。
- 45歳: 中国の西部の農村の13,790人で、女性の骨格筋量指数が急に下がり始めた年齢。男性は55歳だった[5]。
- 1.04%と6.38%: 10〜25歳の女性で、骨格筋量指数と、除脂肪量と脂肪の比で判定した、筋肉が少ない人の割合[7]。
- 7.83kg/m²: ギリシャの健康な大人の女性82人から出した骨格筋量指数の切れ目。平均から標準偏差の2倍を引いた値で、日本の基準ではない[14]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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