外反母趾だと運動能力は落ちる?親指の角度とバランス、転びやすさの研究を読む

外反母趾だと運動能力は落ちるのか。健康な大人60人の比較では、親指の力が弱く目を閉じた両足立ちの揺れが大きかったが、全体の身体機能と運動への参加は損なわれていなかった。歩く速さの解析と、75歳以上の歩き方や転んだ高齢者の研究を、対象の年齢を分けて読む。

夕方の立川駅北口。新しいパンプスで一日歩き、デッキの階段を下りるころには、親指の付け根が靴の内側に当たって熱を持っている。帰って靴下を脱ぐと、親指が人差し指の側へ少し傾いている。ヨガの片足立ちのポーズがぐらつくのも、これのせいなのか。外反母趾だと、運動能力は落ちるのか。

20〜76歳の健康な大人60人を、外反母趾のある30人と、ない30人に分けて比べた研究では、外反母趾のある人は足の痛みと不自由さを強く感じ、親指を曲げる力と外へ開く力が弱く、目を閉じて両足で立ったときの左右の揺れが平均0.34cm大きかった[4]。一方で、全体的な身体の機能と、運動への参加は、悪い影響を受けていなかった[4]。

歩く速さは、研究を束ねた解析で、外反母趾のある人のほうが毎秒0.16m遅かった[13]。転びやすさとの結びつきが出てくるのは、高齢者の研究だけである[2][20]。そして、この記事で読んだ研究の中に、走る速さや跳ぶ高さのような、スポーツの成績を試したものはない。落ちていた数字は確かにある。ただ、それは「運動能力」と一言でくくれるほど広くはなかった。

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外反母趾は、親指の列の釣り合いが崩れた形

外反母趾は、足の親指が小指の側へ傾き、それとつながる第1中足骨(親指の付け根から足の甲へ伸びる骨)が内側へ傾いていく変形である[6]。進んでいく変形とされる[6]。手術の試験を束ねたレビューは、人口の23〜35%に見られると書き[12]、親指の付け根の関節を扱った総説も同じ範囲を挙げる[17]。そのレビューに入った試験はどれも大人を対象とし、多くが女性だった[12]。

なぜ起きるのか。2011年の総説は、親指の列を、もともと不安定な骨の並びだと書く[1]。その並びは、関節の袋や靱帯、足底腱膜(足の裏に張った膜)という動かない支えと、長腓骨筋や足の小さな筋肉という動く支えの、細かな釣り合いで保たれている[1]。足によっては、骨の並びがまっすぐでない素因や、動かない支えのゆるさが遺伝的にあり、それが筋肉の釣り合いを崩す[1]。合わない靴は進み方を速める大事な役割を持つが、職業や、歩きすぎ、体重をかけることは、目立つ要因ではなさそうだという[1]。

総説の結論は慎重である。外反母趾の足には、生まれつきのものも後からのものも含め、体の仕組みの異常が数多く見つかっているが、それらとの結びつきは不完全で、まっすぐな比例の関係でもない[1]。一人ひとりの外反母趾は、いくつもの要因が重なって起きている、と著者らは書く[1]。

骨は横へ傾くだけでもない。1993年の研究は、体重をかけて撮った100の足のX線写真で、第1中足骨のねじれ(回内と呼ばれる回り方)を測った[3]。第1と第2の中足骨の間の角度が9度未満の43人では、ねじれが10度を超えた人は4人だったが、9度を超える57人では48人だった[3]。角度が大きいほどねじれも大きく(相関係数0.69)、著者らは、ねじれと内側への傾きが結びついて、親指の骨の並びを保つ腱の釣り合いを変え、外反母趾につながると書いている[3]。

バランスが落ちるかどうかを問う前に、親指そのものが、もともと釣り合いの上に立っていた。足の側から見れば、ずいぶん心細い話である。

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健康な大人60人の比較:痛み、靴、親指の力

この題で、いちばん読者の年齢に近い研究から読む。2012年の研究は、X線で測った外反母趾の角度が15度を超える30人と、条件をそろえた外反母趾のない30人を比べた[4]。60人のうち女性が50人、平均年齢は44.4歳、年齢の幅は20〜76歳だった[4]。手術を求めていない、ほかは健康な大人が対象である[4]。

まず、本人が答える質問の結果。すべての質問で、外反母趾のある人は足の痛みと不自由さが強く、足の見た目と靴の選びにくさを大きく気にしていた(p<0.001)[4]。親指の付け根の内側を押したとき、痛みを感じ始める圧も、平均133.3kPa低かった[4]。押されて痛くなるまでの余裕が小さい、ということになる。靴選びの悩みは、この研究では気のせいではなく、はっきりした差として出ている。

次に、力の測定。外反母趾のある人は、親指を足の裏の側へ曲げる力が平均37.1N(95%信頼区間18.8〜55.4N)、親指を外へ開く力が平均9.8N(4.0〜15.6N)弱かった[4]。痛みという本人の感じ方だけでなく、力という測れる数字にも差が出ていた。

ただし、この研究は30人ずつの横断研究で、ある一時点での比較である。外反母趾が親指の力を弱めたのか、力の弱さが先にあって変形が進んだのか、この設計からは決められない。

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目を閉じた両足立ちで0.34cm、ふらつきの差が出た条件

バランスの測定で、差として挙げられたのは、両足で立って目を閉じたときの左右の揺れである。外反母趾のある人は、ない人より、この揺れが平均0.34cm大きかった(95%信頼区間0.04〜0.63cm)[4]。差は統計的に意味のあるものだったが、信頼区間の下の端は0.04cmで、推定の幅は広い。

著者らの結論は、二つの面を持つ。外反母趾は、ほかは健康な大人でも、本人の感じる足の痛みと機能、足の見た目と靴への悩みに悪く響いていた[4]。親指の筋力の低下と、立ったときの揺れの増加を示す結果もあった[4]。それでも、全体的な身体の機能と、運動への参加は、悪い影響を受けていなかった[4]。

私の読みでは、この研究がこの記事の問いへのいちばん素直な答えになる。親指の力という、部分の数字は落ちていた。目を閉じるという、視覚の助けを外した条件で、揺れは増えた。けれど、ふだん体を動かすこと全体が損なわれていたわけではない。

差として挙げられた条件は目を閉じた両足立ちで、ヨガの木のポーズのような、目を開けた片足立ちの数字ではない。片足立ちがぐらつく理由を外反母趾ひとつに決めてしまうのは、研究の先回りになる。

歩く速さは毎秒0.16m遅かった:横断研究を束ねた解析

歩き方の研究は数が多い。2023年の系統的レビューは、2022年1月までの論文から、外反母趾だけを持つ人の群と健康な人の群をはっきり分けた横断研究だけを集め、メタ分析で束ねた[13]。

外反母趾のある人は、ない人より、歩く速さが毎秒0.16m遅かった(95%信頼区間0.05〜0.27m)[13]。足が地面を離れる直前の時期に、かかとの骨とすねの間の左右方向の動きが1.16度小さかった[13]。親指の部分で生む力は33.48N小さかったが、親指の下の最大の圧は、健康な人と同じくらいだった[13]。かかとの内側と外側の最大の圧も、それぞれ8.28kPaと8.54kPa低かった[13]。

著者らは、外反母趾は足の前の部分の変形だが、それによる動きの変化は、ほかの関節の動く範囲の有意な変化と結びついており、体の動きの連なり(運動連鎖)の中で大事な意味を持つ、と結論している[13]。あわせて、より質の高い研究がまだ必要だとも書いている[13]。

足の先の変形が、かかととすねの動きにまで数字として現れる。検索窓に「外反母趾 運動連鎖」と打つ人が気にしているのは、たぶんこの話だろう。ただ、これも横断研究を束ねた結果で、変形が足全体の動きを変えたという順序までは、束ねても決まらない。

親指の下で減り、足の真ん中で増えた足の裏の力

足の裏の圧を、変形の重さごとに見た研究もある。2025年の研究は、2014年から2020年に、圧を測る板で足の裏を記録した、症状のない240人と、外反母趾のある156人(軽い52人、中くらい52人、重い52人)を比べた[15]。

外反母趾のある人は、足が地面に着いている時間が長く、重い人でとくに長かった[15]。最大の力は、足の真ん中で増え、かかとと中足骨の部分で減っていた[15]。さらに細かく分けた場所で見ると、変形が重いほど、第1中足骨の下の最大の圧と力が増え、親指の下では減っていた[15]。著者らは、軽い変形でも、症状のない人と比べて足の働きの指標が変わっていたとし、足の真ん中の変化は、足の甲の関節の不安定さや、土踏まずが少しずつ崩れていくことと結びついているかもしれない、と書く[15]。

一方で、影響の広がりを小さく見る研究もある。2010年の研究は、外反母趾の20人と症状のない22人を、12台のカメラと、足をいくつもの区分に分けて動きを測るモデルで撮った[5]。足が地面に着いている間、はっきり違いが出たのは、親指の前後方向の動く範囲と、かかとの側の左右とねじれの方向の動きだった[5]。著者らは、親指の前後の動きは第1列の変形の影響を受けるが、ほかの部分への影響は限られていたとし、体の仕組みの面での結果は、第1列が体重を支える働きにとどまると結論している[5]。

2010年の42人の研究は「限られる」と書き[5]、2023年の束ねた解析は「運動連鎖の中で大事」と書いた[13]。どちらの研究でも、かかとの側の動きには差が出ている。その差をどう受け止めるかで、著者の言葉の強さが分かれている、と私は読む。

数字で読む外反母趾と体の動き

  • 23〜35%: 人口に占める外反母趾の割合として、手術のレビューと関節の総説が挙げる範囲[12][17]。
  • 37.1N: 健康な大人60人の比較で、外反母趾のある人の親指を曲げる力が弱かった平均の差[4]。
  • 0.34cm: 同じ比較で、目を閉じた両足立ちの左右の揺れが大きかった平均の差。95%信頼区間は0.04〜0.63cm[4]。
  • 毎秒0.16m: 横断研究を束ねた解析で、外反母趾のある人の歩く速さが遅かった差[13]。
  • 156人: 変形の重さ別に足の裏の圧を測った研究での、外反母趾のある人の数。軽い変形でも指標が変わっていた[15]。
  • 1.89: 地域で暮らす高齢者の解析で、転んだ人が外反母趾を持っていたことのオッズ比。95%信頼区間は1.19〜3.00[20]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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