バイシクルクランチそのものを測った研究は、この記事で読んだ中にない。近い、ひねる腹筋の試験では脇腹の筋肉の活動が高く出た。一方、お腹の脂肪は、腹筋の運動を足しても差が出なかった試験が2本、消費をそろえて体幹の脂肪が多く減った試験が1本。筋活動と脂肪を分けて読む。
夜11時、床にヨガマットを広げて、仰向けで肘と反対の膝を交互に近づける。自転車をこぐように脚を回すので、バイシクルクランチと呼ばれる。見ていた動画の題名には「腹筋が割れる」とあった。本当だろうか。
「腹筋が割れる」という言葉には、二つの問いが混ざっている。一つは、その種目でお腹の筋肉がよく働くか。もう一つは、その種目でお腹の脂肪が減るか。研究は、この二つをまったく別の方法で測っている。前者は筋電図、後者は体の脂肪を測る機械である。
この記事で読んだ研究の中に、バイシクルクランチそのものを測ったものはない。近い形の、体をひねる腹筋を測った研究では、ひねる動きで脇腹の筋肉の活動が高く出た[14][17]。一方、お腹の脂肪については、腹筋の運動を足しても減り方に差がなかった試験が2本[8][10]、消費のエネルギーをそろえた条件で体幹の脂肪が多く減った試験が1本ある[7]。腹筋が割れて見えるかどうかを測った試験は、ここにはない。

バイシクルクランチを測った研究は、この記事で読んだ中にはなかった
まず、手元の研究を二つの棚に分ける。一つ目の棚は、腹筋の種目ごとに、お腹の筋肉がどれだけ働いたかを筋電図で比べた研究である[1][3][6][9][14][17][18][20]。二つ目の棚は、腹筋の運動を何週間か続けて、お腹や体幹の脂肪が減ったかを測った試験である[7][8][10]。
一つ目の棚にも、バイシクルクランチの名前は出てこない。いちばん近いのは、私の読みでは、上体を起こしながら反対の膝へ体をひねる床の運動[17]と、ひねるクランチ[14]である。脚を交互に動かす点では、腕と脚を走る形で動かす腹筋の運動を、腰の反りが強い人で試した研究もある[9]。どれもバイシクルクランチと同じ動きではない。
二つ目の棚の試験は、決まった腹筋の種目の組み合わせを続けたもので、そのうち1本は体幹をひねる運動と腹筋を組み合わせていた[7]。
腹筋運動で脂肪が落ちるかの全体像は、同じサイトの「お腹痩せの科学 第1回 腹筋運動で脂肪は落ちるのか、回数より大切な運動の選び方」と「【連載】体型は変えられるか 第2回|部分痩せは起きるのか」に譲る。ロシアンツイストの足の浮かせ方は「腹筋のロシアンツイストは足を浮かす?床の支えと回旋の見え方を分けて読む」で扱っている。ここでは、ひねる腹筋が筋電図でどう出るかと、腹筋の運動を足した脂肪の試験を、混ぜずに並べることに絞る。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
筋電図の数字は、最大の力を100とした割合である
筋電図は、皮膚に貼った電極で、筋肉が働くときの電気の活動を記録する。ここで読む研究の多くは、その人がその筋肉で最大の力を出したときの値を100として、何割の活動だったかで比べている[1][6]。
この物差しで、面白い数字が出た研究がある。2012年の研究は、運動の習慣のない42人(男性18人、女性24人、28〜67歳)に、ゴムの抵抗を足したボールの上のクランチと、トレーニングマシンでの同じ動きを、10回が限界の重さで3回ずつ行ってもらい、13の筋肉の筋電図を測った[1]。
腹直筋(お腹の前のまっすぐな筋肉)の値は、ボールのクランチで104、マシンで84だった(最大の力を100とした割合)[1]。最大を超えた104という数字は、私の読みでは、最大の力を測った姿勢と、動きの中の活動とが同じ条件ではない、ということだろう。太ももの前の大腿直筋は、ボールで27、マシンで65と、ボールのほうが低かった[1]。性別、年齢、筋肉や骨の痛みの有無は、結果に有意な影響を与えなかった[1]。
著者らは、ボールとゴムのクランチは腹直筋の活動が高く、股関節を曲げる筋肉の活動が低いので腰に痛みのある人によいかもしれず、マシンは腹直筋が低く大腿直筋が高いので腰の痛みのある人には注意が要ると書く[1]。
ここで押さえておきたいのは、筋電図が測るのは、その瞬間の筋肉の電気の活動だということである。何週間続けたら筋肉が太くなるか、脂肪が減るかは、この物差しでは測れない。

同じクランチでも、支え方と動く向きで筋活動は入れ替わった
筋電図の研究を並べると、種目の名前より、支え方と動く向きで数字が変わることが見えてくる。
2007年の研究は、健康な大人41人(男性23人、女性18人)に、ボールを肩甲骨の下の高さに置くクランチ、腰の低い位置に置くクランチ、床の上のふつうのクランチを行ってもらった[3]。腹直筋の上と下、外腹斜筋(脇腹の表面の筋肉)の活動は、ふつうのクランチが、ボールを腰に置いたときより有意に低く、肩甲骨の下に置いたときより有意に高かった[3]。ボールを背中の上から下へ移すと、お腹の筋肉の活動は平均で約2倍になった[3]。著者らは、ボールの置き場所が、その人の体力に合った負荷を選ぶうえで決め手になると書く[3]。
2022年の研究は、健康な大人20人で、ボールの上で上体を起こす新しい運動と、ふつうのクランチを比べた[20]。ボールの運動では外腹斜筋、お腹の奥の腹横筋、背中の脊柱起立筋の値が有意に高く、腹直筋の上と下、内腹斜筋は有意に低かった[20]。どの筋肉も一緒に上がる、とはならなかった。
動く向きでも入れ替わる。2006年の研究は、腹筋の運動を習慣にしている45人で、ふつうのクランチと市販の腹筋の器具を比べた[18]。体を縮める局面では、外腹斜筋と腹直筋の下の部分がクランチで高く、体を戻す局面では、腹直筋の上と下、外腹斜筋が器具で高かった[18]。著者らは、器具は信頼できる変わり種だが、クランチが標準の種目であり続けるべきだと結論している[18]。
体を動かす習慣のある健康な男性15人の研究でも、ふつうのクランチは、市販の腹筋の器具の4つの段階のどれと比べても、お腹の筋肉で同じか高い活動を出し、大腿直筋の活動を小さく抑えた[6]。著者らは、とくにお腹の筋肉が弱い人や腰に問題のある人には、ふつうのクランチがよいとしている[6]。
ひねる腹筋では、脇腹の筋肉の活動が高く出た
バイシクルクランチに近い、ひねる動きを見る。2008年の研究は、15人(男性8人、女性7人)に、床で上体を起こす運動、床で上体を起こしながら反対の膝へひねる運動、半ば立った姿勢で使う市販の器具での3つの運動を、10回ずつ行ってもらった[17]。
腹直筋では、器具での運動がどれも、床で上体を起こすふつうの運動より有意に高かった[17]。外腹斜筋がいちばん高かったのは、器具の上でひねる運動だった[17]。床で反対の膝へひねる運動と、器具の上で脚を上げながらひねる運動の間には、外腹斜筋の有意な差はなかった[17]。著者らは、外腹斜筋には、はっきりひねる運動で器具が最もよく働いたとまとめている[17]。
2024年の研究は、健康な若い男性25人で、強く息を吐く動作とお腹の筋肉の関係を調べ、比べる種目としてクランチ、ひねるクランチ、お腹をへこませる運動を最大の力で行ってもらった[14]。脇腹の外腹斜筋と内腹斜筋が重なる位置の活動は、最大の力で息を吐いたときのほうが、ひねるクランチより有意に低かった[14]。お腹の奥の内腹斜筋と腹横筋の位置の活動は、最大に吐いたときでも、ひねるクランチより有意に高くはならなかった[14]。思い切り吐いても、脇腹の表面の活動は、ひねるクランチに届かなかったことになる。
脚を交互に動かす腹筋の研究もある。2023年の単盲検のランダム化比較試験は、お腹の筋肉の弱さによる腰の反りが強く、腰痛のある40人を、腕と脚を走る形で動かす腹筋の運動と、クランチに分け、10回を3セット行ってもらった[9]。腰の反りの角度と仙骨の傾きの角度はどちらの群でも有意に減り、走る形の群でより大きく減った[9]。腹直筋の活動に群の差はなかったが、外腹斜筋と内腹斜筋の活動は走る形の群で有意に高かった[9]。著者らは、走る形の腹筋の運動は、腰の反りの強い患者で、お腹の筋肉を強めて腰の反りを減らすのに役立つかもしれないと結論している[9]。
この試験は、腰の反りが強く痛みのある人が、1回の運動の直後にどう変わったかを見たもので、痛みのない人の腹筋が鍛えられるかを示したものではない。三つの研究は、比べた相手がそれぞれ違う。それでも、器具でははっきりひねる運動で外腹斜筋が最も高く[17]、ひねるクランチの脇腹の表面の活動は最大に吐く息を上回り[14]、脚を動かす運動では斜めの筋肉の活動がクランチより高かった[9]。ひねる動きや脚を動かす動きの中で脇腹の数字が高く出た、という点では、向きがそろう。
数字で読む腹筋の筋電図と脂肪
- 104と84: ボールとゴムのクランチと、マシンのクランチの腹直筋の値。最大の力を100とした割合[1]。
- 約2倍: ボールを背中の上から腰の位置へ移したときの、お腹の筋肉の活動の平均の変化[3]。
- 25人: 最大の力で吐く息より、ひねるクランチで脇腹の表面の活動が高かった若い男性の研究の人数[14]。
- 47回と32回: 6週間の腹筋の運動の群と、何もしない群の、終わりの上体起こしの回数。お腹の脂肪の値には有意な効果がなかった[10]。
- 40人・12週: 食事の制限に腹筋の運動を足した女性の試験。お腹の皮下脂肪の厚さに群の差はなかった[8]。
- 697g: 消費をそろえた男性16人の試験で、ひねりと腹筋を足した群が、走るだけの群より多く減らした体幹の脂肪の差[7]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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