ストレス解消に悲しい歌を選んでもよい?慰めと考え込みを分ける聴き方を読む

ストレス解消のために悲しい歌を聴くと、慰められる日も、考え込みが続く日もある。悲しい曲の楽しさを扱うレビュー、日常の気分を調べた研究、否定的な感情を誘導した実験を読み比べ、落ち着くことと明るくなることの違い、選ぶ理由と聴いた後の変化を確かめる視点を整理する。

夕食の皿を洗い終え、部屋に歌を流す。仕事で言われた言葉がまだ引っかかっているのに、選んだのは元気な応援歌ではなく、しんみりした歌だった。気分を変えたいはずなのに、なぜ同じ方向の曲へ手が伸びるのか。

悲しい歌を選ぶこと自体を、ストレス解消の失敗と決める必要はない。悲しい音楽には慰めや共感を感じる経験がある一方、聴いた後に否定的な感情が強まった実験もある。曲の悲しさだけから、自分に役立つかどうかを決めることはできない。[2][10][1]

とくに分けたいのは、落ち着くことと明るくなることだ。日常場面を調べた研究では、悲しい歌の後にリラックス感が増えながら、幸福感は下がっていた。今夜ほしい変化がどちらなのかで、同じ聴き心地の意味も違ってくる。[17]

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悲しい曲だと分かることと、自分がつらいことは別である

ゆっくりした旋律を聴き、「悲しい曲だ」と感じる。その判断と、自分自身がどんな感情になるかは、同じ問いではない。心理学的なレビューは、音楽から読み取る感情と、聴き手が経験する感情を区別している。悲しさを感じ取りながら、心地よさも同時に経験するという見方である。[9]

このレビューで提案されているのは、音楽を通した代理的な悲しさだ。現実でつらい出来事に直面するときとは違い、芸術の中では同じような脅威にさらされずに悲しさを経験できる。そのため、悲しいという言葉だけで不快な体験と決めつけると、聴き手の経験を取りこぼす。[9]

たとえば、別れを描く歌の主人公を思って胸が詰まることと、今の自分の生活が耐えがたいことは区別して考えたい。これは感情を採点するための区分ではない。「曲は悲しい。でも聴いている時間は嫌ではない」という感想を、そのまま置いておくための見方だ。悲しさと快さが同時にあるという説明と矛盾しない。[9]

悲しい音楽の快さを扱った系統的レビューも、悲しさが快く感じられる条件として、脅威がないと受け止められること、美的に心地よいこと、気分の調整や共感などの心理的な利益があることを挙げている。悲しさが消えるから楽しめる、という説明だけではない。[10]

ここでいう気分の調整は、常に陽気になることを意味しない。悲しい音楽を心地よく感じる理由を検討した枠組みであり、どんな人のストレスも下げるという治療効果の保証ではない。歌に慰められたという感想は大切にしてよいが、そこから全員向けの処方に飛び越えない読み方が必要だ。[10]

既存記事「ストレス発散に泣ける映画は役立つ?直後と時間を置いた後の気分を読み比べる」には、映画と泣いた後の時間経過という問いを譲る。ここでは涙の量ではなく、悲しい歌を選ぶ理由と、聴いた後にどんな感情が残るかを扱う。

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慰めの調査は、誰にでも効くという試験ではない

西洋と東洋の参加者を含む772人のオンライン調査では、悲しい音楽から得る報いとして、想像、感情の調整、共感、現実生活への直接の影響を伴わないことが挙げられた。悲しい曲に求められているものは、悲しさそのものだけではなかった。[2]

この調査で最も頻繁に生じた感情は、悲しさよりも懐かしさだった。また、音楽によって悲しさが起こる仕組みとして、記憶が最も重要と評価されていた。悲しい歌という分類の内側には、過去の時間を思う経験も含まれている。ただし、昔の曲や思い出の選び方は隣の記事の領域なので、ここでは慰めが単一の感情ではないことにとどめる。[2]

同じ調査では、悲しい音楽を好む程度は気分に沿って変わり、共感性が高い人などで大きかった。これは、曲への反応に個人差があることを考える材料になる。自分にはよかった曲を友人に送っても、違う感想が戻るという日常の場面に重ねて読める。[2]

ただし、この研究の中心はオンライン調査である。悲しい曲を無作為に割り当て、長期的なストレスの改善を比べた試験として読むべきではない。人々がどんな報いを感じ、なぜその音楽を求めるかを示す知見と、実際に聴くことで何が変わるかを示す知見は、分けて持っておきたい。[2]

気分を実験的に変化させてから音楽の好みを尋ねた別の研究では、悲しい気分の参加者は悲しく遅い音楽を、楽しい気分の参加者は楽しく速い音楽を選びやすかった。この研究は、曲を聴かせずに好みを調べている。選びたい曲の方向を示す結果であって、選んだ曲が回復をもたらしたという結果ではない。[8]

帰宅中に暗めの歌へ指が伸びたときも、「いまの気分に合っている」と「これを聴けば楽になる」は別の判断になる。気分に合う選択が生じることは研究に沿うが、聴いた後の変化は別に確かめる必要がある。[8]

落ち着きと幸福感は、同時に逆方向へ動くことがある

日常での音楽選択を調べた研究では、臨床的なうつ病のある39人と、ない38人、計77人を対象にした。決められた曲の一覧から楽しい歌や悲しい歌を選び、聴く前後の感情を評価する調査を3日間行っている。研究室で一度だけ尋ねるのではなく、生活の中の選択を捉えようとした研究だ。うつ病のある人を含む比較なので、18〜39歳の女性全体にそのまま当てはめず、落ち着きと幸福感を分けて見る手がかりとして読む。[17]

悲しい歌を聴いた後には、どちらの群でもリラックス感の増加と幸福感の低下が報告された。気分を「よくなったか、悪くなったか」のひとつの軸だけに押し込めると、この組み合わせは見えにくくなる。静かになったが、うれしさは減った、という経験に対応する結果である。[17]

たとえば、仕事の後に高ぶった気持ちを静めたい夜と、これから友人に会う前に楽しい気分になりたい夕方では、求める変化が違う。前者の願いには落ち着き、後者には幸福感や明るさという言葉が近いだろう。これは曲の選択を考えるための例であり、この場面ごとの優劣を実験で確かめたという意味ではない。

この研究では、うつ病のある参加者は、日常で楽しい歌を悲しい歌より好む傾向を示さなかった。また、悲しいときに音楽を聴く理由として、活発で前向きな感情を増やすことは、ほかの理由より挙げられにくかった。著者らは、落ち着きたいという願いが悲しい音楽に引かれる理由のひとつになりうると考えている。[17]

ここから、悲しい歌を好む人は悪化を望んでいる、と読むのは早計だ。本人が目指している感情が、周囲の想像する「元気」と異なる可能性がある。しんみりした歌を選んだ人に、明るい曲を押しつける前に、その人が静かになりたいのか、励まされたいのかを分ける視点になる。[17]

一方で、日常の曲選びを調べた結果を、どの歌でも同じ変化を起こす因果法則にはできない。とくに聴く前の状態と選ぶ理由が絡んでいる。落ち着きが増えたという結果と幸福感が下がったという結果の両方を残し、自分に都合のよい半分だけを抜き出さないことが大切だ。[17]

日常調査には、よく聴くお気に入りの曲を別に調べる部分もあり、うつ病のある参加者のお気に入りは、ない参加者のものよりテンポが遅かった。だが、遅いこと自体を回復の証拠にするのは違う。曲の特徴、選択の理由、聴いた後の感情はそれぞれ調べる対象であり、ひとつが分かれば残りも決まる関係としては読めない。[17]

その違いは、誰かのプレイリストを借りるときにも役立つ。「これで元気になった」と紹介された歌が、自分には静かな気持ちしかもたらさなかったとする。その感想を失敗と呼ぶ前に、紹介した人がいう元気と、自分が望んでいた明るさが同じかを考えたい。研究でリラックス感と幸福感が分かれたように、日常の「よかった」という言葉にも、異なる変化がまとめられているかもしれない。[17]

さらに、悲しい気分で曲を選ぶ実験では、参加者は楽しい音楽を嫌っていたわけではなかった。悲しい音楽へ傾くことと、ほかの気分の曲を受けつけないことも別なのである。いまの気分と合う曲から始めるか、違う雰囲気を選ぶかを考えるとき、好みを固定された性格のように扱わず、その時点の状態と結びつけて見る余地がある。[8]

数字で読む悲しい音楽と気分

772人:悲しい音楽から受け取る報いを調べたオンライン調査の参加者数である。[2]

77人:日常の曲選びを調べた研究の対象で、うつ病のある39人と、ない38人を含む。[17]

3日間:日常場面で歌を選び、聴く前後の感情を評価した期間である。[17]

85人:否定的な感情を誘導した後、穏やか・楽しい・悲しい音楽の群に無作為に分けた若年成人の数である。[1]

50人ずつ:悲しい音楽を求める動機を比べた、うつ病群と非うつ病の対照群の人数である。[4]

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宮川涼 Founder

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