ランニングの背中の筋トレは腕振りに移る?引ける重さと走る燃費を分ける確認法

背中の筋トレで重い負荷を引けるようになれば、走る腕振りも省エネになるのか。ランナーの筋力トレーニングを調べたレビューと比較試験から、筋力、同じ速度の酸素消費、走行タイムの違いを読む。上半身の力が伸びても走る効率に差が出なかった女性の試験も踏まえ、成果を確かめる視点を示す。

チューブを引く手応えが軽くなった。背中の筋トレを続けた成果だと思う。次にいつもの周回コースを走り出したとき、その力が腕振りにも使われているのかが気になる。筋トレの記録は伸びたのに、いつもの道の息苦しさは変わらない。そんなとき、どちらの記録を信じればよいのだろう。

答えは、筋力の向上を認めたうえで、走る効率は別に確かめることである。ランナーへの筋力トレーニングには走る効率を改善した研究があるが、改善の有無は試験によって異なる。上半身の筋力が伸びても、走る効率には群間差が出なかった女性の試験もある。背中で引ける負荷だけを、腕振りの省エネの証明にするのは早い。[8][13]

腕の高さや肩の力の入れ方は、既存記事「心肺機能のランニングは腕の高さでも変わる?肩の力と酸素消費を分けて読む」に譲る。ここでは腕の形の正解探しではなく、背中を鍛えた成果が走りへ移ったと判断するための物差しを考える。

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引ける重さと走る燃費は、別の成績表である

ランニングエコノミーとは、最大努力より低い一定の速度で走るために必要なエネルギーの量である。日本語では走る経済性、この記事では「走る燃費」と呼ぶ。同じ速さを維持するときにどれだけ必要か、という考え方だ。筋力トレーニング後の変化を調べた研究でも、筋力とこの燃費は別々に測っている。[7]

筋トレの成績によく使われるのが、決められた動作で持ち上げられる最大の重さである。研究では「1回最大挙上重量」と呼び、1RMと表す。一方、走る燃費の試験では、決めた速度で走って酸素の必要量などを測る。前者が伸びたことと後者が減ったことは、測定の対象からして違う。[1][7]

ここを分けると、チューブを強いものに替えられた日の受け止め方が変わる。「背中の練習で扱える負荷が増えた」は、その種目についての成果として記録する。「だから同じ速度で走るときも楽になった」は、次に確かめる問いとして残す。筋力と燃費がそろって改善する試験も、そろわない試験もあるためだ。[1][7]

さらに、走る燃費と走行タイムも同じではない。中年の市民ランナーを対象とした比較試験では、酸素の必要量は改善したが、走行タイムは有意に変わらなかった。中年を対象とするため、18〜39歳の女性への適用は別に確かめる必要がある。実験室の数値が良くなれば、そのまま大会の時計が縮むという一対一の関係にはならなかったのである。[1]

腕振りの見た目も別の観察項目として置きたい。たとえば動画で以前より大きく腕を引いていると気づいたとする。それは動きの変化の記録にはなるが、その映像自体は酸素消費を測っていない。筋力の数字、動作の映像、走るときの測定値を混ぜないことが、成果を過大にも過小にも評価しないための出発点だ。[7][13]

背中の筋トレが不要だという話ではない。筋力をつける目標と、走りを変える目標を同じ欄で採点しない、という提案である。燃費に変化がなかった試験でも筋力は伸びている。走る指標が変わらないことを理由に、その練習で得た力までなかったことにする必要はない。[7]

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筋トレ全般には、小さな改善を示す研究の蓄積がある

中・長距離ランナーを扱った系統的レビューでは、条件を満たす研究が24件集められた。対象は走る経験が少なくとも6か月ある人で、筋力トレーニングは少なくとも4週間実施され、走る練習だけの対照群が置かれている。思いつきで筋トレを足した日の感想ではなく、一定期間の介入を比較した研究の集まりである。対象は経験のある中・長距離ランナーで、18〜39歳の女性だけの効果を示す集計としては扱えない。[8]

このレビューで走る燃費を測ったのは20件だった。対照群との比較では、おおむね2〜8%の改善がみられた。ただし、改善が出ない研究も含まれる。最大酸素摂取量、つまり最大努力の際に取り込める酸素の量などは、通常は変わらなかった。心肺の最大値を上げることと、同じ速さを少ない負担で走ることは分けて考えたい。[8]

以前から持久走を練習していた321人を含む18件の無作為化比較試験を整理した別のレビューでも、筋力、走る燃費、パワー、走行成績には全般的な改善が認められた。一方で、すべてのケースが改善したわけではなく、用いた筋力トレーニングの特徴に左右される可能性が指摘されている。対象はすでに持久走を練習していたランナーであり、18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには走る経験や練習内容の違いを考慮する必要がある。[5]

負荷をかける練習にも種類がある。重い抵抗に逆らう筋力トレーニングと、跳躍などを用いるプライオメトリックトレーニングは、そのまま同じものとして数えられない。長距離ランナーを対象とする22件を集めた系統的レビューとメタ分析では、走る燃費に対する統合効果は重い抵抗の練習で小さく、跳躍系ではごく小さいという評価だった。18〜39歳の女性だけを対象とした結果として、そのまま当てはめることはできない。[2]

具体的には、重い抵抗の練習の効果量は−0.32、95%信頼区間は−0.55〜−0.10だった。跳躍系は−0.13で、信頼区間は−0.47〜0.21である。効果量は異なる研究の変化を共通の尺度で表した値で、燃費がそのまま32%良くなったという意味ではない。跳躍系の区間は変化なしに相当するゼロをまたいでおり、平均値だけで明快な効果を約束できない。[2]

この蓄積が支えるのは、走る練習に筋力トレーニングを加える選択肢である。「筋トレに効果がある」という大きな話を、「背中を引く種目で腕振りが省エネになる」という細い説明に縮めると、途中の確認が抜ける。練習の種類と評価した走る指標を対応させることが必要だ。[2][5][8]

レビューを読むときは、研究の件数と自分に近い条件の両方を見たい。多くの試験が同じ方向を示すことには重みがあるが、対象はすでに走っている人たちである。運動を始めたばかりの人や、引く種目だけを追加する人の結果まで同じとは限らない。筋力トレーニングという名前が共通でも、走る経験と練習内容の違いは残る。[5][8]

また、異なるレビューには同じ試験が含まれる可能性がある。レビューの採用件数を単純に足して、独立した試験がその数だけあるとは扱わない。ここでは全体の傾向をレビューでつかみ、その傾向どおりにならなかった具体例を個々の試験で確かめていく。[2][5][8]

若い女性の市民ランナーでは、燃費に有意な群間差がなかった

上半身の筋力と走る成果を考えるうえで参考になるのが、競技のエリート選手ではなく、レクリエーションとして走る18〜27歳の女性16人の無作為化比較試験である。走る練習だけの群と、筋力トレーニングを追加する群を10週間比較した。両群とも週3回の午後の走練習を行い、追加群はその日の午前に筋力トレーニングを実施した。評価は介入前後の3kmタイムトライアル、走る燃費、最大酸素摂取量のピーク値、最大挙上重量などである。走力を競技成績で選抜した選手の結果としてではなく、持久走を行う若い女性の比較として読む。[13]

追加群では、スクワットと脚の後ろ側を使うカール種目の筋力に有意な向上がみられた。上半身のベンチプレスでも、走る練習だけの群と比べて11.9%の筋力増加が認められた。一方、走る燃費と最大酸素摂取量のピーク値には有意な群間差がなかった。この結果が示すのは、この対象と介入前後の測定条件で差を検出しなかったことであり、日常のあらゆる走行ペースで効果がないという結論ではない。[13]

ベンチプレスは押す動作であり、背中で引く種目の代わりではない。したがって、この結果をそのまま「背中を鍛えても走りには役立たない」と読むのも誤りになる。ここで使えるのは、上半身の筋力が伸びたという事実と、走る燃費の改善が確認されたという事実を分ける考え方である。[13]

走行タイムの読み方にも注意が要る。この試験の3kmタイムは、筋力トレーニング追加群で平均106.7秒、走る練習だけの群で平均77.3秒改善した。しかし、追加群の改善がより大きいという差は統計的に有意ではなく、検定の値は0.07だった。大きい数字が並んでいても、追加の練習が確実に優れていたとは言い切れない。[13]

この比較には、走る練習だけでもタイムが改善しているという面もある。筋トレを始めた時期に走りも良くなったとして、変化の全部を背中の練習へ割り当てることはできない。何を追加し、何を両群で続けていたのかまで読むと、練習と成果の結び付け方が落ち着く。[13]

走り終えたベンチで筋トレの記録を眺めると、増えた重量は分かりやすい。走る燃費は、同じように手帳の重さの欄へ書き込めない。だからこそ、見えやすい成果で見えにくい成果を代用しない。この女性の試験は、上半身を鍛えた達成感を保ちながら、走りの評価を急がないための具体例になる。[13]

数字で読む筋力と走る燃費

24件:中・長距離ランナーの系統的レビューに採用された研究数。[8]

2〜8%:同レビューでおおむね示された走る燃費の改善幅。改善しない研究もある。[8]

−0.32:重い抵抗の練習の統合効果量。95%信頼区間は−0.55〜−0.10で、評価は小さい。[2]

11.9%:若い女性の試験で示されたベンチプレス筋力の増加。走る燃費の有意な群間差とは結び付かなかった。[13]

2.0%:中年の市民ランナーの比較試験で示された酸素コストの改善。5kmタイムは有意に変わらなかった。[1]

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宮川涼 Founder

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