筋トレの胸と背中は同じ重さが目標?押す力と引く力の比を比べる条件を読む

胸のプレスと背中の筋トレで重さが違うと、バランスが悪いのだろうか。押す力と引く力を比較した競技者の研究から、比率の計算方向、懸垂とベンチプルの違い、最大重量とパワーの区別を読む。同じ重さを一律の目標にせず、種目や休憩をそろえて自分の変化を確かめる記録の考え方を紹介する。

胸のプレスと背中の引く運動で、重りの表示をそろえる必要はあるのだろうか。プレスを終えて次の器具に座ると、扱える重さが違う。記録帳に並ぶ数字を同じ高さにそろえたくなるが、その前に測っている動作を確かめたい。

しかし、押す重量と引く重量を等しくすることを、誰にでも共通する目標にはできない。競技者の研究でも、ほぼ等しい値を示す集団と、引く力が上回る集団がある。測った種目も違うため、まず必要なのは目標の比率を探すことより、何を何で割った数字なのかを確認することである。[1][4][10]

既存記事「胸の筋トレ翌日は背中も力が落ちる?反対向きの筋肉と疲れの持ち越しを読む」には翌日の疲労の問いを譲る。ここでは、押す力と引く力を同じ物差しに載せる条件を扱う。回復日数を決める話とは切り分け、重量が違うという理由だけで運動の良し悪しを決めないための読み方である。

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比率を見る前に、割り算の向きを読む

押す力と引く力の比較で最初につまずくのは、難しい運動の理屈ではない。分子と分母である。国際大会でメダルを獲得したカヌー・カヤック選手を調べた研究では、引く種目の最大重量を押す種目の最大重量で割っている。一方、エリート水泳選手とカヤック選手を比べた研究は、押す側を引く側で割っている。[1][4]

前者の研究では、男性選手9人、平均年齢21.0歳を対象に、ベンチプレスと、うつ伏せで引くプローンベンチプルなどを測定した。引く重量を押す重量で割った平均値は0.96だった。男性のトップ選手の初期的な測定値であり、18〜39歳の女性の目標値へそのまま当てはめることはできない。[1]

後者は水泳選手15人とカヤック選手13人の比較で、押す重量を引く重量で割った筋力比は、それぞれ0.87と0.82だった。この向きの計算では、値が小さいほど引く側が相対的に大きい。両群とも、押す動作より引く動作のほうが強かったという結果である。競技水準の高い選手の比較なので、18〜39歳の女性一般にそのまま当てはめる根拠にはならない。[4]

したがって、違う論文の0.96と0.82を数字の大きさだけで並べても、どちらが「釣り合っている」とは判断できない。割り算の向きに加えて、対象となる競技者も違う。小数点の位置が似ていても、数字の住所が違うのである。比較するなら、押す側と引く側のどちらを上に置いた値か、言葉に戻して確認したい。[1][4]

自分の記録に応用するなら、「胸と背中の比」とだけ書かない。「ベンチプレスの重量をベンチプルの重量で割る」のように、式を種目名で残す。これは特定の計算方向を推奨するという意味ではない。同じ名前に見える数字を、後から取り違えずに読むための記録上の工夫である。

また、比率は関係を短く示す一方、元の重量を省略してしまう。比だけを記録するより、押す側と引く側の測定結果を残し、その横に比を添える形が分かりやすい。競技者を調べた研究でも、比率だけでなく、それぞれの最大筋力やパワーを測っている。割り算は測定結果の整理であり、測定そのものの代わりにはならない。[1][4][10]

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懸垂とベンチプルを同じ「背中」に入れない

最大筋力の測定では、1回だけ挙げられる最大の負荷を1RMと呼ぶ。ラグビーリーグ選手42人を調べた研究は、ベンチプレスと懸垂の1RMを使って、押す動作と引く動作の関係を検討した。対象者はいずれも、普段から両種目をトレーニングしていた選手である。18〜39歳の女性にその平均比率をそのまま当てはめることはできない。[10]

全体の平均では、ベンチプレスが130.1 kg、懸垂の測定値が133.1 kgで、押す側を引く側で割って百分率にした筋力比は97.7%だった。比の標準偏差、つまり集団内のばらつきを表す値は9.0%で、両種目の成績の相関係数は0.81だった。押す成績が高い選手は引く成績も高い傾向を示したが、個々の値が完全に一致したわけではない。[10]

この研究だけを読むと、胸と背中は同じ重さにすべきだと思いやすい。しかし、ここで引く側に使ったのは懸垂である。うつ伏せのベンチプルを使ったカヌー・カヤック選手の研究とは、種目が異なる。背中を使う運動という大きな括りだけで、懸垂の比率を別のマシンの表示重量に当てはめる読み方は避けたい。[1][10]

たとえば、自分のメモが「胸はプレス、背中は引くマシン」だけだったら、後で比較の条件を確認できない。懸垂なのか、うつ伏せで引いたのか、どの器具で行ったのかを種目名とともに残しておく。胸と背中という部位名は予定を立てるには便利だが、研究の数字を照合するには粗すぎる分類である。[1][4][10]

ラグビー選手の研究の著者らも、体格、以前のけが、トレーニング歴によって、押す側か引く側が得意になる場合に注意を向けている。個人によっては筋力差が15%に達する例があり、比率に基づいて運動を処方する際には、こうした要因を考慮すべきだとしている。「ほぼ等しい」という集団の傾向と、全員を同じ値に寄せる指示は別である。[10]

さらに、この研究の相関は、押す練習をすれば引く力も自動的に同じだけ伸びるという意味ではない。両種目を日常的に行う選手の測定結果に見られた関係である。自分の胸の記録から、未測定の背中の強さまで計算したつもりにならないことも大切だ。[10]

競技が違えば、釣り合いの風景も違う

水泳選手とカヤック選手の比較では、カヤック選手のベンチプレス1RMは水泳選手より18.2%、ベンチプル1RMは25.7%高かった。一方、押す側を引く側で割った筋力比の群間差は、統計的に有意ではなかった。両種目の筋力の群間差と、筋力比の群間差では結果が異なったのである。[4]

この結果は、比だけを見ていると、両方の力の大きさを見落とすことを教える。筋力比が似ていることと、同程度の重量を扱えることは同じではない。反対に、ある人の比が競技者の平均と違うだけで、運動の目的に合っていないとも決められない。比を読むときは、元の成績と対象者の背景を一緒に置く必要がある。[4][10]

研究同士を並べると、ほぼ等しい比を示したラグビー選手と、引く側が上回った水泳・カヤック選手がいる。これは、どちらかの研究を捨てれば解消する対立ではない。懸垂とベンチプルという測定の違いがあり、対象となる集団も異なる。それぞれの観察を保ったまま、条件つきの結果として読むのが妥当である。[4][10]

ただし、この比較から「その競技をすると、必ずその比率になる」と原因を断定することもできない。集団を比べた測定は、競技経験を割り当てて比率の変化を試す介入とは異なる。普段の運動内容、体格、経験などをすべて競技名だけに置き換えて説明しないようにしたい。[4][10]

立川駅北口で買い物をして帰る人と、国際大会へ向けて調整する選手では、記録を取る目的から違う。競技者の数値は興味深い比較材料だが、そのまま日常の体に貼る採点表ではない。まず知りたいのは、胸と背中を同じ重量にできるか、それとも慣れた運動を自分のペースで続けられるか。目的の言葉を先に置くと、数字の使い道も選びやすい。

たとえば、結果をトレーナーに見せるなら、「比が平均から離れている」という相談だけで終えず、どの種目の何を改善したいかを添えると話が具体的になる。普段から両種目に取り組むラグビー選手を対象にした結果と、競技水準の高い水泳・カヤック選手の比較結果では、比較相手の成り立ちが違う。その違いを残したまま、自分の記録に使える部分を選ぶのである。[4][10]

また、群間差が有意でなかったという結果は、全員が同じだったという証明ではない。水泳とカヤックの研究には群ごとの筋力比の値があるが、その差を明確な競技差として扱う根拠にはならなかった。数値の違いを紹介することと、その違いに意味があると断定することの間には距離がある。ここを飛ばさず読むと、小さな差だけでメニューを変更する判断も保留できる。[4]

数字で読む押す力と引く力

42人:ベンチプレスと懸垂を比較したラグビーリーグ選手の人数。両種目を普段から行っていた。[10]

97.7%:同研究の、押す最大重量を引く最大重量で割った平均筋力比。ばらつきの標準偏差は9.0%だった。[10]

0.87と0.82:水泳選手とカヤック選手の、押す側を引く側で割った筋力比。群間差は有意ではなかった。[4]

0.96:男性カヌー・カヤック選手9人の、引く側を押す側で割った平均値。上の値とは計算の向きが異なる。[1]

40〜90%:カヌー・カヤック選手の研究で、ベンチプルのパワーが比較した押す種目より高かった1RMに対する負荷の範囲。[1]

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宮川涼 Founder

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