睡眠前のほうじ茶は焙煎でカフェインが減る?香ばしさと抽出条件を分ける

睡眠前のほうじ茶は、香ばしく苦みが少なければカフェインも少ないのか。焙煎茶の成分分析と人を対象にした研究をたどり、香り、茶葉の変化、抽出液の成分、気分の変化を分けて読む。緑茶との味の違いを寝つきの保証にせず、夜の飲み物を選ぶときに確かめたい表示と条件を整理する。

急須のふたを開けると、焙煎した茶の香りが立つ。夕食後のほうじ茶は、口当たりも穏やかだ。「ここまで焙煎してあれば、カフェインもほとんど残っていないのでは」と思いたくなる。しかし、焙煎茶の水抽出物からカフェインを検出した成分分析がある。香ばしさを、カフェインが消えた合図にはできない。[1]

睡眠前のほうじ茶を選ぶときの答えの芯は、焙煎による味と香りの変化と、飲む液体のカフェイン量を分けることだ。焙煎方法で香りの成分は変わるが、その香りの強さからカフェインの量を読み取ることはできない。気分が切り替わる感覚と、寝つきがよくなるという判定も別に扱いたい。[1][5][14]

既存記事「コーヒーは深煎りほどカフェインが多い?焙煎の色とクロロゲン酸の違いを読む」にはコーヒーの焙煎を譲る。ここで見るのは、夜のほうじ茶の香りを手がかりに、茶葉の成分や睡眠まで推測してよいかという問いである。

既存の「そば茶は濃いほどルチンが多い?焙煎と抽出条件で変わる成分を研究で読み分ける」には、そばの原料から成分を取り出す問いを譲る。こちらは茶の香ばしさをカフェイン量の目安にしてよいかを中心に据える。

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焙煎した茶でもカフェインは残っている

カフェインの存在を直接確かめた例から始めよう。焙煎した緑茶の水抽出物を、液体中の成分を分けて調べる分析法で測定した研究では、カフェイン、ガロカテキン、没食子酸、各種カテキンが検出された。研究者はカフェインを、検出成分のうち最も豊富なものとして挙げている。[1]

ただし、これは夜に茶を飲む人を調べた試験ではない。茶抽出物を利用して銀ナノ粒子を作り、骨再生用の材料へ組み込む研究である。焙煎茶の水抽出物の濃度は2%だった。ここから読めるのは、その条件の抽出物にカフェインが存在したことまでだ。家庭の湯飲みにどれほど入るかを示す数値としては使えない。[1]

「最も豊富」という表現にも分母が要る。分析で取り上げた成分同士の比較と、お茶全体の組成とは同じではない。ほうじ茶の大部分がカフェインである、と読み替えてはいけない。また、この試料の分析結果をもって、すべてのほうじ茶が緑茶より多いと順位づけすることもできない。[1]

この研究の使いどころは明確である。「焙煎された茶だから、カフェインは存在しない」という一律の見方を退けることだ。少ないという比較と、存在しないという判定は違う。夜の飲み物を選ぶ場面では、商品の名前より、選んだ飲み物そのものの情報を確かめるほうが問いに近い。[1]

棚に並ぶ茶葉の袋を見て、ほうじ茶という名称だけで安心の印を付けない。カフェインを気にして選ぶなら、その情報が表示されているかを探す。表示がない場合に、茶色や香ばしさを代わりの測定器にするのはやめよう。鼻が受け取った情報と、成分分析が測った対象を混ぜないためである。[1][14]

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香ばしい匂いは何が変わった知らせなのか

焙煎茶らしい香りに関わる成分として、ピラジン類が調べられている。強い匂いを持ち、感覚として認識される濃度が低い成分群である。焙煎緑茶の分析研究では、仕上げの加熱方法によってピラジン類の含有に差があり、マイクロ波を使った仕上げでは含有量が最大となり、香りの質も改善した。[9]

ここで大事なのは、よく香るために必要な条件と、多量に含まれるための条件を同じにしないことだ。低い濃度でも匂いとして認識される成分があれば、香りは目立つ。目立つ匂いがあるからといって、液体中の別の成分の量までは分からない。[9]

別の食品化学研究は、蒸した緑茶から、遠赤外線による焙煎とドラムによる焙煎で、強さを変えた茶を作って比較した。定量したのはカテキン8種、フラボノール配糖体13種、揮発性成分105種である。揮発性成分とは、ここでは香りに関わる気体になりやすい成分を指す。[14]

強い焙煎では、多くのカテキンやフラボノール配糖体が減る一方、アルデヒド、ケトン、フラン、ピロールやピラジンなどが大きく増えた。同じ「加熱」であっても、成分ごとに変化の向きが異なる。遠赤外線の茶にはナッツを思わせる香り、ドラム焙煎の茶には焙煎香や焦げた匂いという違いも見られた。[14]

研究は、焙煎が単なる色づけではなく、成分の組み合わせを変える工程であることを示している。そのため、強い香ばしさを「成分が全体に薄くなった証拠」とする読み方は合わない。減った成分も増えた成分もあるからだ。夜の台所で感じる柔らかな香りの裏では、かなり複雑な入れ替わりが起きている。[14]

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苦みが弱いから少ない、とは読めない

苦みや渋みが穏やかな茶は、夜の気分に合うかもしれない。ただ、味が穏やかであることを、そのまま特定成分の少なさに置き換えるのは避けたい。中国の焙煎緑茶を対象にした研究は、追加の乾燥工程の後で、うま味、苦み、渋みが弱くなり、甘い香りや焙煎香、トウモロコシや栗を思わせる香りが強くなったと報告している。[10]

その比較では、味との関連が強い成分のうち、エピガロカテキンガレートが4.5%、グルタミン酸が12.3%、テオガリンが10.4%減った。対象は特定の中国茶とその加工工程であり、日本で売られるほうじ茶全般の減少率ではない。味に関係する成分の変化を調べた結果として読むべきだ。[10]

味の印象には、複数の成分と香りの変化が重なっている。苦みが弱くなったという感覚から、カフェインが何割減ったかを逆算することはできない。論文にある4.5%という数字も、減った対象は特定のカテキンであって、カフェインではない。この主語の違いを落とすと、加工の話が夜の摂取量の話へすり替わる。[10]

焙煎で成分がどう動くかは、研究同士を並べても単純ではない。別の焙煎緑茶の分析では、カテキンとその誘導体などの増加が観察され、一部のアミノ酸とその誘導体は50%を超えて減少した。先ほどの強い焙煎で多くのカテキンが減った研究と、方向がそろわない部分がある。[8][14]

これは「焙煎したら必ず増える」「必ず減る」のどちらかを選ぶ場面ではない。対象の茶と工程、個々の化合物をそろえて読む必要がある。カテキンという大きな呼び名の内側にも違いがあり、変化をひとまとめにすると、元の実験が見ていた細部が失われる。まして別の成分であるカフェインへの読み替えはできない。[8][14]

成分名を少し丁寧に追うと、違って見える結果の読み方も変わる。増加を報告した研究で大きく増えたのは、テアニンそのものではなく、糖が結びついたテアニングルコシドだった。焙煎段階で21.23倍になったという値を、テアニンが同じだけ増えたという説明にはできない。名前の似た化合物を同じものとして扱うと、味の研究から成分への期待を広げすぎてしまう。[8]

また、香りの分析研究では、茶の形状によってもピラジン類に大きな差が認められた。仕上げの加熱法だけでなく、対象にした茶の特徴も結果と一緒に読む必要がある。香ばしい茶という呼び名で試料をひとまとめにすると、研究が比較した条件の違いを拾えない。[9]

家で茶を飲み比べるなら、「こちらは渋みが穏やかで飲みやすい」と表現するところまでは自分の感覚でよい。そこから「こちらはカフェインが少ないはず」と続ける前に、成分の情報を確かめたい。味の好みを決める仕事と、夜に何を飲むかを成分から決める仕事は、並べて行えばよいのである。[1][10]

茶葉を加熱する条件と湯でいれる条件を分ける

ほうじ茶の話では「温度」という言葉が、茶葉を焙煎する温度と、飲むために抽出する温度の両方に使われる。食品化学の研究を読むときも、どの工程の話かを先に確認したい。焙煎法を比較する実験は茶葉を加工する段階を調べており、家庭で湯を注ぐ段階のカフェイン量の比較とは違う。[14]

抽出を扱った実験にも、家庭の急須とは異なる条件がある。残った緑茶から焙煎緑茶に似た抽出物を作る研究は、亜臨界水抽出という方法を使い、140〜260℃を比較した。感覚的な性質と抗酸化活性を調べると、その実験では140℃が最もよい条件だった。[17]

この140℃は、夜のお茶をその温度でいれるという提案ではない。研究が比べたのは特別な抽出法で作った試料であり、「最もよい」の評価軸も感覚的な性質と抗酸化活性である。寝つきのよさを比べて選んだ温度でも、カフェインを最少にするために選んだ温度でもない。[17]

抽出条件を読むとは、温度だけを拾う作業ではない。材料が茶葉なのか、抽出後の残りなのか、できあがった試料の何を測ったのかまで含めて確かめることだ。製造工程の数値と、家庭で使う抽出条件は区別しよう。温度の数字は目に留まりやすいが、何の温度かという名札も一緒に持ち帰りたい。[14][17]

家庭では、まず手元の茶のいれ方に沿って条件を書き留める方法が取れる。茶葉の量、湯の量、湯を注いでから注ぎ分けるまでの様子を、自分の飲み物の記録として残すのだ。ここでの目的はカフェインを計算することではない。商品やいれ方が違う飲み物を、同じ「ほうじ茶」の名前だけで比べないための準備である。

数字で読む焙煎茶の研究

2%:カフェインが検出された焙煎茶の水抽出物の濃度。材料開発研究の試料である。[1]

105種:焙煎法の比較研究で定量した揮発性成分。湯飲みのカフェイン量ではない。[14]

4.5%:特定の中国茶の追加乾燥後に減ったエピガロカテキンガレート。カフェインの減少率と取り違えない。[10]

20人:茶を飲みながら暗算した健康な若年男性。夜の睡眠を調べた対象ではない。[5]

140〜260℃:残った緑茶を使う亜臨界水抽出で比較した温度。家庭での抽出条件への推奨ではない。[17]

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宮川涼 Founder

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