糖質制限の効果を読むとき、食事を守れた人だけの結果を選んでいないだろうか。割り付けに基づく解析と計画を守った人の解析を、食事試験の人数や信頼区間から読み分ける。同じ研究でも数字が変わる理由、体重維持と減量の違い、研究の支援を日常に置き換える際の確かめ方を考える。
夕食のご飯をよそう手が止まる。糖質制限の記事には「きちんと続けた人では差が大きかった」とある。その数字に自分の来月を重ねる前に、確かめたいことがある。きちんと続けられなかった人は、どこへ行ったのか。
糖質制限の効果は、比べる人の選び方とセットで読む必要がある。減量後の成人の体重維持を調べた食事試験では、割り付けに基づく解析と、体重維持の条件も満たした人の解析が併記され、低糖質群と高糖質群の必要エネルギーの差は、後者で大きい範囲になっていた。ただし、これは「糖質を減らせば何日で何kg減る」という試験ではない。[15]
既存記事「ダイエットの論文は参加者が多いほど確か?脱落した人と結果の偏りを読み解く」には、人数と脱落の論点を譲る。ここでは、糖質制限の試験で、最初に割り付けられた食事を基準にするのか、その後に守れた人を選ぶのかに焦点を絞る。体重を減らすこと自体を、すべての読者の目標にする必要はない。

割り付けで比べる数字は、何に答えているのか
食事試験には、参加者を食事群に無作為に振り分け、その群を基準に解析する方法がある。割り付けに基づく解析は、英語の略でITTと呼ばれる。実際に、糖質量の異なる食事を用意した体重維持試験や、糖質制限と食べる時間を制限する方法を比べた試験で、この解析が用いられている。[6][4]
読むときの問いは「その食事を選ぶように割り付けられた群では、どうなったか」である。一方、計画を守った人を対象にする解析はPPと呼ばれる。後者では、実施できた条件の下での結果に目を向ける。代謝症候群の食事試験では、試験を始めた162人によるITT解析と、割り付けられた計画を守った57人によるPP解析が行われた。患者を対象とするため、18〜39歳の女性一般への適用には病気の有無を考慮する必要がある。同じ試験名が付いていても、集計の内側にいる人は同じではない。[4]
この人数の違いを、食事の成功率として読み替えてはいけない。162人と57人は、それぞれの解析に入った人数である。PPという言葉だけから、何をどこまで守ればよいのかを自分で補うのも避けたい。この試験での条件は「割り付けられた計画を守った人」であり、別の体重維持試験では「完了し、体重維持も達成した人」であった。同じ略語でも、対象を選ぶ条件まで読む必要がある。[4][15]
立川駅の改札を出たところで献立を考える自分に近いのは、整った条件で完遂する人だけだろうか。それとも、外食や予定変更も抱えながら食事方針を選ぶ人だろうか。これは論文を採点する問いではなく、どの結果を自分の生活に照らして読むかという問いである。守れた人の成績を見ることと、自分も同じ条件に入れると決めることは、分けておきたい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
守れた人だけの解析では、条件が加わっている
具体例として、平均10.5%の減量を経た成人164人を、糖質割合の異なる食事に無作為に割り付けた研究を読む。参加者の70.1%が女性で、体格指数は25以上であった。若い女性に限定した集団ではなく、18〜39歳の女性に同じ結果が出るかは、この比較だけでは判断できない。比較したのは20週間の体重維持であり、食事のエネルギー量は減量後の体重から±2kgの範囲を保つように調整された。[15]
糖質・脂質・たんぱく質のエネルギー比率は、低糖質群が20・60・20、中等度糖質群が40・40・20、高糖質群が60・20・20であった。ここでの低糖質は、日常会話でいう「夜のお米を少し減らした」と同じ条件とは限らない。食事全体の組み合わせが決まった比較であり、糖質という単語だけを取り出すと、何を何に置き換えた試験なのかが消えてしまう。[15]
この論文がITTとして示したのは完了者148人、PPとして示したのは完了し体重維持も達成した110人の解析である。ITTと書いてあれば、無作為化された164人全員の実測値をそのまま並べた表だ、と受け取るのも正確ではない。論文内の解析名に加えて、実際の対象人数が必要になる。[15]
低糖質群の推定必要エネルギーは、高糖質群よりITTで1日181〜246kcal、PPで245〜323kcal高かった。いずれも解析モデルによって変わる推定値の範囲である。たとえばITTの181kcalの推定には95%信頼区間8〜353kcal、PPの323kcalの推定には122〜525kcalが付く。見出しに置ける最大の数字を選ぶより、どの対象と計算条件で得た推定かを読む方が、この比較を理解しやすい。[15]
信頼区間は、点で示した推定値の周囲にある不確かさを読むための幅であり、この論文でも推定値と併記されている。しかもここで測っているのは、体重を維持するための推定必要エネルギーである。食べてよい量の個人向けの上乗せ券でも、そのまま将来の減量幅に換算できる数字でもない。研究は減量後の体重を保つ条件で行われている。[15]
PPの方が大きい数字だから正解、ITTの方が小さいから本音、という二択にはしない。同じ研究は、体脂肪の変化や食事を守れなかった可能性を考慮した感度分析でも差が有意であったと報告している。条件を変えても結果がどうなるかを調べた点と、日常の誰にでも同じ差が出るとする点は別である。結果を尊重することは、数字の用途を広げることではない。[15]
解析を変えても、群間差がない例はある
別の無作為化試験では、代謝症候群と診断された169人を、糖質制限、食べる時間を8時間に限る方法、両者の組み合わせに振り分け、3か月間調べた。その二次解析が、心筋に関連する酵素や甲状腺の検査値を対象にしている。主な問いは、食事方法によって検査値がどう変わるかであった。代謝症候群の患者の結果を、18〜39歳の健康な女性の変化の予測に使うことはできない。[4]
先ほど触れた通り、ここでは開始者162人と計画を守った57人の解析がある。開始前と比べると、複数の検査値はそれぞれの食事法で変化していた。計画を守った人の解析だけで変化が認められた項目もあれば、ITTだけで認められた項目もあった。しかし、食事群の間には、どちらの解析でも有意な差が認められなかった。[4]
この違いは重要である。「低糖質群で変化した」という文章を見つけても、「ほかの食事法より低糖質が優れていた」とは直結しない。この研究では、開始前からの変化と、群同士を比べた差の結論が異なるからである。検査項目の名前をすべて覚えなくても、比較の相手が「始める前の自分たち」なのか「別の食事群」なのかは確かめられる。[4]
同じように、PPで有意になった項目だけを抜き出して、食事法全体の勝敗を付けることも避けたい。この試験が扱うのは代謝症候群の人の検査値であり、健康な若い女性が日常で感じる動きやすさを比べたものではない。研究の対象、測ったもの、比べた相手をそろえて読むと、魅力的な単語だけが先走らずに済む。[4]
比較の設計は、食事が手元に届くところまで読むと分かりやすい。血液指標を調べた関連研究では、試験前の食事で10〜14%の減量を達成してから、糖質割合の異なる維持食に割り付けていた。各群のたんぱく質はエネルギーの20%にそろえられ、用意された食事を用いる設計であった。単に糖質を減らした人の生活を後から集めた比較とは、出発点が異なる。対象は減量後の成人であり、18〜39歳の女性の日常へ移す際にも、この準備と食事提供の条件を考える必要がある。[6]
この研究の継続率は90%と報告されている。しかし、継続率と食事を守れた割合と体重維持を達成した割合は、それぞれ別の条件として読むべきである。必要エネルギーの関連論文では、完了者の中からさらに体重維持の条件でPP対象を選んでいた。「研究に残った」と「解析の条件をすべて満たした」を同じ欄へ入れないことが、人数の表を読む手掛かりになる。[6][15]
日常の記事で「参加者の大半が続けた」と紹介されていたら、その次に、どの食事条件を比較したのかを見る。ここでは糖質割合だけでなく飽和脂肪の割合も異なっていた。低糖質群は糖質20%・飽和脂肪21%、高糖質群は糖質60%・飽和脂肪7%である。食卓の一品を抜く提案と、食事全体を組み替えた試験との距離は、こうした条件から見えてくる。[6]
数字で読む糖質制限試験の集計
164人:減量後の体重維持のため、糖質比率の異なる食事に割り付けられた成人の人数である。[15]
148人と110人:同じ体重維持論文で、ITTとPPとして解析された対象人数である。[15]
181〜246kcal/日:低糖質群と高糖質群の推定必要エネルギーの差。ITTの各モデルによる推定である。[15]
162人と57人:代謝症候群の試験で、ITTとPPに含まれた人数である。[4]
20週間:用意された糖質比率の異なる食事で、体重維持や血液指標を調べた期間である。[6][15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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