
始める前の意欲と、運動後の心拍回復も別の問いである
まだ動いていない時の瞳孔にも、研究上の意味がある。健康な大学生31人、うち女性19人を調べた研究では、限界まで腕立て伏せを行う日と、その回数の30%を行う日を分けた。運動前の座位安静中に、その日の課題を伝え、心の状態や瞳孔、脳活動などの変化を測っている。筋肉の運動量が増える前の、予告への反応を調べる設計だ。[17]
限界まで行う条件では、取り組むことへの面倒さと前頭部の活動が、少ない回数の条件より高かった。また、意欲と瞳孔径には関連が見られた。研究者は、瞳孔径が運動への意欲に伴う覚醒を反映する可能性を示している。始める前に目が変わっても、それを全部「嫌がっている」と読める結果ではない。[17]
たとえば、初めての動きを前に「できるだろうか」と構える時と、「今日は取り組みたい」と気持ちが向く時を、外から見た直径だけで分けたいと考える場面がある。研究では、本人への質問と機器での記録を組み合わせて、この違いに近づいている。課題を知る前後の変化を追うことで、運動前に生じる心理的な構えも検討できる設計である。[17]
これに対し、運動後の心拍回復を調べた研究は、別の問いを扱う。健康な成人62人(男性39人、女性23人)、平均年齢33.7歳を対象に、トレッドミル運動後の心拍低下と、光への瞳孔反応との関連を分析した。運動終了後の心拍回復は、運動中の最大心拍数から回復中の心拍数を引いて求めている。男女を合わせた集団の関連を調べた観察研究であり、18〜39歳の女性だけに同じ関連が成立するかは別途確認が必要である。[5]
運動終了から1分後の心拍低下は平均32.9±8.0拍毎分だった。縮瞳速度とその心拍回復には正の相関があり、相関係数は0.660だった。一方、縮み始めるまでの時間とは負の相関が見られた。同じ瞳孔検査の中でも、速さと待ち時間では関連の向きが違う。測定項目の名前を省くと、結果の意味まで変わってしまう。[5]
この数値は、運動した日の合格点ではない。健康な成人の集団で得られた平均値と関連であり、「鏡で目が小さく見えるから心拍も回復した」と推測する基準にはできない。心臓の自律神経活動と目の自律神経機能が関連することは、心の悩みの程度を同時に測れたことを意味しない。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
有望な指標でも、ひとつの反応ですべては説明しない
運動時の瞳孔研究には、前向きな結果がある。健康な若い成人を対象とした実験では、非常に軽い運動を10分間行うと、安静条件に比べて瞳孔が拡大し、注意の干渉を扱う課題の成績と、課題中の前頭前野活動が改善した。瞳孔の拡大の変化量は、課題成績の改善の大きさを予測した。運動中の反応が後の働きにつながる可能性を示す結果である。[1]
ただし、広く研究を集めると見え方は慎重になる。眼の測定と運動・認知機能の関係を扱った系統的レビューは35研究を整理し、瞳孔計測が急性運動や心肺体力の認知機能への効果を説明する証拠は、結果が混在しているとした。個々の実験で関連が出ることと、広く安定した説明が成り立つことは、別の段階だ。[12]
この違いは、良い研究と悪い研究の多数決ではない。小さな実験は、特定の対象と条件で起こる反応を詳しく調べる。系統的レビューは、その説明が別の研究にも広がるかを検討する。瞳孔を有望な手掛かりとして扱いつつ、まだ万能な判定装置にしないという態度は、両方の結果と両立する。[1][12]
心の作業の後に体を動かす研究にも、単純なつながりでは説明できない例がある。余暇に運動する21人を対象にした事前登録済みの無作為化実験では、個人に合わせた難しい認知課題を続ける条件と、自分で選んだ映像を見る条件を比べた。その後の強いランニングの継続時間は、難しい課題の後でも低下しなかった。[11]
この実験では瞳孔の大きさは認知負荷を反映し、主観的な状態の変化とも部分的に関連した。それでも後の身体パフォーマンスの低下には直結しなかったのである。「考える負荷が目に出た」から「次の運動はできなくなる」までを、ひと続きに予測することはできない。負荷の存在、感じ方、動けた結果を分けて読む必要がある。[11]
服薬や対象者の違いも無視できない。高血圧患者の薬剤群を比べた研究では、握る運動の後に、光への縮瞳速度と再拡大速度がともに増した群と、増さなかった群があった。血圧や脈拍の増加にも群間差があった。対象は降圧薬を服用する高血圧患者である。18〜39歳の健康な女性の運動への反応に、そのまま当てはめることはできない。[6]
こうした研究を日常に持ち帰る時は、「瞳孔に変化があった」という観察の先に、どの負荷を、誰に、いつ測ったかを置くと読みやすくなる。握力運動の筋肉からの信号、始める前の意欲、難しい認知課題では、同じ拡大に見えても確かめたい仮説が違う。直径を共通のストレス点数にしてしまうと、その違いが消える。[11][14][17]

よくある誤解
「大きくなったら交感神経が働きすぎている」は、運動中の反応を一方向に評価しすぎである。非常に軽い運動でも瞳孔は拡大し、心理的覚醒の高まりと関連した。さらに、不安定な足場での運動でも変化量が大きかった。拡大だけで過剰な緊張と決めず、活動の種類と負荷の条件を合わせて読むべきだ。[18][19]
「小さく戻ればストレス解消の証明になる」も飛躍がある。光への反応と心拍回復の関連を調べた研究が扱ったのは、縮む速度や反応の時間などである。運動前後の直径の見た目で、気分がどれだけ改善したかを採点したものではない。気持ちが軽くなったという本人の実感を、目の見た目で取り消す理由にもならない。[5]
「瞳孔が変わればホルモンの量まで分かる」という期待にも区切りが必要だ。運動時の瞳孔は、青斑核を含む覚醒の仕組みを間接的に探る指標として研究されている。画像や心理指標との関連は有望だが、瞳孔という末端の反応と、神経系の仕組みそのものを同じ測定値として扱うことはできない。[8][16]
今日からできること
- 運動後の鏡や写真を心のストレスの点数にしない。光への検査では、直径以外に縮む速さや反応までの時間も扱うことを思い出す。[5]
- 運動前の記録には、取り組みたい気持ちと、面倒に感じる気持ちを言葉で残す。大学生31人の研究でも、心理状態と生理的測定を組み合わせていた。[17]
- 軽い活動後に目が変わっても、それだけで負荷が過剰だと決めない。若い男性26人の実験では、非常に軽い強度から拡大が起きていた。[19]
- 足場や姿勢の難しさが違う運動を、同じ反応になるはずだと比べない。18人の比較実験では、足場の条件によって瞳孔の変化量が異なった。[18]
- 研究の数字を読む時は、生の直径か、安静からの変化量か、光への反応速度かを確認する。基準を補正した値と検査の速度は同じ数値として並べられない。[5][18]

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参考文献
[1] Pupil dynamics during very light exercise predict benefits to prefrontal cognition — Kuwamizu R, Yamazaki Y, Aoike N, Hiraga T, Hata T, Yassa MA, Soya H., 2023, NeuroImage. DOI: 10.1016/j.neuroimage.2023.120244
[5] Assessment of the relationship between dynamic pupillometry and exercise heart rate recovery among healthy subjects — Okutucu S, Civelekler M, Sabanoglu C, Aparci M, Dikmetas O, Uzun S, Aksoy H, Sah, 2016, European review for medical and pharmacological sciences. DOI: なし
[6] Effects of azelnidipine and amlodipine on exercise-induced sympathoexcitation assessed by pupillometry in hypertensive patients — Koike Y, Kawabe T, Nishihara K, Iwane N, Hano T., 2016, Hypertension research : official journal of the Japanese Society of Hypertension. DOI: 10.1038/hr.2016.94
[8] Pupil Dynamics Predict Exercise Brain Stimulation: An Overview of Exercise Pupillometry — Kuwamizu R, Yamazaki Y, Suwabe K, Suzuki K, Sankai Y, Soya H., 2025, Advances in neurobiology. DOI: 10.1007/978-981-95-0066-6_6
[11] Individualized Cognitive Effort to Failure Does Not Affect Subsequent Strenuous Physical Performance — Holgado D, Cailleux A, Ruggeri P, Martarelli C, Bekinschtein TA, Sanabria D, Pla, 2025, Medicine and science in sports and exercise. DOI: 10.1249/mss.0000000000003669
[12] Look into my eyes: What can eye-based measures tell us about the relationship between physical activity and cognitive performance? — Zou L, Herold F, Ludyga S, Kamijo K, Müller NG, Pontifex MB, Heath M, Kuwamizu R, 2023, Journal of sport and health science. DOI: 10.1016/j.jshs.2023.04.003
[14] Muscle metaboreflex activation by static exercise dilates pupil in humans — Hayashi N, Someya N., 2011, European journal of applied physiology. DOI: 10.1007/s00421-010-1716-z
[16] A possible contribution of the locus coeruleus to arousal enhancement with mild exercise: evidence from pupillometry and neuromelanin imaging — Yamazaki Y, Suwabe K, Nagano-Saito A, Saotome K, Kuwamizu R, Hiraga T, Torma F, , 2023, Cerebral cortex communications. DOI: 10.1093/texcom/tgad010
[17] Influencing factors and physiological parameters of psychological hurdle and motivation immediately prior to exercise — Fukuie T, Inoue K, Yamaguchi A., 2025, The Journal of sports medicine and physical fitness. DOI: 10.23736/s0022-4707.24.16055-0
[18] Resistance exercising on unstable surface leads to Pupil Dilation — Claußen L, Heidelbach T., 2024, BMC sports science, medicine & rehabilitation. DOI: 10.1186/s13102-024-00858-w
[19] Pupil-linked arousal with very light exercise: pattern of pupil dilation during graded exercise — Kuwamizu R, Yamazaki Y, Aoike N, Ochi G, Suwabe K, Soya H., 2022, The journal of physiological sciences : JPS. DOI: 10.1186/s12576-022-00849-x
この記事の情報は2026年10月時点のものです。個別の健康状態については医師にご相談ください。
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