運動でストレス解消する時は自分を客観視する?振り返る視点と言葉の違いを読む

運動の帰り道、嫌な出来事をどんな視点で振り返ればよいのか。第三者の立場で眺める方法と、自分への声かけを変える方法を、気分・走行中のきつさ・運動成績の研究から読み分ける。客観視が万能とは言えない理由と、日常で言葉を選ぶ際の手掛かりを、対象や比較条件の違いも含めて確かめる。

運動を終えてシューズのひもをほどく時、昼間の会議をまた思い出す。体は動かした。それでも頭の中では、言い返せなかった言葉の続きを話している。こんな帰り道に「もっと客観的になればよかった」と反省まで追加する必要があるのだろうか。

自分の経験を観察者の視点から捉える「自己距離化」は、死別を経験した人の研究で否定的な感情や反すうとの関係が調べられている。一方、運動中に自分へ語りかける言葉の研究が扱うのは、成績やきつさなどである。客観視と声かけには接点があるが、同じ方法、同じ効果として扱うことはできない。[3][8][12]

したがって答えは、客観視をストレス解消の必須条件にしなくてよい、である。試すなら「どの立場から出来事を見るか」と「自分に何と言うか」を分けたい。既存記事「運動してもストレスが残るのはなぜ?反すうと気分の変化を分けて研究で読む」に運動後も考えが残る問いを譲り、ここでは振り返る視点と言葉の選び方に絞る。

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客観視は、自分を採点することとは違う

自己距離化の研究でいう観察者の視点は、嫌な出来事を経験した本人の目線に入り込む見方と対比される。死別への適応を調べた研究では、大切な人を失った人を対象に、この視点の違いを使って感情や悲嘆に関する反すうを検討した。深い喪失を扱うため、18〜39歳の女性が日常の仕事や運動後に感じるストレスへそのまま当てはめるには、状況の隔たりがある。反すうとは、つらい出来事や感情を繰り返し考え続けることを指す。研究で問われているのは、振り返る量だけでなく、その出来事との距離である。[3]

日常の例なら、「私はなぜあの場で失敗したのか」と場面の中から問う書き方に対して、「あの人は何に困っていて、何を必要としていたのか」と眺める書き方を考えられる。これは視点の違いを理解するための例であり、この日本語の言い回し自体の効果を試験した結果ではない。友人の相談を聞くような立場を想像すると、視点を変える意味を掴みやすい。

ここでの客観視を、外から見た自分に点数を付ける作業へ置き換えないことだ。「運動したのにまだ落ち込んでいる自分はだめだ」という言葉は、観察する立場の説明にはならない。研究に照らして考えるなら、出来事を見る立場と、自分に向ける言葉の否定的な内容は、分けて確かめる必要がある。[3][8]

また、第三者の視点と感情を消すことも同義ではない。死別の研究で比較されたのは、喪失を思い出す際の視点と、その時の感情の変化であった。つらい経験を何とも思わなくなることを、日常の運動後の目標に据える根拠にはならない。帰りの電車で少し悲しくても、それだけで視点の取り方が失敗したと判定する必要はない。[3]

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視点を変える研究は、誰に何を試したのか

死別を扱う論文には、性格の違いを眺める調査と、視点を変えてもらう実験が含まれる。死別した成人207人への調査では、自己距離化が強いほど悲嘆の症状や反すうが少ないという負の相関が認められた。ただし調査での関連である。客観視をするから症状が少ない、と因果の向きを確定する結果ではない。[3]

別の実験では、死別を思い出す時の視点を操作した。自己距離化の条件では否定的な感情が低下し、自分の視点に入り込む条件では肯定的な感情が低下した。ここでは「気分がよくなった」をひとまとめにしない方がよい。つらい感情が減ることと、前向きな感情が増えることは、結果を読む上で別の変化だからだ。[3]

さらに悲嘆の強い参加者が、自己距離化の視点で書く群16人と、本人の視点で書く群15人に分かれ、1日15分、3日間の筆記を行った。どちらの課題でも自己距離化が増え、悲嘆の症状は減ったが、悲嘆に関する反すうの低下は自己距離化群だけで認められた。書けば何でも同じという結果でも、本人の視点では何も変わらないという結果でもない。[3]

この研究の対象は死別を経験した人で、筆記の比較も小規模である。喪失への適応と、日々の仕事の失敗やヨガ後の振り返りでは、出来事の重さと心理的な状況が異なる。日常への応用の限界はここにある。「運動後にこの時間だけ書けばストレスが減る」という処方を支えるには、運動後の日常ストレスを直接調べる研究が必要だ。一方、同じ出来事を振り返っても、視点によって感情と反すうの動きが違い得る、という問いを持ち帰ることはできる。[3]

例えば仕事帰りのメモを考える時も、最初から長く詳しく書くことを目標にしなくてよい。「何が起きたか」を再現したいのか、「その人に今必要なこと」を考えたいのかを区別する。ここでの提案は研究手順の再現ではなく、研究が比較した視点の違いを、自分の言葉を点検するために使うものである。[3]

自分に「君なら」と言うと、気分まで変わるのか

自分に向けて言葉をかける方法をセルフトークと呼ぶ。運動場面で視点の違いに近づいた試験では、「私」という一人称と、「君」という二人称を使う声かけが比較された。対象は身体活動を行う男性16人、平均年齢は約22歳である。無作為化し、実施順を調整した交差試験で、同じ参加者が両方の条件を経験した。男性の運動成績を調べた試験であり、18〜39歳の女性の気分に同じ効果があるかは別に検証する必要がある。[12]

課題は10kmの自転車タイムトライアルだった。二人称での声かけでは、一人称より完走時間が有意に短く、走行中の出力も高かった。一方、主観的運動強度、つまり本人が感じるきつさは、条件間で同程度だった。速く進めたことと、楽になったことは一致しなかったのである。[12]

著者らはこの結果を、二人称によって生じる自己距離化との関係で論じている。しかし、この比較の成績を、そのままストレスや悲嘆への効果に読み替えることはできない。運動の成績が上がるという結論と、嫌な出来事を穏やかに振り返れるという結論の間には、測っているものの違いがある。[12][3]

「私はできる」を「君ならできる」に替えたら、毎日の気分もよくなるはずだ、と広げすぎないことだ。日本語で自分を「君」と呼ぶのが不自然なら、無理に採用する理由もない。この試験が示すのは、同じような励ましでも、代名詞という小さな文法上の違いが運動成績に関わり得ることまでである。[12]

励まし方を広く整理したスコーピングレビュー、すなわち研究の範囲を見渡すレビューには、最大努力の有酸素運動テストを扱う49研究が含まれた。動機づけのセルフトークや競争条件には成績への好影響がみられたが、注意の向け方の効果は結論が定まらなかった。ここでも中心は最大努力での成績であり、日常のストレス解消とは目的が違う。[11]

テストで力を出し切る場面と、仕事のあとに体を動かす場面では、欲しい結果も違う。前者の知見を読んで、後者でも自分を強く励まし続けなければならない、と考える必要はない。帰り道の自分に必要な問いは「記録を更新したか」なのか、「今日の言葉を少し整理できたか」なのか。測定する目的を先に置くと、成績の研究を気分の採点表にせずに済む。[11][12]

視点の研究を比べる時には、比較相手にも目を向けたい。自転車試験は一人称と二人称の違いを問うのであって、声かけをする人と何もしない人の違いを直接示すものではない。「私」から「君」への変更で成績が違った結果を、独り言を始めれば誰でも速くなる、という話へ拡張しない。何と比べてよかったのかまで含めて、結果である。[12]

死別の研究にも同じ読み方が必要だ。調査の相関、短い視点操作、続けて行う筆記課題は、別々の角度から自己距離化を見ている。調査で関連があったことだけを取り上げるより、視点を変えた時の感情と、筆記後の反すうを分けて追う方が、日常へ持ち帰れる問いが具体的になる。観察者の立場を取れたかと、そのあと何が変わったかは、同じ質問ではない。[3]

帰宅後にメモを開いたら、書き出しだけを眺めてみるのも一案だ。「私は」と始めているか、外から状況を述べているか。その違いに気付くことと、気分が変わったと判定することを急いで結び付けない。自転車の代名詞の研究も死別の筆記研究も、比較する課題と結果を分けている。日常で試す場合も、方法を選んだことを効果の証拠にしない読み方が役に立つ。[3][12]

数字で読む視点と声かけ

207人:死別した成人の調査。自己距離化と悲嘆症状・反すうの負の相関であり、因果の証明ではない。[3]

16人と15人:悲嘆の強い参加者を対象とした筆記比較。課題は1日15分、3日間であった。[3]

16人:一人称と二人称を比べた男性の自転車交差試験。10kmの成績ときつさを分けて測った。[12]

29人:訓練された男性ランナーの声かけ試験。60分の定常走という条件である。[8]

8人:日常のストレスに応じて心理課題を提示した日本の成人の予備的な実験である。[5]

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