30代になって仕事や結婚、この先の自分に迷うとき、それは誰もが通るクライシスなのか。若年成人の系統的レビューと自己認識の研究から、年齢と生活環境、考え直すことと同じ不安を繰り返すことを分けて読む。研究対象の年齢や文化の違い、心の不調との関連の限界も確かめる。
昇進の打診を受けたのに、返事を書く手が止まる。仕事を続けたい気持ちはあるが、望んでいるのは役職なのか、働く時間の裁量なのか。友人の結婚を祝った翌日に、自分も結婚したいのか、それとも周囲への説明に困っているのかと考える。年齢の節目に見える悩みも、中身を開くと別々の用件が入っている。
30代女性のクライシスは誰にでも来るのか。若年成人の危機を扱う系統的レビューは、目的への関与、不安、社会的支援、年齢や性別など、内側と外側の複数の要因を挙げている。年齢だけで全員の予定表に同じ危機を書き込む読み方はできない。[7]
また、自分が分からない状態と心の不調の関係も、単純には決着していない。縦断研究を集めたレビューでは双方向の関連を示す知見があった一方、一部の研究を統合した解析では有意な関連が認められなかった。迷うことをすべて病気の予告と考える必要も、苦しさをすべて年齢のせいで片づける必要もない。[18]

クライシスという名前と、目の前の困りごとを分ける
クオーターライフクライシスという言葉は、若年成人期の危機を扱う研究で使われている。Hasyimらの系統的レビューは、この時期の危機に寄与する要因を調べたものだ。文献検索で得られた3,100件から、重複の除去と選別を経て14論文を最終分析に含めている。3,100人を追った試験でも、14種類の治療を比べた研究でもない。[7]
このレビューが挙げる内的要因は、目的へのコミットメント、スピリチュアリティ、不安である。コミットメントは、ここでは目標や進む方向に関わろうとする姿勢として読めばよい。外的要因としては社会的支援、年齢、性別が挙がった。著者らはこれらを重要な要因と整理しているが、この整理から、ある年齢になれば必ず危機になると結論することはできない。[7]
検索語としての「30代女性の悩み」は広い。転職するか、交際を続けるか、親の期待にどう応じるかでは、必要な情報も相談先も違う。まず、その言葉を使ったとき何を指しているのかを自分の文章に戻したい。「自分が嫌だ」から「今の働き方を続ける想像ができない」へ。これは危機を治す方法としてではなく、この記事から提案する問いの整え方である。
レビューに年齢や性別が含まれることと、「30代の女性」という組合せに特有の経過が証明されることは別だ。若年成人の要因を整理した結果は、自分の困りごとを見る視点にはなる。しかし、そのまま日本の同年代女性全体の発生率や回復までの期間には置き換えられない。[7]
目的への関与という視点を仕事の場面に移すなら、昇進を受けるかという結論の前に、引き受けたい仕事内容を書き出せる。部下を育てたいのか、専門の仕事を続けたいのか、勤務時間を調整したいのか。社会的支援という視点なら、上司には役割の範囲を、同僚には日々の業務を聞くという分け方がある。これはレビューが整理した要因から考えた生活上の例であり、効果を検証した対処法ではない。[7]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
自分を探すことと、同じ問いを回し続けること
自己認識を研究する際には、進む方向を決めること、その方向を自分のものとして受け止めること、考えが堂々巡りになる探索などが区別される。スペインの大学生を比べた研究は、これらを別の側面として調べた。単に「自分についてよく考える人か」だけを測ったわけではない。[4]
対象は合計2,819人の大学生で、2015年の集団が1,301人、2020年の集団が1,518人だった。平均年齢はそれぞれ20.06歳と20.48歳で、全体の62%が女性である。18〜39歳の女性全体にそのまま当てはめるには、大学在学中という生活段階と年齢の違いを考える必要がある。2020年は感染症の世界的流行と重なる時期だ。この研究は同じ人を成長に沿って追った比較ではなく、異なる時期の集団を比較している。[4]
2020年の集団は、進む方向を決める側面と、その方向を自分のものとして受け止める側面の水準がともに低く、反すう的な探索は高かった。反すう的とは、同じ問題を繰り返し考えるような状態を指す。同時に、幸福感は低く、心理的苦痛は高かった。こうした自己認識の側面と心理的適応の関連は、とくに男性と2020年の集団で強かった。[4]
ここには「女性だから迷いが強い」という単純な説明からはみ出す結果がある。女性を多く含む研究でも、関連が強い層は別だった。また、同じような平均年齢の大学生でも、調査した時期によって自己認識と心理状態のパターンが異なった。著者らが重視しているのは、発達が置かれた社会的・歴史的な文脈である。[4]
読者の場面に引き寄せるなら、「転職先を調べて選択肢が具体化した夜」と「求人画面を閉じたあと、自分は駄目だという問いだけ残った夜」は、分けて記録する価値がある。ただし、この例は研究の尺度を使った自己判定ではない。考えた長さだけを努力の量にせず、何を知れて、何が未解決なのかを確かめるための例である。
自分の進路に納得することは、早く決めることと同じではない。大学生の集団比較で見えた関連を、決断を急がせる根拠にはできない。とくに、ここで対象となった人たちは平均で20歳前後であり、生活上の責任も選択肢も異なる30代女性へ、数値や経過をそのまま当てはめるべきではない。[4]
自己認識と心の不調は、どちらが先なのか
アイデンティティとは、自分がどのような人間で、何を大切にして進むのかという自己認識を考えるための言葉だ。Pottertonらの系統的レビューとメタ分析は、自己認識のまとまりや混乱と、抑うつ、不安、摂食障害の症状との関係を扱っている。対象は思春期から若年成人期である。[18]
集められたのは20件の縦断研究、参加者は13,787人だった。女性は54.2%で、平均年齢は14.48歳、年齢範囲は10〜29歳である。縦断研究は、人を時間の経過に沿って調べる研究だ。この人数の大きさに目を引かれても、平均年齢を読み落としてはいけない。18〜39歳の女性にそのまま当てはめられる結果ではなく、とくに30代は対象年齢に含まれない。[18]
研究結果を文章で総合した部分では、自己認識のまとまりや混乱と、各症状との間に双方向の関係を支持する知見があった。迷いが不調と関わる方向だけでなく、不調が自己認識と関わる方向も考える必要がある、という読みである。一方、9件の研究を用いたメタ分析・メタ回帰では、自己認識のまとまりまたは混乱と、不安・抑うつの症状との有意な関連は示されなかった。[18]
この違いを「結局、関係がある」と丸めても、「関係は否定された」と片づけても、片方の結果が消える。全体を文章で整理した知見と、一部の研究を数値として統合した結果では、結論の見え方が異なる。著者らも、確かな結論にはさらに質の高い研究が必要だとしている。[18]
研究の質の評価では55%が「中程度」、45%が「低い」とされた。人数が多いことだけで結論の確実性は決まらない。自分を分からないと感じる人に、将来の不調を予告する材料として使うには慎重さが要る。同様に、迷いが言葉にできるからといって、現在の苦痛が軽いと判定する材料でもない。[18]
日常では、進路の話をしていたはずが、いつの間にか心の強さの話になることがある。ここでは、その飛躍を止めたい。研究が扱う関連と、目の前の人に必要な対応は分けて考える。健康状態が気になる場合は医師に相談する。人生の選択を相談することと、健康上の苦しさを相談することは、同時に選んでよい。
研究を自分に重ねる前に、何を調べた結果なのかも確認したい。要因の一覧を作る研究は、どの対処法が有効かを比べる試験とは違う。自己認識と症状の関係を追う研究も、迷いを経験した全員が同じ順序で変化することを示すものではない。どちらも、個人の未来を言い当てるための資料として読むより、問いを細かくするために読むほうが、この結果の範囲に沿っている。[7][18]
数字で読む人生の迷いの研究
14論文:若年成人のクライシスの要因を整理した系統的レビューの最終分析対象だ。[7]
2,819人:スペインの大学生の集団比較。日本の30代女性の調査人数ではない。[4]
20研究・13,787人:自己認識と心の不調を扱う縦断研究のレビュー全体の規模だ。[18]
平均14.48歳:そのレビューの参加者の平均年齢。年齢範囲は10〜29歳だった。[18]
9研究:メタ分析・メタ回帰に使われた研究数。レビュー全体の20研究とは区別する。[18]
10人:インドネシアで結婚への期待と自己認識の葛藤を聞き取った研究の参加者数だ。[5]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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