新生児のしゃっくりはなぜ多いのか。早ければ受精から9週で現れ、妊娠26週より前は胎児の横隔膜の動きの中心だったという記録、乳児の呼吸の記録で2.5%の時間を占めた研究、呼吸の準備説と吸う反射の説、心拍の変化まで、胎児と赤ちゃんの研究を対象を分けて読む。
夜中の3時、授乳を終えて背中をとんとんしていると、腕の中の小さな体が「ヒック」と跳ねる。数秒おきに、また跳ねる。本人はけろりとしているのに、抱いている大人のほうが落ち着かない。生まれたばかりの赤ちゃんは、どうしてこんなにしゃっくりをするのか。
しゃっくりは、生まれてから覚える癖ではない。胎児のしゃっくりは早ければ受精から9週で現れ、妊娠26週より前には、横隔膜(胸とお腹を仕切る、息を吸うための筋肉)の動きのうちで中心になるものだった[3][4]。生まれた後も多く、乳児の呼吸の記録では、管を入れていない子が、記録した時間の2.5%をしゃっくりに使っていた[2]。
では、なぜそれほど多いのか。ここは決着していない。生まれた後の呼吸に備えて息を吸う筋肉を動かしておく運動だという見方、乳を吸う動きやあえぐような呼吸の反射の回路が育つ途中の表れだという見方が挙げられている[4][8]。お腹の中で羊水を飲み込みすぎないための原始的な反射だという解釈や、えらで呼吸していた頃の名残だという解釈まである[1]。研究がはっきり示しているのは、しゃっくりがお腹の中から続いてきた体の動きだ、というところまでである。
大人のしゃっくりの仕組みと、砂糖で止まるという話は、同じサイトの「しゃっくりってなぜ起こる?砂糖で止まる話より先に知りたい、横隔膜と脳幹の不思議な反射」に譲る。こちらは、胎児と赤ちゃんの記録の側から読む。

早ければ受精から9週、しゃっくりはもう始まっている
2007年の研究は、胎児のしゃっくりが早ければ受精から9週で現れ、26週より前には横隔膜の動きの中心になる、という知見を出発点にしている[4]。そのうえで、体を傷つけない生体磁気の計測で、胎児のしゃっくりに伴う横隔膜の引きつるような収縮を捉えた[4]。こうした方法での測定の、最初の証拠だという[4]。
磁場の形には決まった特徴があった。はじめに速く細かい波が立ち、続いて長くゆるやかな波が来る[4]。この形は2人の胎児の記録で一貫しており、新生児1人の記録でも確かめられた[4]。対象は胎児2人と新生児1人で、数としてはごく小さい。それでも、お腹の中と外の両方で、同じ特徴を持つ信号が拾われたことになる。
1990年の研究は、もっと長い目で胎児を追った[3]。妊娠の経過に問題の少ない胎児45人を、妊娠中期から後期まで繰り返し記録した[3]。26週より前はしゃっくりが横隔膜の動きの中心で、週数が進むほどしゃっくりは有意に少なくなっていた[3]。とくに24週から26週の間で大きく減り、それは1回の長さが変わったからではなく、回数が減ったからだった[3]。
逆に、胎児の呼吸のような動きは、週数とともに増えた[3]。いちばん大きく増えたのは26週から32週の間で、回数と1回の長さの両方が伸びていた[3]。
週数が進むと、しゃっくりが減り、呼吸のような動きが増える。私の読みでは、主役の交代に見える。ただし、この研究は、しゃっくりが呼吸の練習になっていると確かめたものではない。
活動と休息の周期が記録から見分けられる時期になると、呼吸のような動きもしゃっくりも、胎児が活動している時間帯に多く起きていた[3]。著者らは、胎児の呼吸のような動きが見られないことから悪い結論を引き出す前に、長く繰り返し記録すること、胎児のほかの行動も考えに入れることが大切だと強調している[3]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
妊娠後期も続く。23人の妊婦が家で数えた1,035時間
お腹の子のしゃっくりは、妊娠の後半にも続く。2017年の観察研究は、23人の妊婦に胎動の加速度を記録する機器を使ってもらい、28週から39週まで、毎週か隔週、家で胎動を記録してもらった[6]。お腹の上の、2〜4秒おきに規則正しく続く鋭い揺れで、1分に15回を超えるものを、胎児のしゃっくりと決めて数えた[6]。
集まった記録は164回分、解析した時間は合わせて1,035時間だった[6]。28〜33週の群では、しゃっくりのひと続きが1時間に平均0.19回起き、34〜39週の群では0.15回に減った(p=0.02)[6]。ひと続きの長さは28〜33週で8.17分、34〜39週で7.88分で、有意な差はなかった(p=0.64)[6]。著者らは、28週を過ぎるとしゃっくりのひと続きの長さは変わらないが、起きる回数はわずかに減ると結論している[6]。
もう少し短い時間の記録もある。1989年の研究は、胎児の心拍と胎動を2時間ずつ記録した35回分を調べた[5]。しゃっくりのひと続きは14回見つかり、記録した時間の1.2%を占め、長さの中央値は3.5分(1〜8分)だった[5]。しゃっくりの速さは1分に10〜21回で、ひと続きの中では、平均で1分に20回から12回へと遅くなっていった[5]。始まりは速く、終わりに向けて間があいていく。
いつがいちばん多いのかについては、資料の間で言い方が揃わない。胎児のしゃっくりの歴史を扱った論文は、お腹の中ではしゃっくりがどの胎児にも見られ、その頻度は妊娠後期に頂点を迎えると書く[13]。一方、45人を続けて記録した研究では26週より前が中心で、週数とともに少なくなり[3]、家での記録でも34週以降はわずかに減っていた[6]。測った週数の幅も方法も違う。ここでは「妊娠の後半にも、規則正しいしゃっくりは続いている」までを確かな線としておく。

生まれた後の数字:乳児20人の呼吸の記録で2.5%
生まれた後のしゃっくりを、呼吸の記録で数えた研究がある。1980年の研究は、乳児20人から呼吸の多点記録を27回分とり、しゃっくりの頻度、見分け方、医学的な意味を調べた[2]。記録の中で、7人に8回のしゃっくりのひと続きがあり、1回の長さは平均8.4分(標準偏差4.2分)だった[2]。
この研究の参加者には、気管に管を入れて呼吸を助けられている子も含まれていた[2]。管を入れていない子で、しゃっくりをしていることを理由に選ばれたわけではない子は、記録した時間の2.5%をしゃっくりに使っていた[2]。大人が1日のうちどれだけの時間しゃっくりをしているかを同じ物差しで測った研究は、この記事で読んだ中にはない。だから「大人の何倍」とは書けない。
ひとつひとつのしゃっくりは、短く強い、息を吸う筋肉の収縮だった[2]。管を入れていない子では、しゃっくりのたびに上の気道がふさがった[2]。管を入れている子では、ふさがらずに空気が入った[2]。
呼吸への影響も記録された。管を入れていない子では、しゃっくりに伴って、ふつうの呼吸のうち気道がふさがったものが増え、呼吸の回数と1分あたりの換気の量が減った[2]。3人では、しゃっくりがきっかけになって、呼吸が止まる時間(混合性の無呼吸)が起きた[2]。管を入れている子では、しゃっくりの続く間、息が多すぎる状態になり、血液がアルカリ性の側に傾いた[2]。
著者らは、しゃっくりは幼い乳児でよく起き、臨床的に意味のある形で呼吸に影響しうる、と結論している[2]。40年以上前の、20人の記録であり、管を入れた子も混ざる研究だ。ふだん家で過ごしている赤ちゃん全員に、同じ大きさで当てはめることはできない。それでも、しゃっくりが呼吸の流れに割り込む動きであることは、この記録が示している。
「ヒック」の正体は、吸う筋肉の一撃と閉じる声門
しゃっくりは医学の言葉でシングルタスとも呼ばれ、ラテン語の「すすり泣きながら息をのむ」が語源だという[8]。横隔膜と、肋骨の間の筋肉が、意思と関係なく急に縮み、その直後に声門(のどの奥の、空気の通り道の入り口)が急に閉じる[8]。この閉じる瞬間が、あの「ヒック」の音を生む[8]。
乳児の記録と重ねると、話がつながる。管を入れていない子では、しゃっくりのたびに上の気道がふさがり、管を入れている子ではふさがらなかった[2]。私の読みでは、管が声門を通っているぶん、閉じる動きが空気を止められなかったのだろう。音の元になる「閉じる」が、そのまま記録の違いに出ていたのかもしれない。
しゃっくりは、胎児、乳児、子ども、大人のどの年代にも見られ、ほとんどの人が一生のどこかで経験する[8]。多くは一時的で、48時間以内におさまる[8]。
数字で読む胎児と赤ちゃんのしゃっくり
- 9週: 胎児のしゃっくりが早ければ現れる時期。受精から数えた週数[4]。
- 26週: これより前は、しゃっくりが胎児の横隔膜の動きの中心。45人の記録では24〜26週で大きく減った[3]。
- 0.19回と0.15回: 妊婦23人の家での記録で、1時間あたりのしゃっくりのひと続きの回数。28〜33週と34〜39週の比較[6]。
- 2.5%: 乳児の記録で、管を入れていない子がしゃっくりをしていた時間の割合[2]。
- 8.4分: 乳児20人の記録での、1回のしゃっくりの平均の長さ。標準偏差は4.2分[2]。
- 10〜21回: 胎児のしゃっくりの1分あたりの回数。ひと続きの中で平均20回から12回へ下がった[5]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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