計算は右脳と左脳のどちらでする?答えを思い出す暗算と量を比べる処理の違い

覚えた答えを取り出すときに目立つ左側の働きと、数の量を扱うときの両側の関与は、同じ計算でも区別して考える必要がある。脳画像のメタ分析、刺激実験、掛け算の学習研究から、課題や処理の段階による左右差、差が出なかった結果まで読み、買い物の暗算を振り返る手がかりを探る。

レジに並び、かごの中の品物の合計を頭の中で確かめる。すぐ答えが浮かぶ計算もあれば、途中の数を覚えて順に足したくなる計算もある。同じ「暗算」の名前でも、頭の中でしている仕事は同じだろうか。

計算は右脳と左脳のどちらでするのか。答えの芯は、覚えた計算の答えを取り出す処理では左側の関与が目立ち、数の量を扱う処理には両側の頭頂部が関わる、という区別にある。ただし、計算全体を片側だけに任せる図では足りない。研究方法や課題によって左右差の現れ方も変わる。[7][9][14]

人のタイプをめぐる話は既存記事「右脳と左脳の性格診断にエビデンスはあるか、1,011人の脳画像が支持しなかった右脳派」に譲る。ここで追うのは、計算の途中の仕事である。九九の答えを思い出す瞬間と、出てきた答えが大きすぎないか確かめる瞬間を分けると、「どっち」の問いが具体的になる。[6][18]

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九九を思い出すことと、量を比べることは違う

覚えている掛け算の答えがそのまま浮かぶ。このように、学習済みの計算の答えを記憶から取り出すことを、研究では計算事実の検索と呼ぶ。ここでの検索は、検索窓へ式を入れる作業ではない。左側の角回という頭頂部の領域と、言語に関連する領域を含むネットワークが、この処理との関わりで検討されている。[7][15]

一方、数を見てどちらが大きいか判断する課題は、答えを丸ごと覚えているかとは別の面を調べる。量の処理で繰り返し検討されるのが、頭頂間溝という頭頂部の溝に沿う領域である。数の認知を扱うメタ分析では、左右両方の頭頂間溝の関与が示されている。左側だけが数字を扱い、右側は計算に参加しない、とは整理できない。[9]

たとえば、レシートの合計を正確に出したい場面と、財布の中で足りそうか大まかに見たい場面を思い浮かべるとよい。これは生活の例であり、その場面を撮影した脳研究という意味ではない。研究が区別している「覚えた答え」と「数の量」を、自分の計算に当てはめて考えるための例である。[9][14]

計算記号だけで頭の仕事が決まるわけでもない。掛け算を見て即座に答えが出る場合と、覚えている別の答えからたどる場合では、使う方略が異なる。学習実験でも、量に基づく処理から、より自動的な答えの検索へ移ることが示唆されている。「掛け算だから左」と覚えるより、どのように答えに達したかを添えたほうが研究に近い。[1]

この区別を入れると、計算の速さの受け取り方も変わる。答えをすぐ言えたという観察だけで、どの半球がどれだけ働いたかまでは決められない。脳研究が比べているのは、特定の課題や学習条件である。普段の会計で口にした答えから、そのまま個人の脳の使い方を判定する仕組みではない。[1][14]

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左角回は答えの倉庫だけなのか

角回と計算の関係を扱った文献レビューは、典型的に発達する子どもと成人における計算事実の検索を中心に、左角回の役割を検討している。ただし、角回の働きが計算だけに固有だとする説明に限らず、ほかの認知過程との重なりを考える説明も取り上げている。子どもと成人を扱うレビューなので、18〜39歳の女性の計算に絞った結論としては使えない。計算中に関わる場所が分かったことと、そこが計算だけの専用部署だと分かったことは別である。[7]

場所を点で覚えるより、つながりを調べる研究もある。急性期の片側の脳病変がある患者73人を対象に、単純な掛け算の答えの検索と、脳領域間の連絡の途絶を検討した研究である。左角回と上側頭部を結ぶ白質線維の連絡の途絶が、答えを取り出す困難と関連していた。言語に関わる側頭部と頭頂部のつながりも重要だと示唆された。脳卒中後の患者の結果を、健康な18〜39歳の女性の得意不得意へそのまま当てはめることはできない。[15]

白質は、ここでは離れた領域同士を結ぶ経路として考えると分かりやすい。この研究の論点は「左角回さえあればよい」ではなく、左側に広がるネットワークの連絡である。駅の場所を知っても、路線がつながっていなければ乗り換えはできない。計算の研究でも、働く場所だけでなく、場所の間のつながりを見る必要がある。[15]

病変を調べる研究では、どの経路の損傷と、どの課題の困難が対応するかが手がかりになる。この研究が使ったのは単純な掛け算であり、数字を扱う仕事全般をひとまとめに測った結果ではない。買い物の概算や筆算の手順まで同じ経路で説明する前に、何を答える課題だったかを確かめたい。[15]

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メタ分析で両側が見えても、研究は一枚岩ではない

数の認知のメタ分析は、脳画像研究28本、経頭蓋磁気刺激の研究12本、脳損傷患者の研究12本を合わせて検討した。経頭蓋磁気刺激とは、頭の外から磁気で特定の脳領域の活動に介入する研究手法である。数字で示した数だけでなく、数字以外の形式で示した量や、計算と大小判断の課題も含めている。[9]

全体としては、左右両方の頭頂間溝が課題に関与するというモデルにおおむね一致した。ただし、数字以外の形式について、脳損傷患者の研究は右半球への偏りを示唆し、脳画像や磁気刺激の研究と食い違った。患者を含む研究の統合結果は、健康な18〜39歳の女性にそのまま当てはめるための結論ではない。ここは、都合よく「すべて両側で決着」と書いてはいけないところである。両側の関与という大枠と、形式や方法による違いが並んでいる。[9]

脳画像で課題中の活動を観察することと、その場所へ介入して課題の成績が変わるかを確かめることは、問いが違う。活動が目立つ領域が、その処理に必要な領域なのかを、画像だけで切り分けるのは難しい。健康な成人を対象にした磁気刺激の系統的レビューは、実験研究21本を検討し、頭頂部や前頭部への刺激が、計算や数・量の処理に測定可能な行動上の変化をもたらすと整理した。健康な成人の結果は参考になるが、18〜39歳の女性にも同じ条件で同じ変化が起きるかは、この総括だけでは判断できない。[8]

このレビューで評価された指標には、反応時間や正確さなどがある。つまり、「脳がよく働いた」という大きな言葉を、具体的な指標に置き換えている。答えるまでの時間が変わったのか、正答できたかが変わったのかを区別する必要がある。また、刺激の方法や条件ごとの効果には、なお十分に分かっていない点がある。[8]

これらは脳を片側ずつ鍛える生活法の比較試験ではない。ある部位への介入で成績が変わった結果は、その部位と課題の関係を調べるための証拠となる。「左を刺激すれば誰でも暗算が得意になる」という家庭向けの処方へ飛び越えることはできない。脳の地図を詳しくする実験と、日常で使える方法の検証は分けて読むべきである。[8]

同じ掛け算でも、覚える前後で関わり方が変わる

右利きの参加者13人に、複雑な掛け算18題を集中的に学習してもらった脳画像研究がある。学習済みと未学習の問題は難しさを近づけて比較された。未学習の問題に比べて学習済みの問題では左角回に、反対の比較では左頭頂間溝などに有意な活動が見られた。学習に関係する条件間の差では、左半球の活動が優勢だった。[1]

著者らは、頭頂部の活動の違いを、量に基づく処理から、より自動的な答えの検索への変化を示唆するものとした。未学習の問題で見られた左下前頭回の活動については、途中の情報を保持しながら使う、作業記憶の要求が高いことによる可能性を挙げている。学習後も左側が関わるが、同じ左側の中で違いがあった点が面白い。[1]

ここでの比較は、脳全体が学習後に一斉に強くなるという話ではない。学習済みの条件で目立つ領域と、未学習の条件で目立つ領域が異なる。答えを得る手続きが変わることを考える手がかりである。練習を「左脳の使用量を増やす」と言い換えるより、覚えて取り出せる部分ができる、と読むほうが実験の内容に沿う。[1]

学習前後を比べる際には、参加者の条件にも注意したい。この実験の対象は右利きの参加者であり、問題は学習用に選ばれた複雑な掛け算である。普段の九九を言う場面や、すべての人の計算へ、そのまま結果を広げることはできない。また、同じ人でも問題に慣れているかどうかで比較条件が変わる。「計算中にどちらが働くか」という問いには、練習済みかという情報も必要なのである。[1]

数字で読む計算と左右の脳

脳画像28研究:数の認知のメタ分析に含まれた画像研究の本数である。[9]

磁気刺激12研究:同じメタ分析で検討された介入研究の本数である。[9]

患者研究12本:同じメタ分析でも、数字以外の形式ではほかの方法と異なる結果が出た。[9]

参加者13人・掛け算18題:学習済みと未学習の問題を比較した脳画像研究である。[1]

健康な参加者35人:掛け算と大小比較を左右の視野への提示で調べた実験である。[14]

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宮川涼 Founder

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