独り言はなぜ言うのか、増えたら心配?言葉をふさぐ実験と自分への声かけの試験を読む

独り言はなぜ言うのか、増えたら心配なのか。頭の中の言葉をふさぐ実験の整理、疲れた状態で試したダーツの試験、名前で自分に話しかける脳波の研究から、声かけの働きと限界を読む。目標設定のほうが上回った水泳の試験まで、論文の数字で順に確かめていく。

立川駅の改札の手前で「定期、定期」と言いながらカバンを探る。冷蔵庫を開けて「なんだっけ」と声に出す。夜11時、ひとりの部屋で「よし、寝る」と宣言する。誰に言っているのか。

自分に言っているのである。これが答えの芯で、比喩ではない。発達の研究では、自分に向けた言葉は考えと行動を調整する働きを持つものとして扱われてきた[18]。頭の中の言葉をふさぐ実験でも、記憶や分類や暗算では言葉が助けになっていると整理されている[17]。どちらも声に出す大人の独り言そのものを数えた研究ではないが、読み筋としては、独り言は心が壊れた音というより、作業を進めるための道具に近い。

増えたら心配なのか。独り言の回数だけで心の病気かどうかを決める物差しは、ここで読んだ研究の中には無い。手順の多い日や疲れた日に増えても、道具の使用回数が増えただけかもしれない。ただし、誰もいないのに声が聞こえて答えている、という場合は別の話になる。その線引きは後半で書く。運動中に自分を励ます話は「体力をつける運動は自分を励ますと続く?独り言で延びる時間と変わらないきつさを読む」が受け持っているので譲り、ここでは独り言が日常で何をしているのかを見ていく。

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声に出さなくても、頭の中で話していることがある

研究の世界では、この話題に呼び名が3つある。子どもの発達の分野は「自分に向けた発話」、認知の分野は頭の中の「内言」、スポーツの分野は「セルフトーク」と呼ぶ。この記事では、声に出るものも頭の中のものもまとめて独り言として扱い、区別が要るときだけ書き分ける。

内言の総説は、頭の中で自分に話しかける経験を「調べるのが悪名高く難しい」と前置きする[14]。本人にしか聞こえないのだから、当然である。

面白いのは、頭の中の声に抑揚があるという主張だ。2024年の総説は、内言は声の音響的な面、つまりリズム、イントネーション、強勢までシミュレーションしていて、この形が思考に形と構造を与えると論じる[7]。無音の声に節がついている、という話である。著者によれば、その形は注意、記憶、感情と自己調整、そして自分の物語に役立っている[7]。これは実験の結果というより理論の提案だが、頭の中でも嫌いな上司の口調だけは正確に再生できる人なら、少し思い当たるかもしれない。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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頭の中の言葉をふさぐと、何が落ちるのか

では言葉は本当に役に立っているのか。これを調べる方法が、言葉をふさぐ実験である。何かの課題をしている間に、言葉を使う別の課題を同時にさせて、言語の働きを邪魔する。それで課題の成績が落ちれば、その課題は言葉を使っていたことになる。

この方法を使った研究を集めた2023年のシステマティックレビュー(基準を決めて研究を網羅的に集める総説)は、101本を検討して次のように整理した[17]。頭の中の言葉が助けになりやすいのは3つの場面である。覚えたり分類したりする対象にすぐ名前がつくとき。自分への合図になるとき、つまり衝動を抑える、いまの課題を思い出す、手順を言葉で保つとき。そして暗算のように作業台として使えるときである[17]。

冒頭の場面に戻ると分かりやすい。「定期、定期」は探している物の名前を保っていて、「なんだっけ」は今の課題を思い出そうとしている。レジの前で暗算しているときに話しかけられて数字が飛ぶのは、作業台を取り上げられたからかもしれない。この当てはめは私の読みで、レビューが調べたのは声に出さない言葉である。ただ、3つの場面にはかなりよく重なる。

逆に、証拠が少ない場面もある。感覚をまたいだ統合、視覚の細かさに頼る推論や名前のつけにくい対象、他人の気持ちを読む課題である[17]。言葉は万能の作業台ではなく、名前がつくものに強い。なお、このレビューは臨床や神経、発達に焦点を当てた論文を除いているので、ここまでの整理は健康な成人を中心とした話として読むのがいい[17]。

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子どもの研究では、自分に向けた言葉は発達の到達点とされる

自分に向けた言葉は、発達の研究では重要な到達点として扱われてきた[18]。考えと行動を調整する仲立ちになるからである。発達性言語障害、自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもの、自分に向けた言葉を調べた19本の論文を調べたシステマティックレビューは、どの研究でも、これらの子どもの自分に向けた言葉には発達や使い方の違いが見られると整理した[18]。そして自己調整の難しさとの関係を、今後の課題として挙げている[18]。

ただし、この関係は最初に思われたより単純ではない。内言と神経の多様性を論じた総説は、自閉のある人や、ろうの人など、経験の異なる人たちの内言を見ていくと、内言と認知の働きの関係は当初の想定より複雑だと書く[14]。また、当事者の内言の経験は、調べられるより先に決めつけられてきたことが多いともいう[14]。

疲れた状態でも、声かけは働くのか

読み応えがあるのは、疲れた状態を作ってから試す実験だ。初心者43人を声かけの群と対照群に分け、全員に自己制御の力を使い切らせる課題をしたあと、騒音の中でダーツを投げさせた試験がある。声かけの群は対照群より注意の働きがよく、投げる動作も安定していた[5]。条件をわざと悪くした状態でも、差が出たことになる。

なぜ疲れていても使えたのか。ダーツの試験が答えているわけではないが、手がかりになりそうな話が別にある。感情を落ち着かせる技法の多くは認知の資源を食うので、ストレスで資源が減っているときほど使いにくい。いちばん必要なときに使えない道具という矛盾である[10]。独り言の一種は、この矛盾を避けられるかもしれない。

「私は」を名前に変える、という小さな操作

その一種が、距離を置いた独り言である。「私はなぜ怒っているのか」ではなく、自分の名前や二人称で「◯◯はなぜ怒っているのか」と考える。67人を2つの技法に分け、不快な画像を見たときの脳波を測った試験では、この方法は感情の高ぶりを反映する脳波(LPP)を下げ、しかも準備の負担を反映する脳波(SPN)を増やさなかった[10]。過去の結果を直接再現した形で、著者は比較的努力の要らない方法だと評価している[10]。

ここで少しずれた話が入る。比較相手として置かれた、物事を距離をとって捉え直すという有名な技法のほうが、この試験では脳波を動かさなかった[10]。ライバルが再現に失敗したので、2つの直接比較は行われていない[10]。つまり「名前で呼ぶほうが勝った」とは言えない。比べる試合が成立しなかったのである。

人称が体の動きにまで届いた例もある。活動的な男性16人が10kmの自転車タイムトライアルを行った交差試験では、二人称の声かけのほうが一人称より速く、出力も高く、主観的なきつさは同じだった[19]。ただし16人の男性の結果である。日本語の「君」や「お前」でどうなるかの話は、店のサイトの「ダイエットの有酸素運動は自分を君と呼ぶ?散歩の独り言と日本語の違いを読む」に譲る。

数字で読む独り言

  • 101本: 言葉をふさぐ実験のレビュー。記憶、分類、暗算で声に出さない言葉が助けになっていた[17]
  • 43人: 疲れた状態のダーツの試験。声かけの群は注意の働きと動作の安定で上回った[5]
  • 67人: 2つの技法に分けた脳波の試験の合計。距離を置いた独り言は負担を増やさず感情の高ぶりの脳波を下げた[10]
  • 16人: 自転車の10km。二人称が一人称より速く、きつさの評価は同じだった[19]
  • 49人: 平均10.8歳の水泳の試験。目標設定が声かけを小さく上回った[20]
  • 0.660: プレッシャー下の動作の正確さの効果。声かけ単独ではなく複数の技法の統合[3]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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