腕立てや腹筋を毎日続けていても、朝の記録と夕方の記録をそのまま体力の差とは読めない。筋力発揮の日内変動、動作速度、好きな運動時刻を調べた研究を手がかりに、決めた回数を終えた記録と限界まで測った記録の違いを整理する。自宅の記録帳で測る条件を残し、過去の自分と比べる方法を考える。
床に手をつき、予定した回数で腕立てを終える朝。休日の夕方はまだ動けそうなので続けた。記録帳の右肩上がりを見ると、少しうれしい。ただ、その線には体力だけでなく、途中でやめるルールと時計も混ざっている。筋力発揮には時刻による変動があり、その現れ方は動作速度にも左右される。[7][9]
朝夕の回数は、条件を書き添えて比べたい。夕方に速く動けた研究はあるが、それを「夕方なら腕立ても腹筋も必ず多くできる」と読むことはできない。ベンチプレスの試験では、動作速度、好みの時刻、反復回数はそれぞれ異なる結果を示した。[13]
既存記事「心肺機能の数値は朝と夕方で違う?測る時刻と本当の体力変化を研究で読む」には心肺の測定を譲る。また「ダイエットの筋トレは朝か夜か、練習の成果を測る時刻で見誤らないために」と重なる練習時刻全般の話からも範囲を絞る。ここで考えるのは、自宅で決めた反復を終える日と、何回できるかを測る日を、記録帳でどう区別するかである。

決めた回数と、できた限界は別の記録である
「腕立てと腹筋を毎日続ける」という目標には、実施したかを知りたい場合と、能力が変わったかを知りたい場合がある。前者なら予定した動作を終えた印が中心になる。後者なら、どの負荷で、どこまで続けた数なのかが必要になる。この区別の手がかりになるのが、決められた反復と限界までの反復を分けて組み込んだベンチプレスの試験である。[13]
筋トレ経験のある男性12人を対象とした交差比較では、朝8時と夕方16時に、それぞれ同じ人が運動した。交差比較とは、別々の集団を比べるだけでなく、参加者自身が異なる条件を経験する方法である。試験には、最大挙上重量の75%で素早く動かす反復と、その負荷で限界まで反復する課題が含まれた。最大挙上重量は、1回挙げられる最大の重さを表す指標である。男性のベンチプレスの結果を18〜39歳の女性の腕立てや腹筋にそのまま当てはめるには、性別と種目の違いを確かめる必要がある。[13]
あらかじめ決めた反復は「そこまで実施した」ことを示す。一方、限界までの反復は、その条件で続けられた量を測ろうとする課題である。同じ回数欄に書いても、その数字が答えている問いは違う。研究でも速度を測る課題と、限界までの回数を測る課題は分けられている。[13]
自宅の記録に置き換えるなら、予定どおり終えた日に「今日はここまでしかできなかった」と注釈する必要はない。そこで終える予定だった、と書けばよい。まだ続けられたかどうかを測らなかった日まで、能力の上限として扱うと、翌日の比較がずれる。これは新たな運動処方ではなく、試験で分かれている課題を日誌にも残す工夫である。[13]
たとえば夕方に時間の余裕があった日だけ長く続けたなら、その日の達成感はそのまま残してよい。ただし、朝の予定完了欄を夕方の限界テストと直結させない。「実施」と「測定」を別の言葉にするだけで、毎日の習慣と能力の観察を混同しにくくなる。まず揃えたいのは、優秀な記録よりも、何を数えた記録なのかである。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
夕方に速く動けても、回数まで増えるとは限らない
先ほどの男性12人の試験では、時刻の好みにかかわらず、バーベルの平均速度は朝より夕方で高かった。効果量は0.43だった。効果量とは、比較した条件の差を尺度に合わせて表した値であり、この値をそのまま腕立ての増加回数に置き換えることはできない。[13]
さらに重要なのは、研究で比べる軸が複数あることだ。「朝と夕方」と「本人が好む時刻と好まない時刻」は同じ比較ではない。好みの時刻と好まない時刻では、反復回数に有意差がなく、効果量は0.03だった。したがって、この結果を朝夕の反復回数に差がない証拠として引用するのも誤りである。[13]
速度についても、夕方と朝の比較では差があったが、好みと好みでない時刻の比較では有意差がなかった。時計を基準に分類した結果と、本人の好みを基準に分類した結果は一致しなかったのである。好きな時間だから速い、速いから好きな時間だ、と続けてしまうと、研究で区別された比較が消えてしまう。[13]
腕立ての日誌でも、勢いよく動けたことと、多く反復できたことは別々に記してよい。軽快だった日は、手帳に「軽快」と残す。回数は回数として残す。それを無理に総合点にしない。ベンチプレスで観察された速度の差を、自宅の腕立てや腹筋運動の回数差へ直接移す根拠にはならないからである。[13]
立川駅北口の夕方、予定より早く帰れて床に手をついた日は、朝より気分が軽いかもしれない。その実感を否定する必要はない。ただ、「動きやすかった」という経験と「同じ条件で能力が伸びた」という判断には間がある。研究を日誌に役立てるとは、その間を空欄のまま残せるようにすることでもある。
朝夕差は、どんな速さで動くかによって現れ方が違う
筋力の日内変動を調べた別の試験では、健康で筋トレ習慣のない男性10人が、8時、12時、16時、20時に最大努力の運動を行った。使われたのは、動く速さを制御できる等速性の測定装置である。床で自重を支える腕立てとは測定方法が異なる。18〜39歳の女性の自宅運動にも同じ朝夕差が出るかは、この男性の装置試験だけでは判断できない。[9]
この無作為化された比較では、関節を回す力の最大値、平均パワー、反復あたりの最大仕事量、セット全体の仕事量に時刻による変動があった。ただし、その変動が現れたのは、試した中で最も速い動作条件だけだった。時刻の影響を考えるとき、測定時刻の横に動作速度も置かなければならない結果である。[9]
力とパワーと仕事量は、いずれも「筋肉が頑張った程度」という同じ数字ではない。この研究が別々に測定した指標を、日誌ではすべて回数だけで代表させようとしていないか。ここが点検のしどころになる。速さを自由に変えた反復数と、速さを制御した装置の値は、そのまま同列には並ばない。[9]
日常の腕立てでも、今日は勢いをつけ、翌日はゆっくり確かめたのなら、朝夕の違いだけを取り出せない。「朝だったから少なかった」と説明する前に、動かし方を同じにしようとしたかを確認したい。これは、遅く動けば時刻の影響が消えるという勧めではない。特定の装置と対象で得た条件付きの結果を、条件付きのまま読むということである。[9]
研究を広く整理したレビューでは、身体パフォーマンスは一般に午後遅くに高くなる傾向があり、体温の上昇と時期が重なるとされている。筋への血流、神経の伝導速度、関節の動きやすさなどが関係しうると論じられた。また、朝に繰り返し筋トレをすることで、筋力発揮の日内差が小さくなりうることも挙げられている。[7]
つまり、結果には時計以外の条件も関わる。レビューが挙げる要因は複数あり、練習してきた時刻も関わる。そこで「朝の回数に決まった数を足せば夕方と公平」という換算表を自宅用に作るのは避けたい。自分の記録を読むためには、平均的な傾向を補正式にするより、比較条件を残すほうが筋が通る。[7][9]
速度を測ったベンチプレスの課題は、最大限の速さで2回動かすセットを2セット行い、セット間には5分の休憩を置く設計だった。その後に同じ相対負荷で限界まで反復した。速度と回数は別の課題で測り、課題の順序と休憩も含めて決められていたのである。[13]
この手順をそのまま自宅で再現する必要はない。ただ、昨日は家事の合間に区切り、今日は休まず続けた、という記録を比べるなら、時刻以外にも違いがあると気付ける。日誌には途中の中断を短く残しておけばよい。研究の反復数が条件付きの数である以上、家庭の反復数にも、その数を生んだ手順を添えるという考え方になる。[13]
等速性装置の試験では、運動前後の直腸温にも時刻による変動があり、運動後の血圧も変動した。身体の指標が同時に調べられていても、筋力発揮の変動は速度条件に依存していた。この組み合わせからも、体が温かく感じたという印象だけで、反復回数の差を説明しきらないほうがよいと分かる。[9]
数字で読む測定時刻と反復課題
男性12人の交差比較:ベンチプレスを朝8時と夕方16時に実施した。[13]
速度の朝夕差:夕方が高く、効果量は0.43。回数の増加率ではない。[13]
好み別の反復回数:有意差なし、効果量0.03。朝夕差そのものの数値ではない。[13]
未訓練男性10人の試験:8時、12時、16時、20時を比較し、筋力発揮の変動は最も速い条件で現れた。[9]
若い女性24人の試験:8週間、膝つき腕立てを10回ずつ4セット、週3回行った。毎日の実施を比べる試験ではない。[1]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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