間食の甘酒を温めて置けば、さらに甘くなるのか。米麹の糖化を調べた研究から、温度で変わるブドウ糖量とオリゴ糖の組成、麹を育てる時間の意味を読み分ける。作る途中の甘酒と完成した一杯の温め直しを区別し、研究の温度を家庭の保温手順に置き換えずに、表示や作り方を確かめる視点を示す。
夕方、机の脇に置いた甘酒が少し冷めた。もう一度温めながら、「このまま置くと麹が働いて、もっと甘くなるのだろうか」と考える。答えの芯は、作る途中の糖化と、できあがった甘酒の温め直しを分けることだ。米麹の甘酒では、麹菌の酵素が米のでんぷんを分解してブドウ糖を作る。しかし製造実験で温度による違いが出たことから、手元の一杯も保温すれば必ず甘くなるとは判断できない。[2][5]
実際、糖化温度を比較した実験で、ブドウ糖量は50℃で最も高く、60℃や70℃ではそれより低かった。高温にするほど甘みの材料が増える、という関係は否定された。[2] 温める操作は同じように見えても、何を出発点にして、どの工程を動かしているかが違う。
既存記事「ダイエットの甘酒は生の酵素が必要?温める前に分けたい糖と消化の話を読む」に、飲んだ後の酵素と消化の問いは譲る。ここで確かめるのは、間食に飲むまでの甘酒の中で、糖を作る条件がどう変わるかである。朝の空腹時がよいか、体重が変わるかという問いも、製造温度の実験とは分けておこう。

米麹の甘さは、糖を作る工程から生まれる
甘酒には、麹から作るものと酒粕から作るものがある。甘酒の成分を整理したレビューでは、米麹の甘酒の甘さは、麹菌のアミラーゼという酵素がでんぷんを分解して生じるブドウ糖に由来すると説明されている。一方、酒粕の甘酒の甘さは加える砂糖による。[5] 「甘酒を温めるとどうなるか」を考える前に、まずどちらの飲み物なのかを確かめたい。
糖化とは、このようにでんぷんから糖を作る工程のことである。米麹を使う甘酒の温度比較研究も、米のでんぷんが麹菌の酵素で分解され、主な甘味源のブドウ糖が生じる仕組みを出発点としている。[2] 砂糖を足していないことと、糖が含まれていないことは別だ。砂糖の袋を開けていなくても、米から糖を作る工程は進む。[2][5]
ここで混ぜたくないのは、「甘いと感じる」と「ブドウ糖がどれだけある」を同じものとして扱うことである。温度比較の研究が直接測ったのは、糖化の条件によって得られるブドウ糖量やオリゴ糖の量だ。[2] カップを温めた直後に感じた飲みやすさを、そのまま新しく糖ができた証拠にはできない。台所での感想と、成分を測る実験では、答えを出す対象が違う。
たとえば、同じ甘酒を冷たい状態と温かい状態で飲んだ記憶を比べても、どの糖が増えたかは決まらない。成分の変化を問うなら、同じ原料、同じ工程の出発点から比べる必要がある。温度の研究が役立つのは、甘さの印象から一歩戻り、「作る条件と、できあがった成分」を対応させて考えられるからだ。[2]
米麹の甘酒と酒粕の甘酒を区別することは、作る人だけの問題ではない。買って飲む場合にも、同じ「甘酒」の名前から想像する工程が合っているかを確認する入口になる。酒粕の甘酒の加糖と、米麹の甘酒のでんぷん分解を同じ説明で済ませると、温度で何を変えようとしているのかが曖昧になる。[5] まず飲み物の種類をそろえ、その後に工程の条件を読む。この順序なら、袋の表の言葉に引っ張られにくい。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
温度を上げるほどブドウ糖が増えるわけではない
米麹の甘酒を対象にした製造実験では、異なる温度で糖化したときの効率が比較された。ブドウ糖量が最も高かった50℃を100%とすると、40℃では66.4%、60℃では91.9%、70℃では76.6%だった。[2] これは人が飲んだ試験でも、体内で糖を処理する速さの実験でもなく、甘酒を作る条件と成分を比べた結果である。
50℃の100%は、飲み物の中身がすべてブドウ糖だったという意味ではない。比較の基準を100にそろえた相対値だ。[2] 栄養成分表示の糖の割合と読み違えると、同じ数字がまったく別の情報になる。温度の表を見るときには、単位だけでなく「何を基準にした数字か」まで読む必要がある。
また、60℃で91.9%という結果を見て、「50℃とほとんど同じだから家庭でも差は気にしなくてよい」と決めるのも早い。ここで示されたのは、その実験条件で得られたブドウ糖量の関係だ。[2] 家庭で使う原料や作り方まで共通であると考えず、少なくとも「高温のほうが必ず多く作れる」という単純な予想を修正する数字として受け取るのがよい。
逆に、70℃でもブドウ糖が測られたことは、「70℃なら酵素はいつまでも同じように働く」という証拠にはならない。得られた糖の量は工程の結果であり、その瞬間に残る酵素の働きを測った値と同一ではない。[2] 結果の容器に糖があることと、容器の中でいま糖が作られていることを分ける。この区別が、温め直した一杯を考えるときにも役立つ。
研究に登場する温度は、目的を持って設定された製造条件である。夕食の支度をしながら「このあたりの温かさならよいだろう」と保温するための目盛りではない。甘くしたいという目的だけで、飲むまでの待ち時間を延ばす判断にはつなげない。家庭で作る場合は、使う材料に対応した作り方の温度と時間を一組で確認する、という読み方にとどめたい。
もう一つ、相対値を日常へ持ち帰る際に気を付けたい点がある。40℃で66.4%という数字は、その温度で作った甘酒を飲めば糖の摂取量を同じ割合に減らせるという意味ではない。研究が比較したのは設定した条件で作られるブドウ糖量だ。[2] 実際に飲む量や商品の配合を飛ばして、一杯あたりの糖の量へ読み替えることはできない。製造の効率を表す物差しと、手元の間食の量を測る物差しは、使う場所が異なる。
オリゴ糖は、ブドウ糖と同じ温度でそろわない
同じ温度比較の実験では、甘酒に含まれるオリゴ糖も調べられた。オリゴ糖は、ここではブドウ糖とは別に分析された糖の仲間である。ニゲロース、コージビオース、トレハロース、イソマルトースなど8種類は50〜60℃で最も多くなったのに対し、ソホロースは70℃で最大になった。[2] 糖の種類が変われば、多くなる条件もそろわなかったのである。
この違いは、「甘酒の糖を増やす」という言い方が大ざっぱすぎることを教える。ブドウ糖を多くする目的と、あるオリゴ糖を多くする目的では、目指す成分が異なる。[2] おいしさ、糖の総量、特定の成分では、それぞれ確かめるべき条件が異なる。温度計は目標の成分までは選んでくれない。
研究者はさらに、最初に50℃で糖化し、その後70℃へ切り替える工程も試した。その結果、ソホロースを含む各糖の最大量は、それぞれの温度で得られた値に近づいた。[2] これは温度を途中で変えると糖の組成を調整できる可能性を示す。単に温度を上げ下げしたというより、成分ごとの違いに合わせて工程を設計した実験である。
ただし、この結果を「家でも途中で熱くすれば健康によい甘酒になる」と読まないようにしたい。調べられたのは製造時の糖の量と組成であって、その飲み方で人の体調がどう変わるかではない。[2] 研究の面白さは、温度が甘酒の中身を選び分ける条件になる点にある。飲む人の目的まで、成分の数字だけで先回りして決める必要はない。
成分の名前がたくさん並ぶと、全種類が多いほどよい飲み物に見えるかもしれない。しかしこの実験の読みどころは、順位表を作ることではなく、糖の組成が糖化温度に依存した点である。[2] ブドウ糖だけで見た結果と、オリゴ糖ごとに見た結果を並べると、同じ甘酒の中にも複数の変化があると分かる。甘さという身近な言葉を、成分ごとの問いに分けられることが研究の利点だ。
温度を切り替えた実験も、「熱くするほどよい」という単純な理解の延長には置けない。初めの温度と後の温度に、それぞれ成分を得るための役割がある。[2] 家庭で同じ発想を楽しむとしても、数字だけを抜き出して独自の保温手順を組むより、まず自分が使う作り方の工程名を確かめたい。どこまでが材料を用意する段階で、どこからが糖化なのか。それが分かると、研究で比較している条件の位置も見えてくる。
数字で読む甘酒の糖化温度
50℃:温度を比較した製造実験で、ブドウ糖量が最も高かった条件。[2]
66.4%:50℃のブドウ糖量を100%としたときの、40℃での相対値。[2]
91.9%:同じ基準で比べた60℃のブドウ糖量。温度上昇に比例した増加は見られなかった。[2]
76.6%:同じ基準で比べた70℃のブドウ糖量。酵素の残存率を表す数字ではない。[2]
8種類:50〜60℃で量が最も多かったオリゴ糖の種類数。ソホロースの最大条件とは異なる。[2]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
1
2







