腕立ての腹筋は上げる時と下げる時で違う?動作の局面と体幹の支えを読み分ける

腕立てで腹筋が働くのは上げる時だけなのか。体幹の硬さを推定した研究、静止と反復を比べた筋電図研究、つり下げ式の継続試験から、動作の局面と反復の終盤を分けて考える。腹筋活動の数字を筋肥大や最大筋力と混同せず、床で練習する時に何を観察するかまで整理する。

床に手をつき、腕立てで体を下げてから押し戻す。床へ近づく時は余裕があるのに、押し戻す時はお腹まで忙しい。「腹筋を使うのは上げる時だけか」と気になる。ただ、腕の動く向きだけで腹筋の働く局面を決めるのは早い。腕立て中の腹筋は、腰の関節が曲がったりねじれたりすることへの抵抗にも関与する。[12]

答えの芯は、腹筋を「体を持ち上げる担当」だけで見ないことだ。静止した腕立てでも腹筋活動は測定され、床とつり下げ式ではその大きさが異なる。動作中も体幹を支える仕事がある一方、上げる時と下げる時のどちらが必ず高いとは、ここで扱う比較から決められない。[5][12]

既存記事「腹筋ローラーと普通の腹筋は何が違う?体を曲げる動きと反らせない働きを読む」には種目間の役割の違いを譲る。こちらで確かめるのは、腕立ての動作の途中、止まっている時、反復の終盤という時間の違いだ。開始と終了の比較を、下降と上昇の比較に読み替えないことが出発点になる。[2][5]

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腕が上下しても、お腹の仕事は上下だけではない

男性11人の動作、手にかかる力、腰の姿勢、体幹の筋電図を使った生体力学モデル研究がある。筋電図とは筋肉の電気的な活動を記録する方法で、この研究では測定値をモデルに入力し、腰の関節の回転に対する硬さへの筋群ごとの寄与を推定した。腹筋は腕立て中の支えに大きく関与していた。男性で推定した寄与率を18〜39歳の女性にそのまま当てはめることはできず、ここでは支える方向を区別する手がかりとして読む。[12]

ここでいう硬さは、筋肉が見た目に硬くなったかという話ではない。研究が扱ったのは、腰の関節が曲げ伸ばし、横曲げ、ねじりを受ける方向での回転への抵抗である。腹筋群の寄与は、その方向ごとに違っていた。腕立ての体幹を、単にお腹の表面を固くする動作として見るより、向きの異なる支えとして読むほうが研究に合う。[12]

平均すると、曲げ伸ばし方向の硬さへの腹筋群の寄与は64.32%、横曲げ方向は86.55%、ねじり方向は83.84%だった。いずれもモデル内で求めた寄与率であり、腹筋の力を何割出していたかという活動強度の数字ではない。「腹筋が64%働いた」と短くすると、測ったものが変わってしまう。[12]

また、腹直筋は曲げ伸ばし方向の支え、外腹斜筋や内腹斜筋は横曲げやねじり方向の支えにそれぞれ大きく寄与した。腹直筋はお腹の前側、腹斜筋は脇腹側の筋肉である。同じ「腹筋」という呼び名でも、モデルが推定した役割は一様ではなかった。上げる時に前側の感覚が強かったとしても、それだけで体幹全体の支えを採点することはできない。[12]

体幹が横へ傾く様子と腰が反る様子を、どちらも姿勢が崩れたと済ませると、変化の向きが消える。モデル研究は曲げ伸ばし、横曲げ、ねじりを区別していた。動画を見返す際にも、腰の位置が上下したのか、胴体が横へ動いたのかを言葉にしておくと、何を見たかが明確になる。これは筋肉ごとの活動を映像から推定する方法ではなく、姿勢を整理するための工夫である。[12]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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上げる時と下げる時を比べる前に、比較の単位をそろえる

腕立ての研究を読む時、動く種目と止まる種目の比較なのか、支持面の比較なのか、反復の初めと終わりの比較なのかをまず確かめたい。この区別で、同じ「活動が増えた」という結果の意味が変わる。床とつり下げ式を比べた実験と、限界まで繰り返した実験は、どちらも腹筋を測っているが、入れ替えた条件が違う。[2][5]

若い男性20人を対象とした実験では、肘の角度を90度に保つ静止運動と、毎分45回の速さで繰り返す動的運動を行い、それぞれ床とつり下げ式を比べた。腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋を含む筋肉の表面筋電図を測り、各筋肉の最大随意収縮時の値を基準にそろえている。若い男性の比較であり、18〜39歳の女性でも同じ大きさの差が出るかは別に確かめる必要がある。[5]

この実験の「動的」は腕立てを繰り返す条件を指し、「静的」は決まった肘の角度を保つ条件を指す。動的条件の結果を読んだからといって、そのまま下降中と上昇中に細かく分けた答えを得たことにはならない。読者の疑問は動作の向きだが、実験の比較軸は動きの有無と支持面なのだ。[5]

自宅の動画を見る時も、問いを分けると観察しやすい。「下げた時だけ腰の位置が変わる」という見た目の記録と、「下げた時に腹筋の活動が最大になる」という測定上の判断は別である。前者は練習中に確かめる対象になるが、後者を言うにはその局面の測定が必要になる。体幹の支えを推定した研究にも、筋電図を比べた研究にも、それぞれの測定の役割がある。[5][12]

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止まっていても腹筋は働き、動くと支持条件の差が広がる

肘を90度に保つ静止条件では、つり下げ式の腹筋群の筋電図は床より15〜27%高かった。同じ実験で上腕三頭筋は27%、上腕二頭筋は128%高く、動かない姿勢でも支持面を変えると活動の分担が変わっている。止まった画面だけを見て「何もしていない」と思うのは、筋肉に少し気の毒だ。[5]

反復する動的条件では、つり下げ式と床の差がより目立ち、大胸筋に加えて腕や腹筋の筋肉で有意な差が認められた。ただし、研究が示したのはつり下げ式による活動増加である。「動く腕立てなら、どの瞬間も静止より腹筋活動が高い」という一律の順位ではない。[5]

支持面の違いは別の実験でも重要だった。健康な12人を対象にした比較では、ボールを使う腕立てで上腕三頭筋と腹筋の活動が最も高く、主観的なきつさも高かった。一方、同じ研究のスクワットでは、支持条件による筋活動の違いが認められなかった。不安定なら何の種目でも同じように活動が増える、という話にはならない。[9]

この結果を自分の下降と上昇に当てはめる時は、支え方をそろえる意識が役立つ。床で行った日の下降と、別の日のボール上の上昇を比べても、動作の向きだけの比較にはならない。腕立てという種目名が同じでも、手を置く面が変われば腹筋への課題も変わる。局面を知りたい時ほど、種目の名前より条件を見る必要がある。[5][9]

活動の割合を読む際は、同じ記号が付いていても基準が違うことに目を向けたい。最大随意収縮を基準にした値は、各筋肉の測定値をそろえて比較するために使われている。床に対する相対差を、最大随意収縮に対する割合の差に置き換えることはできない。数字だけを記憶するより、何を基準にどの条件と比べたかを言葉で残すほうが、研究の読み違いを防ぎやすい。[5]

反復の終盤に増える活動は、上昇局面の数字ではない

つり下げ式腕立てを限界まで行う追加実験では、男性6人の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の活動が、開始から終了へ向かって有意に増加した。腹直筋は最大随意収縮時に対する値で46%から88%、外腹斜筋は32%から50%、内腹斜筋は19%から52%となった。特に腹直筋の活動が高かった。男性の限界到達時の値を18〜39歳の女性の目標値にせず、反復の経過で活動が変わった結果として読む。[2]

この46%と88%は、下げる時と上げる時に割り振られた値ではない。反復の開始側と終了側の比較である。押し戻すのがつらくなる頃にお腹の活動も大きくなる、という経験と重なる部分はあっても、「上昇では88%」と説明したら研究結果を別のものにしてしまう。[2]

しかも、数値はつり下げ式で限界まで繰り返した男性の測定である。床で余裕を残して終える練習や、腕立てに慣れていない女性の活動水準をそのまま表すものではない。自分のお腹の張りが弱い日に、この値へ届いていないから失敗だと判断する必要はない。実験条件と対象を添えて初めて、数字は比較の手がかりになる。[2]

練習ノートには、上昇と下降のどちらで気になったかに加え、反復の序盤か終盤かも書ける。たとえば「押し戻す途中で体幹の形が変わった」という観察があれば、向きと時間の位置が残る。それは筋電図の代わりではないが、支持条件と反復経過を混ぜないための記録になる。終盤の活動増加を示した実験は、時間軸を意識する意味を教えてくれる。[2][5]

限界に近づいた時の活動を、最初の反復にも当てはめないことだ。同じ器具、同じ種目であっても、開始側と終了側で腹筋活動は変化した。条件をそろえるとは、器具をそろえるだけでなく、反復のどこを見たかまでそろえることでもある。[2]

数字で読む腕立て中の腹筋

男性11人:動作と筋電図などをモデルに入れ、腰の関節の硬さへの筋群の寄与を推定した。[12]

64.32%:曲げ伸ばし方向の関節の硬さに対する腹筋群の平均寄与であり、活動強度ではない。[12]

男性20人:床とつり下げ式を、肘を90度で保つ条件と反復条件で比べた実験の対象である。[5]

15〜27%:静止条件でつり下げ式が床を上回った腹筋群の筋電図の相対差である。[5]

46%から88%:男性6人のつり下げ式腕立てで、開始から限界到達時へ増えた腹直筋活動の値である。[2]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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