腹壁のヘルニアの手術前に禁煙と減量の準備を求めた病院では、終えて手術に進めた人は4人に1人だった。傷あとのヘルニアと肥満、鼠径ヘルニアで逆向きになる関連、手術前の低エネルギー食を試した51人の試験、感染と再発を体重で予測する限界を論文で確かめる。
ある病院の外来で、お腹の壁のヘルニアの手術を待つ人たちに、専門の看護師が面談を重ねていた。たばこをやめる人には助言と動機づけの面接を行い、体重を落とす人にはそれに加えて目標の体重を示し、食事の助言を渡した。次の面談をいつにするかは本人の希望に合わせ、間隔は2〜8週間おきだった。禁煙が6週間以上続くか、目標の体重に届けば、そこで手術に進むという取り決めである[1]。
2021年6月から2024年12月までに、この準備の仕組みに入った人は107人いた。準備を終えて手術を受けたのは28人で、4人に1人ほどにとどまる。それとは別の28人は、手術に進まないまま、追跡の終わりの時点でまだ準備の途中にいた。途中で抜けた人、進み具合が足りずに打ち切られた人、連絡が取れなくなった人もいる。研究者は、この仕組みには人手がかかり、脱落と失敗が多かったと書いている[1]。
肥満のある人に、よくある手術の前に体重を落とすよう求める声は強まっている。それでも、意図して体重を落とすことが手術の結果をどう変えるのかは、まだほとんど分かっていない[2]。しかもお腹のヘルニアでは、体重との関係が種類によって向きまで変わる。どのヘルニアの、どの結果について話しているのか。そこを分けないと、減量の値打ちは正しく測れない。

お腹のヘルニアは、できる場所で別の病気になる
お腹のヘルニアとひとまとめに呼ばれるものは、論文の上では場所ごとに分けて調べられている。足の付け根に出る鼠径ヘルニアは、筋肉と筋膜の層にできた欠損から起き、生まれつきの要因と、後から加わる要因の両方があるとされる[14]。
お腹の前の壁に出るものは腹壁ヘルニアと呼ばれ、手術の跡と関係なく出る一次性のものと、以前の手術の切開の跡に出る腹壁瘢痕ヘルニアの両方を含む呼び名として使われている[3]。腹壁瘢痕ヘルニアは、大腸がんの手術の後[5]、腰の骨を体の前側から固定する手術の後[11]、一時的な人工肛門を作って閉じた跡[7]など、さまざまな手術の後で数えられてきた。
この違いは、手術を待つ人にとって小さくない。傷あとのヘルニアは、一度お腹を切った人に起きる。同じ「ヘルニア」でも、体重がどちらの側に働くかを示す論文は別々の集団から出ており、結果を一つに混ぜることはできない[5][15]。
手術全般の前の減量と栄養の守り方は、「手術前の減量で合併症は減らせるか 体重を落とす準備と栄養を守る準備の分かれ道」の記事に譲る。ここではヘルニアに話を絞る。
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手術の傷あとにできるヘルニアと、肥満の重み
腰の骨を体の前側から固定する手術(前方腰椎椎体間固定術)を受けた人を、全国規模のデータベースで追った研究がある。対象は165,110人で、そのうち4,164人、2.52%がのちに腹壁瘢痕ヘルニアと診断された。診断までの期間は中央値で728日、平均では1,093日だった。半数の人は、手術から2年近くたってから見つかったことになる[11]。
この研究で、ほかの条件をそろえても腹壁瘢痕ヘルニアと結びついていた要因は七つあった。肥満の調整オッズ比は1.19、喫煙は1.09、慢性閉塞性肺疾患は1.25、腹水は2.16、手術部位の感染は1.96、栄養不良は1.56、2か所を固定する手術は1.12である。オッズ比は、ヘルニアになった人とならなかった人の比を、条件のある群とない群で比べた値で、1を超えるほどその条件のある側に多い。肥満は確かに危険の側に入るが、腹水や感染よりは小さかった。太りすぎと栄養の不足が同じ表に並んでいる点も見落とせない。研究者は減量、禁煙、栄養の支援を勧めているが、それらを実際に行って効果を確かめた研究ではなく、記録をさかのぼった観察研究である[11]。
では、手術の前に誰が傷あとのヘルニアになりやすいかを当てられるのか。腹の手術を受けた大人を対象に、閉じた筋膜が開く合併症(筋膜離開)と腹壁瘢痕ヘルニアの予測モデルを集めた系統的レビューは、12の研究を採用した。腹壁瘢痕ヘルニアのモデルの性能を示すC統計量は統合して0.81だった。C統計量は、起きる人と起きない人をどれだけ見分けられるかを表す値で、1に近いほどよく当たる。複数のモデルに入っていた要因は、BMI、喫煙、緊急の手術、手術部位の感染である。ただし多くの研究は分析の進め方に偏りの危険が高く、ほとんどのモデルは別の集団で確かめられていない[17]。

人工肛門の跡では、BMIの境目が二つ見えた
腸をつないだ部分を守るために、一時的に回腸で人工肛門を作ることがある。その人工肛門と、それを閉じる手術にBMIがどう関わるかをまとめた系統的レビューとメタ分析は、26の研究、5,141人を集めた。男性が53.5%で、研究ごとの平均年齢は35.0〜65.3歳、平均のBMIは19.8〜27.1だった。人工肛門を閉じた跡にできる腹壁瘢痕ヘルニアを調べた7研究は、そろってBMIが高いほど多いと報告し、標準化平均差は0.88だった。標準化平均差は、研究ごとに異なる測り方の差を、ばらつきの大きさで割ってそろえた値である[7]。
境目の置き方で結果は変わった。BMIが30を超える人では、合併症全体のオッズ比が2.01(95%信頼区間1.11〜3.64)と高かった。一方、BMIが25を超えるかどうかで分けると、多くの合併症に明確な差はなかった。例外は二つで、人工肛門の跡の腹壁瘢痕ヘルニアのオッズ比が4.66(同3.54〜6.14)、人工肛門のまわりにできるヘルニア(傍ストーマヘルニア)が2.41(同1.70〜3.40)だった。研究者は、BMIが25を超える人では人工肛門の跡に網状の補強材(メッシュ)を置くことを強く考えるべきだとし、人工肛門を作る前と閉じる前の減量も勧めている。集めた研究の平均のBMIが19.8〜27.1と、肥満の手前の人が中心だった点は、この勧めを読むときに覚えておきたい[7]。
数字で読むお腹のヘルニアと体重
2.52%:体の前側から腰の骨を固定する手術を受けた165,110人のうち、のちに腹壁瘢痕ヘルニアと診断された人の割合。人数では4,164人だった。[11]
1.19:同じ研究で、肥満のある人の腹壁瘢痕ヘルニアの調整オッズ比。肥満のない人と比べた値で、腹水の2.16、手術部位の感染の1.96より小さい。[11]
4.66:一時的な人工肛門を作って閉じた人のメタ分析で、BMIが25を超える人の、人工肛門の跡の腹壁瘢痕ヘルニアのオッズ比。25以下の人と比べた値である。[7]
0.81:腹壁瘢痕ヘルニアを予測するモデルの性能(C統計量)を統合した値。多くのモデルは別の集団で確かめられていない。[17]
6.31%と0.53%:米国の大きな医療機関の利用者を追った研究で、追跡の間に鼠径ヘルニアの修復手術を受けた人の割合。順に男性、女性である。[15]
鼠径ヘルニアでは、太っている人の手術が少なかった
足の付け根のヘルニアでは、体重の向きが逆になる。米国の大きな医療機関で電子カルテを持ち、健康の調査に答えた302,532人を、2007年から2020年まで追った研究がある。始めの時点で鼠径ヘルニアの記録がない人を対象に、その後に修復の手術を受けた7,314人の特徴を調べた[15]。
手術は男性に多く、女性と比べた男性の調整ハザード比は13.55だった。ハザード比は、時間を追って起きる出来事の起こりやすさを比べた値である。年齢が高いこと、激しい運動をよくすること(1.24)、飲酒(1.05)も手術が多い側に入った。反対に、肥満の人の調整ハザード比は0.33、過体重の人は0.71で、どちらも手術が少ない側だった。喫煙は女性でだけ手術の多さと結びつき(1.23)、男性ではそうではなかった(0.96)[15]。
この研究が数えたのは「修復の手術を受けた」記録で、ヘルニアができた人の数そのものではない。見つかり方や手術に進むかどうかの判断が、体重で違った可能性もある。なぜ肥満の人で手術が少なかったのかを、この研究は説明していない。分かるのは、傷あとのヘルニアと同じ物差しで鼠径ヘルニアを語れないということだ。激しい運動との結びつきも観察で見つかった関連で、運動を控えれば防げると示したものではない[15]。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
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