運動すると腸内環境が整うという話を、便を調べた試験で確かめる。6か月の試験で強めの運動の群に出た多様性の小さな上昇、食事制限と歩行で体重が2.6kg減っても変わらなかった3週間の細菌、運動をやめた後に開始時と見分けがつかなくなった顔ぶれ、変わる人と変わらない人の違いまでを読む。
「運動は腸活にもなる」。雑誌の特集や広告の惹句で、こうした言い回しを見かけることがある。汗をかけば善玉菌が増え、お腹の調子が整い、ついでに体重も落ちやすくなる。三つの良いことが、一本の線でつながったまま語られる。
論文の側に立つと、その線はところどころで途切れている。過体重や肥満の人が6か月体を動かした無作為化試験では、強めの運動をした群で腸内細菌の多様性の指標が上がったものの、増減がはっきりした細菌の属は一つも無かった[12]。食事を減らしながら歩いた3週間で体重が平均2.6kg減った試験では、便の中の細菌の顔ぶれは変わらなかった[13]。
それでも、運動が腸に何もしないという話にはならない。研究を束ねた解析では、多様性の指標はわずかに上を向いている[3]。どの強さで、どれだけの期間、誰が動いたのか。測ったのは細菌の種類の豊かさか、顔ぶれのそろい方か、細菌が作る物質か。便の中の小さな生態系は、問いの立て方しだいで違う顔を見せる[3][4]。

便の研究は、何を数えているのか
運動と腸内細菌の研究では、参加者が便を採り、研究室で細菌の遺伝子を読み取って、どの細菌がどれくらいの割合でいるかを推定する。読み方には、目印になる一つの遺伝子だけを読む方式と、便の中の遺伝子をまるごと読む方式がある。6か月の運動試験は前者を、3週間の減量試験は後者を使っていた[12][13]。
結果の欄によく出てくるのが「α多様性」と「β多様性」である。α多様性は、一人の便の中に、どれだけ多くの種類の細菌が偏りなくいるかを表す。シャノン指数、シンプソン指数、チャオ1指数などは、その計算の仕方の違いだ。肥満や2型糖尿病の人の運動の研究を束ねた解析も、これらの指標を一つずつ並べて結果を出している[3]。β多様性は、二つの便の顔ぶれがどれだけ違うかを表す。運動の前と後、運動した群としなかった群の間で、この隔たりを測る[7]。
もう一つの柱が短鎖脂肪酸である。酢酸、プロピオン酸、酪酸などの、腸内細菌が作る物質で、運動と腸の関係を説明する候補として何度も名前が挙がる[4][7]。細菌の名簿を作るだけでなく、その細菌が何を作っているかまで測る試験もある。肥満の女性を対象にした試験は、便の中の短鎖脂肪酸の濃度をガスクロマトグラフィーで測った[5]。
便は1回分でも、そこから引き出す数字は多い。多様性の指標だけで4種類が使われ、細菌の分類は門から属、種まで何段もある[3]。どの段の、どの指標が動いたのかを確かめないと、「腸内環境が変わった」という一言にすべてが溶けてしまう。善玉菌を外から足す話は「腸内細菌とダイエット プロバイオティクスで体重はどれだけ変わるのかを読む」の記事に譲り、ここでは体を動かす側から腸を見る。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
6か月、自転車で通勤した人と汗をかいた人
過体重または肥満の88人が最後まで参加した6か月の無作為化試験は、4つの群を比べた。普段どおりの暮らしを続ける群、自転車で通勤する群、余暇に中くらいの強さで運動する群、余暇に強めの強さで運動する群である。便は割り付けの前と、3か月後、6か月後に採り、同じ時期に体の測定と食事の記録も行った[12]。
結果は控えめだった。3か月の時点で、強めの運動の群のシャノン指数は、普段どおりの群と比べて5%高くなった(95%信頼区間1〜9%)。β多様性はすべての運動の群で普段どおりの群と比べて変化し、強めの群では参加者どうしの顔ぶれのばらつきが小さくなった。一方で、有意に増えたり減ったりした属は無く、著者らは「構造化された運動は腸内細菌にかすかな変化をもたらした」とまとめている。この試験は、多様性と体の関係も調べていた。α多様性と、心肺の体力や脂肪の量との間に関連は見られなかった[12]。
自転車で通勤した人の腸が、普段どおりに暮らした人の腸と違う方向へ動いた。通勤経路の選び方としては、なかなか面白い結果である。ただし属の単位では差が出ていないので、自転車に乗る人に特有の細菌が住みついたと読むことはできない。腸の多様性が上がったことと、体脂肪や体力が変わったことは、この試験では別々の出来事として測られている[12]。

体重が落ちても、細菌は動かなかった
体が大きく変わったのに腸が変わらなかった例もある。運動の習慣がない過体重・肥満の男性と閉経後の女性を、介入群18人と対照群12人に分けた3週間の無作為化試験だ。介入群は普段の食事から週5,000kcalを減らし、さらにトレッドミルの歩行で週2,000kcalを上乗せして消費した。歩く強さは最大酸素摂取量の70%で、散歩の気分では済まない水準だった[13]。
3週間で介入群の体重は平均2.6kg、脂肪量は1.5kg減り、空腹時のインスリン、レプチン、総コレステロールも下がった。インスリンの効きも良くなっている。それでも便の中の細菌は、α多様性、β多様性、一つ一つの細菌の割合のどれを見ても変わらなかった。著者らは、減量の初期に起こる代謝の改善は、腸内細菌の変化を介したものではなさそうだと結論している。遺伝子をまるごと読む方式を使い、脂肪組織と筋肉まで採って調べたうえでの「変化なし」である。期間が3週間と短いことは差し引いて読むとしても、体重計の数字と腸の細菌が同じ速さで動くとは考えにくい[13]。
肥満の女性36人を8週間追った試験も、似た向きの結果を出している。18〜40歳の女性を、間欠的断食とHIITを組み合わせる群(15人)、HIITだけの群(11人)、断食だけの群(10人)に分けた。HIITは1回25分の巡回形式を週3回、断食は週に2日の5:2方式である。運動は便の酢酸の濃度を上げたが(P=0.04)、細菌の構成も、機能の特徴も変わらなかった[5]。
細菌の名簿は同じまま、作り出す物質の一つだけが動いた。運動が細菌の数を変えずに働き方を変えた可能性として読むこともできるが、差が出たのは一つの指標にとどまる。著者らも、運動は酢酸の産生に調整の役割を果たしうる、という慎重な言い方で止めている[5]。
19本の研究を束ねると、多様性はわずかに上を向く
個々の試験がまだら模様なら、束ねるとどうなるか。肥満と2型糖尿病の人を対象にした19本の研究、合わせて1,062人のメタ分析がある。メタ分析は、複数の研究の結果を統計の手続きで一つにまとめる方法だ。運動はシャノン指数を、肥満の群で標準化平均差0.40(95%信頼区間0.15〜0.65)、2型糖尿病の群で0.48(同0.08〜0.88)押し上げていた。標準化平均差は、試験ごとに違う尺度をそろえるための値で、単位を持たない[3]。
指標が違えば結果も違う。シンプソン指数と、観察された細菌の種類の数には有意な変化が無かった。チャオ1指数は肥満の群で上がった(標準化平均差0.45)。細菌の名前で見ると、酪酸を作る仲間のロゼブリアやフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ、それにアッケルマンシア・ムシニフィラが増える方向で研究がそろっていた。反対に、よく話題になるファーミキューテス門とバクテロイデテス門の比や、プレボテラ、バクテロイデスといった属の反応は研究ごとにばらばらだった[3]。
過体重と肥満の人の無作為化試験だけを集めた別の系統的レビューは、11本を集め、数値をまとめられたのはそのうち4本だった。顔ぶれの隔たりを表すブレイ・カーティス非類似度について、効果量は4.56(95%信頼区間1.77〜11.80)で、運動は腸内細菌の構造に影響していた[7]。4本だけの統合で、信頼区間の幅も広い。向きを示す材料にはなっても、どれほど変わるかの目安にはしにくい。
数字で読む運動と腸内細菌
5%:6か月の試験の3か月の時点で、余暇に強めの運動をした群のシャノン指数が、普段どおりに暮らした群と比べて高くなった幅。95%信頼区間は1〜9%。[12]
−2.6kg:3週間の食事制限と歩行で、介入群18人の体重が平均で減った量。細菌の多様性と割合は変わらなかった。[13]
0.40:肥満の人の試験を束ねた解析で、運動がシャノン指数を押し上げた標準化平均差。単位は無い。95%信頼区間は0.15〜0.65。[3]
2.26kgと1.01kg:運動量が週15 MET時間多いごとに、21歳からの体重増加が少なかった量。順に、アリスティペス・プトレディニスという細菌が多い男性、少ない男性。観察研究である。[8]
1回25分・週3回:肥満の女性の8週間の試験でのHIITの条件。便の酢酸の濃度は上がったが、細菌の構成は変わらなかった。[5]
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
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