ADHDの薬で食欲が落ち、子どもの体重が数か月で減る一方、成人まで追った研究では過体重が多かった。コクランのレビュー、子どもの比較試験、過食の実験、韓国の長期追跡から、食欲の低下の頻度、脳で起きること、体重の時間の長さ、痩せる目的に使えない理由を確かめる。
同じ薬を飲んだ子どもについて、ある研究は体重が減ったと書き、別の研究は大人になってから太っている人が多かったと書く。薬はADHD(注意欠如・多動症)の治療に使う中枢刺激薬で、脳の神経の働きを高める側に作用する。オーストラリアで刺激薬を使ったことのない子ども100人を2種類の薬に割り付けた試験では、どちらの薬でも体重が減った。[7]
韓国の健康保険の記録で子どもと10代を成人まで追った研究は、逆の向きの数字を出した。メチルフェニデートを使ったADHDの人は、ADHDのない人より、成人で過体重・肥満に当たりやすかった。[8] 食欲を落とす薬が、長い目で見ると逆の数字と並ぶ。これは矛盾というより、二つの研究が別のものを比べた結果である。前者は薬の種類どうしを数か月から1年の単位で比べ、後者は薬を使ったADHDの人とADHDのない人を、診断から成人までの長い時間を隔てて比べた。[7][8]
子どもの薬の副作用が気になる親もいれば、大人になってから処方を受けた人もいるだろう。食欲が落ちるなら体重を落とすのに使えないか、と考えた人もいるかもしれない。どの立場で読んでも、分けて見るものは同じだ。薬が食べる行動のどこに触れるのか、そして体重がどの長さの時間で動くのか。

食欲の低下は、どのくらいありふれた副作用か
子どもと10代を対象に、メチルフェニデートを偽薬または治療なしと比べた無作為化比較試験は数が多い。212本、無作為に割り付けられた16,302人をまとめたコクランの系統的レビュー(2023年の更新版)は、重くない有害事象が薬で増える可能性を示した。リスク比は1.23(95%信頼区間1.11〜1.37)で、著者らはその例として睡眠の問題と食欲の低下を挙げている。効き目の側では、教師が評価した症状を改善する可能性(標準化平均差−0.74)が示され、重い有害事象は増えない可能性があった。ただし証拠の確かさは、どの項目も「非常に低い」と判定された。薬を使った期間は平均28.8日で、何年も飲み続けたときの姿はこの数字からは見えない。[9]
大人では、飲んですぐ薬が放出される型(速放性)のメチルフェニデートを調べた10本の試験、497人をまとめた別のコクランのレビューがある。害を報告していた4本の試験で、薬を飲んだ203人と偽薬の141人を比べると、食欲の消失のリスク比は1.77(95%信頼区間1.06〜2.96)、胃腸の不調は1.96(1.13〜2.95)だった。追跡は6〜18週と短い。[15]
試験の外の診療の記録でも、食欲は上位に来る。メチルフェニデートを3か月以上続けた子ども99人の記録を調べた研究では、報告の多かった副作用は順に、食欲の低下47人、体重の減少24人、睡眠の問題19人だった。[14] 99人のうち半数近くが食欲の低下を経験した計算になる。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
偽薬と比べる試験を、食欲の低下そのものが崩す
食欲が落ちる、眠れないといった目立つ副作用があると、飲んでいるのが本物の薬か偽薬かを、本人も評価する側も察しやすくなる。子どものメチルフェニデートのレビューの著者らは、この「見破り」を考えに入れると212本すべての試験が偏りの危険が高いと書き、副作用をまねる「活性のある偽薬」を探して使うよう提案している。212本のうち86本(41%)は、製薬企業から資金の全部か一部を受けていた。[9] 食欲の低下は副作用の一覧の一行であると同時に、薬の効き目を測る試験の土台を揺らす要因でもある。
自閉スペクトラム症の子どもにメチルフェニデートを使った試験をまとめたレビューは、別の形の偏りを示した。4本のクロスオーバー試験(同じ子どもが薬と偽薬を時期を変えて受ける試験)の113人で、治療ではっきり増えた副作用は、親が評価した食欲の低下だけだった。リスク比は8.28、95%信頼区間は2.57〜26.73と幅が広く、2本の試験の74人に基づく。しかも試験は短く、試しの投与で薬に耐えられなかった子どもを除いていた。[17] レビューの著者らは、この短さと除外を、害の証拠の質が非常に低い理由に挙げている。合わない子が先に外れた集団の数字なので、副作用の多さは実際より少なめに出ているかもしれない、と私は読む。

薬は、体のどこで食欲に触れるのか
中枢刺激薬のひとつリスデキサンフェタミンは、アミノ酸のリシンにアンフェタミン(d体)をつないだ形の薬で、体の中の酵素で切り離されてから働く。この変換を挟むため、作用はゆっくり長く続く。脳ではドーパミンとノルアドレナリンという神経の伝達物質の放出を増やし、注意や集中、衝動の抑えの改善につながると考えられている。副作用として挙がるのは不眠、食欲の低下、体重の減少、口の渇きである。[6]
メチルフェニデートについても、肥満・過体重の大人を対象にした整理は、ドーパミンの量を調整して食欲や食べる行動に働く可能性を出発点に置いている。食欲の低下は、胃の話より先に、脳の伝達物質の話として扱われている。[1]
脳には、コカインやアンフェタミンで量が変わることから名付けられたCARTというペプチド(たんぱく質の短い断片)もある。食べる行動に関わる視床下部に多く、動物などの研究は食べる量を抑える方向の働きを支持してきた。ドーパミンの回路を通じて、食べ物の報酬と薬物の報酬をつなぐ可能性も論じられている。[4] ただ、早い年齢で肥満になったデンマークの人を調べた研究では、この物質の遺伝子に見つかった変わり型は、肥満とも、平均27.4年の追跡中の体重増加とも関連しなかった。[5] 薬の名前が付いた物質が体にあることと、その物質の違いで太りやすさが決まることは、別の話である。薬の食欲の低下がこの物質を通るかどうかは、ここで集めた論文では確かめられていない。
子どもの体重は、最初の数か月で動いた
オーストラリアのニューサウスウェールズ州の小児科の外来で、刺激薬を使ったことのない4.5〜16.4歳の100人を、デキサンフェタミンとメチルフェニデートに1対1で割り付け、12か月追った試験がある。平均年齢は9.08歳、73%が男子だった。症状はどちらの薬でも改善し、2つの薬の間に差は無かった。12か月後に割り付けられた薬を続けていたのは62人で、続けた割合にも明確な差は無かった。体重はどちらの薬でも減り、開始3か月の時点での減り方はデキサンフェタミンで大きかった。症状の改善に差が無いのに体重の減り方には差が出たのだから、体重の動きは効き目の物差しとは別に見たほうがよい。割り付けを本人も医師も知る非盲検の試験である。[7]
頭のけがの後に注意の問題が長く続く6〜17歳の子ども26人を、効き目が長く続く型のメチルフェニデートと偽薬で入れ替えて比べた試験では、20人が最後まで参加した。薬は約1kgの体重減少、収縮期血圧(上の血圧)の数値の約3〜6の上昇、軽い食欲の変化と関連した。[18]
薬を替えても、食欲の問題が消えるとは限らない。デンマークの専門外来で、メチルフェニデートからリスデキサンフェタミンに切り替えた7〜13歳の394人の記録を調べた研究では、メチルフェニデートをやめた理由で多かったのは、副作用(70.0%)と効き目の不足(52.0%)だった。切り替えた後の副作用の上位は、食欲の低下62.4%、不眠28.7%、いらだち・攻撃性26.1%、体重の減少21.1%で、多くの副作用は切り替え前より少なくなった。[11] 2つの薬の副作用の並びは似ており、食欲の低下は切り替えた後も先頭にあった。
数字で読むADHDの薬と食欲
1.23:子どもと10代のメチルフェニデートの試験で、偽薬または治療なしに対する、重くない有害事象のリスク比。例として睡眠の問題と食欲の低下が挙がる。[9]
1.77:大人の速放性メチルフェニデートの試験で、偽薬に対する食欲の消失のリスク比。4本の試験の、薬の203人と偽薬の141人に基づく。[15]
8.28:自閉スペクトラム症の子どもの試験で、偽薬に対する、親が評価した食欲の低下のリスク比。2本の試験の74人で、信頼区間は2.57〜26.73と広い。[17]
1.44kgと0.31kg:開始3か月の時点の平均の体重の減り幅。順にデキサンフェタミン群、メチルフェニデート群。[7]
41.3%:リスデキサンフェタミンに切り替えてから1年以上観察できた子どものうち、1年以上その薬を続けた人の割合。[11]
34,850人:子どものころのADHDとメチルフェニデートの使用を、成人のBMIと身長に結びつけた韓国の研究で、結果に示された若者の数(6〜11歳12,866人と12〜19歳21,984人の合計)。ADHDのない対照がこの数に含まれるかは、論文の要約の書き方からは決まらない。[8]
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
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