体幹の背中トレーニングは丸めても同じ?筋肉の長さと発揮する力の違いを読む

体幹の背中トレーニングで、丸めた姿勢と起こした姿勢の力は同じなのか。健康な男女の筋力測定や前屈の実験から、筋肉の長さ、筋活動、背中を支える組織の役割を整理する。大きな力が出る姿勢をそのまま正解にせず、前回と比べるための角度と保持時間のそろえ方を考える。

床のバッグを取る時と、胸を起こして背中に力を入れる時。同じ背筋を使うなら、出せる力も同じだろうか。体幹の背中トレーニングでも、この姿勢の違いを抜きに「前より強くなった」と比べるのは早い。健康な男女を調べた実験では、体を曲げる角度によって、背中の筋活動と体を起こす方向の力が変わっていた。[6]

答えの芯は、丸めた姿勢でも同じではない、である。最大努力の測定では、前屈側でむしろ大きな力が出ている。最大努力で姿勢を保つ実験では、前屈する方向へ角度が変わると、体を起こす回転力は大きくなった。一方、深い前屈では背筋の電気的な活動が急に小さくなる現象もある。努力の条件と、どの組織が体を支えるかを分けて読む必要がある。[5][6]

既存記事「背中を鍛えるだけで痩せ体質に!ダイエット効果を高める背中トレーニング」が扱う減量や種目選びの話はそちらに譲り、こちらは姿勢による測定値の違いを扱う。

動きの方向転換を扱う「ランジの体幹トレーニングは折り返しでも同じ?直進と向きを変える負担を読む」とは問いを分け、ここでは背中を曲げる角度と力の関係に絞る。鏡で姿勢の形を採点するより、測った力に何が含まれているかを確かめたい。

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背中の筋力は、角度を添えて初めて比べられる

背中の脊柱起立筋は、体を起こす動作に関わる筋群である。腰の部分の活動を測った実験では、健康な若い男女20人が、後ろへ20度反った姿勢から前へ50度曲げた姿勢まで、10度刻みで最大努力の課題を行った。体を動かさずに力を出す等尺性の測定であり、反復して背中を曲げ伸ばしするトレーニングの成績ではない。[6]

測ったのは、表面筋電図による腰の筋活動と、測定器による体幹の伸展トルクだ。筋電図は筋肉の電気的な活動をとらえる方法、伸展トルクは体を起こす方向へ回そうとする力の指標である。立った姿勢の値を基準にそろえると、後ろへ20度反った姿勢から前へ50度曲げた姿勢までの範囲で、筋活動は1.7倍、トルクは3.5倍に増えた。角度が違えば、同じ人の最大努力でも表示される値は同じではなかった。[6]

たとえば、前回は胸を起こし、今回は少し前へ倒れて測ったとする。今回の値が大きくても、それだけで背中の筋肉が育ったとは判定できない。この実験が教えるのは、体を曲げる角度自体が測定値を変える条件になることだ。筋力の変化を見たい時には、姿勢の変化が混ざらないようにする、という読み方になる。[6]

男女では筋活動とトルクに差があったが、各自の直立姿勢の値を基準にすると、男女の違いは認められなかった。これは誰もが同じ重さを扱えるという意味ではない。絶対的な大きさと、角度によってどう変化するかは別の比較である。ほかの人の数字を借りて自分の背中を評価する前に、まず自分の測定条件をそろえるほうが筋が通る。[6]

自宅の練習でも、記録するのが「できた回数」だけだと、その日にどの形で行ったかが残らない。「胸を起こして保持した」「前傾した位置で保持した」と言葉を添えるのは、角度を厳密に測る代わりの生活上の工夫である。実験と同じ精度にはならないが、違う課題を同じ記録欄に入れないためには役立つ発想だ。[6]

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長い筋肉ほど強い、だけでは説明が終わらない

筋肉の長さと張力の関係とは、筋肉がどれだけ伸ばされた状態かによって、出せる力がどう変わるかという関係だ。男性5人の動作を用いた研究は、筋電図と生体力学モデルから、背中の筋肉の長さや張力を推定した。前屈を深める方向で、脊柱起立筋と広背筋の長さと張力の関係が直線的になるという仮説を支持する結果だった。男性だけのモデル研究なので、18〜39歳の女性にも同じ関係が成り立つかは、この結果だけでは判断できない。[7]

ここで大切なのは、筋肉を取り出して直接引っ張った結果ではなく、活動する筋肉と受動的な組織を組み込んだモデルによる推定だという点である。受動的な組織とは、自分で収縮して力を出す筋肉とは異なり、伸ばされることなどによって支えに関わる組織を指す。この研究では、それらを含めて体の動きを計算している。[7]

また、健康な男女の最大努力の実験でも、トルクの増え方と筋電図の増え方は一致しなかった。直立を基準にしたトルクと筋活動の比は、後ろへ反った姿勢から前屈した姿勢にかけて0.83から1.67へ増えた。筋電図が同じ割合で大きくなるから力も大きくなる、という単純な対応ではなかったのである。[6]

その研究で、基準化した筋活動とトルクの相関係数は0.59だった。著者らは、筋肉同士の協調や筋肉の長さと張力の関係も姿勢によって変わる可能性を挙げている。腰の表面で測った電気信号だけで、胴体全体の出力をすべて説明するのは難しい。画面に出る筋活動の数字だけでは、背中を支える全員の働きは見渡せない。[6]

したがって、前屈した時に大きなトルクが出たとしても、「その角度が筋肉を大きくするのに最適」と読み替えることはできない。男性5人の研究が扱うのは力の推定であり、男女20人の研究が扱うのは角度ごとの最大努力だ。どちらも、丸めた姿勢で長く練習した群ほど筋肉が育ったという比較ではない。測定での強さと、続けた後の変化を分けることが、実験を日常へ持ち帰る時の境界になる。[6][7]

深く曲げると筋活動が下がるのは、支えが消えるからか

前屈を深めた時、脊柱起立筋の電気的な活動が急に小さくなる現象を、屈曲弛緩現象と呼ぶ。健康な若者25人を調べた実験では、前へ曲げてから起き上がる課題で、全員にこの現象が観察された。活動が静かになった位置は、股関節の最大屈曲の57%、背骨の最大屈曲の84%に相当した。[5]

これは「84度を超えたら力を抜いてよい」という角度の目安ではない。それぞれの人の最大の曲がり方に対する割合である。しかも股関節の曲がりと背骨の曲がりは別々に扱われている。上半身が前へ倒れた見た目だけをそろえても、背骨と股関節が同じ割合で動いたことにはならない。[5]

同じ実験では、尻を壁に当てて骨盤が後ろへ移るのを抑えると、活動が静かになる位置が背骨の最大屈曲の75%へ早まった。著者は、重力による回転力と、伸ばされた背骨の後方の靱帯による回転力のつり合いが、この現象に関わると結論している。筋電図の静けさは、背中に力がかかっていない証拠にはならない。[5]

最大努力の実験で前屈側ほど大きな力が出たことと、深い前屈で筋活動が下がったことは、同じ課題で起きた矛盾ではない。前者は指定姿勢で最大限に力を出す測定、後者は前屈して戻る動作の観察だ。「今はどれほど力を出すよう求められているか」を外すと、違う実験の結果が反対の答えに見えてしまう。[5][6]

家で背中の運動をしていて、丸めた位置で急に楽になった時も、その感覚だけを筋肉への刺激の強さに換算しないほうがよい。楽になった感覚と、筋活動が下がることと、組織全体の負担が小さくなることは別の問いだ。屈曲弛緩の実験は、その区別をする理由を示している。[5]

前屈から戻る時にも注目したい。健康な若者の実験では、通常の前屈では、筋活動は静かになった時とほぼ同じ屈曲位置で再び現れた。一方、尻を壁に当てた条件では、最大前屈から伸展を始めて間もなく再活動した。行きと帰りを単に逆向きの同じ動きとして扱うより、条件によって活動が戻る位置も変わると読むほうが正確だ。[5]

そのため、「丸めたまま止まる」「丸めた位置から起こす」「起こした位置を保つ」は、練習の記録でも区別したい。同じ背中の種目名で呼んでいても、どこを通り、どこで止めたかが違う。研究で観察された筋活動の切り替わりを考えると、最後の姿勢の写真だけで途中の働きまで判断するのは難しい。[5]

また、最大努力の測定で使われた前屈50度は、その実験の比較範囲の端である。日常の練習の到達目標を表す数字ではない。角度に応じた出力を調べるための条件と、読者が目指すべき練習の条件を分けておけば、数字を見て必要以上に深く曲げようとする理由もなくなる。[6]

数字で読む背中の角度と出力

20人:健康な若い男女が最大努力の等尺性課題を行った人数である。[6]

1.7倍と3.5倍:直立の値で基準化した筋活動と伸展トルクが、後ろへ反った姿勢から前屈した姿勢までの範囲で増えた倍率である。[6]

5人:筋肉の長さと張力の関係をモデルで調べた研究の男性参加者数である。[7]

84%から75%:骨盤の後方移動を壁で抑えた時、筋活動が静かになる背骨の屈曲位置が早まった。各自の最大屈曲に対する割合である。[5]

3.5度と1.6度:同じ合計前屈時間でも、長い周期と短い周期で異なった腰の累積変形の変化量である。[12]

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宮川涼 Founder

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